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4章 宝物に会うために
第5話 お腹の中で
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「……さん、真琴さん」
雅玖に優しく呼ばれ、真琴は目を覚ます。本当に眠ってしまっていた様だ。慌てて上半身を起こした。
「終わったん?」
「はい。今、真琴さんのお腹の中には、真琴さんと私の子がいます」
言われ、真琴はとっさに両手をお腹にやる。ここに、雅玖との子が。
正直なところ、まだ実感は無い。だが雅玖が言うのだから事実なのだ。これから真琴は、お腹の中でこの子を育てて行く。
「産まれるまで、どんぐらい掛かるん? あやかしとの子やったら、人間の子とはちゃうかったりするん?」
「いいえ。あやかしの胎内は種族によって3ヶ月や1年などといろいろあるのですが、真琴さんは人間さまなので、いわゆる十月十日、正確には280日ほど。人間の子を出産するのと同じです」
「そっか。大事に育ててあげなな」
まだぺたんこのお腹。子はまだまだ小さな小さな生命なのだろう。これから約9ヶ月を掛けて、ゆっくりと大きくなって行くのだ。
「楽しみやなぁ。早よおっきくなって、会いたいなぁ」
真琴が慈しむ様にお腹を優しく撫でると、その手に雅玖の大きな手が重なる。
「ええ。本当に楽しみです」
雅玖の目は、5人の子どもたちを見るものと同じ。ああ、雅玖はきっとこの子も、大事に大事にしてくれているのだなと、真琴に思わせてくれるのだった。
子どもたちは学校から帰って来ると、リビングで寛いでいた真琴に一直線だ。雅玖に「まずはお身体を大事に」と家事を全て取り上げられてしまったのである。お料理ですらだ。
「お母ちゃま! 赤ちゃんは!?」
「まだ産まれてるわけあれへんやん」
「分かっとるわそんなん!」
壱斗と三鶴のそんな応酬がありつつも、弐那と四音は真琴を取り囲む様にソファに飛び乗る。景五も真琴の前に膝を付いた。
「お腹に、僕らの妹か弟がおるん?」
「おるで。まだちっちゃいけど、ちゃんとおるで」
「ママさま、あの、触ってええ……?」
弐那がおずおずと聞いて来るので、真琴はにっこりと微笑む。さっそくお姉ちゃんになろうとしてくれているのかも知れない。
「ええで。優しーく撫でてな」
「う、うん」
弐那は恐々と言った様子で、小さな手を真琴のお腹に伸ばす。そして触れるか触れないかの弱さで真琴のお腹を撫でた。
「赤ちゃん……」
弐那の頬が赤く染まる。あやかしの力で、何かを感じ取っているのだろうか。
すると、正面の景五もじっと真琴のお腹を見つめていた。興味津々の様子だ。
「景五も撫でてみる?」
すると景五が目を見開き、こくんと頷くとそっと手を伸ばして来た。弐那よりは少し強い力。それでも柔らかな手つきだった。
「赤ちゃん、おるんや」
そうぽつりと呟く。景五も喜んでくれているのだろう。
子どもたちは、きっとこうしてお兄ちゃんお姉ちゃんになってくれるのだろう。産まれて来る子を歓迎してくれれば、きっと雅玖と子どもたち8人で素敵な家族になる。
全く不安が無いと言えば嘘になる。安定期に入るまで油断はできないだろう。そしていざ産む時の痛みは想像を絶すると言う。
産まれる子はあやかしの外見的特徴を持つので、人間の産婦人科には掛かれない。なので医者の資格を持つ産婦人科医のあやかしのお世話になることになっている。真琴にしてみれば何もかもが規格外なので、どうなるのか予想も付かない。
それでも真琴は雅玖との子を産むと決めて、こうして宿した。なら覚悟を決めて、その時を待つだけである。
安定期に入るまでは、流産をしてしまったり、つわりがあったりする。もちろんどちらも個人差があるものだし、個人の体調などに左右されるわけでは無い。意図せず起こってしまうのだ。
だから真琴はしばらくは注意しようと気を付けていたのだが。
「大丈夫ですよ。あやかしの子は丈夫ですし、あびこ観音さまのご加護もあります。きっと流産もつわりもほとんどありませんよ」
するとその通り、つわりが全然無かったのだ。吐き気だとか、何かを無性に食べたくなるだとか、真琴が予想していたことがことごとく回避された。
そのことをありがたいと思うと同時に、あやかしの力やあびこ観音のご加護に畏れを抱いてしまいそうになる。
雅玖や子どもたち、李里さんもだが、あやかしとのご縁が無ければ受けられなかった恩恵である。
神頼みをする人間は多いが、きっとその効果を肌で感じられることはそう多く無い。神仏を信じてはいるものの、全員が宝くじにあたるわけが無いし、悪いことが起こらないわけでは無い。
それをこうして実感できることは、きっと幸せなことなのだ。守られているのだなと、本当にありがたく思う。
雅玖と出会い、「まこ庵」を始めて、感謝することばかりである。支えてくれる雅玖に、癒してくれる子どもたち、「まこ庵」を手伝ってくれる李里さんに、「まこ庵」をご贔屓にしてくれるお客、守ってくれる父親、そしてあびこ観音さまに。
その気持ちは真琴までもを救ってくれるもので、だからこうして今、新しい生命を宿し、穏やかな心でいられる。
周りのものを大切にし、日々を大事にして過ごして行こうと思うのだ。
雅玖に優しく呼ばれ、真琴は目を覚ます。本当に眠ってしまっていた様だ。慌てて上半身を起こした。
「終わったん?」
「はい。今、真琴さんのお腹の中には、真琴さんと私の子がいます」
言われ、真琴はとっさに両手をお腹にやる。ここに、雅玖との子が。
正直なところ、まだ実感は無い。だが雅玖が言うのだから事実なのだ。これから真琴は、お腹の中でこの子を育てて行く。
「産まれるまで、どんぐらい掛かるん? あやかしとの子やったら、人間の子とはちゃうかったりするん?」
「いいえ。あやかしの胎内は種族によって3ヶ月や1年などといろいろあるのですが、真琴さんは人間さまなので、いわゆる十月十日、正確には280日ほど。人間の子を出産するのと同じです」
「そっか。大事に育ててあげなな」
まだぺたんこのお腹。子はまだまだ小さな小さな生命なのだろう。これから約9ヶ月を掛けて、ゆっくりと大きくなって行くのだ。
「楽しみやなぁ。早よおっきくなって、会いたいなぁ」
真琴が慈しむ様にお腹を優しく撫でると、その手に雅玖の大きな手が重なる。
「ええ。本当に楽しみです」
雅玖の目は、5人の子どもたちを見るものと同じ。ああ、雅玖はきっとこの子も、大事に大事にしてくれているのだなと、真琴に思わせてくれるのだった。
子どもたちは学校から帰って来ると、リビングで寛いでいた真琴に一直線だ。雅玖に「まずはお身体を大事に」と家事を全て取り上げられてしまったのである。お料理ですらだ。
「お母ちゃま! 赤ちゃんは!?」
「まだ産まれてるわけあれへんやん」
「分かっとるわそんなん!」
壱斗と三鶴のそんな応酬がありつつも、弐那と四音は真琴を取り囲む様にソファに飛び乗る。景五も真琴の前に膝を付いた。
「お腹に、僕らの妹か弟がおるん?」
「おるで。まだちっちゃいけど、ちゃんとおるで」
「ママさま、あの、触ってええ……?」
弐那がおずおずと聞いて来るので、真琴はにっこりと微笑む。さっそくお姉ちゃんになろうとしてくれているのかも知れない。
「ええで。優しーく撫でてな」
「う、うん」
弐那は恐々と言った様子で、小さな手を真琴のお腹に伸ばす。そして触れるか触れないかの弱さで真琴のお腹を撫でた。
「赤ちゃん……」
弐那の頬が赤く染まる。あやかしの力で、何かを感じ取っているのだろうか。
すると、正面の景五もじっと真琴のお腹を見つめていた。興味津々の様子だ。
「景五も撫でてみる?」
すると景五が目を見開き、こくんと頷くとそっと手を伸ばして来た。弐那よりは少し強い力。それでも柔らかな手つきだった。
「赤ちゃん、おるんや」
そうぽつりと呟く。景五も喜んでくれているのだろう。
子どもたちは、きっとこうしてお兄ちゃんお姉ちゃんになってくれるのだろう。産まれて来る子を歓迎してくれれば、きっと雅玖と子どもたち8人で素敵な家族になる。
全く不安が無いと言えば嘘になる。安定期に入るまで油断はできないだろう。そしていざ産む時の痛みは想像を絶すると言う。
産まれる子はあやかしの外見的特徴を持つので、人間の産婦人科には掛かれない。なので医者の資格を持つ産婦人科医のあやかしのお世話になることになっている。真琴にしてみれば何もかもが規格外なので、どうなるのか予想も付かない。
それでも真琴は雅玖との子を産むと決めて、こうして宿した。なら覚悟を決めて、その時を待つだけである。
安定期に入るまでは、流産をしてしまったり、つわりがあったりする。もちろんどちらも個人差があるものだし、個人の体調などに左右されるわけでは無い。意図せず起こってしまうのだ。
だから真琴はしばらくは注意しようと気を付けていたのだが。
「大丈夫ですよ。あやかしの子は丈夫ですし、あびこ観音さまのご加護もあります。きっと流産もつわりもほとんどありませんよ」
するとその通り、つわりが全然無かったのだ。吐き気だとか、何かを無性に食べたくなるだとか、真琴が予想していたことがことごとく回避された。
そのことをありがたいと思うと同時に、あやかしの力やあびこ観音のご加護に畏れを抱いてしまいそうになる。
雅玖や子どもたち、李里さんもだが、あやかしとのご縁が無ければ受けられなかった恩恵である。
神頼みをする人間は多いが、きっとその効果を肌で感じられることはそう多く無い。神仏を信じてはいるものの、全員が宝くじにあたるわけが無いし、悪いことが起こらないわけでは無い。
それをこうして実感できることは、きっと幸せなことなのだ。守られているのだなと、本当にありがたく思う。
雅玖と出会い、「まこ庵」を始めて、感謝することばかりである。支えてくれる雅玖に、癒してくれる子どもたち、「まこ庵」を手伝ってくれる李里さんに、「まこ庵」をご贔屓にしてくれるお客、守ってくれる父親、そしてあびこ観音さまに。
その気持ちは真琴までもを救ってくれるもので、だからこうして今、新しい生命を宿し、穏やかな心でいられる。
周りのものを大切にし、日々を大事にして過ごして行こうと思うのだ。
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