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4章 ラッパスイセンのささやき
第2話 それが、華やぎの
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3日になり、世都はがらがらとキャリーを引いて、仕入れのために商店街中ほどのスーパーに向かう。個人店舗が多いこの岡町商店街はまだお正月休みのところも多いのだ。いつも仕入れをしている八百屋さんやお肉屋さん魚屋さんも例に漏れず。お酒の仕入れは昨年末に多めにしておいた。
まだ三が日なこともあるので、お惣菜を始め日替わりのお料理はおせちに入る定番のものにする。お惣菜は子孫繁栄の数の子、家族・家業の繁栄のたたきごぼう、五穀豊穣の田作り、平和・平安の紅白なますに、財産の栗きんとん。お料理には出世を意味するぶりの照り焼きや、縁起物の百貨店とも言えるお煮しめ、八幡巻きなど。
今ではおせち料理にもいろいろな変わり種もあるが、そういうものこそ百貨店のおせちにはふんだんに詰まっている。なので「はなやぎ」では基本のものを提供するのだ。おせちの数々に込められた意味を大切にしたい。
そして、3日の今日だけお屠蘇をサービスする。年末に酒屋さんで屠蘇散を仕入れておいたのだった。
口開けのお客さまは高階さんだった。ほぼ毎日と言って良いほど来ていて、一番乗りももう何度めのことか。
高階さんはぶりの照り焼きと八幡巻き、青菜炒めを注文した。まずはお屠蘇で邪気を払い、そのあとはいつものサマーゴッデスのハイボールだ。
今日の青菜はちぢみほうれん草である。冬の寒さに当たって葉が縮んで厚くなったほうれん草は甘さを蓄え、冬ならではのご馳走なのだ。
「女将は正月休み、どうしとったん。旅行とか?」
「親戚のお宅にお邪魔して宴会ですよ」
「あー、ほんならお年玉用意したりとか」
「はい。小さくは無いですけど、子どもがいますからね。それはもうきっちりと」
姪っ子のふたりは世都と龍ちゃんが連名で用意したお年玉を、喜んで受け取ってくれた。あげる先がこのふたりだけなので、世都たちは毎年奮発する。代わりに進学祝いなどは免除してもらっている。
「親戚の子かぁ。人数多かったらお年玉も大変そうやな。大きなったら金額も増えるやろうし」
「そうですねぇ。でもうちは幸いそこまでは。気楽なもんです。宴会も楽しかったですよ」
「それやったら良かったわ。やっぱり年初めはええことあって欲しいよなぁ」
「そうですね。高階さんはどうしてはったんですか?」
「俺も実家帰ったりとかいろいろやわな。ま、あんま代わり映えせんわ」
「それができるんが、幸せって気がしますねぇ」
「せやな」
世都と龍ちゃんは、その幸せを伯母ちゃんたちに与えてもらっている。それが無かったら姉弟で静かなお正月を過ごしていただろう。それももちろん穏やかで良い時間なのだろうが、伯母ちゃんたちと過ごす時間は、それこそ華やぎなのだ。
自分たちがまだ生きていても良い証明、人に必要としてもらえている実感、そんな人間としての矜持を与えてくれる。そんな空間なのである。
閉店時間の23時が近付き、もう飲み物もオーダーストップしている。お客さまも帰って、世都と龍平くんはせっせと後片付けを始める。
「あ~、今年も無事に新しい年を始められたねぇ」
「そやな。何や気が引き締まるわ。今年もがんばろって」
「そやね。龍平くん、……龍ちゃん、あらためて、今年もよろしくね」
「うん、こちらこそ、姉ちゃん」
そうしていると、がちゃりとドアが開いた。カウンタ内にいた世都はとっさに顔を上げる。立っていたのは高階さんだった。
「あら、高階さん。どうしはりました? お忘れ物ですか?」
世都が目を丸くすると、高階さんは「いやいや」と首を振った。
「もう閉店やのに済まんな。ちょっと邪魔してええか?」
「ええ、構いませんよ。どうぞ」
世都は作業台を拭いていたふきんをその場に置き、フロアに出て行った。すると高階さんが入って来て、続いてふたりの男女が姿を現した。世都は目を見張る。
「……お父さん、お母さん?」
予想もしなかった人物の来訪だった。龍ちゃんも「え?」と顔を上げた。
両親は気まずそうな表情で、入って来たばかりの場所で佇んでいた。
まだ三が日なこともあるので、お惣菜を始め日替わりのお料理はおせちに入る定番のものにする。お惣菜は子孫繁栄の数の子、家族・家業の繁栄のたたきごぼう、五穀豊穣の田作り、平和・平安の紅白なますに、財産の栗きんとん。お料理には出世を意味するぶりの照り焼きや、縁起物の百貨店とも言えるお煮しめ、八幡巻きなど。
今ではおせち料理にもいろいろな変わり種もあるが、そういうものこそ百貨店のおせちにはふんだんに詰まっている。なので「はなやぎ」では基本のものを提供するのだ。おせちの数々に込められた意味を大切にしたい。
そして、3日の今日だけお屠蘇をサービスする。年末に酒屋さんで屠蘇散を仕入れておいたのだった。
口開けのお客さまは高階さんだった。ほぼ毎日と言って良いほど来ていて、一番乗りももう何度めのことか。
高階さんはぶりの照り焼きと八幡巻き、青菜炒めを注文した。まずはお屠蘇で邪気を払い、そのあとはいつものサマーゴッデスのハイボールだ。
今日の青菜はちぢみほうれん草である。冬の寒さに当たって葉が縮んで厚くなったほうれん草は甘さを蓄え、冬ならではのご馳走なのだ。
「女将は正月休み、どうしとったん。旅行とか?」
「親戚のお宅にお邪魔して宴会ですよ」
「あー、ほんならお年玉用意したりとか」
「はい。小さくは無いですけど、子どもがいますからね。それはもうきっちりと」
姪っ子のふたりは世都と龍ちゃんが連名で用意したお年玉を、喜んで受け取ってくれた。あげる先がこのふたりだけなので、世都たちは毎年奮発する。代わりに進学祝いなどは免除してもらっている。
「親戚の子かぁ。人数多かったらお年玉も大変そうやな。大きなったら金額も増えるやろうし」
「そうですねぇ。でもうちは幸いそこまでは。気楽なもんです。宴会も楽しかったですよ」
「それやったら良かったわ。やっぱり年初めはええことあって欲しいよなぁ」
「そうですね。高階さんはどうしてはったんですか?」
「俺も実家帰ったりとかいろいろやわな。ま、あんま代わり映えせんわ」
「それができるんが、幸せって気がしますねぇ」
「せやな」
世都と龍ちゃんは、その幸せを伯母ちゃんたちに与えてもらっている。それが無かったら姉弟で静かなお正月を過ごしていただろう。それももちろん穏やかで良い時間なのだろうが、伯母ちゃんたちと過ごす時間は、それこそ華やぎなのだ。
自分たちがまだ生きていても良い証明、人に必要としてもらえている実感、そんな人間としての矜持を与えてくれる。そんな空間なのである。
閉店時間の23時が近付き、もう飲み物もオーダーストップしている。お客さまも帰って、世都と龍平くんはせっせと後片付けを始める。
「あ~、今年も無事に新しい年を始められたねぇ」
「そやな。何や気が引き締まるわ。今年もがんばろって」
「そやね。龍平くん、……龍ちゃん、あらためて、今年もよろしくね」
「うん、こちらこそ、姉ちゃん」
そうしていると、がちゃりとドアが開いた。カウンタ内にいた世都はとっさに顔を上げる。立っていたのは高階さんだった。
「あら、高階さん。どうしはりました? お忘れ物ですか?」
世都が目を丸くすると、高階さんは「いやいや」と首を振った。
「もう閉店やのに済まんな。ちょっと邪魔してええか?」
「ええ、構いませんよ。どうぞ」
世都は作業台を拭いていたふきんをその場に置き、フロアに出て行った。すると高階さんが入って来て、続いてふたりの男女が姿を現した。世都は目を見張る。
「……お父さん、お母さん?」
予想もしなかった人物の来訪だった。龍ちゃんも「え?」と顔を上げた。
両親は気まずそうな表情で、入って来たばかりの場所で佇んでいた。
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