76 / 190
#76 ツナ料理の朝ご飯。その2
しおりを挟む
「いただきます」
フォークを手にし、まずは味噌汁を啜る。流れに付いて来た卵白がふわふわに仕上がっている。じゃがいもを食べると、こちらもほくほくになっていた。
ブイヨン出汁の味噌汁も、すっかり慣れた味になった。具は出来るだけ変えたいものだが、どうしても味噌汁に使える野菜の種類が少ないので難しい。葉物がもう少しあれば良いのだが。
次にオムレツ。これは卵の焼き加減が勝負だ。表面しっとり、中身とろりが理想である。さて、ちゃんと出来ているか。
フォークを入れると、中から程良い半熟の断面が顔を出した。これはなかなか巧く行ったのでは無いだろうか。
掬って口に入れる。うん、塩加減も良い感じ。ツナのオイルを使ったからか、ツナの風味が全体に行き渡っていて、卵の甘みとバターのコクに良く合っている。
最後の一品、ツナの握り。一口目からツナマヨネーズが届く様に、具は細長いめに置いた。さて、その狙いは的中する。
安定のツナマヨ握り。微塵切りの玉ねぎが良いアクセントになっている。味をさっぱりもさせてくれる。
ツナとマヨネーズだけでも充分だろうが、やはり玉ねぎ入りが壱は好きである。自分ではなかなか面倒になって、そこまで凝る事は無かったが。
今朝は久々に食べたくなって、頑張ってみた。残っていた玉ねぎもあったので丁度良かった。
この世界では、食べたいものは自分で作らなければありつけないのである。
「ツナマヨのお握りは懐かしいのう。儂らの世代にはハイカラな食べ物じゃの。おや、玉ねぎも入っておるんじゃな。シャキシャキして良いのう」
「無くても美味しいけどね。今回はお握りに入れるから微塵切りにしたけど、もっとざく切りで和え物にしても良いだろうし、きゅうりの塩揉みと和えても良いし」
「おお、成る程の。ツナは色々な食べ方があるんじゃのう」
サユリと似た様な事言ってる。壱は可笑しくなってつい微笑む。
「オムレツも味噌汁も旨いぞい。壱は料理上手じゃのう」
「うむ。連れて来て正解だったカピ」
「そう言って貰えると、作った甲斐があるよ」
壱は少し照れて、小さく笑った。
朝食の洗い物を済ませ、茂造は厨房へ。壱とサユリはフロアに出て、壱は椅子に、サユリはテーブルに上がる。
するとそのタイミングでドアが開き、カリルとサントが出勤して来た。
「あ、イチ、サユリさん、おはよう!」
カリルが元気な挨拶。サントは小さく頭を下げた。
「おはようカピ」
「おはよう。俺、今日は田んぼ作りに行くんだ。だから仕込みとか営業中もいなくて、忙しいのにご免」
「気ーにすんなって。米育てんだろ? 楽しみだな! 前に食べたの旨かったしさ。でもイチ、こっち来る時、米と種両方持ってたのか?」
「え、あ、」
サユリが種籾を持ち込み、時間魔法で育てたなんて言えない。壱が応えに窮すると、サユリが助けてくれた。
「米を持っていたのは壱カピが、種籾を持ち込んだのは我カピ。向こうの世界で壱と会う前に手に入れたのだカピ」
「へぇ、成る程な。じゃ、俺らは仕込み行くな! 昼はイチは客として来るんかな?」
「あ、どうだろ。田んぼ作りの進みにもよると思うんだけど」
「そうだな! じゃ、また後でな!」
カリルが言い、サントがまた頭を下げると、ふたりは厨房に入って言った。
さて壱は、手にしているメモに眼を落とす。田んぼの作り方が書いてある。昨夜あらためてスマートフォンで調べたものだ。
現状仕上がっている筈の煉瓦でどの広さの田んぼが出来るのかを算出し、各辺に並べる個数を書いてある。
幸い、この世界の数字の描写とスケールは壱たちの世界と同じだった。お陰で計算しやすかった。
そんなに大きな田んぼは作れない。しかしいつでも新米に近い美味しい米が食べられる様に、幾つか田んぼを作り、時間差で育てて行く予定だ。
今日はそのひとつめを作るのである。
みんなに作業をして貰うのに、こちらがもたついていたら話にならない。壱は頭の中でシミュレーションしながらメモを見つめる。
すると、その表情が余程強張っていたのか、サユリがやや呆れた様に溜め息を吐いた。
「壱、そんなに構えなくても大丈夫だカピ。大方ちゃんと指導出来るかどうか、そんな事を気に掛けているのだろうカピが、壱なら出来るカピ」
