55 / 67
レイシールド様の提案 1
しおりを挟む――オリーブちゃんから事情を聞き終わった私は、流石に腹を立てていた。
「……許せない。きちんとお金を用意したのに、オリーブちゃんに酷いことをして、ティグルちゃんとシスちゃんを連れて行ってしまうなんて……」
ティグルちゃんは強いけれど、シスちゃんは温和ないい子なのだ。
戦うことができればティグルちゃんのほうがずっと男たちよりも強いのに。
オリーブちゃんたちを守るために、戦わないでいてくれたのだ。逃げることもしないで、捕まることを選んだ。
捕まれば、解体されて――食べられたり、売られたり、してしまうかもしれないのに。
「今すぐ助けに行かなきゃ」
『おお、ようやくやる気になったか、ティディス。我は、あのような虫けらどもなど、さっさと血祭りにあげよといつも言っていただろう』
リュコスちゃんが白い毛を逆立てて怒っている。
今すぐお屋敷を出て行こうとする私を、レイシールド様は片手で制した。
「待て。ティディス。まずは、クリスティス伯爵と会わせてくれるか。それから、屋敷を見せて欲しい」
「で、でも……」
「これは、大切なことだ」
「……分かりました」
レイシールド様はオリーブちゃんの頭を撫でると、「怖かったな」と言った。
ローズマリーちゃんはずっと私の手をぎゅっと握って離さなかった。
オリーブちゃんがお父様を呼びに行っている間、私はレイシールド様を連れてお屋敷の奥へと入った。
といってもこの家には何もない。
ティグルちゃんもシスちゃんも連れていかれてしまって、静かなものだった。
見せられるものと言ったら、きっとマグノア商会の者たちには価値が分からなかったのだろう、珍しい植物ぐらいしか残っていない。
「裏庭に、植物があります。ほとんどが鉢植えですけれど……」
裏庭の手前のお部屋に、あまり外に出すのには向かない鉢植えがあって、外を好む鉢植えは裏庭に出してある。
「皇帝陛下も、お花が好きなのですか?」
おずおずと、ローズマリーちゃんが尋ねた。
「そうだな。嫌いではない。だが、ここにあるものは……」
レイシールド様は、部屋のテーブルに並んだ鉢植えの植物を一つ一つ確認しながら言った。
「とても、価値があるものばかりだ。よくここまで集めたものだな」
感心したようにレイシールド様が言った。
そこに、お父様を連れたオリーブちゃんがやってくる。
お父様はさらにやつれて、今にも死んでしまいそうな顔をしている。
跪いて礼をしようとするのを、レイシールド様が止めた。
「クリスティス伯爵。突然の来訪、失礼した。驚いたことだろう」
「い、いえ、とんでもない。娘がお世話になっておりまして……本当にありがとうございます」
「家の事情は先程オリーブから聞いた。聡明な娘だ。大事にするように」
「は、はい」
「ティディスにはとても世話になっている。おおらかで、優しく、素晴らしい女性だ。ローズマリーも、愛らしいな。……素晴らしい娘を持ったことに、感謝をしなくてはいけない」
「はい。その通りです……」
レイシールド様、普段「いや」とか「あぁ」ぐらいで会話をすませているのに、威風堂々としていて厳かなその言葉は、皇帝陛下の有難いお言葉そのものだった。
123
あなたにおすすめの小説
【完結】タジタジ騎士公爵様は妖精を溺愛する
雨香
恋愛
【完結済】美醜の感覚のズレた異世界に落ちたリリがスパダリイケメン達に溺愛されていく。
ヒーロー大好きな主人公と、どう受け止めていいかわからないヒーローのもだもだ話です。
「シェイド様、大好き!!」
「〜〜〜〜っっっ!!???」
逆ハーレム風の過保護な溺愛を楽しんで頂ければ。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
婚約破棄されましたが、辺境で最強の旦那様に溺愛されています
鷹 綾
恋愛
婚約者である王太子ユリウスに、
「完璧すぎて可愛げがない」という理不尽な理由で婚約破棄を告げられた
公爵令嬢アイシス・フローレス。
――しかし本人は、内心大喜びしていた。
「これで、自由な生活ができますわ!」
ところが王都を離れた彼女を待っていたのは、
“冷酷”と噂される辺境伯ライナルトとの 契約結婚 だった。
ところがこの旦那様、噂とは真逆で——
誰より不器用で、誰よりまっすぐ、そして圧倒的に強い男で……?
静かな辺境で始まったふたりの共同生活は、
やがて互いの心を少しずつ近づけていく。
そんな中、王太子が突然辺境へ乱入。
「君こそ私の真実の愛だ!」と勝手な宣言をし、
平民少女エミーラまで巻き込み、事態は大混乱に。
しかしアイシスは毅然と言い放つ。
「殿下、わたくしはもう“あなたの舞台装置”ではございません」
――婚約破棄のざまぁはここからが本番。
王都から逃げる王太子、
彼を裁く新王、
そして辺境で絆を深めるアイシスとライナルト。
契約から始まった関係は、
やがて“本物の夫婦”へと変わっていく――。
婚約破棄から始まる、
辺境スローライフ×最強旦那様の溺愛ラブストーリー!
好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が
和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」
エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。
けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。
「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」
「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」
──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。
勘違いで嫁ぎましたが、相手が理想の筋肉でした!
エス
恋愛
「男性の魅力は筋肉ですわっ!!」
華奢な男がもてはやされるこの国で、そう豪語する侯爵令嬢テレーゼ。
縁談はことごとく破談し、兄アルベルトも王太子ユリウスも頭を抱えていた。
そんな折、騎士団長ヴォルフがユリウスの元に「若い女性を紹介してほしい」と相談に現れる。
よく見ればこの男──家柄よし、部下からの信頼厚し、そして何より、圧巻の筋肉!!
「この男しかいない!」とユリウスは即断し、テレーゼとの結婚話を進める。
ところがテレーゼが嫁いだ先で、当のヴォルフは、
「俺は……メイドを紹介してほしかったんだが!?」
と何やら焦っていて。
……まあ細かいことはいいでしょう。
なにせ、その腕、その太もも、その背中。
最高の筋肉ですもの! この結婚、全力で続行させていただきますわ!!
女性不慣れな不器用騎士団長 × 筋肉フェチ令嬢。
誤解から始まる、すれ違いだらけの新婚生活、いざスタート!
※他サイトに投稿したものを、改稿しています。
【完結】記憶喪失の令嬢は無自覚のうちに周囲をタラシ込む。
ゆらゆらぎ
恋愛
王国の筆頭公爵家であるヴェルガム家の長女であるティアルーナは食事に混ぜられていた遅延性の毒に苦しめられ、生死を彷徨い…そして目覚めた時には何もかもをキレイさっぱり忘れていた。
毒によって記憶を失った令嬢が使用人や両親、婚約者や兄を無自覚のうちにタラシ込むお話です。
【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。
扇 レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋
伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。
それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。
途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。
その真意が、テレジアにはわからなくて……。
*hotランキング 最高68位ありがとうございます♡
▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス
【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!
白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。
辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。
夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆
異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です)
《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる