すこやか食堂のゆかいな人々

山いい奈

文字の大きさ
39 / 41
6章 すこやかで愛しい日々に

第1話 賑やかな夜

しおりを挟む
 4月、春たけなわ。少しずつ気温がぬるんできて、過ごしやすくなってきている。桜のつぼみも待ってましたとばかりに華麗に開いていた。

 そんなとき、ゆうちゃんのご両親が2週間の休みを取って日本に帰って来た。年に1度、この時期の恒例行事となっている。その度に「久々の日本やし~」と、国内旅行に多くの日を充てている。

 タイの玄関口であるスワンナプーム国際空港は、大阪の関西国際空港から直行便で6時間ほどである。アメリカやヨーロッパなどへは10時間以上も掛かるので、それを思えば短いが、それでもそうぽんぽんと往復するのは難しいのだ。

 タイは日本の様にゴールデンウィークやお盆休みなどが無い。週に1日以上と祝祭日はお休みになるのだが、基本、公的に3日以上の連休は少ないのだ。

 なのでおじちゃんは与えられた有給休暇を普段はあまり使わずに、春にまとめて取るのである。

 帰国の連絡は悠ちゃんにSNSを通じて送られる。それをみのりと両親が教えてもらい、お家にいる間はお食事を一緒に食べたりする。

 さて、悠ちゃんのご両親が帰国して1週間。今おふたりは東京と東京ディズニーリゾート旅行からお家に帰って来ていた。東京ディズニーリゾートは、いわずと知れた世界的に有名なアニメ、ディズニーの世界を表現したテーマパークで、オープン当時からその人気は衰えない。

 東京を冠しているが実際は千葉県にあり、毎年千葉県浦安うらやす市の成人式が執り行われている。人気キャラクターと触れ合うこともでき、ニュースなどでその模様が流される。ディズニーファンにはきっと羨ましいことだろう。

 みのりと悠ちゃんが「すこやか食堂」の営業を終えて22時近くにお家に帰ると、みのりのお家には誰もおらず、リビングのローテーブルに書き置きがあった。

 柏木かしわぎ家にいます。両親より。

 するとインターフォンが鳴る。ぱっとリビングの壁に取り付けられている親機を見ると、マンションの外玄関では無く、各戸ドアからの呼び出しだった。みのりは受話器を上げる。

「はい」

「みのり、僕や。おじさんとおばさん、うちにおるから、おいで」

「うん。ありがとう」

 きっと悠ちゃんのお家で宴会をしているのだろう。それも毎年恒例のことだった。みのりは置いたばかりのトートバッグを担ぎ直した。一緒に持ち上げたエコバッグの中身は今日のお惣菜のあまり。いつもなら常盤家の翌日のおかずになるのだが、せっかくだからおじちゃんたちに食べてもらおう。

 玄関ドアを開くと悠ちゃんが待っていてくれたので、施錠をしてお隣の悠ちゃんの家に行く。ドアを開けるとリビングの方からたくさんの笑い声が届いた。

 みのりのお家と悠ちゃんのお家は同じ間取りである。なのでどこが水回りでどこがリビングなのかは手に取るように分かる。みのりは悠ちゃんに促されてリビングに向かった。

 リビングに続くドアは開いていたのでそのまま入る。すると想像通り、リビングでみのりの両親と悠ちゃんのご両親は宴会を繰り広げていた。

 と言っても、そう騒いでいるわけでは無い。酔っ払いが苦手なみのりでも大丈夫な程度だ。

「あ、おかえり、みのり」

「おかえり」

「みのりちゃんおかえり~」

「おかえり!」

 両親と悠ちゃんのご両親が笑顔で迎えてくれる。お酒が入っているので、お父さんたちは陽気である。だが酔いは酷くは見えない。親しい人たちだからというものあるのだろうか。

「ただいま。おじちゃん、おばちゃん、お久しぶり」

「久しぶり! 1年の間にまた綺麗になってぇ。ほんま若いころのかのこちゃんそっくりやわ」

 おばちゃんはグラスに入ったビールを傾けながら、嬉しそうにそんなことを言ってくれる。おばちゃんはお酒にとても強い。いわゆる「ざる」なのだそうだ。ビールならかなりの量を飲めるらしい。

 おじちゃんはお父さんと同じぐらい。お母さんは下戸なので、きっとおばちゃんが大半のお酒を消費しているのだろう。

「これ、今日のお店のお惣菜。良かったらおつまみにしてくださいね」

 みのりが数個のタッパーをローテーブルに出すと、おばちゃんが「やったぁ!」と華やいだ声を上げた。

「みのり、ジュース入れるから、ゆっくりしとき。コーラでええか?」

「うん。ありがとう」

 悠ちゃんがキッチンに向かうので付いて行くと、シンクには使い終えた食器がさっとお水ですすがれて積まれている。お鍋などは少ない。

 この宴会のお料理を作るのはいつもお母さんである。お母さんはお料理をしながらお鍋などを適宜てきぎ洗い、宴会が始まってからの食器などはそのままにしている。それを帰って来た悠ちゃんが片付けるのもいつものことだった。

 おばちゃんは日本にいたときはパート雇用で時短で働いていて、お料理も毎日していた。タイに移ってからもお仕事に就いたのだが、それからはおじちゃんとふたりして、ほとんどが外食か中食になっているそうだ。

 タイは外食文化なのである。レストランや食堂もだが何より屋台が多く、特に食堂や屋台では日本よりぐっとお安く食べることができる。日本食レストランも豊富で、そのクオリティは高いと聞く。

 自炊そのものをする文化があまり無いので、単身用アパートメントなどには最初からキッチンが無かったりする。おじちゃんたちが借りているお家は外国人居住者などが多いコンドミニアムなので、キッチンが付いているそうだ。だが下手に自炊するより屋台でお持ち帰りした方が安かったりするらしい。

 日本食が食べたくなったら、お家で作ることもあるそうだ。タイは日本の食材や調味料も手に入りやすい。多少割高になってしまうのは外国食材の常である。

 おばちゃんはもともと、あまりお料理に手を掛ける人では無い。なのでタイのこうした文化が助かっているのだと言っていた。タイは日本と同じアジア圏だからか、タイ料理は日本人の口に合いやすいのだ。

 悠ちゃんが冷蔵庫から出した2リットルペットボトルのコーラをグラスに注いでくれる。悠ちゃんは缶ビールを出して、プルタブを開けるとみのりのコーラのグラスにこつんと合わせた。

「お疲れさん」

「うん、お疲れさま」

 みのりはこくりと口を付け、悠ちゃんはごっごっと喉を鳴らした。缶ビールをカウンタに置いた悠ちゃんは「よっしゃ、やるか」と腕まくりをし、水道の蛇口を開けた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

鈴白理人
ファンタジー
北の辺境で雨漏りと格闘中のアーサーは、貧乏領主の長男にして未来の次期辺境伯。 国民には【スキルツリー】という加護があるけれど、鑑定料は銀貨五枚。そんな贅沢、うちには無理。 でも最近──猫が雨漏りポイントを教えてくれたり、鳥やミミズとも会話が成立してる気がする。 これってもしかして【動物スキル?】 笑って働く貧乏大家族と一緒に、雨漏り屋敷から始まる、のんびりほのぼの領地改革物語!

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

処理中です...