16 / 190
#16 ユミヤ食堂もうひとつの顔
しおりを挟む
女性が店内に飛び込んで来た。
「店長さん聞いて! あ! シェムス何でまだここにいるの!? 帰って来ないとお思ったら!」
「ああ!?」
新客の声に反応して、シェムスが立ち上がる。適度に酔っ払っているのか、ふらりと上半身が揺れた。
「お前、また何ひとりでここに来てるんだよ!」
シェムスが言うが、あまり呂律が回っていない。
「そんな呑んだくれのあんたの相談に来たのよ! 決まってるじゃ無い!」
ボニーが強く言うと、シェムスは気まずそうに黙った。周りの客も空気を読んでおとなしい。
「店長、サユリさん、聞いてよーう!」
ボニーは叫ぶ様に言うと、手近な椅子に掛けて、両の拳でテーブルを叩く。
「まぁまぁ、落ち着いて話すが良い」
茂造が落ち着かせる様にボニーの背中を軽く叩くと、ボニーは眼を伏せて、落ち着きを取り戻す。
「うん……」
ボニーはそう言うが、握られている拳は開かれない。修羅場を予感して、壱は唾を飲んだ。
「ボニー、どうしたカピ? 心ゆくまで話すと良いカピ。聞くカピよ」
サユリが姿を表すと、ボニーは顔を歪ませた。
「サユリさぁぁぁん……」
ボニーはサユリの背中を気持ち良さそうに撫でながら、ポツリポツリと話し始めた。
「判ってたんだけどね、判ってたんだけど、やっぱり女癖悪くて、浮気されると腹も立つ訳よ。昨日もマゼラと仲良さげに話して、手を肩とか腰とかにやったりしてニヤニヤして。いっくらお酒飲んでもそれは許すよ。でも浮気は絶対駄目! 結婚してるんだから浮気は駄目だよね? でも離婚はしたく無いの。どうしたらいいかなぁ。股間のアレとか切ったりしたら良い?」
過激だな! 壱は引くが、茂造とサユリはボニーの背を撫でながら諭す様に言う。
「落ち着くカピ。そんな事したところで逆戻りカピよ。少なくとも我はそれを望まないカピ。お前は良い女カピ」
「そうじゃぞボニー。あんなろくでなしの為に、お前さんが手を汚す必要は無いんじゃ。そうじゃな、とりあえずはシェムスを殴ってひとまずは納めてくれんかの? 儂らが立ち会うからの」
物騒な事言ってる! 殴るとか! 他にも引っ掛かるワードはあったが、後で茂造かサユリに聞いてみる事にして。
「おい、ちょっと待てボニー。お前、また俺が浮気してると思ってんのか?」
ここで疑惑の本人登場である。他の客が見守る中、赤い顔をしたシェムスが躍り出る。ボニーは鼻を鳴らす。
「してるじゃ無い。私にばれてないとでも思ってる? 見てたら判るんだよ! マゼラでしょ、そしてテナムとも!」
「し、してねぇよ! 俺は浮気なんてしてねぇよ! な! 俺何もしてねぇよな!」
シェムスは必死で弁解する。しかしこれまで仲良く一緒に飲んでいた村人たちもシェムスを庇おうとしない。眼を合わそうともしなかった。
「裏切り者ぉ!」
シェムスの涙の叫びが店内に響き渡る。
「あ、でもよ、ボニー」
今までシェムスと飲んでいた男のうちひとりが立ち上がる。
「それでマゼラとテナムを責めるのは無しな。あいつら嫌がってたから。お前に相談するかどうか悩んでた。下手にお前を傷付けたく無いからって」
「あああ、マゼラもテナムもいい子! そんな子たちにあんたはちょっかい掛けてたの!? 馬鹿! この大馬鹿ー!! 男前でも無い癖して!! あんたの取り柄は働き者って事だけだよ!!」
ボニーが怒号を上げ、シェムスを殴り始める。飲んでいたからか腹は避けているが、腕を捻られ、足を蹴られる。壱は止めた方が良いのかと手を出し掛けるが、茂造が抑える。
「良いんじゃ。いつもの事じゃからの。シェムスは気が悪い奴じゃ無いんじゃが、如何せん女好きでの。しょっちゅうトラブルを起こしとる。ボニーも普段は我慢しとるんじゃが、限界を超えるとここに駆け込んで来るんじゃ。で、シェムスを殴って気を済ませるんじゃ。今日はここにいたが、いつもはサントが力尽くで連れて来てのう。で、儂らが立ち会うんじゃ。この村の決まりじゃ」
確かにサントの体格なら可能なのだろうが……また変な決まりを作ったものである。みんながみんな暴力に訴えたりはしないだろうが、ともあれ壱は誰かの恨みを買わない様、大人しくしておこうと心に決めた。
「ふぅん、ここって相談所みたいな、駆け込み寺みたいな? そんな役割も担ってんだ」
「そうじゃの。先代の時は既にそうじゃった。営業時間内で客が少ない時間を見計らって、こうして来るんじゃ」
「痛てっ痛てっ」
シェムスが殴られながら声を上げるが、見ているとそんなに強い力では無い様である。女性の細腕と言う事もあるのだろうが、やはりボニーが手加減をしている様にも見える。
やはり惚れて一緒になったのだろうから、本気で怪我をさせたいとか思っている訳では無いのだろう。
「なぁじいちゃん、あのボニーさんて、甘いもの好きかな」
「うむ。確かそうじゃったと思うぞ。昼のメニューのホットケーキを何度も頼んでおるからの」
「そっか、じゃあ……」
壱は夫婦喧嘩を尻目に厨房に行くと、冷蔵庫を開けた。
「店長さん聞いて! あ! シェムス何でまだここにいるの!? 帰って来ないとお思ったら!」
「ああ!?」
新客の声に反応して、シェムスが立ち上がる。適度に酔っ払っているのか、ふらりと上半身が揺れた。
「お前、また何ひとりでここに来てるんだよ!」
シェムスが言うが、あまり呂律が回っていない。
「そんな呑んだくれのあんたの相談に来たのよ! 決まってるじゃ無い!」
ボニーが強く言うと、シェムスは気まずそうに黙った。周りの客も空気を読んでおとなしい。
「店長、サユリさん、聞いてよーう!」
ボニーは叫ぶ様に言うと、手近な椅子に掛けて、両の拳でテーブルを叩く。
「まぁまぁ、落ち着いて話すが良い」
茂造が落ち着かせる様にボニーの背中を軽く叩くと、ボニーは眼を伏せて、落ち着きを取り戻す。
「うん……」
ボニーはそう言うが、握られている拳は開かれない。修羅場を予感して、壱は唾を飲んだ。
「ボニー、どうしたカピ? 心ゆくまで話すと良いカピ。聞くカピよ」
サユリが姿を表すと、ボニーは顔を歪ませた。
「サユリさぁぁぁん……」
ボニーはサユリの背中を気持ち良さそうに撫でながら、ポツリポツリと話し始めた。
「判ってたんだけどね、判ってたんだけど、やっぱり女癖悪くて、浮気されると腹も立つ訳よ。昨日もマゼラと仲良さげに話して、手を肩とか腰とかにやったりしてニヤニヤして。いっくらお酒飲んでもそれは許すよ。でも浮気は絶対駄目! 結婚してるんだから浮気は駄目だよね? でも離婚はしたく無いの。どうしたらいいかなぁ。股間のアレとか切ったりしたら良い?」
過激だな! 壱は引くが、茂造とサユリはボニーの背を撫でながら諭す様に言う。
「落ち着くカピ。そんな事したところで逆戻りカピよ。少なくとも我はそれを望まないカピ。お前は良い女カピ」
「そうじゃぞボニー。あんなろくでなしの為に、お前さんが手を汚す必要は無いんじゃ。そうじゃな、とりあえずはシェムスを殴ってひとまずは納めてくれんかの? 儂らが立ち会うからの」
物騒な事言ってる! 殴るとか! 他にも引っ掛かるワードはあったが、後で茂造かサユリに聞いてみる事にして。
「おい、ちょっと待てボニー。お前、また俺が浮気してると思ってんのか?」
ここで疑惑の本人登場である。他の客が見守る中、赤い顔をしたシェムスが躍り出る。ボニーは鼻を鳴らす。
「してるじゃ無い。私にばれてないとでも思ってる? 見てたら判るんだよ! マゼラでしょ、そしてテナムとも!」
「し、してねぇよ! 俺は浮気なんてしてねぇよ! な! 俺何もしてねぇよな!」
シェムスは必死で弁解する。しかしこれまで仲良く一緒に飲んでいた村人たちもシェムスを庇おうとしない。眼を合わそうともしなかった。
「裏切り者ぉ!」
シェムスの涙の叫びが店内に響き渡る。
「あ、でもよ、ボニー」
今までシェムスと飲んでいた男のうちひとりが立ち上がる。
「それでマゼラとテナムを責めるのは無しな。あいつら嫌がってたから。お前に相談するかどうか悩んでた。下手にお前を傷付けたく無いからって」
「あああ、マゼラもテナムもいい子! そんな子たちにあんたはちょっかい掛けてたの!? 馬鹿! この大馬鹿ー!! 男前でも無い癖して!! あんたの取り柄は働き者って事だけだよ!!」
ボニーが怒号を上げ、シェムスを殴り始める。飲んでいたからか腹は避けているが、腕を捻られ、足を蹴られる。壱は止めた方が良いのかと手を出し掛けるが、茂造が抑える。
「良いんじゃ。いつもの事じゃからの。シェムスは気が悪い奴じゃ無いんじゃが、如何せん女好きでの。しょっちゅうトラブルを起こしとる。ボニーも普段は我慢しとるんじゃが、限界を超えるとここに駆け込んで来るんじゃ。で、シェムスを殴って気を済ませるんじゃ。今日はここにいたが、いつもはサントが力尽くで連れて来てのう。で、儂らが立ち会うんじゃ。この村の決まりじゃ」
確かにサントの体格なら可能なのだろうが……また変な決まりを作ったものである。みんながみんな暴力に訴えたりはしないだろうが、ともあれ壱は誰かの恨みを買わない様、大人しくしておこうと心に決めた。
「ふぅん、ここって相談所みたいな、駆け込み寺みたいな? そんな役割も担ってんだ」
「そうじゃの。先代の時は既にそうじゃった。営業時間内で客が少ない時間を見計らって、こうして来るんじゃ」
「痛てっ痛てっ」
シェムスが殴られながら声を上げるが、見ているとそんなに強い力では無い様である。女性の細腕と言う事もあるのだろうが、やはりボニーが手加減をしている様にも見える。
やはり惚れて一緒になったのだろうから、本気で怪我をさせたいとか思っている訳では無いのだろう。
「なぁじいちゃん、あのボニーさんて、甘いもの好きかな」
「うむ。確かそうじゃったと思うぞ。昼のメニューのホットケーキを何度も頼んでおるからの」
「そっか、じゃあ……」
壱は夫婦喧嘩を尻目に厨房に行くと、冷蔵庫を開けた。
23
あなたにおすすめの小説
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~
よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】
多くの応援、本当にありがとうございます!
職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。
持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。
偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。
「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。
草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。
頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男――
年齢なんて関係ない。
五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
異世界へ誤召喚されちゃいました 女神の加護でほのぼのスローライフ送ります
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
うちの孫知りませんか?! 召喚された孫を追いかけ異世界転移。ばぁばとじぃじと探偵さんのスローライフ。
かの
ファンタジー
孫の雷人(14歳)からテレパシーを受け取った光江(ばぁば64歳)。誘拐されたと思っていた雷人は異世界に召喚されていた。康夫(じぃじ66歳)と柏木(探偵534歳)⁈ をお供に従え、異世界へ転移。料理自慢のばぁばのスキルは胃袋を掴む事だけ。そしてじぃじのスキルは有り余る財力だけ。そんなばぁばとじぃじが、異世界で繰り広げるほのぼのスローライフ。
ばぁばとじぃじは無事異世界で孫の雷人に会えるのか⁈
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる