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#165 壱の健康診断
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10分ほどして、診察室から茂造が出て来た。
「検診なんて久々じゃったぞい。懐かしい感じがしたのう」
「そっか。この世界に来てから受けて無かったんだよね」
茂造が元の世界にいた時には、既に定年退職を迎えていたが、再就職していたので、そこで健康診断が毎年あった筈だ。
その時には採血やレントゲン、心電図などもあったと思うので、今回の内容はかなり簡略化されいると思うが。
「どうだった?」
壱が聞くと、茂造はにこにこと笑った。
「健康そのものじゃぞい。心音も綺麗じゃと言われたし、血圧も正常値じゃ。そもそも儂自身が毎日調子が良いからのう」
「はい」
茂造に続いて出て来たノルドが、穏やかに頷いた。
「スミナさんも他のご高齢の方もそうですが、本来ならこの位のお年になれば、何かしら調子の悪い部分が出て来たりするものです」
それはそうだろう。茂造自身も元の世界にいた時には、腰や関節が時折痛むやら、血圧が高めやらと言っていた。だから壱は常々、少しでも茂造にゆっくりして欲しいと思っていたのだが。
「ですが、これまで診察させて頂いた皆さま、ご健康そのものです。これはサユリさんのご加護のお陰なのですね。凄いですね!」
そう言いながら、ノルドは興奮気味に胸元で両の拳を握った。
「サユリさんが相当凄い魔法使いなのか、それともご加護の大半をそこに割いておられるのかは、私には判りませんが、これは凄い事ですよ」
実際は前者である。しかしそれを言う訳にはいかず、壱は「はは」と苦笑いするしか無かった。
「ああ、イチくんお待たせしました。店長さんお疲れさまでした。ではイチくん、診察室へどうぞ」
そう促され立ち上がると、サユリが素早く壱の歩みに合わせる様に横に沿った。
「あれ、サユリも来る?」
「当然カピ。ノルドに聞きたい事もあるのだカピ」
「俺は良いけど、ノルドさん、良いですか?」
「イチくんとサユリさんが良いのであれば、勿論。では行きましょう」
そうして診察室に入る。
診察室は壱たちの世界で言うところの6畳程の広さで、壁に沿ってテーブル、椅子、患者用の椅子、それと対面する位置にシンプルなベッドが置かれ、全て木製ではあるものの、壱にも見覚えのある診察室の様だった。
大きく違うのは、テーブルの上がシンプル過ぎると言う事だった。
手前の隅に銀色の長細い箱の様なものが置かれていて、横にはインクの瓶、奥の隅には数枚の用紙。用紙は恐らくカルテの様なものだろう。
診察室には良く置かれている、製薬会社のノベルティや身体の展開図の様なものは無いし、当然パソコンも無い。レントゲンフィルムを見る為のシャウカステンも無い。
余計なものなど何も無い、シンプルに作られた診察室だった。
「ではまず、心臓の音を聞かせてくださいね」
ノルドが言うと、首に掛けていた聴診器を手に構える。壱はトップスを捲り上げようとするが、止められた。
「そのままで大丈夫ですよ」
ノルドは安心させるかの様に穏やかに言うと立ち上がり、トップスの上部、首回りの隙間から手を入れて、壱の胸付近に聴診器を当てて行く。
聴診器のひやりとした感触に、壱は小さく肩を上げてしまったが、ノルドはいつもの事なのか、気にする風も無く、聴診を続けて行く。
数秒後に、ノルドは小さく頷いて、壱から聴診器を外すと、用紙に付けペンで何やら書いて行く。
この世界の文字は、やはり壱には読めない。問題無しとでも書かれていると良いのだが。
「では、次は血圧を測りましょう」
ノルドは言うと、長細い銀色の箱を手前に寄せて開ける。そこに入っていたのは、布製の幅のある濃いグレイのバンド。そしてそこから出ている薄いグレイのチューブに繋がっている目盛りと、チューブと同じ色の、ゴム製の小さな風船の様なもの。
蓋の内側には目盛りが付いていて、起立する様になっていた。
ノルドはバンドから出るチューブの繋ぎ部分を、腕の関節部分に合わせる様にやや強めに巻くと、関節の血管に聴診器を充て、風船を握る。
風船を幾度と握ると、バンドに空気が送られて膨らみ、壱の腕が圧迫される。それで一瞬体内の血流が激しくなったかと思った瞬間、ふっとその力が弱められる。
これは元の世界で血圧を測っていた時と同じ感覚だ。壱が経験した事があるのは機械の血圧計だったが。
ノルドの目線は目盛りに注視されている。それが恐らく血圧を表示するのだ。
圧迫は徐々に緩められ、途中で腕が脈打つ。そしてそれが落ち着いてやや後、締められていた腕が自由になった。
「上が112、下が73。イチくんはヒューマンですよね?」
ノルドは言いながら付けペンを取り、インクを浸けると机の上の用紙に数値を記した。
「はい」
「でしたらやはり健康ですね。エルフやドワーフは、基準値が違うんですよ。エルフは低く、ドワーフは高いんです」
「そうなんですか」
初めて聞いた。壱はこれまで血圧で異常値を出した事は無く、この村は医者いらずだ。自分の事も含めて気にした事など無かった。
「心音と血圧から見ましたところ、イチくんの健康状態はとても良好です」
「そうですか。良かった」
知恵熱は出したが、完治してからこちら、体調不良を覚えた事など無かったので、正直不安は無かった。サユリの加護もある訳だし。
しかしこの健康診断を無意味だと、壱は思ってはいない。寧ろ村人の安心の為、そして医者であるノルドの為、必要な事だと感じている。
