23 / 190
#23 心と身体に優しい一品
しおりを挟む
着替えて階下に降り厨房を覗くと、最初に壱に気付いてくれたのは、コンロでフライパンを握っていた茂造だった。
「おお、壱。マユリに聞いたが、本当にもう大丈夫なのかえ?」
茂造の声にカリルも気付いて、「大丈夫かー?」と、労りの言葉を掛けてくれる。無口なサントが向けてくれる眼からも、心配してくれている感情が見える。
「うん。迷惑掛けてごめんな。もう大丈夫だから」
「迷惑とかは全然無いけどよー、気を付けなきゃよー」
「ありがとう」
厨房はやはりフル回転だった。昨日パスタを担当していた壱がいないので、ホールからパスタの注文が入ると、その時動ける人間が素早く動く。
そんな光景を見ると、少しでも手伝いたくなってしまう。
「じいちゃん、パスタ俺やるよ」
そう申し出ると、茂造は首を振った。
「病み上がりなんじゃから、明日までおとなしくしておれ。それより腹が減ったんじゃろ?」
「うん、まぁそうなんだけど」
「じゃあ何か作ってやるかの。消化の良いものが良いかの」
「いや、それは本当に俺がやるから。コンロひとつ借りて良い?」
「それは勿論じゃ。大丈夫かの?」
「大丈夫。ポトフのスープ少し貰って良い?」
「おお、構わんぞ」
「ありがとう」
壱は棚から中サイズの鉄製の鍋を取ると、ポトフの大鍋からレードルでスープを掬って入れる。
そこに昨日サユリに精米して貰った魚沼コシヒカリの無洗米を入れ、中火に掛けた。
スープが元々熱いので、すぐに沸く。くつくつと軽く沸いた状態を保ち、米が鍋底にくっついてしまわない様に、レードルでゆっくり混ぜながら火を通していく。
最初は乾いたもの同士が軽くぶつかった様な、カラカラとした鈍い音がしていた鍋の中が、次第に重みを増して行く。米がコンソメスープを吸って、膨らんで来た証拠だ。
様子を見て、数粒掬って食べて見る。うん、芯までしっかりと火が通っている。
そこで少し火を強める。ぐつぐつと沸いたところで、真ん中に卵を割り入れる。素早く蓋をして、火を止める。
数分待って蓋を開けたら、洋風雑炊の出来上がりだ。鍋の真ん中で卵が良い具合に半熟状態になっていた。
卵はボウルなどで解して回し入れるのも良いが、少しでも洗い物を減らしたいという庶民的な思いがあった。
トレイに鍋敷きを置き、鉄鍋を置いて、小鉢とスプーンを添える。
「じいちゃん、みんな、ありがとう。今日は有り難く、ゆっくりさせて貰うな」
「おお、それは何じゃ?」
「洋風雑炊ってとこかな。ベースはポトフのスープだから、いろんな野菜のエキス出てるから旨いと思うんだよね」
「ほうほう、そういうものもあるんじゃな。また儂にも教えてくれの」
「うん、簡単だよ。じゃ、いただきます。上に行って食べるよ」
居住スペースにもダイニングはあるのである。普段は朝食を摂る時ぐらいにしか使われていないらしい。
「うむ。治ったとは言え、振り返す事もあると聞いたぞ。今夜は食べて、またゆっくりと寝るが良い。明日からはまた忙しいからの」
「うん、ありがとう。お休み」
「うむ、お休み」
茂造と、カリルとサントにも見送られて、壱は2階に上がってダイニングに向かう。テーブルにトレイを置き、早速食べ始める。
半熟の卵を黄身から崩して、全体に混ぜて行く。そうすると余熱で、更に卵に良い加減に火が通って行く。卵がふわりとして来たところで小鉢によそって、まずは一口。
うん、美味しい。米がポトフのスープをしっかり吸って、ほっこりと味わい深く、そして優しい。
それは数時間掛けてブイヨンを取って、そこからまた時間を掛けてコンソメにしているのだから当然だ。そこから更にポトフの具材からも出汁が出ているのである。
そして、とろりと柔らかい卵とふっくらとした米が胃に優しい。身体が温まって行く。何と癒される事か。
そして温度の下がりにくい鉄鍋だからか、底にはほんのりとおコゲも出来ていて、香ばしさも味わう事が出来た。
先ほどまで寝ていたと言うのに、また良く眠れそうだ。
壱は洋風雑炊を綺麗に平らげると、鉄鍋や小鉢などを手早く洗い、部屋に戻る。既に完調ではあると思うが、念には念を入れて、朝まで眠れば、もう完璧な状態になると思う。
SNSの事は引っかかる。だがこれは自分ひとりで判断して良い事では無いのだと思う。明日茂造とサユリに相談してみよう。
壱は温まった身体のまま急いで新しいパジャマに着替え、またベッドに潜り込んだ。布団素晴らしい。布団ブラボー。そんな事を思いながら、眼を閉じた。心地よいままに、また壱は驚くべきスピードで、意識を手放して行った。
「おお、壱。マユリに聞いたが、本当にもう大丈夫なのかえ?」
茂造の声にカリルも気付いて、「大丈夫かー?」と、労りの言葉を掛けてくれる。無口なサントが向けてくれる眼からも、心配してくれている感情が見える。
「うん。迷惑掛けてごめんな。もう大丈夫だから」
「迷惑とかは全然無いけどよー、気を付けなきゃよー」
「ありがとう」
厨房はやはりフル回転だった。昨日パスタを担当していた壱がいないので、ホールからパスタの注文が入ると、その時動ける人間が素早く動く。
そんな光景を見ると、少しでも手伝いたくなってしまう。
「じいちゃん、パスタ俺やるよ」
そう申し出ると、茂造は首を振った。
「病み上がりなんじゃから、明日までおとなしくしておれ。それより腹が減ったんじゃろ?」
「うん、まぁそうなんだけど」
「じゃあ何か作ってやるかの。消化の良いものが良いかの」
「いや、それは本当に俺がやるから。コンロひとつ借りて良い?」
「それは勿論じゃ。大丈夫かの?」
「大丈夫。ポトフのスープ少し貰って良い?」
「おお、構わんぞ」
「ありがとう」
壱は棚から中サイズの鉄製の鍋を取ると、ポトフの大鍋からレードルでスープを掬って入れる。
そこに昨日サユリに精米して貰った魚沼コシヒカリの無洗米を入れ、中火に掛けた。
スープが元々熱いので、すぐに沸く。くつくつと軽く沸いた状態を保ち、米が鍋底にくっついてしまわない様に、レードルでゆっくり混ぜながら火を通していく。
最初は乾いたもの同士が軽くぶつかった様な、カラカラとした鈍い音がしていた鍋の中が、次第に重みを増して行く。米がコンソメスープを吸って、膨らんで来た証拠だ。
様子を見て、数粒掬って食べて見る。うん、芯までしっかりと火が通っている。
そこで少し火を強める。ぐつぐつと沸いたところで、真ん中に卵を割り入れる。素早く蓋をして、火を止める。
数分待って蓋を開けたら、洋風雑炊の出来上がりだ。鍋の真ん中で卵が良い具合に半熟状態になっていた。
卵はボウルなどで解して回し入れるのも良いが、少しでも洗い物を減らしたいという庶民的な思いがあった。
トレイに鍋敷きを置き、鉄鍋を置いて、小鉢とスプーンを添える。
「じいちゃん、みんな、ありがとう。今日は有り難く、ゆっくりさせて貰うな」
「おお、それは何じゃ?」
「洋風雑炊ってとこかな。ベースはポトフのスープだから、いろんな野菜のエキス出てるから旨いと思うんだよね」
「ほうほう、そういうものもあるんじゃな。また儂にも教えてくれの」
「うん、簡単だよ。じゃ、いただきます。上に行って食べるよ」
居住スペースにもダイニングはあるのである。普段は朝食を摂る時ぐらいにしか使われていないらしい。
「うむ。治ったとは言え、振り返す事もあると聞いたぞ。今夜は食べて、またゆっくりと寝るが良い。明日からはまた忙しいからの」
「うん、ありがとう。お休み」
「うむ、お休み」
茂造と、カリルとサントにも見送られて、壱は2階に上がってダイニングに向かう。テーブルにトレイを置き、早速食べ始める。
半熟の卵を黄身から崩して、全体に混ぜて行く。そうすると余熱で、更に卵に良い加減に火が通って行く。卵がふわりとして来たところで小鉢によそって、まずは一口。
うん、美味しい。米がポトフのスープをしっかり吸って、ほっこりと味わい深く、そして優しい。
それは数時間掛けてブイヨンを取って、そこからまた時間を掛けてコンソメにしているのだから当然だ。そこから更にポトフの具材からも出汁が出ているのである。
そして、とろりと柔らかい卵とふっくらとした米が胃に優しい。身体が温まって行く。何と癒される事か。
そして温度の下がりにくい鉄鍋だからか、底にはほんのりとおコゲも出来ていて、香ばしさも味わう事が出来た。
先ほどまで寝ていたと言うのに、また良く眠れそうだ。
壱は洋風雑炊を綺麗に平らげると、鉄鍋や小鉢などを手早く洗い、部屋に戻る。既に完調ではあると思うが、念には念を入れて、朝まで眠れば、もう完璧な状態になると思う。
SNSの事は引っかかる。だがこれは自分ひとりで判断して良い事では無いのだと思う。明日茂造とサユリに相談してみよう。
壱は温まった身体のまま急いで新しいパジャマに着替え、またベッドに潜り込んだ。布団素晴らしい。布団ブラボー。そんな事を思いながら、眼を閉じた。心地よいままに、また壱は驚くべきスピードで、意識を手放して行った。
22
あなたにおすすめの小説
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~
よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】
多くの応援、本当にありがとうございます!
職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。
持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。
偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。
「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。
草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。
頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男――
年齢なんて関係ない。
五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
異世界へ誤召喚されちゃいました 女神の加護でほのぼのスローライフ送ります
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
うちの孫知りませんか?! 召喚された孫を追いかけ異世界転移。ばぁばとじぃじと探偵さんのスローライフ。
かの
ファンタジー
孫の雷人(14歳)からテレパシーを受け取った光江(ばぁば64歳)。誘拐されたと思っていた雷人は異世界に召喚されていた。康夫(じぃじ66歳)と柏木(探偵534歳)⁈ をお供に従え、異世界へ転移。料理自慢のばぁばのスキルは胃袋を掴む事だけ。そしてじぃじのスキルは有り余る財力だけ。そんなばぁばとじぃじが、異世界で繰り広げるほのぼのスローライフ。
ばぁばとじぃじは無事異世界で孫の雷人に会えるのか⁈
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる