異世界もふもふ食堂〜僕と爺ちゃんと魔法使い仔カピバラの味噌スローライフ〜

山いい奈

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#02 そう、そこは異世界だったのです

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 壱の知るカピバラより、その歩みは早い。

 こんなところでひとり置いて行かれてはたまったものでは無い。とりあえずこのカピバラは事情を知っている様だし、付いて行く以外の選択肢は無かった。

 壱は慌てて起き上がり、肩かられていたボディバッグを掛け直して、仔カピバラの後ろに着く。

 數十分歩くと、家らしき建物がちらほらと見えて来た。人の姿も見え始める。その内のひとりの男性が、仔カピバラに声を掛けて来た。

「おうサユリ、帰ったか」

「シェムスか。今帰ったカピよ。ただいまカピ」

 気安く話している。サユリ? それがこの仔カピバラの名前なのだろうか。

「てぇ事は、一緒にいるその坊主ぼうずが例のヤツか?」

「そうカピ」

 例のヤツ? どういう事だ。

「ならユミヤ食堂も安泰あんたいだな! ハッハッハッ」

 仔カピバラの返事に、男性は快活かいかつに笑う。壱はますます訳が判らなくなった。

「おいカピバラ、どういう事だよ」

「まずは黙って付いてくるカピ。そこでちゃんと話をするカピよ」

 サユリと呼ばれた仔カピバラは、また歩き始める。壱は納得行かないものを感じながらも付いて言った。

 それから数分歩き、仔カピバラは1軒の建物の前で止まった。

「ここカピ」

 木造の建物である。キャンプ場などで良く見るバンガローの様な。別荘地に立ち並ぶ建物の様にも見える。

 そう言えばここに辿り着く前に見た数件の家も、殆どが似た様な木造だった。ただ目の前の建物は、それらよりもかなり大きく建てられていた。2階もある様だ。

 しかし1番の違いは、ドアの上に木製の看板がかかげられている事だった。だがそれに書かれている内容は壱には読めなかった。見た事の無い文字、いやその前に文字なのかあれ。

「さ、開けるカピ」

 そう促され、壱は恐る恐るドアノブに手を掛ける。レバータイプのドアノブで、下に下ろすとドアは内側に簡単に開いた。

 中に広がるのは、壱にも見覚えのある景色だった。十数台の木製のテーブルが並び、それを数脚の木製の椅子が囲む。テーブルの中央には調味料入れの様なものが置かれている。奥にはまた木製のカウンタ。全体に装飾そうしょくなどはほとんど無いが、それは飲食店の様だった。

「カピバラ、ここって」

「食堂カピ。看板にちゃんと書いてあったカピ」

 いや、読めないから。と言うか、やはりあれは文字だったのか。

「あと、我の名はサユリカピ。ちゃんと呼ぶカピ」

「あ、ああ、サユリ、ここは」

「まぁ待つカピ。茂造、茂造ー、連れて来たカピよー」

 茂造。壱はその名に聞き覚えがあった。10年程前に行方不明になり、未だに見付からない壱の──

「おう、来たか、壱」

「じいちゃん!?」

 母方の祖父の名前だった。そして奥から出て来た老人は、紛れも無く壱の祖父、槙島茂造 まきしましげぞうだった。

 記憶よりは頭も白くなっているし、顔のしわも増えているが、間違い無かった。

 ちなみにその記憶は、母が時折ときおり出して来る写真から来るものだった。母は未だ諦めず、祖父を探し続けている。

「ハッハッハッ、久しいなぁ壱よ」

 茂造はほがららかに笑いながら、椅子を引きそれに座った。

「いやあの、ここどこだよ、何があったんだよ、俺どうしたんだよ、何でカピバラが喋ってんだよ」

 既知きちの人物に会ったからか、疑問が一気に吹き出して来た。まくし立てる壱に、茂造は両のてのひらを見せる。

「まぁまぁ、落ち着け壱。ここはの、お前やわしから見たら異世界というやつじゃの」

「異世界!?」

 驚くしか無かった。少し前に読んだファンタジー小説に出て来た言葉。

 主人公が異世界に転生し、そこで生活や冒険や戦闘したりする物語。

 そう、あれは物語だ。現実では無いのだ。

 ……まさか現実にあったとでも言うのか?

 混乱する壱に、茂造はさらに告げる。

「いや何、儂がサユリさんに頼んでお前をここに呼んだ理由はひとつじゃよ。この食堂をいで欲しいんじゃ」

「……はぁ?」

 混乱の中たたみ掛けられて、壱はそうとしか言えなかった。
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