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#67 ミルの過去と壱のこれから
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泣き続けるミルをカルが抱き抱える様にしながら食堂から出て行った後、サユリがぽつりと言った。
「……壱、茂造の対応、まぁ我も同意見だカピが、冷たいと思うカピか?」
「いや。この村の性質を知ってるし、サユリがちゃんと考えて今のシステムにしてるって解ってるから。村の人たちもそれは知ってるんだよな?」
「勿論カピ。この村の前科者に魔法の素養がある事、その衝動を抑える加護を村に掛けている事、全員に仕事を課している理由、全部言ってあるカピ。それを納得した者しか受け入れていないカピよ。だから、やはりミルの希望は受け入れられないカピ」
「可哀想じゃとは思うがの。例外を作る訳にはいかんのじゃ」
茂造が溜め息を吐きながら言った。
「茂造、済まないカピ。また嫌な役をさせてしまったカピな」
サユリが項垂れてしまう。が、茂造はほっほっと笑った。
「大丈夫じゃサユリさん。これも儂の役目じゃからの。壱よ、あのミルはの、前住んでいた街で傷害事件を起こしたんじゃ」
「え、そんな物騒な感じには見えなかったけど」
「男にナイフで斬り掛かったカピよ。あの通りミルは所謂「重い女」カピ。これまで交際した男に尽くして尽くして甘やかして。男も最初はそれを心地良いと思うカピが、結局その重さと束縛に逃げ出すんだカピ。で、何人めかの逃げ出した元交際相手が、他の女性と仲睦まじく歩いているところを見て、衝動的に及んだカピ」
ああ、壱たちの世界にもそういうタイプはいた。一般人より遥かに少数の女性タレントにさえそういう人たちはいて、当の本人はそれを自覚していない。
周りに言われて漸く気付く。認めない場合もある。
「ごめん、ちょっと引いた」
「あれでもマシになった方カピよ。ミルが最初村に来たのは、事件の後に逃げ出して来た時カピ。その時は「相手が悪い」「私のどこが悪い」の一点張りだったカピが、ミル視点の話を聞いても、逃げられる原因は明らかにミルにあるのだカピ。それを茂造と我が辛抱強く諭したのだカピ。この村の性質を言った上で、街に戻って罪を償い、村のルールを守るのなら、この村に受け入れる事を約束して、送り出したのだカピ。今は自分の質を自覚している筈カピ。そして我の加護もあって、カルとは良い付き合いが続いていると思って安心していたカピが」
「今までは結婚も同居もしておらんかったから、マシに見えていただけじゃったのかのう」
「判らないカピ。どちらにしても、ふたりがどうするかを決めるまでは待つしか無いカピよ。この村を出ると言うのなら、祝って見送ってやるカピ。ただこの村を出た後、カルに逃げられる確率が上がるカピが」
「そうじゃの。賢明な判断をしてくれると良いんじゃが」
場が少し暗くなってしまう。ふと酒盛りが続いているテーブルを見ると、エールやワインを片手に村人が楽しそうに話したり笑ったり。
罪を犯して償った者、この村で生まれた者、それらが混じり合って。これがこのコンシャリド村の姿。
この先、サユリの魔力が貯まった時、壱が元の世界に戻ろうとするかどうかは判らない。だがそれまでにユミヤ食堂の店長を、そして表向きの村長を継ぐだろう可能性は高い。
茂造とていつまでも現役では無いのだ。今はこうして元気に動いているが、確かもう70歳は超えている筈だ。
今だって、少しでもゆっくりして欲しい。それはカリルもサントも思っている様で、有難い事に、少しでも茂造の食堂での負担を減らそうとしてくれている。
なので、壱の村長及び店長就任の日は然程遠く無い様に思われる。
サユリがいてくれるとは言え、表立つのは壱なのだ。あの村人たちを纏め、先程の様な事があれば、壱が嫌われ役も汚れ役も務めるのだ。
俺に出来るだろうか。ふと不安になり、だがなる様にしかならないと今は思う。
「さて、少ししんみりしてしまったの。厨房に戻るかの。もう料理はあまり出んじゃろうから、片付けなんかを始めるぞい。今夜は壱がビフテキを焼いてくれるんじゃろ? いつものビフテキも旨いが、元の世界で食べてた中が生のやつ、あれも旨かったのう」
「じゃあ、サユリたちにはミディアムで焼いて、じいちゃんと俺にはレアかミディアムレアにしようか。ステーキそのものを普段そんなに食べないから、ご馳走だよ」
「そうじゃの。向こうではビフテキは贅沢品じゃものなぁ」
