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スポットライトのなかで
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聖華学園で今ちょっとした話題となっていることがある。
いつもの年よりかなり早いペースでスカイ・シーのライブチケットが捌けていると圭太は西川先生から聞いた。この学園の秋の文化祭は毎年一般にも開放されているらしいのだが、今年は外部から問い合わせの電話が途切れないほどチケットの売れ行きが予想を超えていて、このままだと当日券が残らないのではという噂が立っていた。
このコンサートの後援をしていることもあり、菊池の事務所も学園のホームページにリンクバナーを貼っているのだが、最近事務所のホームページへのアクセスが急激に増加していて、仕事の依頼も自然と増えていると菊池の事務所で「秘書」兼「事務員」の恵も言っていた。
聞くところによると、聖華学園のコンサートホールは内装にふんだんに高級木材を使用し、とことん音響にこだわった座席数2000席を誇る大ホールであり、海外のクラシックの有名楽団のコンサートにも使用されている。日本一と言われるサントリーホールと肩を並べるのではという評判のホールらしい。そのホールで開く無名のアマチュアバンドの初めてのライブのチケットが前売りだけで売り切れそうだというのだから、学園関係者界隈が騒つくのもしかたない。
いったい何が起こっているのだろう——
⌘
「圭太、ちょっと見て」
事務所に顔を出した圭太を見つけ、姉の恵が手招きをした。
圭太が近くによると、「これ」と言ってデスクに置いているPCの画面を圭太に向けると、圭と圭太が初めて出会ってセッションをした中目黒のあの映像が流れていた。
「ああ、久しぶりに見るな、この映像。これがどうしたの?」
「どうもね、最近SNSで近いうちに聖華の学園祭でこの子の歌がついに生で聴けるって話題になってるんだって。この間、チケットの売れ行きがどうとか言ってたじゃん。もしかして、なんか心当たりとかない?」と恵。
心当たりって言ってもな——
「ああ、そう言えば一人だけ教えたな」
「誰、それ」
「前に話したこの動画を撮った人から頼まれたんだよ。デビューとかしたら教えてって言われてたから、まだデビューじゃないけどコンサートやることになったよって」と何気なく圭太は答えた。
「絶対それよ、チケットの売れ行きがいいのは」
「でも、所詮素人動画だよ。いくらなんでもそこまで——」
「じゃあ、ちょっと見てみようか」
恵がカチャカチャとキーボードを叩いて音楽動画配信サイト「Mチューブ」を立ち上げた。
「やっぱこれじゃん。ほら」恵から促されて圭太が画面を見ると、Mチューブの「発掘」コーナーのトップ画面に圭と圭太のセッションが上がっていた。「現役女子高生の最高に弾けるロックンロール」という煽り文句入って、注目の動画らしい。再生回数は——20万回以上再生されていた。
「懐かしい! 俺の青春時代だ」「このボーカルの子可愛い顔してすげえ。どこ学校の子?」「横浜の聖華学園だってさ」「今度10月の2週目学園祭でやるらしい」「学園祭?タダ?」「チケット販売中。俺、ゲットした」
会話形式でどんどん流れて溢れるコメント欄に圭太もごくりと唾を呑んだ。高校の学園祭イベントにもかかわらず、どうやら聴いている年齢層も半端なく広いらしい。女子高生とオールディーズの取り合わせが面白いのか、若い頃聴いていた世代にも響くのかもしれない。
「圭太、こんなに期待持たせちゃってスカイ・シーの仕上がりは大丈夫?」
恵が心配そうな顔で圭太を見ている。
「だ、大丈夫。大丈夫。絶対。うん」
今回のライブ構成は圭太が考えた。ギターは圭太が指導し、ドラムは「女子高生なら俺の出番」という妙な自信のムーさんがわざわざ休日を割いて教えにきてくれた。もともとピアノとかにはとても上手い子もいて、仕上がりには自信はあるつもりだ。問題は大勢の観客を前にして、不慣れなメンバーが舞い上がってしまわないか、それが心配だが、学園自慢のオーケストラまで参加する一番最後の曲がうまく決まれば観客を圧倒できるはずだった。
⌘
こんな世間の熱気の中、ついに学園祭の幕が開いた。一番いい席に菊池やムーさんたちが陣取っている。
場内が薄暗くなり、人影が次々にステージに現れそれぞれ配置についてゆく。緞帳はあえて使わなかった。それぞれ軽くチューニング、その中を最後の一人が中央に立った。観客はまだそれが誰か知らない。
静まり返るホールと一瞬の間。ドラムのスティックがリズムを刻み——
大音響の中、レッドツェッペリンの「ロックアンドロール」に乗せていきなり強烈な圭のボーカルが観客を一気にロックの世界に引っ張ってゆく。
——やっぱりすげえ
ほとんど毎日、圭太はこのボーカルの近くにいたはずだった。世界中の誰よりこの子の凄さを知っていたはずだ。だが——
だが、本番のステージに立つ圭は、なんというか、もう別次元だった。
これが、たった15歳か——
あっという間の50分だった。最後はビートルズの「A day in the life」——サージェントペッパーの最後の曲を、この学園自慢のオーケストラに協力をもらい、生演奏であの不協和音を再現し観客を音で圧倒してやった。構成した圭太でさえも、しばらく席を立てないのではないかと思ったぐらい観客も放心状態のようだ。
暗くなったホールにオーケストラの余韻が響く中。
さて、最高のできだったとあの子たちを誉めに行こうか。圭太がそう思ったとき、真っ暗なステージに上からスポットライトがポツンと灯った。
——なんだ
アコースティックのギターを抱えた圭が一人でステージの椅子に腰掛けていた。ウォーという声と拍手が一瞬鳴り響き、圭が大きく息を吸うと一瞬で再び静寂がホールに帰ってきた。そのタイミングで圭のギターソロが静かに始まった。
先程までの大音響と対比するようなシンプルでソウルフルな——
英語で歌う「Over the Sea」が圭太の心に、魂に直接語りかけてくる。
圭はワンコーラスだけ歌うと、ライトがパッと消え、再びホールが静かな暗闇に帰った。「非常口」の灯りだけが浮かんでいる。
ひとつ、ふたつ。自然にパラパラと拍手が起こり始め、さざ波から大きなうねりとなってホールは大歓声に包まれ、そしていつまでも鳴り止まなかった。
圭太は腰が抜けたように立ち上がれなかった。
こんなの反則だ。なんだよこれ。こんな構成、俺は作ってない。最後に泣かす予定じゃなかっただろ。なんというか。
最高だよ——
いつもの年よりかなり早いペースでスカイ・シーのライブチケットが捌けていると圭太は西川先生から聞いた。この学園の秋の文化祭は毎年一般にも開放されているらしいのだが、今年は外部から問い合わせの電話が途切れないほどチケットの売れ行きが予想を超えていて、このままだと当日券が残らないのではという噂が立っていた。
このコンサートの後援をしていることもあり、菊池の事務所も学園のホームページにリンクバナーを貼っているのだが、最近事務所のホームページへのアクセスが急激に増加していて、仕事の依頼も自然と増えていると菊池の事務所で「秘書」兼「事務員」の恵も言っていた。
聞くところによると、聖華学園のコンサートホールは内装にふんだんに高級木材を使用し、とことん音響にこだわった座席数2000席を誇る大ホールであり、海外のクラシックの有名楽団のコンサートにも使用されている。日本一と言われるサントリーホールと肩を並べるのではという評判のホールらしい。そのホールで開く無名のアマチュアバンドの初めてのライブのチケットが前売りだけで売り切れそうだというのだから、学園関係者界隈が騒つくのもしかたない。
いったい何が起こっているのだろう——
⌘
「圭太、ちょっと見て」
事務所に顔を出した圭太を見つけ、姉の恵が手招きをした。
圭太が近くによると、「これ」と言ってデスクに置いているPCの画面を圭太に向けると、圭と圭太が初めて出会ってセッションをした中目黒のあの映像が流れていた。
「ああ、久しぶりに見るな、この映像。これがどうしたの?」
「どうもね、最近SNSで近いうちに聖華の学園祭でこの子の歌がついに生で聴けるって話題になってるんだって。この間、チケットの売れ行きがどうとか言ってたじゃん。もしかして、なんか心当たりとかない?」と恵。
心当たりって言ってもな——
「ああ、そう言えば一人だけ教えたな」
「誰、それ」
「前に話したこの動画を撮った人から頼まれたんだよ。デビューとかしたら教えてって言われてたから、まだデビューじゃないけどコンサートやることになったよって」と何気なく圭太は答えた。
「絶対それよ、チケットの売れ行きがいいのは」
「でも、所詮素人動画だよ。いくらなんでもそこまで——」
「じゃあ、ちょっと見てみようか」
恵がカチャカチャとキーボードを叩いて音楽動画配信サイト「Mチューブ」を立ち上げた。
「やっぱこれじゃん。ほら」恵から促されて圭太が画面を見ると、Mチューブの「発掘」コーナーのトップ画面に圭と圭太のセッションが上がっていた。「現役女子高生の最高に弾けるロックンロール」という煽り文句入って、注目の動画らしい。再生回数は——20万回以上再生されていた。
「懐かしい! 俺の青春時代だ」「このボーカルの子可愛い顔してすげえ。どこ学校の子?」「横浜の聖華学園だってさ」「今度10月の2週目学園祭でやるらしい」「学園祭?タダ?」「チケット販売中。俺、ゲットした」
会話形式でどんどん流れて溢れるコメント欄に圭太もごくりと唾を呑んだ。高校の学園祭イベントにもかかわらず、どうやら聴いている年齢層も半端なく広いらしい。女子高生とオールディーズの取り合わせが面白いのか、若い頃聴いていた世代にも響くのかもしれない。
「圭太、こんなに期待持たせちゃってスカイ・シーの仕上がりは大丈夫?」
恵が心配そうな顔で圭太を見ている。
「だ、大丈夫。大丈夫。絶対。うん」
今回のライブ構成は圭太が考えた。ギターは圭太が指導し、ドラムは「女子高生なら俺の出番」という妙な自信のムーさんがわざわざ休日を割いて教えにきてくれた。もともとピアノとかにはとても上手い子もいて、仕上がりには自信はあるつもりだ。問題は大勢の観客を前にして、不慣れなメンバーが舞い上がってしまわないか、それが心配だが、学園自慢のオーケストラまで参加する一番最後の曲がうまく決まれば観客を圧倒できるはずだった。
⌘
こんな世間の熱気の中、ついに学園祭の幕が開いた。一番いい席に菊池やムーさんたちが陣取っている。
場内が薄暗くなり、人影が次々にステージに現れそれぞれ配置についてゆく。緞帳はあえて使わなかった。それぞれ軽くチューニング、その中を最後の一人が中央に立った。観客はまだそれが誰か知らない。
静まり返るホールと一瞬の間。ドラムのスティックがリズムを刻み——
大音響の中、レッドツェッペリンの「ロックアンドロール」に乗せていきなり強烈な圭のボーカルが観客を一気にロックの世界に引っ張ってゆく。
——やっぱりすげえ
ほとんど毎日、圭太はこのボーカルの近くにいたはずだった。世界中の誰よりこの子の凄さを知っていたはずだ。だが——
だが、本番のステージに立つ圭は、なんというか、もう別次元だった。
これが、たった15歳か——
あっという間の50分だった。最後はビートルズの「A day in the life」——サージェントペッパーの最後の曲を、この学園自慢のオーケストラに協力をもらい、生演奏であの不協和音を再現し観客を音で圧倒してやった。構成した圭太でさえも、しばらく席を立てないのではないかと思ったぐらい観客も放心状態のようだ。
暗くなったホールにオーケストラの余韻が響く中。
さて、最高のできだったとあの子たちを誉めに行こうか。圭太がそう思ったとき、真っ暗なステージに上からスポットライトがポツンと灯った。
——なんだ
アコースティックのギターを抱えた圭が一人でステージの椅子に腰掛けていた。ウォーという声と拍手が一瞬鳴り響き、圭が大きく息を吸うと一瞬で再び静寂がホールに帰ってきた。そのタイミングで圭のギターソロが静かに始まった。
先程までの大音響と対比するようなシンプルでソウルフルな——
英語で歌う「Over the Sea」が圭太の心に、魂に直接語りかけてくる。
圭はワンコーラスだけ歌うと、ライトがパッと消え、再びホールが静かな暗闇に帰った。「非常口」の灯りだけが浮かんでいる。
ひとつ、ふたつ。自然にパラパラと拍手が起こり始め、さざ波から大きなうねりとなってホールは大歓声に包まれ、そしていつまでも鳴り止まなかった。
圭太は腰が抜けたように立ち上がれなかった。
こんなの反則だ。なんだよこれ。こんな構成、俺は作ってない。最後に泣かす予定じゃなかっただろ。なんというか。
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