あやかしが家族になりました

山いい奈

文字の大きさ
24 / 45
3章 初めての家族旅行?

第1話 初めての新幹線

しおりを挟む
 7月下旬になった。太陽が照りつく日々になり、外で立っているだけで汗が噴き出してくる。ここ数年の日本の暑さは異常だと言われていて、確かにそうだよなと真琴まことも思う。

 子どもたちの学校では、体育の授業時間は教室での自習か、体育館での実施に変更されているとのこと。

 「子どもは元気にお外で遊ぼう」、そんな昔からの意見に真琴も異論は無いが、ここまで酷くては熱中症や脱水症などの危険が高まるので、それを回避する意味でも自習や体育館はありがたいと思う。

 子どもたちはあやかしなので、暑さ寒さはあまり感じない。なのでこの酷暑こくしょも平気そうである。なので暑さに強いという設定で、それでも同級生たちと「今日も暑いなぁ」なんて会話に興じていたりするそうだ。

 家では真琴ひとりのためにリビングのエアコンを付けていたりするので、何だか申し訳無い気持ちになってしまう。だが真琴は普通の人間なのだ。エアコンの有無は死活問題である。

 さてこの度、子どもたちは無事夏休みを迎えた。皆長期休みに浮かれ立っている。とはいえ「まこ庵」の営業は続くし、雅玖がくの生活も大きく変わらない。

 だがせっかく夏休みなので、できるならどこかに遊びに連れて行ってあげたいし、もっと関わりを持ちたいと思っている。

 ああ、そうだ、壱斗いちとが東京に行きたがっているのだから、どこかで「まこ庵」を連休にして、家族旅行などを計画するのも良いかも知れない。

 「まこ庵」は個人経営店なので、お盆には連休をもらう予定ではいる。そこを使えたら良いのだろうが、お盆は何せ旅行料金が爆上がりする。真琴の庶民的な感覚で言うと、かなり渋くなってしまうのだ。

 雅玖などは、やはりまた「問題ありませんよ」なんて言って微笑むのだろうが、そこまで甘えるのも心苦しい。

 やはり定休日と合わせてどこかを連休にするのが良いだろう。雅玖にも相談してみよう。子どもたちにも予定があるだろうし、巧くすり合わせができたら良いのだが。



「ではお盆休みに行きましょう。そうしたら真琴さんも落ち着いて楽しめるでしょうから」

 やっぱりか。真琴は天を仰ぎたくなった。

 あやかしタイム後のふたりの時間である。ふたりはリビングのソファで並んで、今日もお酒を楽しんでいる。雅玖とゆっくり話ができる貴重な時間なので、こうした話をするのに適していた。

「でも、お盆はめっちゃ料金が高くなるんやで。いくら雅玖がお金持ちや言うても、家族7人やと何十万になるか。何泊するとかでも変わってくるけど、できれば家族旅行やねんから私も半分出したいし……情けないけど、まだそこまで余裕は無いから」

 ありがたいことに「まこ庵」の経営はそう悪く無い。今のところ、ターゲットを女性に絞っているのが功を奏している。女性だとお付き合いしている男性と使ってくれたりもするのだ。

 なのでどうにか黒字経営ができていて、李里りさとさんにお給料を支払うこともできているのだが、そこまでの余裕は無いのである。

「真琴さんは、本当に健気ですねぇ」

 健気な覚えはこれっぽっちも無いのだが、こればかりは譲れない。書き入れ時である土日を休みにするのは厳しいので、定休日の火曜日を挟んで月曜日から水曜日までなどはどうだろうか。その代わりお盆休みは短めにする。

「雅玖、今回ばかりは私のお願い聞いてくれへん?」

 すると雅玖はきょとんと目を丸くした。

「お願い、ですか?」

 その反応に真琴は戸惑う。何かおかしなことを言っただろうか。

「お願い、やで。え、何で?」

「いえ、何でもありません」

 雅玖はふわりと微笑む。まだ若干の違和感は拭えないものの、雅玖は「分かりました」と頷いてくれた。

「では、そうしましょう。子どもたちにも予定を聞いて、計画を立てましょう。楽しみですね」

「そうやね」

 まだ少しばかりの引っ掛かりを覚えながらも、真琴は「うん」と頷いた。



 そして8月1週目の月曜日。真琴と雅玖と子どもたち、そして李里さんは、無事新大阪から新幹線に乗り込んだ。時間は午前10時ごろ。

 李里さんの同行は、「まこ庵」の慰安旅行も兼ねている。真琴とふたりで行くわけにはいかないし本人も嫌がるだろうから、自然とこういう形になる。雅玖から誘ってもらったら二つ返事で快諾してくれた。

 子どもの人数が多いこともあり、大人が多ければ安心ということもある。雅玖も人間世界に於いては世間知らずな方になってしまうので、常識のある李里さんに来てもらえれば真琴も助かるのだ。

 移動手段を新幹線にするか飛行機にするか、これまた家族会議が行われた。真琴はともかく、雅玖を始めあやかしたちはどちらにも乗ったことが無かったのだ。そこで折衷案せっしゅうあんを取って、往路を新幹線、復路を飛行機にすることにしたのである。

 移動も疲れるものである。大阪東京間は、新幹線なら約2時間半、飛行機なら約1時間。新幹線の方が身体が疲れてしまうので、元気のある往路に新幹線を持って来たのだった。

 新幹線の中で、それは子どもたち、特に壱斗と四音は大はしゃぎだった。真琴も雅玖も、ふたりを落ち着かせるのに必死だった。

 弐那にな景五けいごも興奮はしていた様で、窓際の席を陣取ってずっと窓ガラスに張り付いていた。三鶴みつるだけはいつものごとく落ち着いた様子で、廊下側の席でおとなしくテキストを開いていた。

 新幹線の座席は横に、廊下を挟んでふたり席がふたつである。それを回転させて8人が座れるボックス席にする。雅玖の強い希望で、贅沢にもグリーン車になった。

「憧れなんです。新幹線のグリーン席。追加料金は私が支払いますから」

 そう子どもの様な顔で言われれば、真琴としたら叶えてあげたいと思ってしまう。これには壱斗も「芸能人言うたらグリーン席やんな!」と興奮していた。

 比較的おとなしい弐那と三鶴、景五と李里さんで1ボックス、賑やかな壱斗と四音しおん、真琴と雅玖で1ボックス。完全に壱斗と四音対策である。

 正直なところ、壱斗はともかく四音がこんなに騒ぐなんて思ってもみなかった。言い方を変えれば、随分と子どもらしいところが出てきたということなのだろう。真琴としては嬉しい様な、公共の場で大変な様な、複雑な思いなのだった。

 席決めの時、雅玖と一緒に座れない李里さんに真琴は睨まれたものだが、事情が事情である。譲るのはやぶさかでは無いが、李里さんで壱斗と四音をいさめることができるのか。李里も雅玖に倣って子どもたちに甘いので、そんなふたりだと収拾が付かなくなるでは無いか。

 お昼ごはんは車内で駅弁を食べた。新大阪駅の売店で買い込んだものである。これも雅玖は憧れだったのだと言った。

 今ではデパート催事などで駅弁が買えることもあるが、いつもでは無いし、やはり旅の特別感があるのだろう。雅玖は迷いに迷って牛すき弁当と海鮮丼を買い、美味しそうにふたつをぺろりと平らげていた。ちなみに真琴はちらし寿司を選んだ。

 子どもたちもだが、雅玖も壱斗と四音を落ち着かせながらも相当浮かれていて、真琴はまるで子どもがひとり増えた様な気になってしまっていたのだった。

 そして約2時間半後、真琴たちを乗せた新幹線は無事東京駅へ到着した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

秋月の鬼

凪子
キャラ文芸
時は昔。吉野の国の寒村に生まれ育った少女・常盤(ときわ)は、主都・白鴎(はくおう)を目指して旅立つ。領主秋月家では、当主である京次郎が正室を娶るため、国中の娘から身分を問わず花嫁候補を募っていた。 安曇城へたどりついた常盤は、美貌の花魁・夕霧や、高貴な姫君・容花、おきゃんな町娘・春日、おしとやかな令嬢・清子らと出会う。 境遇も立場もさまざまな彼女らは候補者として大部屋に集められ、その日から当主の嫁選びと称する試練が始まった。 ところが、その試練は死者が出るほど苛酷なものだった……。 常盤は試練を乗り越え、領主の正妻の座を掴みとれるのか?

理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。 そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室? 王太子はまったく好みじゃない。 彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。 彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。 そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった! 彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。 そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。 恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。 この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?  ◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 R-Kingdom_1 他サイトでも掲載しています。

王女殿下のモラトリアム

あとさん♪
恋愛
「君は彼の気持ちを弄んで、どういうつもりなんだ?!この悪女が!」 突然、怒鳴られたの。 見知らぬ男子生徒から。 それが余りにも突然で反応できなかったの。 この方、まさかと思うけど、わたくしに言ってるの? わたくし、アンネローゼ・フォン・ローリンゲン。花も恥じらう16歳。この国の王女よ。 先日、学園内で突然無礼者に絡まれたの。 お義姉様が仰るに、学園には色んな人が来るから、何が起こるか分からないんですって! 婚約者も居ない、この先どうなるのか未定の王女などつまらないと思っていたけれど、それ以来、俄然楽しみが増したわ♪ お義姉様が仰るにはピンクブロンドのライバルが現れるそうなのだけど。 え? 違うの? ライバルって縦ロールなの? 世間というものは、なかなか複雑で一筋縄ではいかない物なのですね。 わたくしの婚約者も学園で捕まえる事が出来るかしら? この話は、自分は平凡な人間だと思っている王女が、自分のしたい事や好きな人を見つける迄のお話。 ※設定はゆるんゆるん ※ざまぁは無いけど、水戸○門的なモノはある。 ※明るいラブコメが書きたくて。 ※シャティエル王国シリーズ3作目! ※過去拙作『相互理解は難しい(略)』の12年後、 『王宮勤めにも色々ありまして』の10年後の話になります。 上記未読でも話は分かるとは思いますが、お読みいただくともっと面白いかも。 ※ちょいちょい修正が入ると思います。誤字撲滅! ※小説家になろうにも投稿しました。

異世界に行った、そのあとで。

神宮寺 あおい
恋愛
新海なつめ三十五歳。 ある日見ず知らずの女子高校生の異世界転移に巻き込まれ、気づけばトルス国へ。 当然彼らが求めているのは聖女である女子高校生だけ。 おまけのような状態で現れたなつめに対しての扱いは散々な中、宰相の協力によって職と居場所を手に入れる。 いたって普通に過ごしていたら、いつのまにか聖女である女子高校生だけでなく王太子や高位貴族の子息たちがこぞって悩み相談をしにくるように。 『私はカウンセラーでも保健室の先生でもありません!』 そう思いつつも生来のお人好しの性格からみんなの悩みごとの相談にのっているうちに、いつの間にか年下の美丈夫に好かれるようになる。 そして、気づけば異世界で求婚されるという本人大混乱の事態に!

小さな姫さまは護衛騎士に恋してる

絹乃
恋愛
マルティナ王女の護衛騎士のアレクサンドル。幼い姫に気に入られ、ままごとに招待される。「泥団子は本当に食べなくても姫さまは傷つかないよな。大丈夫だよな」幼女相手にアレクは戸惑う日々を過ごす。マルティナも大きくなり、アレクに恋心を抱く。「畏れながら姫さま、押しが強すぎます。私はあなたさまの護衛なのですよ」と、マルティナの想いはなかなか受け取ってもらえない。※『わたしは妹にとっても嫌われています』の護衛騎士と小さな王女のその後のお話です。可愛く、とても優しい世界です。

後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜

二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。 そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。 その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。 どうも美華には不思議な力があるようで…?

月華後宮伝

織部ソマリ
キャラ文芸
★10/30よりコミカライズが始まりました!どうぞよろしくお願いします! ◆神託により後宮に入ることになった『跳ねっ返りの薬草姫』と呼ばれている凛花。冷徹で女嫌いとの噂がある皇帝・紫曄の妃となるのは気が進まないが、ある目的のために月華宮へ行くと心に決めていた。凛花の秘めた目的とは、皇帝の寵を得ることではなく『虎に変化してしまう』という特殊すぎる体質の秘密を解き明かすこと! だが後宮入り早々、凛花は紫曄に秘密を知られてしまう。しかし同じく秘密を抱えている紫曄は、凛花に「抱き枕になれ」と予想外なことを言い出して――? ◆第14回恋愛小説大賞【中華後宮ラブ賞】受賞。ありがとうございます! ◆旧題:月華宮の虎猫の妃は眠れぬ皇帝の膝の上 ~不本意ながらモフモフ抱き枕を拝命いたします~

同窓会に行ったら、知らない人がとなりに座っていました

菱沼あゆ
キャラ文芸
「同窓会っていうか、クラス会なのに、知らない人が隣にいる……」  クラス会に参加しためぐるは、隣に座ったイケメンにまったく覚えがなく、動揺していた。  だが、みんなは彼と楽しそうに話している。  いや、この人、誰なんですか――っ!?  スランプ中の天才棋士VS元天才パティシエール。 「へえー、同窓会で再会したのがはじまりなの?」 「いや、そこで、初めて出会ったんですよ」 「同窓会なのに……?」

処理中です...