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#27 まだ名も無い頃のサユリと、ある男の出会い。その1
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このコンシャリド村の大半は前科者。
サユリから放たれたその一言は、壱にかなりの衝撃を与えた。
今まで会った村人は、みんな良い人たちばかりだった。浮気だのなんだのと問題を起こしたシェムスも、初対面は良いイメージだったし、ボニーにその一件が知られて制裁を受けていた時も、大人しくされるがままになっていた。
そのボニーもフレンチトーストに素直に喜んでくれて、笑顔も綺麗で、良い印象しか無い。
食堂のメンバーである面々も、嬉しそうに壱を歓迎してくれて、そして寝込んだ時には心配もしてくれた。食堂が忙しいのに濡れタオルを代えてもくれた。
昨日食堂に食材を納品に来た野菜農家や酪農家の人たちも気の良い人たちで、銭湯の番台に座る店長も朗らかな笑顔を寄越してくれた。
壱が昨日この村に来てから会った人々は、その全てが善人だとこの眼に映ったのに。
「ああ、誤解しないで欲しいカピ。この村にいるのは確かに大半が前科者カピが、その全員がその罪を償っているカピよ。やや迂闊なところはあるカピが、みんな悪い者では無いカピ」
それは壱にも解る。壱は昨日から今日に掛けて、村の人々の、特に食堂メンバーの優しさに触れて来た。それらは全て本物だった。そう思う。思いたい。
「そもそもこの村の成り立ちが、罪から出来ているのだカピ」
サユリは眼を伏せると、静かに語り始めた。
サユリは、野良カピバラとしてこの世に誕生した。
母親カピバラの乳を喰み、すくすく育った。
しかし並以上の魔法使いであったサユリは幼くして悟る。このままここにいては、このカピバラの里が荒らされる可能性があると。
街は魔法使いを国の担い手として、そして労働力として召し上げていた。それは人間がメインではあったが、獣の身であるサユリの場合、その穏やかな気性故に迎えられるか、もしくは獣として狩られるかは5分5分だった。
なら、幼いサユリが取る道はひとつだった。
里を離れる事。
他のカピバラに被害を及ぼさない様に。それがその時のサユリが出来る、唯一の親孝行だった。
これでもう里は安心だ。安堵し、そしてサユリは彷徨いながら、魔力を駆使し、まずは自らが生き延びる為に情報収取に勤しんだ。
しかし気付けば、ある街に迷い込んでしまっていた。
ああ、我とした事が何と迂闊な。早く出なければ。そう思いながら路地をうろうろしていたら、数人の子どもに見つかった。
サユリはもちろんすぐさまその場を離れようとする。しかし相手は子どもとは言え数人。あっという間に囲まれてしまった。
その子どもたちは、おそらく何も考えてはいなかった。ただ自分たちより小さな獣がいる。だから興味本位で寄って来ただけなのだ。
しかし子どもたちのやり方がまずかった。何故なら、まず腹を蹴られたのだから。
その子どもたちはただ、思うがままに振る舞っただけだった。だが今にして思う。まともに躾もされていない、ろくでも無いクソガキだったのだと。
方々から蹴られる痛みに、サユリは耐えるしか無かった。それこそ溢れ出る魔力を行使すれば、たった数人の子どもたちを弾き飛ばす、もしくは屠ってしまう事など容易だった。だがそうしてしまえば「上」に知られてしまう。
街は特に魔法使いの勢力圏内だ。壱がこの街に迷い込んでしまったのは、この街に加護を与えているこの街1番の筈の魔法使いが、サユリより格下だからなのに他ならないが、そんな魔法使いでも徒党を組んで来られては厄介だ。
さてどうしようか。魔法残滓覚悟で子どもたちの心臓を潰してしまおうか。限界に近づいたサユリがそう思ったその時、あちらこちらが痛む体がふわりと浮き、同時に少し遠いところで鈍い音がした。
サユリは、屈強な男の腕の中にいた。そして子どもたちのひとり、最初にサユリの腹を蹴ったリーダー格と思われる子どもが、壁に背を打ち付けて白目を剥いた。
「走るぞ。しっかり掴まってろ」
男は言うと、その場を駆け出した。
サユリから放たれたその一言は、壱にかなりの衝撃を与えた。
今まで会った村人は、みんな良い人たちばかりだった。浮気だのなんだのと問題を起こしたシェムスも、初対面は良いイメージだったし、ボニーにその一件が知られて制裁を受けていた時も、大人しくされるがままになっていた。
そのボニーもフレンチトーストに素直に喜んでくれて、笑顔も綺麗で、良い印象しか無い。
食堂のメンバーである面々も、嬉しそうに壱を歓迎してくれて、そして寝込んだ時には心配もしてくれた。食堂が忙しいのに濡れタオルを代えてもくれた。
昨日食堂に食材を納品に来た野菜農家や酪農家の人たちも気の良い人たちで、銭湯の番台に座る店長も朗らかな笑顔を寄越してくれた。
壱が昨日この村に来てから会った人々は、その全てが善人だとこの眼に映ったのに。
「ああ、誤解しないで欲しいカピ。この村にいるのは確かに大半が前科者カピが、その全員がその罪を償っているカピよ。やや迂闊なところはあるカピが、みんな悪い者では無いカピ」
それは壱にも解る。壱は昨日から今日に掛けて、村の人々の、特に食堂メンバーの優しさに触れて来た。それらは全て本物だった。そう思う。思いたい。
「そもそもこの村の成り立ちが、罪から出来ているのだカピ」
サユリは眼を伏せると、静かに語り始めた。
サユリは、野良カピバラとしてこの世に誕生した。
母親カピバラの乳を喰み、すくすく育った。
しかし並以上の魔法使いであったサユリは幼くして悟る。このままここにいては、このカピバラの里が荒らされる可能性があると。
街は魔法使いを国の担い手として、そして労働力として召し上げていた。それは人間がメインではあったが、獣の身であるサユリの場合、その穏やかな気性故に迎えられるか、もしくは獣として狩られるかは5分5分だった。
なら、幼いサユリが取る道はひとつだった。
里を離れる事。
他のカピバラに被害を及ぼさない様に。それがその時のサユリが出来る、唯一の親孝行だった。
これでもう里は安心だ。安堵し、そしてサユリは彷徨いながら、魔力を駆使し、まずは自らが生き延びる為に情報収取に勤しんだ。
しかし気付けば、ある街に迷い込んでしまっていた。
ああ、我とした事が何と迂闊な。早く出なければ。そう思いながら路地をうろうろしていたら、数人の子どもに見つかった。
サユリはもちろんすぐさまその場を離れようとする。しかし相手は子どもとは言え数人。あっという間に囲まれてしまった。
その子どもたちは、おそらく何も考えてはいなかった。ただ自分たちより小さな獣がいる。だから興味本位で寄って来ただけなのだ。
しかし子どもたちのやり方がまずかった。何故なら、まず腹を蹴られたのだから。
その子どもたちはただ、思うがままに振る舞っただけだった。だが今にして思う。まともに躾もされていない、ろくでも無いクソガキだったのだと。
方々から蹴られる痛みに、サユリは耐えるしか無かった。それこそ溢れ出る魔力を行使すれば、たった数人の子どもたちを弾き飛ばす、もしくは屠ってしまう事など容易だった。だがそうしてしまえば「上」に知られてしまう。
街は特に魔法使いの勢力圏内だ。壱がこの街に迷い込んでしまったのは、この街に加護を与えているこの街1番の筈の魔法使いが、サユリより格下だからなのに他ならないが、そんな魔法使いでも徒党を組んで来られては厄介だ。
さてどうしようか。魔法残滓覚悟で子どもたちの心臓を潰してしまおうか。限界に近づいたサユリがそう思ったその時、あちらこちらが痛む体がふわりと浮き、同時に少し遠いところで鈍い音がした。
サユリは、屈強な男の腕の中にいた。そして子どもたちのひとり、最初にサユリの腹を蹴ったリーダー格と思われる子どもが、壁に背を打ち付けて白目を剥いた。
「走るぞ。しっかり掴まってろ」
男は言うと、その場を駆け出した。
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