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第一章
第九話
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帰宅すると、昨日の朝から何も変わらず、部屋の中はそのままだった。杏奈がどこからか出迎えてくれるのではないか、そんな気がした。私が帰ってくると覚束ない足取りで、駆け寄ってくる彼女の姿はどこにもなかった。
私はソファに座り、顔を覆う。深く息を吸い、肺をいっぱいにしてから、長く息を吐き切った。
もう一度、彼女との生活を取り戻す。改めて覚悟を決める。
私はメールの入力画面を立ち上げる。宛先は浅羽虹架。
『件名:西塚小夜子です
本文:お久しぶりです。赤星杏奈の友人の西塚です。高校時代に一度お会いしたかと思います』
書き出しはこんなものでいいだろうか。
私は続けて書く。
『その際には超能力実験、いわゆる予知能力に関する実験に参加しました。その後、研究のほどはいかがでしょうか。今回連絡したのは、もしかしたらそれに関係があるかもしれない、お尋ねしたいことがあるからです』
そこで手が止まった。
肝心の眠ると過去に戻る現象について、どう説明して、どう聞けばいいのだろうか。
あなたは過去に戻る方法を知っていますか、と単刀直入に聞いてしまおうか。ただ不審がられたり、警戒されて無視される可能性がある。当たり障りのない内容でも、目を通してもらえないかもしれない。
脳科学を研究をしている彼女が興味を持つよう仕向けられないだろうか。
『先日、赤星杏奈さんと話して、お互いに不可思議な体験をしたことが分かりました』
虹架は今の杏奈の状態を知っているだろうか。もし知っていたらどのように思っているだろうか。考えていても先に進めない。もし返信がなければ、彼女が所属している研究室も分かっているので、直接会いに行けばいい。
私は意を決して先を進める。
『それは眠った際に、過去の記憶している日に戻れる、という体験です。夢を見ているだけ、過去を思い出しているだけと言われたらそれまでなのですが、この体験ではそこでの行動が過去を変え、それが現在にも影響を及ぼします。私だけであれば私自身の正気を疑いますが、それが赤星さんの身にも起きていました。これが何らかの脳の異常なのか、以前の実験に関係するものなのか、あなたの見解をお聞かせいただけないでしょうか。つきましては一度お会いしてお話しさせていただきたく存じます。何卒よろしくお願いいたします』
そこで私は推敲もせず、送信する。
本職の研究者に、こんな内容のメールを送って相手にしてもらえると思えない。それでも浅羽虹架がこの現象に関わっていて、今の彼女に心当たりがあれば、何かしらのリアクションがあるのではと、祈るように期待した。
メールを送った後、私は気が抜けた。というよりも何も考えたくなくて、スマートフォンを手放し、ソファに身を預けた。
電話の着信にスマートフォンが振動していた。それに私は目を覚ました。そのままソファで眠っていたようだ。スマートフォンを手に取る。玄野先輩からの電話だった。やはり過去には戻れていなかった。昨日から続く悪夢のような現実の中に私はいた。
私は先輩からの着信を無視した。それよりも私は時刻を見る。正午を回っていた。彼女は昼休憩の時間に電話してきたのだろう。
警察から職場に連絡が入っているだろうか。逮捕されたことも釈放されたことも。その辺りのことはよく分からなかったし、興味がなかった。
過去を変えることができれば、勝手に私は通勤していたことになるだろう。
もし過去を変えることができなければ、その時は、私はどうしようか。
私はスマートフォンの電源ボタンを軽く押し、ディスプレイを消す。着信中に一回押せば、振動と着信画面を消すことができた。しばらくして着信通知のポップアップが出てくる。そのポップアップの下に、メールの通知があった。
