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静かな内廷と後始末
しおりを挟むオークション会場で捕縛された人数はかなりの数だった。
王都の監獄へと連れて行き、ひとりひとり尋問をするのだという。
街では、皇家に反意を持つ者たちの密談の噂も出ていたから、火のないところに煙は立たないということで、念のための処置らしい。
とはいえ、アーシャル侯爵家のフレズレンとの内通はほぼ確実なものではあるので、可能性としてはありそうな話だと、王宮に帰る道すがら、私を背に乗せて白狼のレイシールド様は話をしてくれた。
王宮に戻ると、すぐにマリエルさんとラーチェさんが駆け寄ってきてくれた。
「ティディス! 無事でよかった!」
「ティディスさん、シャハル様から聞きましたの! すごく大変でしたわね……でも、レイシールド様と一緒に悪事を暴くなんて、とても格好いいです……!」
「マリエルさん、ラーチェさん!」
私はレイシールド様の背から降りて、二人に駆け寄る。
両手をのばしてぎゅっと抱きしめてくれたので、私も二人を抱きしめ返した。
「マリエルさん……その」
「ありがとう、ティディス。私は、大丈夫。今、シャハル様とシュミット様が騎士団を率いてアーシャル侯爵家に向かっているわ。きっといつかこの日がくると思っていた。あなたとレイシールド様のおかげで、その日が早くきて、よかった」
「……でも、ご家族です。どんなご家族でも、やっぱり、ご家族ですから……」
「ありがとう……正直ほっとしてる。でも、やっぱり辛いわね」
涙に震える声で、マリエルさんが言う。
私はその背や、頭を撫でた。暗い夜に怯える妹たちを、抱いて眠った時みたいに。
「マリエルさん、私たちがいますわ」
「はい。私たちが、ずっとそばに。一緒に居ます」
「ありがとう……!」
マリエルさんのすすり泣く声がしばらく響いた。
レイシールド様は私たちを見守ってくれていたけれど、そっと私の背に触れて、口を開いた。
「ティディス。俺も、シャハルたちの加勢に行ってくる。シリウスは城に残っている。何かあれば頼れ」
「はい。ありがとうございます、レイシールド様。大丈夫です、今はリュコスちゃんもティグルちゃんもいますから、私が皆を守ります!」
マリエルさんやラーチェさんを安心させたくて、私はそう言った。
騎士団の方々も、皇子様方もレイシールド様のご不在になってしまうのは、きっと不安だろうから。
「あぁ。頼もしいな。……頼りにしている」
レイシールド様が私の髪を軽く撫でて言った。
マリエルさんは涙を拭ってにっこり微笑んで、ラーチェさんは「ティディスさん、格好いいですわ……」と、どこか夢を見るようにうっとりと言った。
王宮の外はきっと騒がしいのだろうけれど、内廷は外の世界とは隔絶されてしまったかのように静かなものだった。
新しくやってきたティグルちゃんやシスちゃんは侍女の方々に大人気で、二匹とも満更じゃないような顔をしていた。
ティグルちゃんなんかはでれでれしながら顎や耳を撫でられて「ぐるぐる」言っていたし、シスちゃんは照れながらも『てぃでぃすさま、にんげんのじょせいはやさしいですね』と言っていた。
リュコスちゃんは『なんじゃ、あほどもめ。すぐにほだされおって』と、機嫌を悪くしていた。
たぶんリュコスちゃんも構われたかったのだろうと思う。
レイシールド様がお帰りになる前に、オリーブちゃんとローズマリーちゃんが内廷にやってきた。
万が一のことを考えて、騎士団の方々が保護をしてくれていて、シリウス様の指示で内廷に移されたようだ。
お父様はシリウス様の手配した学者の方々と一緒に、我が家に残されている植物を王都の研究室へと移しているようだった。
私も学者の方々に請われて、植物たちの育て方や手入れの仕方についてを教えたりしていた。
オリーブちゃんとローズマリーちゃんもまた侍女の方々に大人気で、それはもう構って貰って、恥ずかしそうにしていた。
「お姉様、今日も着せ替えをされてしまいました」
「お姉様、侍女のみなさんは、私の髪を沢山飾ってくれるのです」
と、毎日報告してくれる。
けれど二人は、私と一緒に黎明宮の庭の野菜畑を拡大させる方が落ち着くし楽しいらしい。
畑にうえたかぼちゃの新芽が育つ頃に、レイシールド様やシュミット様、シャハル様がご帰還なさった。
アーシャル侯爵と、侯爵家長男はやはりフレズレンと内通していて、オークションで稼いだ資金や情報をあちらの国に提供していたらしい。
侯爵の手先だった者たちも、マグノア商会の者たちも。
その罪の重さによって、それぞれ裁かれるのだという。
マリエルさんはしばらく落ち込んでいたけれど――シュミット様が内廷に戻られると、いつもの元気を取り戻したようだった。
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