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5章 親愛なる3人目
第1話 レシピ本とともに
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季節は巡り、また冬に差し掛かろうかという10月。高くなった空は雲が少なく、見るものを爽快な気分にさせてくれる。
「すこやか食堂」定休日の日曜日、みのりはまた新しいレシピを考えたいと、リビングでレシピノートを広げていた。
涼やかになって来ていて、日によっては肌寒いと感じることもある。それでも立冬はまさ少し先で、今は秋真っ盛り。お野菜もきのこ類もお魚も、これからますます美味しくなる。
今や、お野菜もきのこ類も、季節を問わず年中手に入る様になった。日本は北海道から沖縄まで気温の差があって、気候に合わせていろいろなものが育まれている。ハウス栽培だって優秀である。今や農業はすっかりとシステマチックになっていて、みのりもネットなどで見て驚くことも多い。
農業は身体がきつくてしんどい、そんなイメージが付いて回るが、今や機械などに頼れるところは任せ、どうしでも人力が必要な部分と区別されているのだと思う。
やはり今はきのこ類をたっぷり使いたい。ごま油でいろいろな種類のきのこを炒めて、みりんで伸ばした柚子胡椒で味付けをしてみようか。柚子胡椒はぴりりと辛いが、炒めることで少し飛んで、ごま油とみりんの力でまろやかになりつつも、少し刺激的な旨味になるだろう。
メイン料理もまたブラッシュアップしたい。今、鶏レバはみのりも大好きな甘辛煮にしているのだが、ハーブなどを使ってフレンチやイタリアンなどで出しても良いかも知れない。赤ワインで煮込んでも絶対に美味しい。
他にもきっと美味しい組み合わせがあるはずだ。そうだ、お母さんのレシピ本。今やレシピアプリもたくさんあって、みのりのスマートフォンにも入っているし、ネットで素材で検索すればたくさんのレシピが出て来る。だが幼いころからみのりが慣れ親しんで来たのは、紙に印刷されたレシピ本だったのだ。
お母さんと並んでリビングのソファに座って、レシピ本を広げた小さなころのことを思い出す。お肉料理のレシピを見ながら、牛肉の煮込み料理などを見たり、これだったらレバに差し替えてもきっと美味しいなんて盛り上がったものだ。なので、みのりがお料理と触れ合うのは自然なことだった。
お母さんは家事を終わらせて、ダイニングでお茶を飲んでいた。みのりももちろん手伝った。
「お母さん、お部屋のレシピ本見せてもろてええ?」
「ええで」
お父さんとお母さんは、別々のお部屋を使っている。だから寝室も別だ。それぞれの部屋にシングルのベッドを置いて寝ていた。お父さんのいびきがうるさくて、お母さんが眠れないかららしい。
みのりはお父さんと寝室を一緒にしたことが無いので、そのいびきを聞いたことが無い。家族旅行に行っても、寝るときはお父さんだけ別の部屋だった。
物心ついたころからそうだったので、みのりはそれを不自然だとは思わなかった。確かにいびきで安眠を妨害されるのは辛いだろうから。
みのりはめまいが酷くならない様にゆっくりと立ち上がり、お母さんの部屋に向かう。室内の小さな本棚はほとんどがレシピ本と栄養学の本で占められていた。お母さんには読書などの習慣は無いのだ。
本棚にずらりと並べられた数冊のレシピ本。みのりは背表紙を眺める。確かこのフレンチの本に、ホルモンの白ワイン煮込みが乗っていたはずだ。赤ワインが合うなら白ならどうだ。アレンジできそうだ。
みのりは本棚の前にしゃがみ込み、内容の当たりを付けて、その本を引き出す。ぱらぱらとめくってみたが、お目当てのレシピは見当たらなかった。ならその隣を、と引き抜く。すると小型の本らしきものがくっ付いて来て、フローリングの床にぱさりと落ちた。
「あ」
みのりはとっさにそれを拾い上げる。するとそれは母子手帳だった。みのりが産まれる前から人気のうさぎのキャラクタが表紙のものだ。まだそう古くは無く、多分みのりのだろうと、なんとなしに表紙を開いた。
すると、やはりそうだった。子どもの名前としてみのりの名前が手書きで書かれている。見慣れたお母さんの字だ。
そして保護者の欄なのだが、そこにみのりは目を止めた。
「あれ?」
お母さんの名前は常盤かのこなのだが、苗字が修正テープの上に書かれていたのだ。ということは、元々書かれていた苗字があるということだ。
修正テープ越しなので何と書かれているのかまでは分からない。苗字を書き損じたのかと思ったのだが、テープの箇所は1文字分では無く優に2文字分はある。
どういうことなのだろうか。もしかしたらお父さんとお母さんは授かり婚か何かだった? だから最初は旧姓が書かれていたとか。
いや、そんな話は聞いていない。何しろ隠す様なことでは無いだろう。もしお父さんとお母さんが後ろめたいなんて思っていても、みのりは全然気にしない。
みのりは不思議に思い、母子手帳を手にリビングに戻る。そして何気なく、本当に何の含みも持たず、お母さんに聞いた。
「お母さん、これこれ」
「ん?」
「ここ」
みのりは母子手帳を広げ、お母さんの苗字のところを指差した。その途端、お母さんが顔色を変え、息を飲んだ。
「……お母さん?」
さすがのみのりも、これはおかしいと察した。ぞっと背筋が凍りつく様な思いをした。ぐらりと頭が揺れた。
「すこやか食堂」定休日の日曜日、みのりはまた新しいレシピを考えたいと、リビングでレシピノートを広げていた。
涼やかになって来ていて、日によっては肌寒いと感じることもある。それでも立冬はまさ少し先で、今は秋真っ盛り。お野菜もきのこ類もお魚も、これからますます美味しくなる。
今や、お野菜もきのこ類も、季節を問わず年中手に入る様になった。日本は北海道から沖縄まで気温の差があって、気候に合わせていろいろなものが育まれている。ハウス栽培だって優秀である。今や農業はすっかりとシステマチックになっていて、みのりもネットなどで見て驚くことも多い。
農業は身体がきつくてしんどい、そんなイメージが付いて回るが、今や機械などに頼れるところは任せ、どうしでも人力が必要な部分と区別されているのだと思う。
やはり今はきのこ類をたっぷり使いたい。ごま油でいろいろな種類のきのこを炒めて、みりんで伸ばした柚子胡椒で味付けをしてみようか。柚子胡椒はぴりりと辛いが、炒めることで少し飛んで、ごま油とみりんの力でまろやかになりつつも、少し刺激的な旨味になるだろう。
メイン料理もまたブラッシュアップしたい。今、鶏レバはみのりも大好きな甘辛煮にしているのだが、ハーブなどを使ってフレンチやイタリアンなどで出しても良いかも知れない。赤ワインで煮込んでも絶対に美味しい。
他にもきっと美味しい組み合わせがあるはずだ。そうだ、お母さんのレシピ本。今やレシピアプリもたくさんあって、みのりのスマートフォンにも入っているし、ネットで素材で検索すればたくさんのレシピが出て来る。だが幼いころからみのりが慣れ親しんで来たのは、紙に印刷されたレシピ本だったのだ。
お母さんと並んでリビングのソファに座って、レシピ本を広げた小さなころのことを思い出す。お肉料理のレシピを見ながら、牛肉の煮込み料理などを見たり、これだったらレバに差し替えてもきっと美味しいなんて盛り上がったものだ。なので、みのりがお料理と触れ合うのは自然なことだった。
お母さんは家事を終わらせて、ダイニングでお茶を飲んでいた。みのりももちろん手伝った。
「お母さん、お部屋のレシピ本見せてもろてええ?」
「ええで」
お父さんとお母さんは、別々のお部屋を使っている。だから寝室も別だ。それぞれの部屋にシングルのベッドを置いて寝ていた。お父さんのいびきがうるさくて、お母さんが眠れないかららしい。
みのりはお父さんと寝室を一緒にしたことが無いので、そのいびきを聞いたことが無い。家族旅行に行っても、寝るときはお父さんだけ別の部屋だった。
物心ついたころからそうだったので、みのりはそれを不自然だとは思わなかった。確かにいびきで安眠を妨害されるのは辛いだろうから。
みのりはめまいが酷くならない様にゆっくりと立ち上がり、お母さんの部屋に向かう。室内の小さな本棚はほとんどがレシピ本と栄養学の本で占められていた。お母さんには読書などの習慣は無いのだ。
本棚にずらりと並べられた数冊のレシピ本。みのりは背表紙を眺める。確かこのフレンチの本に、ホルモンの白ワイン煮込みが乗っていたはずだ。赤ワインが合うなら白ならどうだ。アレンジできそうだ。
みのりは本棚の前にしゃがみ込み、内容の当たりを付けて、その本を引き出す。ぱらぱらとめくってみたが、お目当てのレシピは見当たらなかった。ならその隣を、と引き抜く。すると小型の本らしきものがくっ付いて来て、フローリングの床にぱさりと落ちた。
「あ」
みのりはとっさにそれを拾い上げる。するとそれは母子手帳だった。みのりが産まれる前から人気のうさぎのキャラクタが表紙のものだ。まだそう古くは無く、多分みのりのだろうと、なんとなしに表紙を開いた。
すると、やはりそうだった。子どもの名前としてみのりの名前が手書きで書かれている。見慣れたお母さんの字だ。
そして保護者の欄なのだが、そこにみのりは目を止めた。
「あれ?」
お母さんの名前は常盤かのこなのだが、苗字が修正テープの上に書かれていたのだ。ということは、元々書かれていた苗字があるということだ。
修正テープ越しなので何と書かれているのかまでは分からない。苗字を書き損じたのかと思ったのだが、テープの箇所は1文字分では無く優に2文字分はある。
どういうことなのだろうか。もしかしたらお父さんとお母さんは授かり婚か何かだった? だから最初は旧姓が書かれていたとか。
いや、そんな話は聞いていない。何しろ隠す様なことでは無いだろう。もしお父さんとお母さんが後ろめたいなんて思っていても、みのりは全然気にしない。
みのりは不思議に思い、母子手帳を手にリビングに戻る。そして何気なく、本当に何の含みも持たず、お母さんに聞いた。
「お母さん、これこれ」
「ん?」
「ここ」
みのりは母子手帳を広げ、お母さんの苗字のところを指差した。その途端、お母さんが顔色を変え、息を飲んだ。
「……お母さん?」
さすがのみのりも、これはおかしいと察した。ぞっと背筋が凍りつく様な思いをした。ぐらりと頭が揺れた。
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