異世界もふもふ食堂〜僕と爺ちゃんと魔法使い仔カピバラの味噌スローライフ〜

山いい奈

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#58 米農家募集のチラシ作り

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「こんにちはー」

 声を掛けると、紙をいていたトーマスが返事をしてくれた。

「あ、イチくんこんにちは。ちょっと待ってね」

 トーマスはまた視線を手元に戻すと、紙漉かみすきを続ける。それはすぐに終わり、紙料で濡れた手を洗い、タオルで拭きながらこちらに来てくれた。

「今日はどうしたの?」

「じいちゃん、えーと、食堂の店長がチラシを作るとかで、紙を貰って来いって言われたんですけど。13枚くらい」

「ああ、はいはい。ちょっと待ってね」

 トーマスは別室に行くと、数分後に紙を持って戻って来た。

「今の工房とか農場とかの数的には、きっかりだと10枚なんだよね。だから、一応13枚渡しておくけど、チラシ作る時には数を確認してね。何せこの村では全部手書きになるから、1枚違うだけで変わるから」

「そうなんですね。ありがとうございます」

 壱は紙を受け取ると頭を下げる。紙はさほど大きくは無い。元の世界でよくポストに入れられていたチラシ程のサイズだった。

「では頂いて行きますね。ありがとうございます」

「うん」

 トーマスに見送られて紙工房を出た壱は、食堂には戻らず、村を回る。

「どこに行くカピ?」

「チラシの枚数を確認しておこうかと思って。慣れない付けペンで数枚全部手書きは大変だから」

「ああ、壱たちの世界で付けペンは無いのだカピな」

「あるけど、一般的じゃ無いから。俺はこっちに来て初めて使った」

 鉛筆やシャープペンシル、ボールペンにマジックなど、壱が使い慣れていた文房具はこの世界には無い。

 これまでもレシピをメモしたりなど、文字を書く機会はあった。そのたびに慣れない付けペンに苦心していたのである。

 少しは慣れつつあるとは言え、10枚ほどを書くとなると大変である。

 壱は村を回りながら工房などの数を数え、トーマスが教えてくれた10軒だと確認すると、食堂に戻った。中には入らず裏庭に回る。

 カリルにサント、そして昨日採掘に行ってくれた男衆が、また気合の声を上げながらシャベルを動かしていた。煉瓦の素材を混ぜ合わせているのである。

 茂造がそれを椅子に掛けて見ていたので、声を掛ける。

「じいちゃん、紙貰って来たよ」

「おお、ありがとうの。では早速書くかの。儂も一緒にやるからの」

「あ、そうなの? 俺ひとりで書くもんかと思ってた」

「いやいや、儂も力仕事以外で働くぞい。文面はサユリさんに任せてあるがの」

 言いながら茂造が立ち上がる。

「ではの、今日は素材を混ぜて寝かせるところまでじゃ。終わったらまた風呂を使ってくれの。儂持ちじゃからの。終わったら声を掛けてくれの。2階におるからの。よろしくの」

「はいっ!」

 カリルたち男衆は元気に返事をして、また力強くシャベルを動かす。

 壱はサユリと茂造と2階に上がり、ダイニングテーブルに着くと、壱は抱えていた紙を広げる。

「トーマスさんに聞いたらこれ渡してくれた。これで大丈夫だよな?」

「うんうん、大丈夫じゃ。では、書いて行くかの。サユリさんよろしくの」

 茂造が言いながら、ペンとインクを出して来る。

「え、下書きとかいらないの? シャーペンとかと違って一発勝負なのに」

「大丈夫じゃ。ではサユリさん、あらためてよろしくの」

「うむ。難しい事は何も無いカピよ。えー、まずは」

 壱は慌ててペンを持つ。が、そこで気付く。

「サユリ、じいちゃん、俺この世界の字書けない」

「あ」

「あ」

 壱の言葉に、サユリと茂造が揃って声をらした。

「そうか、そうじゃったな。うむ、では儂が1枚書くから、それを写しておくれ」

 そうして茂造が書き上げたチラシは、成る程シンプルなものだった。

 内容は、新たな食物の畑を作るので、その人員を募集すると言う事、そして必要な人数と、幾つかの条件だった。

 壱はそれを見ながら、慎重に写して行く。それなりに巧く書けていると思う。

 そうして10枚のチラシが出来上がった。

「紙貰いに行った後に村回ったんだ。10枚で行ける筈だよ」

 壱の進言もあって、10枚になった。万が一足りなければ、急いで作らねばならないが、大丈夫だろう。

「では、各所に貼ってもらうとするかの。壱は時計周り、儂は反時計回りに行くぞい。半分ずつの」

 それぞれ5枚ずつ持って、壱たちは食堂を出た。そこで茂造と別れる。サユリは壱に付いて来た。

 どの工房や農場、牧場も、チラシを暖かく迎え入れてくれた。また新しく美味しいものが食べられるのならと。

 配り終えて食堂に戻り、裏庭を覗くと、そちらの作業も終わっていた。

「おーイチ。こっちも終わったぜ。この煉瓦の材料、1日休ませるんだ」

 昨日採掘した時より少し色が淡くなった土が、こんもりと盛られていた。

「お疲れ様、ありがとう。へぇ、これが煉瓦になるんだ」

 これまで見る機会の無かったものに興味深げな視線を向けた。

 その時に茂造が戻って来る。

「ほいほい、終わったぞい。面接は明後日じゃ。さぁて、誰が来るかのう」

 茂造が楽しげにほっほっほっと笑った。
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