私は急いでそのメールを開く。
浅羽虹架からだった。
『お久しぶりです。浅羽虹架です。当時は私の拙い実験にご協力いただきありがとうございました。さてあなたの体験された現象についてですが、私の研究領域に関するもので、大変興味深く存じます。一度ご都合のよろしい時にお会いできないでしょうか? 平日および土曜日であれば終日、大学院の研究室にいますので、ご足労おかけしますが、訪問いただければ幸いです。ただ学会の予定などもありますので、事前にご連絡をいただけますでしょうか。何卒よろしくお願いいたします』
心臓が痛いほど高鳴り、指先が震えた。なんとか希望を繋ぐことができた。
私は急いで返信をする。
『ご返信いただきありがとうございます。近日中ですと、いつがご都合よろしいでしょうか? 今日か明日ですといかがでしょうか?』
今すぐにでも会って話したかった。こんな荒唐無稽な内容に返信してくれて、なおかつ会おうと思ってくれるということは、何か心当たりがあるのだろう。期待に指が震えていた。全身を血液が駆け巡るのをむず痒く感じた。
いつ返信がくるか、何度もメールフォルダを再読み込みした。おそらく彼女は大学院のパソコンから返信している。いつ私の着信に気づき、返信してくれるか分からない。
何も他にすることもないので、私は何度も何度もリロードする。一時間でもそうしているつもりだったが、返信は数分後にきた。
『明日の正午、十二時ではいかがでしょう? 研究室に入るにはIDが必要なので、キャンパス内の指定する場所で待ち合わせできればと存じます。また念の為、私の電話番号を記載しておきます』
私は思わず「よしっ!」と声を漏らした。
虹架と会う約束を取り付けることがきた。
夜、私は一人、ベッドで横になる。
隣に杏奈がいない。
部屋の中には、シーツには、彼女の匂いが残っていた。もう一度彼女に触れたい。あの瞳で見つめてほしい。
明日一日で何かが変わるとは思えない。
もし虹架と会っても過去に戻れなければ、杏奈の母に連絡をとって説得をするか。ただ逮捕までされた私が連絡をすれば、恐怖を与えてしまう可能性がある。
英美香に今どうなっているか確認してもらおうか。私の母は、私が逮捕されたことを知っているだろうか。
取り留めもないことばかり考えてしまう。
とにかく過去に戻る条件がこの場所で眠ることであってほしい。そう願った。
* * *
金曜日、朝──
私は虹架の在籍する大学院のキャンパスにいた。
約束の時間は正午だが、迷子になる懸念もあり、二時間前に着くよう向かった。
広大な敷地には、校舎がいくつもあった。廊下部分がガラス張りの真新しいものもあれば、レンガのような赤茶けた外壁のレトロなものもあった。
また歩道に沿って、広葉樹や低木が植えられていた。キャンパス内には広場だけでなく、庭園や池もあった。夏にくれば蓮が咲いているようだ。
私は虹架の指定した、彼女の研究室のある校舎近くのカフェに入る。特に彼女と昼食の約束をしているわけではないので、早めの食事を済ませることにした。
ガラス張りのカフェ内には、四人がけの丸テーブルと、窓に面したテーブル席がいくつかあった。学生の姿がまばらにあった。講義の間の時間潰しをしているのだろう。大学と大学院が共通のキャンパスを使用しているので、どちらの学生かは分からない。
私は少しでも気分を高めようと、値の張るローストビーフのサンドイッチとオレンジジュースを注文する。それを受け取ってから、カフェの入り口が見える席に座った。いつ彼女が来てもいいように。
私は片手にサンドイッチ、片手にスマートフォンを持ち、彼女からの連絡、あるいは彼女自身が来るのを待つ。
結局、昨夜は過去に戻ることができなかった。何か条件があることは確かだ。
眠れば過去に戻ることができるわけではない。それは留置場で分かった。自室で眠ることも条件ではないようだ。それも昨夜に分かった。
