58 / 190
#58 米農家募集のチラシ作り
しおりを挟む
「こんにちはー」
声を掛けると、紙を漉いていたトーマスが返事をしてくれた。
「あ、イチくんこんにちは。ちょっと待ってね」
トーマスはまた視線を手元に戻すと、紙漉きを続ける。それはすぐに終わり、紙料で濡れた手を洗い、タオルで拭きながらこちらに来てくれた。
「今日はどうしたの?」
「じいちゃん、えーと、食堂の店長がチラシを作るとかで、紙を貰って来いって言われたんですけど。13枚くらい」
「ああ、はいはい。ちょっと待ってね」
トーマスは別室に行くと、数分後に紙を持って戻って来た。
「今の工房とか農場とかの数的には、きっかりだと10枚なんだよね。だから、一応13枚渡しておくけど、チラシ作る時には数を確認してね。何せこの村では全部手書きになるから、1枚違うだけで変わるから」
「そうなんですね。ありがとうございます」
壱は紙を受け取ると頭を下げる。紙はさほど大きくは無い。元の世界でよくポストに入れられていたチラシ程のサイズだった。
「では頂いて行きますね。ありがとうございます」
「うん」
トーマスに見送られて紙工房を出た壱は、食堂には戻らず、村を回る。
「どこに行くカピ?」
「チラシの枚数を確認しておこうかと思って。慣れない付けペンで数枚全部手書きは大変だから」
「ああ、壱たちの世界で付けペンは無いのだカピな」
「あるけど、一般的じゃ無いから。俺はこっちに来て初めて使った」
鉛筆やシャープペンシル、ボールペンにマジックなど、壱が使い慣れていた文房具はこの世界には無い。
これまでもレシピをメモしたりなど、文字を書く機会はあった。その度に慣れない付けペンに苦心していたのである。
少しは慣れつつあるとは言え、10枚ほどを書くとなると大変である。
壱は村を回りながら工房などの数を数え、トーマスが教えてくれた10軒だと確認すると、食堂に戻った。中には入らず裏庭に回る。
カリルにサント、そして昨日採掘に行ってくれた男衆が、また気合の声を上げながらシャベルを動かしていた。煉瓦の素材を混ぜ合わせているのである。
茂造がそれを椅子に掛けて見ていたので、声を掛ける。
「じいちゃん、紙貰って来たよ」
「おお、ありがとうの。では早速書くかの。儂も一緒にやるからの」
「あ、そうなの? 俺ひとりで書くもんかと思ってた」
「いやいや、儂も力仕事以外で働くぞい。文面はサユリさんに任せてあるがの」
言いながら茂造が立ち上がる。
「ではの、今日は素材を混ぜて寝かせるところまでじゃ。終わったらまた風呂を使ってくれの。儂持ちじゃからの。終わったら声を掛けてくれの。2階におるからの。よろしくの」
「はいっ!」
カリルたち男衆は元気に返事をして、また力強くシャベルを動かす。
壱はサユリと茂造と2階に上がり、ダイニングテーブルに着くと、壱は抱えていた紙を広げる。
「トーマスさんに聞いたらこれ渡してくれた。これで大丈夫だよな?」
「うんうん、大丈夫じゃ。では、書いて行くかの。サユリさんよろしくの」
茂造が言いながら、ペンとインクを出して来る。
「え、下書きとかいらないの? シャーペンとかと違って一発勝負なのに」
「大丈夫じゃ。ではサユリさん、あらためてよろしくの」
「うむ。難しい事は何も無いカピよ。えー、まずは」
壱は慌ててペンを持つ。が、そこで気付く。
「サユリ、じいちゃん、俺この世界の字書けない」
「あ」
「あ」
壱の言葉に、サユリと茂造が揃って声を漏らした。
「そうか、そうじゃったな。うむ、では儂が1枚書くから、それを写しておくれ」
そうして茂造が書き上げたチラシは、成る程シンプルなものだった。
内容は、新たな食物の畑を作るので、その人員を募集すると言う事、そして必要な人数と、幾つかの条件だった。
壱はそれを見ながら、慎重に写して行く。それなりに巧く書けていると思う。
そうして10枚のチラシが出来上がった。
「紙貰いに行った後に村回ったんだ。10枚で行ける筈だよ」
壱の進言もあって、10枚になった。万が一足りなければ、急いで作らねばならないが、大丈夫だろう。
「では、各所に貼ってもらうとするかの。壱は時計周り、儂は反時計回りに行くぞい。半分ずつの」
それぞれ5枚ずつ持って、壱たちは食堂を出た。そこで茂造と別れる。サユリは壱に付いて来た。
どの工房や農場、牧場も、チラシを暖かく迎え入れてくれた。また新しく美味しいものが食べられるのならと。
配り終えて食堂に戻り、裏庭を覗くと、そちらの作業も終わっていた。
「おーイチ。こっちも終わったぜ。この煉瓦の材料、1日休ませるんだ」
昨日採掘した時より少し色が淡くなった土が、こんもりと盛られていた。
「お疲れ様、ありがとう。へぇ、これが煉瓦になるんだ」
これまで見る機会の無かったものに興味深げな視線を向けた。
その時に茂造が戻って来る。
「ほいほい、終わったぞい。面接は明後日じゃ。さぁて、誰が来るかのう」
茂造が楽しげにほっほっほっと笑った。
声を掛けると、紙を漉いていたトーマスが返事をしてくれた。
「あ、イチくんこんにちは。ちょっと待ってね」
トーマスはまた視線を手元に戻すと、紙漉きを続ける。それはすぐに終わり、紙料で濡れた手を洗い、タオルで拭きながらこちらに来てくれた。
「今日はどうしたの?」
「じいちゃん、えーと、食堂の店長がチラシを作るとかで、紙を貰って来いって言われたんですけど。13枚くらい」
「ああ、はいはい。ちょっと待ってね」
トーマスは別室に行くと、数分後に紙を持って戻って来た。
「今の工房とか農場とかの数的には、きっかりだと10枚なんだよね。だから、一応13枚渡しておくけど、チラシ作る時には数を確認してね。何せこの村では全部手書きになるから、1枚違うだけで変わるから」
「そうなんですね。ありがとうございます」
壱は紙を受け取ると頭を下げる。紙はさほど大きくは無い。元の世界でよくポストに入れられていたチラシ程のサイズだった。
「では頂いて行きますね。ありがとうございます」
「うん」
トーマスに見送られて紙工房を出た壱は、食堂には戻らず、村を回る。
「どこに行くカピ?」
「チラシの枚数を確認しておこうかと思って。慣れない付けペンで数枚全部手書きは大変だから」
「ああ、壱たちの世界で付けペンは無いのだカピな」
「あるけど、一般的じゃ無いから。俺はこっちに来て初めて使った」
鉛筆やシャープペンシル、ボールペンにマジックなど、壱が使い慣れていた文房具はこの世界には無い。
これまでもレシピをメモしたりなど、文字を書く機会はあった。その度に慣れない付けペンに苦心していたのである。
少しは慣れつつあるとは言え、10枚ほどを書くとなると大変である。
壱は村を回りながら工房などの数を数え、トーマスが教えてくれた10軒だと確認すると、食堂に戻った。中には入らず裏庭に回る。
カリルにサント、そして昨日採掘に行ってくれた男衆が、また気合の声を上げながらシャベルを動かしていた。煉瓦の素材を混ぜ合わせているのである。
茂造がそれを椅子に掛けて見ていたので、声を掛ける。
「じいちゃん、紙貰って来たよ」
「おお、ありがとうの。では早速書くかの。儂も一緒にやるからの」
「あ、そうなの? 俺ひとりで書くもんかと思ってた」
「いやいや、儂も力仕事以外で働くぞい。文面はサユリさんに任せてあるがの」
言いながら茂造が立ち上がる。
「ではの、今日は素材を混ぜて寝かせるところまでじゃ。終わったらまた風呂を使ってくれの。儂持ちじゃからの。終わったら声を掛けてくれの。2階におるからの。よろしくの」
「はいっ!」
カリルたち男衆は元気に返事をして、また力強くシャベルを動かす。
壱はサユリと茂造と2階に上がり、ダイニングテーブルに着くと、壱は抱えていた紙を広げる。
「トーマスさんに聞いたらこれ渡してくれた。これで大丈夫だよな?」
「うんうん、大丈夫じゃ。では、書いて行くかの。サユリさんよろしくの」
茂造が言いながら、ペンとインクを出して来る。
「え、下書きとかいらないの? シャーペンとかと違って一発勝負なのに」
「大丈夫じゃ。ではサユリさん、あらためてよろしくの」
「うむ。難しい事は何も無いカピよ。えー、まずは」
壱は慌ててペンを持つ。が、そこで気付く。
「サユリ、じいちゃん、俺この世界の字書けない」
「あ」
「あ」
壱の言葉に、サユリと茂造が揃って声を漏らした。
「そうか、そうじゃったな。うむ、では儂が1枚書くから、それを写しておくれ」
そうして茂造が書き上げたチラシは、成る程シンプルなものだった。
内容は、新たな食物の畑を作るので、その人員を募集すると言う事、そして必要な人数と、幾つかの条件だった。
壱はそれを見ながら、慎重に写して行く。それなりに巧く書けていると思う。
そうして10枚のチラシが出来上がった。
「紙貰いに行った後に村回ったんだ。10枚で行ける筈だよ」
壱の進言もあって、10枚になった。万が一足りなければ、急いで作らねばならないが、大丈夫だろう。
「では、各所に貼ってもらうとするかの。壱は時計周り、儂は反時計回りに行くぞい。半分ずつの」
それぞれ5枚ずつ持って、壱たちは食堂を出た。そこで茂造と別れる。サユリは壱に付いて来た。
どの工房や農場、牧場も、チラシを暖かく迎え入れてくれた。また新しく美味しいものが食べられるのならと。
配り終えて食堂に戻り、裏庭を覗くと、そちらの作業も終わっていた。
「おーイチ。こっちも終わったぜ。この煉瓦の材料、1日休ませるんだ」
昨日採掘した時より少し色が淡くなった土が、こんもりと盛られていた。
「お疲れ様、ありがとう。へぇ、これが煉瓦になるんだ」
これまで見る機会の無かったものに興味深げな視線を向けた。
その時に茂造が戻って来る。
「ほいほい、終わったぞい。面接は明後日じゃ。さぁて、誰が来るかのう」
茂造が楽しげにほっほっほっと笑った。
11
あなたにおすすめの小説
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~
よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】
多くの応援、本当にありがとうございます!
職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。
持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。
偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。
「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。
草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。
頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男――
年齢なんて関係ない。
五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
異世界へ誤召喚されちゃいました 女神の加護でほのぼのスローライフ送ります
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
うちの孫知りませんか?! 召喚された孫を追いかけ異世界転移。ばぁばとじぃじと探偵さんのスローライフ。
かの
ファンタジー
孫の雷人(14歳)からテレパシーを受け取った光江(ばぁば64歳)。誘拐されたと思っていた雷人は異世界に召喚されていた。康夫(じぃじ66歳)と柏木(探偵534歳)⁈ をお供に従え、異世界へ転移。料理自慢のばぁばのスキルは胃袋を掴む事だけ。そしてじぃじのスキルは有り余る財力だけ。そんなばぁばとじぃじが、異世界で繰り広げるほのぼのスローライフ。
ばぁばとじぃじは無事異世界で孫の雷人に会えるのか⁈
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる