シング 神さまの指先

笑里

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告白と行方

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 紗英の実家からの帰り道、どうやって帰ったのか、圭司はほとんど記憶になかった。いろいろなことを考えすぎたのか、頭が痛い。いや自分が日本を離れた十七年前に起こったことが衝撃すぎて、反対に何も考える力さえなくしてしまったのかもしれない。
 夕方になり帰り着いた我が家にはまだ誰も帰っていないらしく、薄ら寒い廊下からギシギシと軋む階段を思い足取りでようやっと上がり、普段は圭が使っているベッドにうつ伏せに倒れ込んだ。
 正直なところ、ステラから教えられたニューヨークの地下鉄でのことは、逆にあまりにも話の都合が良すぎて、そんな事件に自分の関係する人——紗英——が巻き込まれたということを、そんなことはあり得ないと頭の中では全力で否定し続けていたので、被害者の情報をネットで調べようとさえもしなかった。
 だが——ステラが言った「もしかして」の方が正解だったのだ。紗英の実家で微笑む紗英の写真を見て、それが現実だったことに打ちのめされた。その写真に見てしまうまでは、実家を訪ねたら紗英と紗英のご両親に頭を下げてそれで終わりにするつもりだったのに——
 ステラにどう説明をしようか——
 何も思いつかないまま頭が疲れたのだろう、いつの間にか眠ってしまっていたようで、トントントンと誰かが階段を上がる足音で圭司はぼんやりと目が覚めた。
「圭司、入っていい?」
 ステラだった。
 まだ、彼女になんと言えばいいか思いついていない。若い頃のこととはいえ、他人には言いにくい恥ずかしい話だ。ましてや、ずっと自分と圭をサポートしてくれた彼女に話すのを躊躇っている自分がいた。
 聞かれても、何もわからなかったと誤魔化そうか——

「ねえ、真相はわかった?」
 部屋に入ってきたステラは開口一番、そう言った。
「真相?」なんだいきなり——
「サエ ショウダさんの家に行ったんじゃないの?」
 心臓の鼓動が一気に速くなるのがわかった。いきなり過ぎて、頭の回転が追いつかず言葉を発することができない。
 ステラはスマホを取り出すとサッと操作する。
「亡くなったのはサエ ショウダ三十一歳。ニューヨークには観光に行っていたとみられる。なお、出国の記録では生後二ヶ月になる女の子を連れていることになっており、領事館は地元警察に協力を求め女の子の行方を探している」
 スマホの画面を見ながらステラが読み上げた。どうやら件の事件の英字新聞による続報らしい。
「圭司は、このサエさんの家を今日訪ねて行ったんじゃないの?」
 動悸が治らなかった。いったいいつの間にステラはここまで気がついていたのだろう。圭司はまだ言葉を失っていた。

 ステラが全てを見通したような穏やかな顔で圭司を見ていた。彼女はどうやって真相に近づいたのかわからないが、最近になって疑いを持ったことであれば、もっと彼女も興奮を隠せないはずだ。ひょっとしたらずっと前から気がついていたのかもしれない。
「なぜ——なぜそれを、君が。いったいいつ……」圭司がやっと口にする。
 彼女はスッと視線を下に落とし、小さくため息をついた。

「圭に初めて会った日から……」そう言ってステラは少し微笑んだ。「まあ、それはないけどね。でも、初めてあの子に会った日、あなたとあの子がとても似ているって言ったでしょ? 広いアメリカで偶然に同じアジア系の顔の似た人が出会うことって、それはそれで奇跡的だと思わない?」
 冷静に言われれば、確かにそうだ。むしろそんな偶然の方が珍しいと言えるかもしれない。
「実は私、ずっと思ってた」ステラが続けた。「圭司には一度否定されたから言わなかったけどね。でも、圭が笑う顔とか見てるとね、やっぱり圭司と圭は似てるなあって、ずっと思ってた。目尻とか頬骨の下とか。そんな二人が出会って一緒に暮らしてる。これは神様の奇跡だって、ずっと」
 自分では全くそう思ったことがないが、思い返せば、圭を「自分の娘だ」と他人に紹介すると、最初に「よく似ているね」と言われたことが何回かあった。そういえば、菊池にさえも言われた気がする。
「でも、たぶん私もあのとき圭の宝箱を開けなきゃ気がつかなかったと思うよ」
 再び視線を上げてステラが言った。
「やっぱり、あのとき——」呟くように圭司が言う。
「圭司も本当は気がついたんでしょ? あの紙を見たときに」
 あの紙——圭の名前を母親が書いたという、宝箱に入っていた、あの紙。やっぱりステラも気がついていたのだ。
「うん。あれは、『h』じゃなかった——書かれたスペルはタカハシじゃなかった。『n』、タカナシだ。君も気がついていたんだな……」
 圭司はがっくりと肩を落として観念したように言った。
「でも、あなたはすぐに——私に隠すようにすぐしまったよね。私、その時の圭司を見て、何かあると思った。それからネットや図書館で調べたの」
 たまに不意にステラが出かけることがあった。買い物かと思っていたが、何も持たないで帰ってきていたことがよくあった。もしかしたら、そういうことだったのかもしれない。
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