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1章 すこやか食堂を作ろう
第1話 みのりの事情
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覚醒。しかし常盤みのりはまだ身体を起こさない。ゆっくり、ゆっくりと仰向けの身体を横向けにする。そして両手を使って、そろりそろりと上半身を起こした。
途端に頭にあった血液が下に流れて行く感覚があって、くらりとめまいが起こる。
みのりはふらつきながらもどうにかベッドから這い出て、自室を出た。自宅はマンションなので、お家の中に階段が無いのが救いだ。
できるだけ足に力を込めて、歩みを進める。スリッパは履いていない。フリーリングの冷たい廊下が、わずかだが頭をすっきりとさせてくれる。
お手洗いで用を済ませ、洗面所にたどり着いたらしっかりと洗口液でうがいをする。本当なら歯を磨いた方が良いのだが、起き抜けにそんな余裕は無い。
リビングに入り、地続きになっているダイニングルームに向かう。ブラウンの木製テーブルにはお父さんとお母さん、そして幼なじみの柏木悠一、悠ちゃんが座っていた。
「お父さん、お母さん、悠ちゃん、おはよう」
「おはよう、みのり」
「おはよう」
「おはよう。大丈夫か?」
お父さんとお母さんの挨拶を尻目に悠ちゃんが立ち上がり、みのりを支えてくれた。
「ありがとう、悠ちゃん」
みのりは悠ちゃんとカウンタキッチンに向かい、悠ちゃんが食器棚から出してくれたマグカップに水道水を入れる。それをこくりと少しだけゆっくりと飲んだ。
そして、カウンタの隅に置いてあるサプリメントの袋に手を伸ばす。ヘム鉄が主体になっているものだ。それを容量を守り、水道水でごくりと飲み干した。
みのりは、鉄欠乏性貧血なのだ。
この貧血は生理のある女性には決して珍しいものでは無い。ただみのりの場合、幼少のころから貧血症状が続いていた。どうやらこれは体質なのでは無いかとお医者さんの判断だった。貧血を起こしやすくなる様な疾患も無く、もちろん妊娠もしていない。
だから体育の授業中に倒れたりしてしまうこともあった。授業を止めてしまったり、迷惑を掛けてしまったりすることが本当に心苦しく、なのでハードな内容なら最初から見学する様にしていた。
好き嫌いがあるわけでは無い。吸収が良いと言われるヘム鉄が多く含まれているレバだって好きだし、まぐろやかつおだって積極的に食べている。
お母さんが「これの方が鉄分摂れるらしいで」と、鉄のフライパンを育ててくれて、それでほうれん草ソテーやレバの甘辛煮、ひじきの五目炒めなどを作ってくれていたりした。
「悠ちゃん、いつもありがとう」
「うん」
そう言って悠ちゃんがいつもくれる優しい微笑みが、みのりの癒しになっていた。みのりはまた悠ちゃんに支えられながら、ダイニングの椅子に腰を降ろす。
「みのり、ご飯食べられる?」
「うん。ありがとう」
お母さんが立ち上がり、キッチンに向かう。みのりもお手伝いをしたいのだが、朝起きたばかりのときが本当に辛い。まともに動ける様になるまでしばらく掛かってしまうのだ。
だがさっきサプリを飲んだのだから大丈夫。みのりは自分にそう言い聞かせ、心を落ち着かせる。プラシーボ効果というものもある。みのりはそれを信じている。
情けない。そんな思いが心を占める。好きでこんな体質になったわけでは無い。それこそ小さなころは、両親が自分を責めているところを見たこともある。
「私が丈夫に産んであげられへんかったから……!」
「ちゃう! お母さんのせいやない!」
私がこんな風になってしもたから。みのりは部屋にとって返してベッドに潜り込んだ。ごめんなさい、弱くてごめんなさい。
誰の責任でも無い。お父さんとお母さんはみのりを慈しんでくれた。大事に大事にしてくれた。でもみのりはこう産まれてしまった。
誰もが自分を責める日だった。それを助けてくれたのが、隣に住んでいた悠ちゃんたち柏木家だった。
「そんなんなんてこと無いやん。私らかて助けるし、どうにでもなるって」
おばちゃんはそう言ってからからと笑い、おじちゃんも「そうそう」と頷く。そのとき幼かった悠ちゃんも。
「何かあったら俺が助けるし!」
そう力強く言ってくれた。みのりたちはそれが頼もしくてありがたくて、時折頼らせてもらったのだ。
そして悠ちゃんが大学進学の年、おじちゃんの海外転勤が決まった。
「何でこんな歳でって思うんやけど、まぁ行ってくるわ」
「お父さんが行くんやったら私も行かんとね!」
ふたりはそう言って、揚々と赴任先のタイに旅立って行った。そしてふたりは、日本に残ると言った悠ちゃんに厳命した。
「みのりちゃんを絶対に守るんやで! ここであんたの男が決まるからな!」
今の時代、男だの女だのを持ち出すのはベターでは無いと思う。だが悠ちゃんの琴線に触れたのか、こう言ってくれた。
「任してくれ。みのりは俺が守るから」
それにみのりが安心してしまったのは言うまでも無い。
もちろん居場所が違うのだから、いつでも悠ちゃんが近くにいてくれるわけでは無い。だが悠ちゃんの存在は、確かにみのりを守ってくれたのだ。
そうしてみもりは力強い手に支えられながら、どうにか大学卒業の年を迎えることができたのだった。
途端に頭にあった血液が下に流れて行く感覚があって、くらりとめまいが起こる。
みのりはふらつきながらもどうにかベッドから這い出て、自室を出た。自宅はマンションなので、お家の中に階段が無いのが救いだ。
できるだけ足に力を込めて、歩みを進める。スリッパは履いていない。フリーリングの冷たい廊下が、わずかだが頭をすっきりとさせてくれる。
お手洗いで用を済ませ、洗面所にたどり着いたらしっかりと洗口液でうがいをする。本当なら歯を磨いた方が良いのだが、起き抜けにそんな余裕は無い。
リビングに入り、地続きになっているダイニングルームに向かう。ブラウンの木製テーブルにはお父さんとお母さん、そして幼なじみの柏木悠一、悠ちゃんが座っていた。
「お父さん、お母さん、悠ちゃん、おはよう」
「おはよう、みのり」
「おはよう」
「おはよう。大丈夫か?」
お父さんとお母さんの挨拶を尻目に悠ちゃんが立ち上がり、みのりを支えてくれた。
「ありがとう、悠ちゃん」
みのりは悠ちゃんとカウンタキッチンに向かい、悠ちゃんが食器棚から出してくれたマグカップに水道水を入れる。それをこくりと少しだけゆっくりと飲んだ。
そして、カウンタの隅に置いてあるサプリメントの袋に手を伸ばす。ヘム鉄が主体になっているものだ。それを容量を守り、水道水でごくりと飲み干した。
みのりは、鉄欠乏性貧血なのだ。
この貧血は生理のある女性には決して珍しいものでは無い。ただみのりの場合、幼少のころから貧血症状が続いていた。どうやらこれは体質なのでは無いかとお医者さんの判断だった。貧血を起こしやすくなる様な疾患も無く、もちろん妊娠もしていない。
だから体育の授業中に倒れたりしてしまうこともあった。授業を止めてしまったり、迷惑を掛けてしまったりすることが本当に心苦しく、なのでハードな内容なら最初から見学する様にしていた。
好き嫌いがあるわけでは無い。吸収が良いと言われるヘム鉄が多く含まれているレバだって好きだし、まぐろやかつおだって積極的に食べている。
お母さんが「これの方が鉄分摂れるらしいで」と、鉄のフライパンを育ててくれて、それでほうれん草ソテーやレバの甘辛煮、ひじきの五目炒めなどを作ってくれていたりした。
「悠ちゃん、いつもありがとう」
「うん」
そう言って悠ちゃんがいつもくれる優しい微笑みが、みのりの癒しになっていた。みのりはまた悠ちゃんに支えられながら、ダイニングの椅子に腰を降ろす。
「みのり、ご飯食べられる?」
「うん。ありがとう」
お母さんが立ち上がり、キッチンに向かう。みのりもお手伝いをしたいのだが、朝起きたばかりのときが本当に辛い。まともに動ける様になるまでしばらく掛かってしまうのだ。
だがさっきサプリを飲んだのだから大丈夫。みのりは自分にそう言い聞かせ、心を落ち着かせる。プラシーボ効果というものもある。みのりはそれを信じている。
情けない。そんな思いが心を占める。好きでこんな体質になったわけでは無い。それこそ小さなころは、両親が自分を責めているところを見たこともある。
「私が丈夫に産んであげられへんかったから……!」
「ちゃう! お母さんのせいやない!」
私がこんな風になってしもたから。みのりは部屋にとって返してベッドに潜り込んだ。ごめんなさい、弱くてごめんなさい。
誰の責任でも無い。お父さんとお母さんはみのりを慈しんでくれた。大事に大事にしてくれた。でもみのりはこう産まれてしまった。
誰もが自分を責める日だった。それを助けてくれたのが、隣に住んでいた悠ちゃんたち柏木家だった。
「そんなんなんてこと無いやん。私らかて助けるし、どうにでもなるって」
おばちゃんはそう言ってからからと笑い、おじちゃんも「そうそう」と頷く。そのとき幼かった悠ちゃんも。
「何かあったら俺が助けるし!」
そう力強く言ってくれた。みのりたちはそれが頼もしくてありがたくて、時折頼らせてもらったのだ。
そして悠ちゃんが大学進学の年、おじちゃんの海外転勤が決まった。
「何でこんな歳でって思うんやけど、まぁ行ってくるわ」
「お父さんが行くんやったら私も行かんとね!」
ふたりはそう言って、揚々と赴任先のタイに旅立って行った。そしてふたりは、日本に残ると言った悠ちゃんに厳命した。
「みのりちゃんを絶対に守るんやで! ここであんたの男が決まるからな!」
今の時代、男だの女だのを持ち出すのはベターでは無いと思う。だが悠ちゃんの琴線に触れたのか、こう言ってくれた。
「任してくれ。みのりは俺が守るから」
それにみのりが安心してしまったのは言うまでも無い。
もちろん居場所が違うのだから、いつでも悠ちゃんが近くにいてくれるわけでは無い。だが悠ちゃんの存在は、確かにみのりを守ってくれたのだ。
そうしてみもりは力強い手に支えられながら、どうにか大学卒業の年を迎えることができたのだった。
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