「いや、それも勿論心配だけど、俺、新参者だからさ。村の人みんな良い人で、煉瓦一緒に作ってそんなの解ってんだけど、あの時は教えて貰う立場だったからさ。いや今回もだけど。俺煉瓦積みとかした事無いし。万が一偉そうとか思われて、亀裂でも走ろうもんなら、これから先難しくなるかもって」
「そんな心配は無用カピ。村人はみんな我の、そして茂造のお眼鏡に適った者ばかりカピ。それに加え我の加護もあるカピ。そう大きな村では無いのだカピ、そんな事にはならない様にしてあるカピよ。派閥だの何だの、そんなものが出来たら面倒だカピからな」
「そ、そっか。少し安心した」
壱は小さく息を吐く。
「勿論過度に尊大な態度は禁物だカピ。それはそもそも人として駄目だカピ。だが、まだ短い期間ではあるカピが、壱はそもそも敵を作るタイプでは無いと、我は見ているカピ。だから大丈夫カピ」
サユリが何気無く言う。きっと褒めてくれているのだと思う。壱は微笑んだ。
「ありがとう、サユリ」
サユリは返事の代わりに鼻を鳴らした。
その時、食堂のドアが開き、ジェンが顔を覗かせた。
「おはよっす! 今日からよろしくっす!」
「おはようございます。こちらこそよろしくお願いします」
壱は笑みを浮かべて、ジェンを迎えた。
フォークを手にし、まずは味噌汁を啜る。流れに付いて来た卵白がふわふわに仕上がっている。じゃがいもを食べると、こちらもほくほくになっていた。
ブイヨン出汁の味噌汁も、すっかり慣れた味になった。具は出来るだけ変えたいものだが、どうしても味噌汁に使える野菜の種類が少ないので難しい。葉物がもう少しあれば良いのだが。
次にオムレツ。これは卵の焼き加減が勝負だ。表面しっとり、中身とろりが理想である。さて、ちゃんと出来ているか。
フォークを入れると、中から程良い半熟の断面が顔を出した。これはなかなか巧く行ったのでは無いだろうか。
掬って口に入れる。うん、塩加減も良い感じ。ツナのオイルを使ったからか、ツナの風味が全体に行き渡っていて、卵の甘みとバターのコクに良く合っている。
最後の一品、ツナの握り。一口目からツナマヨネーズが届く様に、具は細長いめに置いた。さて、その狙いは的中する。
安定のツナマヨ握り。微塵切りの玉ねぎが良いアクセントになっている。味をさっぱりもさせてくれる。
ツナとマヨネーズだけでも充分だろうが、やはり玉ねぎ入りが壱は好きである。自分ではなかなか面倒になって、そこまで凝る事は無かったが。
今朝は久々に食べたくなって、頑張ってみた。残っていた玉ねぎもあったので丁度良かった。
この世界では、食べたいものは自分で作らなければありつけないのである。
「ツナマヨのお握りは懐かしいのう。儂らの世代にはハイカラな食べ物じゃの。おや、玉ねぎも入っておるんじゃな。シャキシャキして良いのう」
「無くても美味しいけどね。今回はお握りに入れるから微塵切りにしたけど、もっとざく切りで和え物にしても良いだろうし、きゅうりの塩揉みと和えても良いし」
「おお、成る程の。ツナは色々な食べ方があるんじゃのう」
サユリと似た様な事言ってる。壱は可笑しくなってつい微笑む。
「オムレツも味噌汁も旨いぞい。壱は料理上手じゃのう」
「うむ。連れて来て正解だったカピ」
「そう言って貰えると、作った甲斐があるよ」
壱は少し照れて、小さく笑った。
朝食の洗い物を済ませ、茂造は厨房へ。壱とサユリはフロアに出て、壱は椅子に、サユリはテーブルに上がる。
するとそのタイミングでドアが開き、カリルとサントが出勤して来た。
「あ、イチ、サユリさん、おはよう!」
カリルが元気な挨拶。サントは小さく頭を下げた。
「おはようカピ」
「おはよう。俺、今日は田んぼ作りに行くんだ。だから仕込みとか営業中もいなくて、忙しいのにご免」
「気ーにすんなって。米育てんだろ? 楽しみだな! 前に食べたの旨かったしさ。でもイチ、こっち来る時、米と種両方持ってたのか?」
「え、あ、」
サユリが種籾を持ち込み、時間魔法で育てたなんて言えない。壱が応えに窮すると、サユリが助けてくれた。
「米を持っていたのは壱カピが、種籾を持ち込んだのは我カピ。向こうの世界で壱と会う前に手に入れたのだカピ」
「へぇ、成る程な。じゃ、俺らは仕込み行くな! 昼はイチは客として来るんかな?」
「あ、どうだろ。田んぼ作りの進みにもよると思うんだけど」
「そうだな! じゃ、また後でな!」
カリルが言い、サントがまた頭を下げると、ふたりは厨房に入って言った。
さて壱は、手にしているメモに眼を落とす。田んぼの作り方が書いてある。昨夜あらためてスマートフォンで調べたものだ。
現状仕上がっている筈の煉瓦でどの広さの田んぼが出来るのかを算出し、各辺に並べる個数を書いてある。
幸い、この世界の数字の描写とスケールは壱たちの世界と同じだった。お陰で計算しやすかった。
そんなに大きな田んぼは作れない。しかしいつでも新米に近い美味しい米が食べられる様に、幾つか田んぼを作り、時間差で育てて行く予定だ。
今日はそのひとつめを作るのである。
みんなに作業をして貰うのに、こちらがもたついていたら話にならない。壱は頭の中でシミュレーションしながらメモを見つめる。
すると、その表情が余程強張っていたのか、サユリがやや呆れた様に溜め息を吐いた。
「壱、そんなに構えなくても大丈夫だカピ。大方ちゃんと指導出来るかどうか、そんな事を気に掛けているのだろうカピが、壱なら出来るカピ」
「いや、それも勿論心配だけど、俺、新参者だからさ。村の人みんな良い人で、煉瓦一緒に作ってそんなの解ってんだけど、あの時は教えて貰う立場だったからさ。いや今回もだけど。俺煉瓦積みとかした事無いし。万が一偉そうとか思われて、亀裂でも走ろうもんなら、これから先難しくなるかもって」
「そんな心配は無用カピ。村人はみんな我の、そして茂造のお眼鏡に適った者ばかりカピ。それに加え我の加護もあるカピ。そう大きな村では無いのだカピ、そんな事にはならない様にしてあるカピよ。派閥だの何だの、そんなものが出来たら面倒だカピからな」
「そ、そっか。少し安心した」
壱は小さく息を吐く。
「勿論過度に尊大な態度は禁物だカピ。それはそもそも人として駄目だカピ。だが、まだ短い期間ではあるカピが、壱はそもそも敵を作るタイプでは無いと、我は見ているカピ。だから大丈夫カピ」
サユリが何気無く言う。きっと褒めてくれているのだと思う。壱は微笑んだ。
「ありがとう、サユリ」
サユリは返事の代わりに鼻を鳴らした。
その時、食堂のドアが開き、ジェンが顔を覗かせた。
「おはよっす! 今日からよろしくっす!」
「おはようございます。こちらこそよろしくお願いします」
壱は笑みを浮かべて、ジェンを迎えた。
11
あなたにおすすめの小説
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~
よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】
多くの応援、本当にありがとうございます!
職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。
持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。
偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。
「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。
草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。
頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男――
年齢なんて関係ない。
五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
異世界へ誤召喚されちゃいました 女神の加護でほのぼのスローライフ送ります
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
うちの孫知りませんか?! 召喚された孫を追いかけ異世界転移。ばぁばとじぃじと探偵さんのスローライフ。
かの
ファンタジー
孫の雷人(14歳)からテレパシーを受け取った光江(ばぁば64歳)。誘拐されたと思っていた雷人は異世界に召喚されていた。康夫(じぃじ66歳)と柏木(探偵534歳)⁈ をお供に従え、異世界へ転移。料理自慢のばぁばのスキルは胃袋を掴む事だけ。そしてじぃじのスキルは有り余る財力だけ。そんなばぁばとじぃじが、異世界で繰り広げるほのぼのスローライフ。
ばぁばとじぃじは無事異世界で孫の雷人に会えるのか⁈
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる