異世界もふもふ食堂〜僕と爺ちゃんと魔法使い仔カピバラの味噌スローライフ〜

山いい奈

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#16 ユミヤ食堂もうひとつの顔

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 女性が店内に飛び込んで来た。

「店長さん聞いて! あ! シェムス何でまだここにいるの!? 帰って来ないとお思ったら!」

「ああ!?」

 新客の声に反応して、シェムスが立ち上がる。適度に酔っ払っているのか、ふらりと上半身が揺れた。

「お前、また何ひとりでここに来てるんだよ!」

 シェムスが言うが、あまり呂律ろれつが回っていない。

「そんな呑んだくれのあんたの相談に来たのよ! 決まってるじゃ無い!」

 ボニーが強く言うと、シェムスは気まずそうに黙った。周りの客も空気を読んでおとなしい。

「店長、サユリさん、聞いてよーう!」

 ボニーは叫ぶ様に言うと、手近な椅子に掛けて、両のこぶしでテーブルを叩く。

「まぁまぁ、落ち着いて話すが良い」

 茂造が落ち着かせる様にボニーの背中を軽く叩くと、ボニーは眼を伏せて、落ち着きを取り戻す。

「うん……」

 ボニーはそう言うが、握られている拳は開かれない。修羅場しゅらばを予感して、壱は唾を飲んだ。

「ボニー、どうしたカピ? 心ゆくまで話すと良いカピ。聞くカピよ」

 サユリが姿を表すと、ボニーは顔をゆがませた。

「サユリさぁぁぁん……」

 ボニーはサユリの背中を気持ち良さそうにでながら、ポツリポツリと話し始めた。

「判ってたんだけどね、判ってたんだけど、やっぱり女癖おんなぐせ悪くて、浮気されると腹も立つ訳よ。昨日もマゼラと仲良さげに話して、手を肩とか腰とかにやったりしてニヤニヤして。いっくらお酒飲んでもそれは許すよ。でも浮気は絶対駄目! 結婚してるんだから浮気は駄目だよね? でも離婚はしたく無いの。どうしたらいいかなぁ。股間のアレとか切ったりしたら良い?」

 過激だな! 壱は引くが、茂造とサユリはボニーの背を撫でながら諭す様に言う。

「落ち着くカピ。そんな事したところで逆戻りカピよ。少なくとも我はそれを望まないカピ。お前は良い女カピ」

「そうじゃぞボニー。あんなろくでなしの為に、お前さんが手を汚す必要は無いんじゃ。そうじゃな、とりあえずはシェムスを殴ってひとまずは納めてくれんかの? 儂らが立ち会うからの」

 物騒ぶっそうな事言ってる! なぐるとか! 他にも引っ掛かるワードはあったが、後で茂造かサユリに聞いてみる事にして。

「おい、ちょっと待てボニー。お前、また俺が浮気してると思ってんのか?」

 ここで疑惑の本人登場である。他の客が見守る中、赤い顔をしたシェムスがおどり出る。ボニーは鼻を鳴らす。

「してるじゃ無い。私にばれてないとでも思ってる? 見てたら判るんだよ! マゼラでしょ、そしてテナムとも!」

「し、してねぇよ! 俺は浮気なんてしてねぇよ! な! 俺何もしてねぇよな!」

 シェムスは必死で弁解べんかいする。しかしこれまで仲良く一緒に飲んでいた村人たちもシェムスをかばおうとしない。眼を合わそうともしなかった。

「裏切り者ぉ!」

 シェムスの涙の叫びが店内に響き渡る。

「あ、でもよ、ボニー」

 今までシェムスと飲んでいた男のうちひとりが立ち上がる。

「それでマゼラとテナムを責めるのは無しな。あいつら嫌がってたから。お前に相談するかどうか悩んでた。下手にお前を傷付けたく無いからって」

「あああ、マゼラもテナムもいい子! そんな子たちにあんたはちょっかい掛けてたの!? 馬鹿! この大馬鹿ー!! 男前でも無いくせして!! あんたの取り柄は働き者って事だけだよ!!」

 ボニーが怒号どごうを上げ、シェムスを殴り始める。飲んでいたからか腹は避けているが、腕をひねられ、足をられる。壱は止めた方が良いのかと手を出し掛けるが、茂造が抑える。

「良いんじゃ。いつもの事じゃからの。シェムスは気が悪い奴じゃ無いんじゃが、如何いかんせん女好きでの。しょっちゅうトラブルを起こしとる。ボニーも普段は我慢しとるんじゃが、限界を超えるとここに駆け込んで来るんじゃ。で、シェムスを殴って気を済ませるんじゃ。今日はここにいたが、いつもはサントが力尽ちからづくで連れて来てのう。で、儂らが立ち会うんじゃ。この村の決まりじゃ」

 確かにサントの体格なら可能なのだろうが……また変な決まりを作ったものである。みんながみんな暴力にうったえたりはしないだろうが、ともあれ壱は誰かの恨みを買わない様、大人しくしておこうと心に決めた。

「ふぅん、ここって相談所みたいな、駆け込み寺みたいな? そんな役割も担ってんだ」

「そうじゃの。先代の時は既にそうじゃった。営業時間内で客が少ない時間を見計らって、こうして来るんじゃ」

「痛てっ痛てっ」

 シェムスが殴られながら声を上げるが、見ているとそんなに強い力では無い様である。女性の細腕と言う事もあるのだろうが、やはりボニーが手加減をしている様にも見える。

 やはり惚れて一緒になったのだろうから、本気で怪我をさせたいとか思っている訳では無いのだろう。

「なぁじいちゃん、あのボニーさんて、甘いもの好きかな」

「うむ。確かそうじゃったと思うぞ。昼のメニューのホットケーキを何度も頼んでおるからの」

「そっか、じゃあ……」

 壱は夫婦喧嘩げんかを尻目に厨房に行くと、冷蔵庫を開けた。
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