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#35 麹は純白で栗の香り
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「さてどうするカピか。ここで作れるカピか?」
「作れるけど、麹菌が飛んで天井とか壁とかに付くからな。蔵ではそれが味噌作りの助けになるんだけど、ここは家だから、外でやる方が良いと思う」
「そうカピか。じゃあ材料と器具を持って裏庭に行くカピ。あ、大豆がいるのだったカピな」
「じゃあそれは儂が貰って来るとしようかの。どれぐらいあったら良いかのう」
「とりあえずは試作だし、あんまり貰うと次の枝豆育てるのに影響が出るかな」
「そうじゃの。収穫量があまり減ってしまうのも困るのう」
「じゃあこのボウルに」
壱は言いながら、棚からボウルを出す。小さめのボウルで、入るのは1リットルほどだろうか。
「一杯分貰えたら嬉しいかな」
「それぐらいなら大丈夫じゃと思うぞ。じゃあ行って来るでの」
茂造は言うと、ボウルを手に階段を降りて行った。この建物には、厨房にも裏庭に出るドアが付いているのだが、従業員専用のドアなどがある訳では無いので、裏と表、都合の良い方を使う。
茂造は表ドアを使ったと思われる。表は要は食堂のドアである。
「まず、米を蒸すんだよ。蒸し器ってこの世界にあるのかな」
壱は調理器具が置いてある棚を探る。ここでは朝食ぐらいしか作らないので、あまり種類は無かった。
「どうだろうカピな。少なくともこの食堂では蒸し物を出してはいないカピ」
「だよなぁ。だったら代わりに」
壱は蓋付きの深めの鍋に小振りのお椀状の器と、お椀よりふた回りほど大きめのザルを出す。
「まずは米を洗って、と」
大豆の量が多くは無いので、米もさほど量は要らない。麹はあまり保存が効かないので、使用する度に作るのが理想である。
壱はボウルで丁寧に米を洗い、水に浸ける。先日裏庭で育てた魚沼のコシヒカリである。贅沢な麹だ。
「これで、そうだな、年中春みたいなここの気候なら10時間ぐらい置くかな」
「では我の魔法の出番カピな」
サユリが右前足を上げる。
「終わったカピ」
「じゃあこれをザルにあげて、と」
何度か優しく振って、軽く水気を切る。あまり強く振ると米が割れてしまったりして、麹の出来上がりに影響が出るのだ。
ザルを、小振りのお椀に重ねる様に置く。
「しっかりと水気を切らなきゃいけないから、このまま2時間、1度混ぜて2時間」
「では、また我の魔法で」
サユリの右前足がくるり。壱が米を混ぜて、またサユリが右前足をさらり。
「はいカピよ」
「ありがとう。じゃあ、これを布に包んで蒸す、と」
鍋に水を張り、蓋をして火に掛ける。沸くまでの間に米を布に包み、ザルに入れる。
鍋の湯が沸いた。蓋を開けてお椀と米のボウルを重ねて入れ、素早く蓋をし、火加減を調整する。
「これで1時間蒸すんだ」
「では、また我の出番カピな」
サユリの右前足がふらり。
「出来たカピ」
鍋の蓋を上げると、派手に蒸気が上がる。熱いのを我慢して布を開き、米の様子を見る。数粒を指で潰すと芯も無く、容易に餅みたいになった。
「よっし」
壱は湯気が上がる蒸し米をバットに開ける。しゃもじ代わりの木べらで混ぜながら、水分と熱を飛ばし、平たくならす。
「さぁて。じゃあ、裏庭に行こう。ここから麹菌を使うから」
サユリと一緒に階段を降りる。厨房に入ると調理台にバットを置き、隅に積まれている予備の椅子を2脚取ると、厨房のドアから裏庭に出た。
椅子を裏庭に並べて置いてから、厨房にバットを取りに戻る。裏庭には物を置く様なものは無いので、椅子を台代わりにバットなどを置いた。
「ここから米の温度を保たなきゃいけないんだけど、サユリ、いけるかな」
壱が聞くと、サユリは鼻を鳴らした。
「当然カピ。我を誰だと思っているカピか」
「助かる。40度ほどにして欲しいんだ」
「任せるカピ」
サユリが右前足を動かす。
「これで40度ぴったりだカピ」
「ありがとう。じゃ、ここに麹菌を振り掛ける」
壱は麹菌を乾いたザルに入れると、米に満遍無く振って行く。途中で木べらで混ぜ、また麹菌を振り、また混ぜ、を繰り返す。
「うん、この状態で置いて米を発酵させる。35度ぐらいを保って、20時間ぐらい」
「温度も時間も我に任せるカピ」
サユリが右前足を振る。あっと言う間だ。米の表面に目視出来るスピードで白い菌糸が微かに湧き上がって来る。ちゃんと発酵が始まっている証拠だ。
「じゃあ、これを解して」
出来た塊などを解す様に、1粒1粒がバラバラになる様に両手で丁寧に揉む。
これを、数時間ごとに繰り返す。時間経過はサユリの時間魔法に頼り、手作業は壱が慣れた手付きで行っていった。
実家の相葉味噌の蔵では、経験の少ない壱はペラッペラの下っ端だった。跡継ぎだと言う事もあって歓迎はされつつ、しかし様々な事を覚えるのに必死だったのである。
現当主、壱の父が麹や味噌の作り方をみっちり教えてくれた。初めて麹菌を米や麦に振った時、初めて麹の手入れをした時、初めて大豆を煮て潰した時。
ふとその時の事を思い出す。たった数年前の事なのに懐かしい。
さて、麹からは栗の様な甘い香りがほのかに漂って来る。巧く行っていた。
「作れるけど、麹菌が飛んで天井とか壁とかに付くからな。蔵ではそれが味噌作りの助けになるんだけど、ここは家だから、外でやる方が良いと思う」
「そうカピか。じゃあ材料と器具を持って裏庭に行くカピ。あ、大豆がいるのだったカピな」
「じゃあそれは儂が貰って来るとしようかの。どれぐらいあったら良いかのう」
「とりあえずは試作だし、あんまり貰うと次の枝豆育てるのに影響が出るかな」
「そうじゃの。収穫量があまり減ってしまうのも困るのう」
「じゃあこのボウルに」
壱は言いながら、棚からボウルを出す。小さめのボウルで、入るのは1リットルほどだろうか。
「一杯分貰えたら嬉しいかな」
「それぐらいなら大丈夫じゃと思うぞ。じゃあ行って来るでの」
茂造は言うと、ボウルを手に階段を降りて行った。この建物には、厨房にも裏庭に出るドアが付いているのだが、従業員専用のドアなどがある訳では無いので、裏と表、都合の良い方を使う。
茂造は表ドアを使ったと思われる。表は要は食堂のドアである。
「まず、米を蒸すんだよ。蒸し器ってこの世界にあるのかな」
壱は調理器具が置いてある棚を探る。ここでは朝食ぐらいしか作らないので、あまり種類は無かった。
「どうだろうカピな。少なくともこの食堂では蒸し物を出してはいないカピ」
「だよなぁ。だったら代わりに」
壱は蓋付きの深めの鍋に小振りのお椀状の器と、お椀よりふた回りほど大きめのザルを出す。
「まずは米を洗って、と」
大豆の量が多くは無いので、米もさほど量は要らない。麹はあまり保存が効かないので、使用する度に作るのが理想である。
壱はボウルで丁寧に米を洗い、水に浸ける。先日裏庭で育てた魚沼のコシヒカリである。贅沢な麹だ。
「これで、そうだな、年中春みたいなここの気候なら10時間ぐらい置くかな」
「では我の魔法の出番カピな」
サユリが右前足を上げる。
「終わったカピ」
「じゃあこれをザルにあげて、と」
何度か優しく振って、軽く水気を切る。あまり強く振ると米が割れてしまったりして、麹の出来上がりに影響が出るのだ。
ザルを、小振りのお椀に重ねる様に置く。
「しっかりと水気を切らなきゃいけないから、このまま2時間、1度混ぜて2時間」
「では、また我の魔法で」
サユリの右前足がくるり。壱が米を混ぜて、またサユリが右前足をさらり。
「はいカピよ」
「ありがとう。じゃあ、これを布に包んで蒸す、と」
鍋に水を張り、蓋をして火に掛ける。沸くまでの間に米を布に包み、ザルに入れる。
鍋の湯が沸いた。蓋を開けてお椀と米のボウルを重ねて入れ、素早く蓋をし、火加減を調整する。
「これで1時間蒸すんだ」
「では、また我の出番カピな」
サユリの右前足がふらり。
「出来たカピ」
鍋の蓋を上げると、派手に蒸気が上がる。熱いのを我慢して布を開き、米の様子を見る。数粒を指で潰すと芯も無く、容易に餅みたいになった。
「よっし」
壱は湯気が上がる蒸し米をバットに開ける。しゃもじ代わりの木べらで混ぜながら、水分と熱を飛ばし、平たくならす。
「さぁて。じゃあ、裏庭に行こう。ここから麹菌を使うから」
サユリと一緒に階段を降りる。厨房に入ると調理台にバットを置き、隅に積まれている予備の椅子を2脚取ると、厨房のドアから裏庭に出た。
椅子を裏庭に並べて置いてから、厨房にバットを取りに戻る。裏庭には物を置く様なものは無いので、椅子を台代わりにバットなどを置いた。
「ここから米の温度を保たなきゃいけないんだけど、サユリ、いけるかな」
壱が聞くと、サユリは鼻を鳴らした。
「当然カピ。我を誰だと思っているカピか」
「助かる。40度ほどにして欲しいんだ」
「任せるカピ」
サユリが右前足を動かす。
「これで40度ぴったりだカピ」
「ありがとう。じゃ、ここに麹菌を振り掛ける」
壱は麹菌を乾いたザルに入れると、米に満遍無く振って行く。途中で木べらで混ぜ、また麹菌を振り、また混ぜ、を繰り返す。
「うん、この状態で置いて米を発酵させる。35度ぐらいを保って、20時間ぐらい」
「温度も時間も我に任せるカピ」
サユリが右前足を振る。あっと言う間だ。米の表面に目視出来るスピードで白い菌糸が微かに湧き上がって来る。ちゃんと発酵が始まっている証拠だ。
「じゃあ、これを解して」
出来た塊などを解す様に、1粒1粒がバラバラになる様に両手で丁寧に揉む。
これを、数時間ごとに繰り返す。時間経過はサユリの時間魔法に頼り、手作業は壱が慣れた手付きで行っていった。
実家の相葉味噌の蔵では、経験の少ない壱はペラッペラの下っ端だった。跡継ぎだと言う事もあって歓迎はされつつ、しかし様々な事を覚えるのに必死だったのである。
現当主、壱の父が麹や味噌の作り方をみっちり教えてくれた。初めて麹菌を米や麦に振った時、初めて麹の手入れをした時、初めて大豆を煮て潰した時。
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