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4章
16 楽しい、今
しおりを挟む「アシェくんの義母と義兄が、追放先の更生施設で騒ぎを起こしたと聞いたのですが、本当なんですか?」
「あぁ。更生施設でも大人しくしていなかったようだ」
アシェがいたことで抑えられていた義母と義兄の怒りの矛先が、今度は周囲へ向いてしまったようだ
むしろ、アシェがいたおかげで、周囲への被害は最小限に抑えられたとも言える。
「今は辺境の地で強制労働させるように伝えてある」
更生施設で手に負えないのなら、荒れた土地や未開拓の地にある労働施設に送るのが決まりだ。
義兄の魔力は制限をつけさせ、義母は施設での監視で行動を制限させるように指示を出してある。
書類をめくりながら、心の奥で安堵する。アシェがこのことを知らなくて良かった。関わっていたら、また自分を責めていたに違いない。
書類には、さらに胸がざわつく記述があった。
義母が何度も何度も怒り狂ったように『アシェ』と名前を呼んでいたこと。
『私は何も悪くない』とも――
「辺境の労働施設には屈強な作業者が多い。
義母らが騒いでも、上手く扱うだろう」
「そうですね。それにもうアシェくんには、二度と彼等に会わせたくないです」
「あぁ」
アシェにはもう彼等に会わせるべきではない。
辛い傷をまた、思い出すだけだ。
___
リオットが書類を置き、部屋を出ていくと、執務室に再び静けさが訪れる。
仕事を進めていると、執務室にノックの音が響く。
「ヴァルドさん。お昼の時間だよ」
「アシェ」
いつのまにか昼食の時間になっていたようだ。
勉強帰りであろう、書物を持ったままのアシェだ。
外出先で帰れない時以外は、アシェと共に食べる約束をしている。その方が飯も美味い。
「今行く。少し待ってくれ」
「はあい」
執務室に入り、2人掛けの椅子に座って待っている。アシェは待つ時はここによく座っている。
「あのね。今日ノーマン館長に褒めてもらったんだ。それでエレナさんにもクッキーもらった。ご褒美って!でもね、ノーマン館長が教えてくれたから半分こしたんだ。
そしたら明日また作ってくるってエレナさんが言っててね。えへへ」
「楽しいか?勉強」
きょとりとオレの顔を見上げる。
するとアシェは目を輝かせた。
「楽しいよ!いっぱいわかるの、楽しい!」
「良かった」
「わ、あ。もう、ヴァルドさん」
2人掛けの椅子に腰を下ろし、アシェを引き寄せる。彼もそうなることがわかっていたのだろう。抵抗することなく身を委ねる。
その手はオレの手を優しく握っている。
「ヴァルドさんにぎゅってされるの好き。
心の中がほわってするんだ」
「いつでもしてやる」
「お昼ご飯の時間がなくなっちゃうよ。ふふ」
アシェはそう言いつつも手を握って離さなかった。
義母たちのことを早く忘れさせてやりたい。
しかしすぐに傷は癒えないだろう。
アシェは少しずつ前に進んでいる。
オレの側で見守ってやりたい。これからも。
「アシェ」
「なあに?」
「一緒にいような」
「……!うん!ずっと一緒にいる!」
――アシェとずっと一緒にいてやりたい。
再び、心の中でそう願うのだった。
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