実際にはビフテキはビーフステーキの略では無いと、どこかで聞いた記憶がある。だが茂造の世代にはそれで通って来たのだろうから、わざわざ訂正はしない。
壱たちは立ち上がり、厨房に戻る。サユリも仕事をすべく、酒盛りの輪に混ざって行った。
「……壱、茂造の対応、まぁ我も同意見だカピが、冷たいと思うカピか?」
「いや。この村の性質を知ってるし、サユリがちゃんと考えて今のシステムにしてるって解ってるから。村の人たちもそれは知ってるんだよな?」
「勿論カピ。この村の前科者に魔法の素養がある事、その衝動を抑える加護を村に掛けている事、全員に仕事を課している理由、全部言ってあるカピ。それを納得した者しか受け入れていないカピよ。だから、やはりミルの希望は受け入れられないカピ」
「可哀想じゃとは思うがの。例外を作る訳にはいかんのじゃ」
茂造が溜め息を吐きながら言った。
「茂造、済まないカピ。また嫌な役をさせてしまったカピな」
サユリが項垂れてしまう。が、茂造はほっほっと笑った。
「大丈夫じゃサユリさん。これも儂の役目じゃからの。壱よ、あのミルはの、前住んでいた街で傷害事件を起こしたんじゃ」
「え、そんな物騒な感じには見えなかったけど」
「男にナイフで斬り掛かったカピよ。あの通りミルは所謂「重い女」カピ。これまで交際した男に尽くして尽くして甘やかして。男も最初はそれを心地良いと思うカピが、結局その重さと束縛に逃げ出すんだカピ。で、何人めかの逃げ出した元交際相手が、他の女性と仲睦まじく歩いているところを見て、衝動的に及んだカピ」
ああ、壱たちの世界にもそういうタイプはいた。一般人より遥かに少数の女性タレントにさえそういう人たちはいて、当の本人はそれを自覚していない。
周りに言われて漸く気付く。認めない場合もある。
「ごめん、ちょっと引いた」
「あれでもマシになった方カピよ。ミルが最初村に来たのは、事件の後に逃げ出して来た時カピ。その時は「相手が悪い」「私のどこが悪い」の一点張りだったカピが、ミル視点の話を聞いても、逃げられる原因は明らかにミルにあるのだカピ。それを茂造と我が辛抱強く諭したのだカピ。この村の性質を言った上で、街に戻って罪を償い、村のルールを守るのなら、この村に受け入れる事を約束して、送り出したのだカピ。今は自分の質を自覚している筈カピ。そして我の加護もあって、カルとは良い付き合いが続いていると思って安心していたカピが」
「今までは結婚も同居もしておらんかったから、マシに見えていただけじゃったのかのう」
「判らないカピ。どちらにしても、ふたりがどうするかを決めるまでは待つしか無いカピよ。この村を出ると言うのなら、祝って見送ってやるカピ。ただこの村を出た後、カルに逃げられる確率が上がるカピが」
「そうじゃの。賢明な判断をしてくれると良いんじゃが」
場が少し暗くなってしまう。ふと酒盛りが続いているテーブルを見ると、エールやワインを片手に村人が楽しそうに話したり笑ったり。
罪を犯して償った者、この村で生まれた者、それらが混じり合って。これがこのコンシャリド村の姿。
この先、サユリの魔力が貯まった時、壱が元の世界に戻ろうとするかどうかは判らない。だがそれまでにユミヤ食堂の店長を、そして表向きの村長を継ぐだろう可能性は高い。
茂造とていつまでも現役では無いのだ。今はこうして元気に動いているが、確かもう70歳は超えている筈だ。
今だって、少しでもゆっくりして欲しい。それはカリルもサントも思っている様で、有難い事に、少しでも茂造の食堂での負担を減らそうとしてくれている。
なので、壱の村長及び店長就任の日は然程遠く無い様に思われる。
サユリがいてくれるとは言え、表立つのは壱なのだ。あの村人たちを纏め、先程の様な事があれば、壱が嫌われ役も汚れ役も務めるのだ。
俺に出来るだろうか。ふと不安になり、だがなる様にしかならないと今は思う。
「さて、少ししんみりしてしまったの。厨房に戻るかの。もう料理はあまり出んじゃろうから、片付けなんかを始めるぞい。今夜は壱がビフテキを焼いてくれるんじゃろ? いつものビフテキも旨いが、元の世界で食べてた中が生のやつ、あれも旨かったのう」
「じゃあ、サユリたちにはミディアムで焼いて、じいちゃんと俺にはレアかミディアムレアにしようか。ステーキそのものを普段そんなに食べないから、ご馳走だよ」
「そうじゃの。向こうではビフテキは贅沢品じゃものなぁ」
実際にはビフテキはビーフステーキの略では無いと、どこかで聞いた記憶がある。だが茂造の世代にはそれで通って来たのだろうから、わざわざ訂正はしない。
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