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#18 フレンチトーストブレイク
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「あー! すっきりした!」
ボニーは言葉の通り清々しい表情で言い、右手を大きく天に突き上げた。壱の頭の中でゴングの音が鳴り響く。勝利、まさにそれが相応しい佇まいだった。そしてまた大きな溜め息をひとつ。
「メリアン、お水ちょうだい」
「はいはーい」
メリアンがカウンタに小走りし、水を入れた銅製のカップを持って来ると、ボニーに手渡す。
ボニーはそれを一気に飲み干すと、「ぷはー!」と息を吐いた。
「さてと、シェムスを起こして帰らなきゃ。マゼラとテナムにも謝らせなきゃ。て、あれ、何か甘い良い香りがする」
ボニーが鼻をひくつかせたところで、壱が声を掛ける。
「ボニーさん、よければこれ、食べませんか?」
わざと少し砕けた言い方をしてみる。メリアンたちホール係の接客の様子を聞いていたので、この方が良いと思ったのだ。
「なぁに? それ。あなた誰?」
「あ、俺はじいちゃ、店長の孫で壱と言います」
「ああ、あなたがシェムスが言っていた。よろしくね」
ボニーは笑顔を寄越してくれた。綺麗だった。カリルが良い女だと言ったのが解った気がする。
「よろしくお願いします。ボニーさんが甘いものが好きそうだって聞いたんで、作ってみたんです」
そう言って、手にしていたフレンチトーストにナイフとフォークを添えてテーブルに置く。ボニーはその香りにつられる様に鼻を近付けた。
「あ、これこれこの香り。すっごい甘そうで香ばしくて良い香り! え、何? 私が頂いちゃって良いの?」
ボニーが眸を輝かせる。壱はその反応にほっとする。
「もちろんです」
「じゃあ、早速頂くわね!」
ボニーは嬉しそうに言うと椅子に掛け、ナイフとフォークを手にした。食堂の面々、そして客が見守る中、フレンチトーストにナイフを入れた。
しっとりふんわりとしたそれは、ナイフで簡単に切れる。ボニーは1口大にカットすると、皿の上で艶々と輝いている蜂蜜をたっぷり付けて、躊躇いも無く口に放り込んだ。
「……やだこれ何、おいしーい!」
濃厚なミルクと甘い砂糖に卵のコク、そしてバターの香ばしさが合わさり、そこに蜂蜜が加えられる事で甘みとコクがプラスされ、口の中に広がる。それがフレンチトーストの真骨頂だと壱は思っている。
「喜んでもらえて良かったです」
壱は安堵する。柚絵もいつも美味しい美味しいと食べてくれてはいたが、家族以外に食べてもらうのは初めてだったので、少しは不安もあったのだ。
「でもイチくんどうして? いつも話を聞いてもらってシェムスを殴るだけですっきりするのに、こんなサービスなんて」
そう言いつつボニーは手を動かし続ける。
「いえね、ほら、甘いものって人を落ち着かせるでしょう? これならここにある材料で作れるから、食べてもらって、少しでも穏やかな気持ちになってもらえたらって」
壱が少し照れた様に言うと、ボニーは手を止めて潤んだ眼で壱を見つめた。
「い、イチくん! 何て優しい良い子!」
ボニーは感極まった様子で言うと、壱に力一杯抱き付いて来た。あ、これ今日で2回め。そう思いながら壱はよろける。
「ああっ ごめんなさいね! 嬉しくて!」
しかしボニーは壱や周りが何かを言う前に離してくれた。
「えーいいなぁ。イチ、ボクも食べてみたーい」
「そんなに美味しいのなら、ワタシも食べてみたいわぁ」
メリアンとマーガレットがそう言うと、客たちも俺も俺も、と声を上げる。
「じいちゃんが良いって言ってくれたらもっと作るよ。良い? じいちゃん」
茂造は「うむ」と少し考えると、言った。
「そうじゃの。ボニー以外の客からはきっちりお代を頂いて、従業員の分は今夜の賄いに加えるかのう」
すると食堂内に歓声が上がった。いつの間にかカリルとサントも混じって声を上げていた。
「あ、あの、イチ、さん」
マユリが近付いて来る。
「こ、この、フレンチ、トースト、でしたっけ? 私も一緒に、作って、い、いいですか?」
顔を輝かせて壱に詰め寄る様に言う。壱は少し仰け反った。
「ええと、じいちゃんが良いって言うなら。調理師免許とか、あれ? 俺今日普通に厨房手伝ってた」
「壱がやってた範囲なら問題は無いから大丈夫じゃ。どの道この世界では1年の実地経験がいるでの。この世界の縛りは緩いんじゃ。じゃから壱がフレンチトーストやらを作って客に出すのも、マユリが手伝うのも、何の問題も無いんじゃ」
「何か線引きが良く判らないけど、まぁ大丈夫なら良いや。マユリさん、じゃあ一緒に作ろうか」
「は、はい!」
マユリは嬉しそうに笑みを浮かべると、壱の腕を取って厨房に向かった。
そうか。マユリは吃音癖はあるみたいだが、決して引っ込み思案だとかそういう訳では無いのか。壱の懸念は余計だった様だ。
