異世界もふもふ食堂〜僕と爺ちゃんと魔法使い仔カピバラの味噌スローライフ〜

山いい奈

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#140 マユリの実は

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 夜の賄いの時間。

 ドリンクは基本水であるが、従業員料金を払えばアルコールも飲めるのである。

 酒豪しゅごうのメリアンと酒好きのマーガレットとカリルは、エールやワインを程々に傾ける。サントも赤ワインを少々。

 壱と茂造、サユリは飲まない。茂造は判らないが、壱は銭湯上がりの寝る前に少し嗜むのが好みである。

 もう後は寝るだけ。その状態の酒はとても美味しいものである。

 そしてマユリも飲まない。上品に水のカップを口にする。

 料理が半分ほど減った辺りで、マーガレットが口にした。

「そう言えば、マユリ最近お酒飲まないわねぇ~。どうしたのぉ~?」

 その台詞に、マユリの表情が強張こわばる。するとメリアンも「あ」と口を開く。

「そうだよねー。だってマユリって凄っごいお酒強いもんね! ボクより強いもんね!」

「あー、まぁ確かに幾ら飲んでも酔わないよな」

 カリルも同意する。

 するとマユリは顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。どうしたのだろうか。

「ねぇイチくぅん、お酒に強い女性ってどう思うぅ~?」

 マーガレットに訊かれ、壱は思ったままを口にする。

「別に何とも。強いのは羨ましいなって思うよ。え、あ、え? この世界にももしかしてあるの? 弱い女性が可愛いとか、強い女性は可愛く無いとか」

 壱が元の世界で聞く事があった価値観だ。

 しかしアルコールの強い弱いは、男女の差では無く、個体の差だ。強い女性もいるし、弱い男性もいる。それが壱にとっての当たり前で、何の不思議も無かった。

「この村では聞いた事が無いわぁ~。でもワタシが前にいた街ではあったと思ってぇ~。言われたわぁ~、お酒に強い女は可愛く無いなんて失礼な事ぉ~」

 マーガレットが自らの発言の不快感に顔を顰める。

「へぇ、この世界でもそんなのあるんだ。でもこの村では無いらしいし、俺も全く思わないからさ。好きな人は、人に迷惑を掛けない程度で飲んだら良いじゃん。だってこの村でエールもワインも作ってるんだから。旨いんだからさ」

 壱が言うと、それまで俯いていたマユリが顔を上げる。眼を見開いて口を固く結び、何かを決意したかの様な表情。

 マユリは素早く立ち上がり、宣言する様に言う。

「あ、あの、あの、わ、私、エール、いただきます!」

 そしてカウンタに向かった。

 壱はマユリの突然の行動に驚いて、呆然とする。

「な、何事?」

 呆けて言うと、エールのカップを片手に戻って来たマユリが、恥ずかしそうに言う。

「あ、あの、お酒が、つ、強い女性は、か、可愛く無いって、あの、聞いた事が、あって。だから、あの、最近控えていて。でも、あの、イチさんがそう思っていないのだったら、あの、の、飲みたいな、って」

 そんな事を気にしていたのか。

「俺は思って無いよ。美味しいものは飲んだら良いじゃん。マユリは酒が好きなの?」

「は、はい、す、好きです」

 またマユリは恥ずかしそうに眼を伏せる。

「俺も好きだよ。特別強く無いから賄いの時に飲まないだけで。寝る前に飲む事があるよ。お酒美味しいよね」

「は、はい、お、美味しいです!」

 壱の台詞に、マユリは嬉しそうに笑みを浮かべる。

 席に着くと、エールのカップを傾け、景気良く喉に流し込む。

「……はー!」

 マユリは大きく息を吐いた。その顔は大いに満足そうだ。

「お、おいしいです!」

「うん。良かったね」

 マユリの嬉しそうな表情に、壱も微笑ましくなり、笑みを浮かべた。
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