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#29 コンシャリド村の始まり。その1
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「へぇ、それがこの村の始まりなんだ」
話が長くなりそうだからと、壱は茂造の許しを得て、厨房から持ち込んだ白ワインを傾けた。グラスなどは無く、ダイニングの食器棚にあった銅製のカップなので、雰囲気もへったくれも無いが、今はそこは求めていない。
「いや、村として始まるには、もう少し続きがあるカピ」
「そうなんだ」
サユリも酒が飲めるとの事で、平たい皿に入れてやった白ワインをちびちびと舐めていた。
だがあまり強くは無いのか、茶色い毛に覆われた頬が心なしかほんのりと赤い気がする。可愛い。
「我たちは、男が材料を集めて、我の魔法で小さな小屋を建てて、まずは生活を始めたカピ。森で狩りをしたり木の実を採ったり、海で魚を釣ったりしたカピ。ひとりと1匹でささやかに暮らすなら、それで充分だったカピよ。けど、1年ぐらいが経った頃、珍客が訪れたカピ」
「ふぅん?」
壱はまた、サユリの語りに耳を傾けた。
男と1匹が暮らすエリアには、勿論サユリが加護を与えていた。
そのエリアは、外からは「無い」事にされる。目視出来たとしたら、それは魔法の素養がある人間。使えるかどうかは別の話だが。
サユリが与えていたものは、それほどに強い加護だった。
ある日、その感知に引っかかった者がいた。
「ユミヤ、誰かが近付いているカピ」
「ちょちょちょ、待って待ってサユリ。ユミヤって」
この食堂の名前では無いか。
「男の名前カピ。言っていなかったカピか?」
「初耳!」
「そうだったカピか。うむ、ユミヤ食堂の名はその男の名前から来ているのだカピ。この村の先々代で初代の、表向きの村長で、この食堂の店長カピ」
「はー」
壱は驚いた声を上げる。
「て事は、じいちゃんは3代目の表向き村長で、この食堂の表向き店長って事か」
「そうカピ。壱が4代目カピな」
「そっか」
壱が息を吐くと、サユリはまた話を続ける。
「で、ユミヤとその場所に見に行ってみたカピ」
サユリの加護のエリア、そのすぐ外に、ふたりの若い男女が倒れていた。怪我もしている様で、着ている服は所々破れていた。
「おい! 大丈夫か!?」
ユミヤが駆け出し、サユリも後を追った。
ユミヤはまず、女性を助け起こそうとする。だがぐったりしていて、意識が無い。サユリは男性の顔を右前足で軽く叩いてみた。
「ん……」
男が軽く呻く。ユミヤは女性を抱きかかえたまま、男に怒鳴る様に声を掛けた。
「おい! 大丈夫か!? しっかりしろ!」
だが男性は呻くだけで目覚めない。勿論女性も。このままではどうにもならないと、サユリは右前足を振る。するとふたりは意識を取り戻した。
「あ……ここは……」
「どこだ……?」
軽い治癒魔法を使ったのだ。
「おお、ふたりとも気づいたか! 良かった!」
「あ、あの、ここは一体……」
「ああ、説明に困るんだけど、街でも村でもねーぞ。お前ら、一体何があったんだ? 話せるか?」
「ええ、でも、身体が痛くて……」
女性が言いながら呻くと、ユミヤは女性を抱え上げた。
「まずは休ませてやらねーとな。先にこの女性を運ぶから、ちょっと待っててくれな!」
ユミヤは男性に言うと、男性がゆっくりと頷くのも待たずに駆け出した。
残されたサユリは、労し気に男性の頬を舐める。もう治癒魔法を掛けてやる気は無いが、サユリの唾液は多少なりとも男性に有益な筈だ。
「心配してくれるのか……優しいなぁ……」
男性が震える手を伸ばし、サユリを撫でようとした時、ユミヤが全力で走って戻って来た。
「待たせたな! あと少しの辛抱だからな!」
言いながら、男性を抱え上げる。男性が男性にされても嬉しく無い、寧ろ勘弁して欲しい格好であるが、抱える側に力があれば、それが楽なのだった。
男性はそんな事を気にする余裕も無く、されるがままに運ばれる。サユリも付いて走った。
小屋に入ると、普段ユミヤが使っているベッドに女性が横たわっていた。ユミヤはその隣に男性を寝かせる。
狭いベッドに大人ふたりでは窮屈だろうが、他にベッドが無いので仕方が無い。
「まずは寝て、体力を取り戻せ。それから話を聞かせてもらうからさ」
ユミヤが言うと、ふたりは微かに笑みを浮かべた。
「ありがとう……」
「ありがとう……ございます……」
ふたりは言うと、眸を閉じた。直ぐに規則正しい寝息がふたり分聞こえて来た。
「さーて、何があったのやら」
ユミヤは鼻息を吐きながら言うと、床にどっかりと腰を下ろした。
話が長くなりそうだからと、壱は茂造の許しを得て、厨房から持ち込んだ白ワインを傾けた。グラスなどは無く、ダイニングの食器棚にあった銅製のカップなので、雰囲気もへったくれも無いが、今はそこは求めていない。
「いや、村として始まるには、もう少し続きがあるカピ」
「そうなんだ」
サユリも酒が飲めるとの事で、平たい皿に入れてやった白ワインをちびちびと舐めていた。
だがあまり強くは無いのか、茶色い毛に覆われた頬が心なしかほんのりと赤い気がする。可愛い。
「我たちは、男が材料を集めて、我の魔法で小さな小屋を建てて、まずは生活を始めたカピ。森で狩りをしたり木の実を採ったり、海で魚を釣ったりしたカピ。ひとりと1匹でささやかに暮らすなら、それで充分だったカピよ。けど、1年ぐらいが経った頃、珍客が訪れたカピ」
「ふぅん?」
壱はまた、サユリの語りに耳を傾けた。
男と1匹が暮らすエリアには、勿論サユリが加護を与えていた。
そのエリアは、外からは「無い」事にされる。目視出来たとしたら、それは魔法の素養がある人間。使えるかどうかは別の話だが。
サユリが与えていたものは、それほどに強い加護だった。
ある日、その感知に引っかかった者がいた。
「ユミヤ、誰かが近付いているカピ」
「ちょちょちょ、待って待ってサユリ。ユミヤって」
この食堂の名前では無いか。
「男の名前カピ。言っていなかったカピか?」
「初耳!」
「そうだったカピか。うむ、ユミヤ食堂の名はその男の名前から来ているのだカピ。この村の先々代で初代の、表向きの村長で、この食堂の店長カピ」
「はー」
壱は驚いた声を上げる。
「て事は、じいちゃんは3代目の表向き村長で、この食堂の表向き店長って事か」
「そうカピ。壱が4代目カピな」
「そっか」
壱が息を吐くと、サユリはまた話を続ける。
「で、ユミヤとその場所に見に行ってみたカピ」
サユリの加護のエリア、そのすぐ外に、ふたりの若い男女が倒れていた。怪我もしている様で、着ている服は所々破れていた。
「おい! 大丈夫か!?」
ユミヤが駆け出し、サユリも後を追った。
ユミヤはまず、女性を助け起こそうとする。だがぐったりしていて、意識が無い。サユリは男性の顔を右前足で軽く叩いてみた。
「ん……」
男が軽く呻く。ユミヤは女性を抱きかかえたまま、男に怒鳴る様に声を掛けた。
「おい! 大丈夫か!? しっかりしろ!」
だが男性は呻くだけで目覚めない。勿論女性も。このままではどうにもならないと、サユリは右前足を振る。するとふたりは意識を取り戻した。
「あ……ここは……」
「どこだ……?」
軽い治癒魔法を使ったのだ。
「おお、ふたりとも気づいたか! 良かった!」
「あ、あの、ここは一体……」
「ああ、説明に困るんだけど、街でも村でもねーぞ。お前ら、一体何があったんだ? 話せるか?」
「ええ、でも、身体が痛くて……」
女性が言いながら呻くと、ユミヤは女性を抱え上げた。
「まずは休ませてやらねーとな。先にこの女性を運ぶから、ちょっと待っててくれな!」
ユミヤは男性に言うと、男性がゆっくりと頷くのも待たずに駆け出した。
残されたサユリは、労し気に男性の頬を舐める。もう治癒魔法を掛けてやる気は無いが、サユリの唾液は多少なりとも男性に有益な筈だ。
「心配してくれるのか……優しいなぁ……」
男性が震える手を伸ばし、サユリを撫でようとした時、ユミヤが全力で走って戻って来た。
「待たせたな! あと少しの辛抱だからな!」
言いながら、男性を抱え上げる。男性が男性にされても嬉しく無い、寧ろ勘弁して欲しい格好であるが、抱える側に力があれば、それが楽なのだった。
男性はそんな事を気にする余裕も無く、されるがままに運ばれる。サユリも付いて走った。
小屋に入ると、普段ユミヤが使っているベッドに女性が横たわっていた。ユミヤはその隣に男性を寝かせる。
狭いベッドに大人ふたりでは窮屈だろうが、他にベッドが無いので仕方が無い。
「まずは寝て、体力を取り戻せ。それから話を聞かせてもらうからさ」
ユミヤが言うと、ふたりは微かに笑みを浮かべた。
「ありがとう……」
「ありがとう……ございます……」
ふたりは言うと、眸を閉じた。直ぐに規則正しい寝息がふたり分聞こえて来た。
「さーて、何があったのやら」
ユミヤは鼻息を吐きながら言うと、床にどっかりと腰を下ろした。
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