壱はマユリに引っ張られるままに厨房に入った。
ボニーは言葉の通り清々しい表情で言い、右手を大きく天に突き上げた。壱の頭の中でゴングの音が鳴り響く。勝利、まさにそれが相応しい佇まいだった。そしてまた大きな溜め息をひとつ。
「メリアン、お水ちょうだい」
「はいはーい」
メリアンがカウンタに小走りし、水を入れた銅製のカップを持って来ると、ボニーに手渡す。
ボニーはそれを一気に飲み干すと、「ぷはー!」と息を吐いた。
「さてと、シェムスを起こして帰らなきゃ。マゼラとテナムにも謝らせなきゃ。て、あれ、何か甘い良い香りがする」
ボニーが鼻をひくつかせたところで、壱が声を掛ける。
「ボニーさん、よければこれ、食べませんか?」
わざと少し砕けた言い方をしてみる。メリアンたちホール係の接客の様子を聞いていたので、この方が良いと思ったのだ。
「なぁに? それ。あなた誰?」
「あ、俺はじいちゃ、店長の孫で壱と言います」
「ああ、あなたがシェムスが言っていた。よろしくね」
ボニーは笑顔を寄越してくれた。綺麗だった。カリルが良い女だと言ったのが解った気がする。
「よろしくお願いします。ボニーさんが甘いものが好きそうだって聞いたんで、作ってみたんです」
そう言って、手にしていたフレンチトーストにナイフとフォークを添えてテーブルに置く。ボニーはその香りにつられる様に鼻を近付けた。
「あ、これこれこの香り。すっごい甘そうで香ばしくて良い香り! え、何? 私が頂いちゃって良いの?」
ボニーが眸を輝かせる。壱はその反応にほっとする。
「もちろんです」
「じゃあ、早速頂くわね!」
ボニーは嬉しそうに言うと椅子に掛け、ナイフとフォークを手にした。食堂の面々、そして客が見守る中、フレンチトーストにナイフを入れた。
しっとりふんわりとしたそれは、ナイフで簡単に切れる。ボニーは1口大にカットすると、皿の上で艶々と輝いている蜂蜜をたっぷり付けて、躊躇いも無く口に放り込んだ。
「……やだこれ何、おいしーい!」
濃厚なミルクと甘い砂糖に卵のコク、そしてバターの香ばしさが合わさり、そこに蜂蜜が加えられる事で甘みとコクがプラスされ、口の中に広がる。それがフレンチトーストの真骨頂だと壱は思っている。
「喜んでもらえて良かったです」
壱は安堵する。柚絵もいつも美味しい美味しいと食べてくれてはいたが、家族以外に食べてもらうのは初めてだったので、少しは不安もあったのだ。
「でもイチくんどうして? いつも話を聞いてもらってシェムスを殴るだけですっきりするのに、こんなサービスなんて」
そう言いつつボニーは手を動かし続ける。
「いえね、ほら、甘いものって人を落ち着かせるでしょう? これならここにある材料で作れるから、食べてもらって、少しでも穏やかな気持ちになってもらえたらって」
壱が少し照れた様に言うと、ボニーは手を止めて潤んだ眼で壱を見つめた。
「い、イチくん! 何て優しい良い子!」
ボニーは感極まった様子で言うと、壱に力一杯抱き付いて来た。あ、これ今日で2回め。そう思いながら壱はよろける。
「ああっ ごめんなさいね! 嬉しくて!」
しかしボニーは壱や周りが何かを言う前に離してくれた。
「えーいいなぁ。イチ、ボクも食べてみたーい」
「そんなに美味しいのなら、ワタシも食べてみたいわぁ」
メリアンとマーガレットがそう言うと、客たちも俺も俺も、と声を上げる。
「じいちゃんが良いって言ってくれたらもっと作るよ。良い? じいちゃん」
茂造は「うむ」と少し考えると、言った。
「そうじゃの。ボニー以外の客からはきっちりお代を頂いて、従業員の分は今夜の賄いに加えるかのう」
すると食堂内に歓声が上がった。いつの間にかカリルとサントも混じって声を上げていた。
「あ、あの、イチ、さん」
マユリが近付いて来る。
「こ、この、フレンチ、トースト、でしたっけ? 私も一緒に、作って、い、いいですか?」
顔を輝かせて壱に詰め寄る様に言う。壱は少し仰け反った。
「ええと、じいちゃんが良いって言うなら。調理師免許とか、あれ? 俺今日普通に厨房手伝ってた」
「壱がやってた範囲なら問題は無いから大丈夫じゃ。どの道この世界では1年の実地経験がいるでの。この世界の縛りは緩いんじゃ。じゃから壱がフレンチトーストやらを作って客に出すのも、マユリが手伝うのも、何の問題も無いんじゃ」
「何か線引きが良く判らないけど、まぁ大丈夫なら良いや。マユリさん、じゃあ一緒に作ろうか」
「は、はい!」
マユリは嬉しそうに笑みを浮かべると、壱の腕を取って厨房に向かった。
そうか。マユリは吃音癖はあるみたいだが、決して引っ込み思案だとかそういう訳では無いのか。壱の懸念は余計だった様だ。
壱はマユリに引っ張られるままに厨房に入った。
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