身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される

秋津むぎ

文字の大きさ
74 / 83
4章

16 楽しい、今

しおりを挟む






「アシェくんの義母と義兄が、追放先の更生施設で騒ぎを起こしたと聞いたのですが、本当なんですか?」

「あぁ。更生施設でも大人しくしていなかったようだ」

アシェがいたことで抑えられていた義母と義兄の怒りの矛先が、今度は周囲へ向いてしまったようだ
むしろ、アシェがいたおかげで、周囲への被害は最小限に抑えられたとも言える。

「今は辺境の地で強制労働させるように伝えてある」

更生施設で手に負えないのなら、荒れた土地や未開拓の地にある労働施設に送るのが決まりだ。

義兄の魔力は制限をつけさせ、義母は施設での監視で行動を制限させるように指示を出してある。

書類をめくりながら、心の奥で安堵する。アシェがこのことを知らなくて良かった。関わっていたら、また自分を責めていたに違いない。

書類には、さらに胸がざわつく記述があった。
義母が何度も何度も怒り狂ったように『アシェ』と名前を呼んでいたこと。
『私は何も悪くない』とも――

「辺境の労働施設には屈強な作業者が多い。
義母らが騒いでも、上手く扱うだろう」

「そうですね。それにもうアシェくんには、二度と彼等に会わせたくないです」

「あぁ」

アシェにはもう彼等に会わせるべきではない。
辛い傷をまた、思い出すだけだ。

___


リオットが書類を置き、部屋を出ていくと、執務室に再び静けさが訪れる。
仕事を進めていると、執務室にノックの音が響く。

「ヴァルドさん。お昼の時間だよ」

「アシェ」

いつのまにか昼食の時間になっていたようだ。
勉強帰りであろう、書物を持ったままのアシェだ。
外出先で帰れない時以外は、アシェと共に食べる約束をしている。その方が飯も美味い。

「今行く。少し待ってくれ」

「はあい」

執務室に入り、2人掛けの椅子に座って待っている。アシェは待つ時はここによく座っている。

「あのね。今日ノーマン館長に褒めてもらったんだ。それでエレナさんにもクッキーもらった。ご褒美って!でもね、ノーマン館長が教えてくれたから半分こしたんだ。
そしたら明日また作ってくるってエレナさんが言っててね。えへへ」

「楽しいか?勉強」

きょとりとオレの顔を見上げる。
するとアシェは目を輝かせた。

「楽しいよ!いっぱいわかるの、楽しい!」

「良かった」

「わ、あ。もう、ヴァルドさん」

2人掛けの椅子に腰を下ろし、アシェを引き寄せる。彼もそうなることがわかっていたのだろう。抵抗することなく身を委ねる。
その手はオレの手を優しく握っている。

「ヴァルドさんにぎゅってされるの好き。
心の中がほわってするんだ」

「いつでもしてやる」

「お昼ご飯の時間がなくなっちゃうよ。ふふ」

アシェはそう言いつつも手を握って離さなかった。

義母たちのことを早く忘れさせてやりたい。
しかしすぐに傷は癒えないだろう。

アシェは少しずつ前に進んでいる。
オレの側で見守ってやりたい。これからも。

「アシェ」

「なあに?」

「一緒にいような」

「……!うん!ずっと一緒にいる!」

――アシェとずっと一緒にいてやりたい。
再び、心の中でそう願うのだった。



しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

英雄の溺愛と執着

AzureHaru
BL
転生した世界は前世でどハマりしたBLゲーム。最推しは攻略対象!ではなく、攻略対象達の剣術の師匠である、英雄の将軍閣下。メチャクチャイケオジでドストライクだった主人公はこのイケオジみたさにゲームをやっていた。その為に、ゲームの内容など微塵も覚えていなかった。 転生したからには将軍閣下を生でみないとというファン根性で付きまとう。 付き纏われていることに気づいていた将軍だか、自分に向けられる視線が他とは違う純粋な好意しかなかったため、戸惑いながらも心地よく感じていた。 あの時までは‥。 主人公は気づいていなかったが、自分達にかけらも興味を持たないことに攻略対象者達は興味をそそられ、次第に執着していく。そのことにいち早く気づいたのは剣術指南役の将軍のみ。将軍はその光景をみて、自分の中に徐々に独占欲が芽生えていくのを感じた。 そして戸惑う、自分と主人公は親子ほどに歳が離れているのにこの感情はなんなのだと。 そして、将軍が自分の気持ちを認めた時、壮絶な溺愛、執着がはじまる。

冤罪で追放された悪役令息、北の辺境で幸せを掴む~恐ろしいと噂の銀狼将軍に嫁いだら、極上の溺愛とモフモフなスローライフが始まりました~

水凪しおん
BL
「君は、俺の宝だ」 無実の罪を着せられ、婚約破棄の末に極寒の辺境へ追放された公爵令息ジュリアン。 彼を待ち受けていたのは、「北の食人狼」と恐れられる将軍グリーグとの政略結婚だった。 死を覚悟したジュリアンだったが、出会った将軍は、噂とは真逆の不器用で心優しいアルファで……? 前世の記憶を持つジュリアンは、現代知識と魔法でボロボロの要塞を快適リフォーム! 手作りスープで将軍の胃袋を掴み、特産品開発で街を救い、気づけば冷徹将軍から規格外の溺愛を受けることに。 一方、ジュリアンを捨てた王都では、破滅の足音が近づいていて――。 冤罪追放から始まる、銀狼将軍との幸せいっぱいな溺愛スローライフ、ここに開幕! 【オメガバース/ハッピーエンド/ざまぁあり/子育て/スパダリ】

『アルファ拒食症』のオメガですが、運命の番に出会いました

小池 月
BL
 大学一年の半田壱兎<はんだ いちと>は男性オメガ。壱兎は生涯ひとりを貫くことを決めた『アルファ拒食症』のバース性診断をうけている。  壱兎は過去に、オメガであるために男子の輪に入れず、女子からは異端として避けられ、孤独を経験している。  加えてベータ男子からの性的からかいを受けて不登校も経験した。そんな経緯から徹底してオメガ性を抑えベータとして生きる『アルファ拒食症』の道を選んだ。  大学に入り壱兎は初めてアルファと出会う。  そのアルファ男性が、壱兎とは違う学部の相川弘夢<あいかわ ひろむ>だった。壱兎と弘夢はすぐに仲良くなるが、弘夢のアルファフェロモンの影響で壱兎に発情期が来てしまう。そこから壱兎のオメガ性との向き合い、弘夢との関係への向き合いが始まるーー。 ☆BLです。全年齢対応作品です☆

姉の聖女召喚に巻き込まれた無能で不要な弟ですが、ほんものの聖女はどうやら僕らしいです。気付いた時には二人の皇子に完全包囲されていました

彩矢
BL
20年ほど昔に書いたお話しです。いろいろと拙いですが、あたたかく見守っていただければ幸いです。 姉の聖女召喚に巻き込まれたサク。無実の罪を着せられ処刑される寸前第4王子、アルドリック殿下に助け出さる。臣籍降下したアルドリック殿下とともに不毛の辺境の地へと旅立つサク。奇跡をおこし、隣国の第2皇子、セドリック殿下から突然プロポーズされる。

囚われ王子の幸福な再婚

高菜あやめ
BL
【理知的美形王子×痛みを知らない異能王子】  触れた人の痛みは感じても、自分の痛みに気づけない──そんな異能を持つ王子カシュアは、政略結婚で嫁いだ異国で幽閉され、四年間忘れられていた。  彼が再び人前に姿を現したのは、クーデターの混乱のさなか。そして、存在を持て余された末、次期宰相である王子との再婚が決まる。  冷静で無口な王子が、なぜかカシュアにだけは優しいのは、かつて彼が妖精物語に恋をした少年だったから――不器用な王子とともに、愛をたしかめ合うストーリー。※2025/11/26第三部スタート

αからΩになった俺が幸せを掴むまで

なの
BL
柴田海、本名大嶋海里、21歳、今はオメガ、職業……オメガの出張風俗店勤務。 10年前、父が亡くなって新しいお義父さんと義兄貴ができた。 義兄貴は俺に優しくて、俺は大好きだった。 アルファと言われていた俺だったがある日熱を出してしまった。 義兄貴に看病されるうちにヒートのような症状が… 義兄貴と一線を超えてしまって逃げ出した。そんな海里は生きていくためにオメガの出張風俗店で働くようになった。 そんな海里が本当の幸せを掴むまで…

処理中です...