そして心配はしていなかったものの、こうして医者から「健康ですよ」と言われると、更に安心するものなのである。
若い壱ですらこうなのだから、高齢者は余計にそうなのでは無いだろうか。
「検診なんて久々じゃったぞい。懐かしい感じがしたのう」
「そっか。この世界に来てから受けて無かったんだよね」
茂造が元の世界にいた時には、既に定年退職を迎えていたが、再就職していたので、そこで健康診断が毎年あった筈だ。
その時には採血やレントゲン、心電図などもあったと思うので、今回の内容はかなり簡略化されいると思うが。
「どうだった?」
壱が聞くと、茂造はにこにこと笑った。
「健康そのものじゃぞい。心音も綺麗じゃと言われたし、血圧も正常値じゃ。そもそも儂自身が毎日調子が良いからのう」
「はい」
茂造に続いて出て来たノルドが、穏やかに頷いた。
「スミナさんも他のご高齢の方もそうですが、本来ならこの位のお年になれば、何かしら調子の悪い部分が出て来たりするものです」
それはそうだろう。茂造自身も元の世界にいた時には、腰や関節が時折痛むやら、血圧が高めやらと言っていた。だから壱は常々、少しでも茂造にゆっくりして欲しいと思っていたのだが。
「ですが、これまで診察させて頂いた皆さま、ご健康そのものです。これはサユリさんのご加護のお陰なのですね。凄いですね!」
そう言いながら、ノルドは興奮気味に胸元で両の拳を握った。
「サユリさんが相当凄い魔法使いなのか、それともご加護の大半をそこに割いておられるのかは、私には判りませんが、これは凄い事ですよ」
実際は前者である。しかしそれを言う訳にはいかず、壱は「はは」と苦笑いするしか無かった。
「ああ、イチくんお待たせしました。店長さんお疲れさまでした。ではイチくん、診察室へどうぞ」
そう促され立ち上がると、サユリが素早く壱の歩みに合わせる様に横に沿った。
「あれ、サユリも来る?」
「当然カピ。ノルドに聞きたい事もあるのだカピ」
「俺は良いけど、ノルドさん、良いですか?」
「イチくんとサユリさんが良いのであれば、勿論。では行きましょう」
そうして診察室に入る。
診察室は壱たちの世界で言うところの6畳程の広さで、壁に沿ってテーブル、椅子、患者用の椅子、それと対面する位置にシンプルなベッドが置かれ、全て木製ではあるものの、壱にも見覚えのある診察室の様だった。
大きく違うのは、テーブルの上がシンプル過ぎると言う事だった。
手前の隅に銀色の長細い箱の様なものが置かれていて、横にはインクの瓶、奥の隅には数枚の用紙。用紙は恐らくカルテの様なものだろう。
診察室には良く置かれている、製薬会社のノベルティや身体の展開図の様なものは無いし、当然パソコンも無い。レントゲンフィルムを見る為のシャウカステンも無い。
余計なものなど何も無い、シンプルに作られた診察室だった。
「ではまず、心臓の音を聞かせてくださいね」
ノルドが言うと、首に掛けていた聴診器を手に構える。壱はトップスを捲り上げようとするが、止められた。
「そのままで大丈夫ですよ」
ノルドは安心させるかの様に穏やかに言うと立ち上がり、トップスの上部、首回りの隙間から手を入れて、壱の胸付近に聴診器を当てて行く。
聴診器のひやりとした感触に、壱は小さく肩を上げてしまったが、ノルドはいつもの事なのか、気にする風も無く、聴診を続けて行く。
数秒後に、ノルドは小さく頷いて、壱から聴診器を外すと、用紙に付けペンで何やら書いて行く。
この世界の文字は、やはり壱には読めない。問題無しとでも書かれていると良いのだが。
「では、次は血圧を測りましょう」
ノルドは言うと、長細い銀色の箱を手前に寄せて開ける。そこに入っていたのは、布製の幅のある濃いグレイのバンド。そしてそこから出ている薄いグレイのチューブに繋がっている目盛りと、チューブと同じ色の、ゴム製の小さな風船の様なもの。
蓋の内側には目盛りが付いていて、起立する様になっていた。
ノルドはバンドから出るチューブの繋ぎ部分を、腕の関節部分に合わせる様にやや強めに巻くと、関節の血管に聴診器を充て、風船を握る。
風船を幾度と握ると、バンドに空気が送られて膨らみ、壱の腕が圧迫される。それで一瞬体内の血流が激しくなったかと思った瞬間、ふっとその力が弱められる。
これは元の世界で血圧を測っていた時と同じ感覚だ。壱が経験した事があるのは機械の血圧計だったが。
ノルドの目線は目盛りに注視されている。それが恐らく血圧を表示するのだ。
圧迫は徐々に緩められ、途中で腕が脈打つ。そしてそれが落ち着いてやや後、締められていた腕が自由になった。
「上が112、下が73。イチくんはヒューマンですよね?」
ノルドは言いながら付けペンを取り、インクを浸けると机の上の用紙に数値を記した。
「はい」
「でしたらやはり健康ですね。エルフやドワーフは、基準値が違うんですよ。エルフは低く、ドワーフは高いんです」
「そうなんですか」
初めて聞いた。壱はこれまで血圧で異常値を出した事は無く、この村は医者いらずだ。自分の事も含めて気にした事など無かった。
「心音と血圧から見ましたところ、イチくんの健康状態はとても良好です」
「そうですか。良かった」
知恵熱は出したが、完治してからこちら、体調不良を覚えた事など無かったので、正直不安は無かった。サユリの加護もある訳だし。
しかしこの健康診断を無意味だと、壱は思ってはいない。寧ろ村人の安心の為、そして医者であるノルドの為、必要な事だと感じている。
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