ただ杏奈と一緒に眠ることが条件だとしても、それが最近になって起きるようになった理由が分からない。
杏奈は浅羽虹架の研究か何かで、過去に戻れたようなことを言っていた。
彼女の研究が、過去に戻ることと関係しているのなら、協力を得ることができれば、もう一度過去に戻れるかもしれない。
私は時計と入り口を何度も交互に見る。
急用ができて彼女がこなかったらどうしようか。今になって不審に思い会うのを拒まれたら、などと不安な気持ちがよぎる。
スマートフォンを握る手に汗がにじむ。
正午、五分前──
幸いにもそれは杞憂になった。自動ドアをくぐって、見間違うわけのない、彼女の姿が現れた。
もともと研究室のウェブサイトに掲載されている彼女の近影を見た時から、恐ろしいほどに美しくなっていることは分かっていた。
しかし実際に目にすると、小顔で細身、少し背の高い彼女は、大人びて、より人間離れした美しさを帯びていた。透き通るような白い肌に長い黒髪。白衣の下には黒のトップスとタイトなパンツスタイル。黒縁のスクエア型の眼鏡は地味な印象を受けるが、艶やかな紅色の唇が際立ち、それがエロティックだった。
私は席を立ち彼女の方へ向かう。
彼女はカフェ内を軽く見回すと、すぐに私に気づいたようで、こちらへ歩み寄ってくる。
「十年ぶりか」
「そのぐらいになるかな」
低く澄んだ声だった。人形のように美しい彼女の顔には、何の感慨も親愛もない様子だった。それは当たり前のことなのだが。
私自身も彼女とは一度しか会ったことがない。それに彼女と会った過去、事実はあるが、私自身が彼女と会うのは今日が初めてだった。それなのに相手に知られているというのは奇妙な気持ちだった。
「昼食は済ませたか?」
「先に食べちゃった」
「そうか。飲み物を買うが、何か飲むか?」
「私は大丈夫」
私たちは旧交を温めることもなく、カウンターに向かう。もともと私たちの間に友情も何もない。こうして時間を作ってくれたのが意外だった。
虹架は揚げパンと大麦コーヒーを注文する。
「それってコーヒーと違うの?」
「酸味がなくて飲みやすい。カフェインが含まれていないから、寝る前に飲んでも影響がない」
「そうなんだ」
気になったので私も注文することにした。
「私もそれ買おう」
「それなら私が出す」
「いや、悪いよ」
「わざわざ来てもらったのだから、ここは出させてくれ」
「それじゃお言葉に甘えて……」
虹架が気を悪くしては困るので、素直に従うことにした。
店員が提供してくるのを待つ間、不意に虹架が聞いてくる。
「赤星杏奈は今どうしている?」
「杏奈は、ちょっと病気で……」
「そうか」
それ以上は何も聞かれなかった。虹架は杏奈の病気を知っているのだろうか。私が逮捕された件は、特に報道もされていないようで、虹架に警戒心を抱かれている様子もなかった。
私たちは商品を受け取りカフェを出た。
* * *
私たちは虹架の在籍する研究室のある校舎、研究棟に入った。研究室のドアは、虹架が学生証でオートロックを解錠する。
ドアを開けると、研究室には先に一人の女性がいた。薬品棚を整理している様子だった。私たちに気づいて振り返る。二十代前半だろうか。もっと若くも見える。大学生のようだった。
彼女は私たちに気づくと、驚いた顔をする。
「え、先輩、本当に友達いたんですね」
それに虹架は答えず、
「助手の須藤風香くんだ」
と彼女を紹介する。
須藤風香はあどけなさの残る目元を細めて笑う。
「初めまして、須藤です。心理学部三年です。浅羽先輩の助手をしてます」
前髪は左に流し、セミロングの後ろ髪は肩先で軽く跳ねていた。やや丸顔で、卵型の滑らかな輪郭をしていた。背は私より少し低いだろうか。白衣の上からも胸の輪郭が浮かんでいた。おそらくDぐらい。大学三年生ということは二十歳か二十一歳か。私たちより五歳下になるだろうか。
「彼女が同席しても大丈夫か? 彼女も多少、事情は知っている」
それに私はためらった。初対面の人を前に、自分の身に起きた、自分でも正気を疑うようなことを話すのは抵抗があった。
とにかく虹架の好感を引き出し、彼女の協力を得なければならない。
「うん。大丈夫」
「ありがとう。とりあえずその辺の椅子にかけてくれ」
研究室の中には、デスクや作業台、冷蔵庫のようなものがあった。デスク上にはパソコンや顕微鏡があり、その後ろにある棚には薬品類と思われるものが並んでいた。さまざまな機材があるからでなく、虹架の実家の部屋に比べて狭かった。
キャスター付きの椅子もいくつかあり、風香が椅子を引いてくる。
「どうぞ」
「ありがとう」
私は椅子を受け取り、それに座る。緊張で口が乾いてきた気がした。私は大麦コーヒーというやつを初めて口にした。コーヒーにしては酸味がなく、麦茶を苦くしたような感じで、意外と飲みやすかった。
虹架が向かい合うように座る。少し離れて風香が座った。
「まず君の身に起きたことを教えてくれ」
私はなるべく風香のことを気にしないようにして、虹架にこれまで体験したことをざっくりと話した。
「眠ると、次に目覚めると過去にいて、その過去で眠ると現在に戻る。夢を見ているだけといえばそれまでだけど。それだけで本当に過去に戻ったなんて思わない。その夢の中でした、過去を変えるような行動が現在に影響を与える。たとえば過去の夢の中で、好きだった人に告白をして、実際に付き合っていたことになっているとか。自分の経験した過去、人生ではそんなことなんてなくて、それなのに変えた過去が事実となって、現実にあったことになっている。そして過去が変わってからの、今に至るまでの記憶が私の中にある。同時に変わる前の記憶がそのまま、私の中に二重で残されている」
虹架と実際に会うこと自体、私にとっては初めてだった。過去の私が彼女と一度会ったことがあるが、私にとっては記憶の中にあるだけで、現実味や実感が薄い。まるで漫画やアニメの架空の人物に会ったような奇妙な感覚がした。それでも彼女は私のことを知っているのだから、私が過去を変えたというのは事実だと改めて確信した。そのことを虹架に話しても、うまく説明できる自信がなかったので割愛する。
虹架は少し考える仕草を見せた後、
「君の身に起きた現象についてだが。君は過去に意識が戻り、自分の意思で行動することができたのか?」
「うん。ただ過去のある時点に戻ると、その先の記憶も私の中にあるみたいで、注意しないと、その記憶をなぞるように行動するの。意図的に行動を変えることもできて、それによって過去が本当に変わる」
「話を聞く限りでは、心理的に抑圧されていた記憶が回復した、あるいはいずれかが誤った記憶で、それを事実として錯覚している可能性がうかがえる。そのことについて君はどう思う?」
「私も最初はそれを疑ったんだけど、当時では知ることができないことを記録に残して、過去から現在に残すことができた」
私はメールの下書きを見せる。
「手の込んだいたずらと疑われたら、これ以上の証明はできないんだけど。五年前にはまだ連載されていない漫画や、放送されていないアニメのタイトルを略称で、メールの下書きで残すことができた」
作成日、あるいは最終編集日の欄に五年前の日付が表示されている。
ただそれを見ても、氷のように美しい彼女の顔に、波紋一つ広がらなかった。そこへ風香が横からのぞきこむ。
「本当だ。私もこの漫画好きだけど、アニメ化が決まったのはこのメールが書かれたもっと後だから」
風香は同調してくれたようだった。
それによって虹架も多少は信じてくれたのか、
「いつからその現象が?」
と聞いてくる。疑っているのか、信じているのか、あるいは半信半疑なのか。彼女の声音や表情から読み取ることはできなかった。
私はとにかく彼女に信じてもらい、過去に戻る方法を教えてもらうか、探してもらうしか手立てがない。
「それまでは何の予兆もなくて、突然そんな夢を見るようになった。一週間前ぐらいから。ただ一昨日から起きなくなった」
「過去に戻れた理由に心当たりは? 何か事故に遭ったことや、病気にかかったことはないか?」
「それは──」
この現象に杏奈と一緒に寝ることが関係していると推測している。しかし寝る前にセックスしていたことなどは、言うことが憚られた。
「杏奈。彼女も過去に戻ることができたらしくて。今はできなくなった、って言ってた。それで私、一ヶ月前から一昨日まで、杏奈と一緒に住んでいて、一緒のベッドで寝てたの。杏奈と一緒に寝るようになってしばらくしてから、できるようになった」
虹架の表情は少しも動かない。私が杏奈と一緒に暮らしていたなど、それこそ妄想扱いされても仕方ないと思えたが。
しかし虹架は私たちのプライベートには興味がないようだった。
「赤星杏奈が過去に戻れた、というのは、君は事実だと信じるのか?」
「杏奈には私にない記憶があって、私が過去を変えたことで、彼女の記憶に近い過去に変わっていったから、私は本当のことだと思っている。私が過去を変えるよりも前に杏奈が過去を変えて、それから私が過去を変えることで、もとの出来事に近づいていってるんじゃないかって。どうして杏奈がそんなことをしたのかは──」
私が死んだから、というのは、ややこしくなりそうなので割愛する。
「詳しくは分からないんだけど。それと私が過去を変えると、杏奈だけは過去が変わったことを認識できるみたいだった」
虹架がその細く長い指を顎の先に当て、考えるように沈黙する。
「信じられないかもしれないけど。でも杏奈の話だと、浅羽さんのやっていた実験や研究が関係しているみたい。あとなんだっけ。トロンメロン、トロンボーン? みたいな名前の何か、研究していない?」
「なぜ君がそのことを知っている?」
感情の起伏に乏しい虹架の美しい顔に、微かに波紋が広がった。ほんの少し、細い眉と奥二重の切れ長の目が上がった。
「杏奈に聞いたから」
「赤星杏奈が知っているはずがない。私は彼女に、私の研究の、本当の目的を話していない」
「本当の目的?」
微かに語気が荒くなっている。彼女の感情が揺れるのを初めて見た。そのトロンメロンというのは、それだけ彼女を驚かせる言葉だったようだ。
「私が未来予知について研究していたのは、未来から現在に向けて、時間を逆行する何らかの粒子やエネルギー、未知の物理現象や作用が働いているのではないか、そしてそれを人の脳が感知できるのではないかと考えていたからだ。もし実在するのなら、この原理を解明できないまでも利用することで、過去に向けて情報を送り、過去に干渉することが私の本当の目的だ」
「え──」
私は突然の告白に身を乗り出した。
虹架の研究がこの現象に関わっている、それがようやく確信になった。
風香が驚いた様子で言う。
「私も初めて聞きました」
「君には第一段階の研究内容しか話していない」
「ひどいじゃないですか!」
虹架は風香に構わない。
「第一段階では人の持つ予知的感覚およびそれに伴う脳の活動を計測し、分析および仮説を導出することを目的としていた」
虹架は足を組み、深く座り直す。
「私はこの計画をトロイメライ計画と名付けた。トロイメライ、夢や夢想を意味する。シューマンのピアノ曲集『子供の情景』第七曲から。過去に干渉することを目的にした、この計画に適当だと考えた」
それは杏奈が口にした言葉に音が似ていた。
「なぜ赤星杏奈がそれを知っていたのか、そして彼女が過去に戻ることができたというのは本当か、そして西塚小夜子くん、君の身に起きたことが本当だとして、なぜそれが起きたのか。それら疑問に対して辻褄を合わせるのなら──」
虹架の磨かれたような、黒い水面のような瞳が私を見る。
「赤星杏奈は過去を変え、その結果として私との接点がなくなり、私が彼女に計画を話した過去が消滅した。同時に、私が彼女に協力し、彼女が過去に干渉した事実も。そして赤星杏奈は何らかの方法で、君を、第三者を過去に干渉させることに成功した。それに何か心当たりはないか?」
「特には。一ヶ月ほど一緒に暮らしてたけど、杏奈に何かされたことはなかった、と思う」
今の杏奈に、私に対して何か特殊なことをできたとも思えない。一人でまともに出歩くこともできなければ、リモコンを操作することもできない。
「そうか。検証の余地があるな」
虹架が考え込むような仕草を見せる。
私はあまり杏奈のことを掘り下げられたくなかった。
それよりも余裕がない。話を先に進め、虹架の協力を引き出さなければならない。
「そのトロイメライ計画では、どうやって過去に干渉するの?」
「君は一度被験者として、私の実験に参加したことがあるな」
「うん」
「私はあれから千人以上の被験者に予知実験を行ったが、ほとんどのサンプルから有意な結果は得られなかった」
「私も何度かお手伝いしたやつですよね?」
と風香。
「そうだ──」
虹架は続ける。
「そんな中、一人の特異な数値を示すある被験者と出会った。彼女は占い師で、未来を見ることができると称していた。それまでにも占い師や、超能力があると称したり、霊能力者を名乗る被験者はいたが、有意な結果は得られなかった。しかし彼女はすべての実験において、予知的感覚があると考えられる結果を示した。たとえば君も協力してくれた予知実験では、彼女はほとんどの画像表示よりも先に反応が計測された。このことから彼女に未来を予知する能力、感覚があると私は判断した」
あの椅子に座らされて画像を見せられる実験だろう。当時の杏奈の下着姿の画像はその後どうなったのか気になったが、今はそれを確認している場合ではなかった。
「次に彼女の生体電位だけでなく、磁気共鳴機能画像法、fMRIを用いて、予知実験中の彼女の脳の状態をモニタリングした。──MRIというのは強力で均一な磁場を発生させ、人の生体内の水素原子核に干渉し、そこから発する電波信号を受信して、人体の断層を撮影する装置だ。fMRIは仕組みは同じだが、脳の機能や活動を観察するのに用いられる。これにより予知実験中の彼女の脳内における活動や、神経伝達物質の種類や濃度を分析した」
虹架はディスプレイに、モノクロの脳の断面写真を表示する。写真は三枚あった。横、正面、上、から見たものと思われる写真が、左から順番に並べられていた。一部が色付けされていたが、それを見ても私には何も分からなかった。
「その結果、三つの特徴が分かった。一つは彼女の脳内では、ジメチルトリプタミンという神経伝達物質が大量に分泌されていることだった。これはセロトニンと同じ生合成経路を持ち、セロトニンからジメチルトリプタミンに変換される。セロトニンは神経を安定、沈静させる作用があり、脳幹正中部に位置する神経核、縫線核で生産される」
そう言って脳を横から見た断面図の下部でカーソルを回す。その部位は脳の真ん中から下へと伸びていて、外側の松ぼっくりのような影の隣だった。
「ジメチルトリプタミンは低酸素ショック時などに生合成され、中枢神経系のシグマ1受容体に作用し、脳へのダメージを軽減するとされる。そしてこのジメチルトリプタミンは、その際に幻覚作用を引き起こすことがある。それは向精神薬による幻覚や、臨死体験で見るイメージに関係しているとされる」
虹架は次に、上から見た断面にカーソルを動かす。脳の中央に羽を広げた蝶のような影があり、その左右に赤く色付けされた細く短い紡錘状の線があった。
「二つ目に、前障と呼ばれる脳の領域の、神経細胞の発火頻度が高まっていることが確認された。前障は大脳皮質の深部に位置する薄い構造で、両側の大脳半球に存在し、視床や海馬、扁桃体と隣接している。前障は意識のオン・オフに関係しているとされ、電気刺激を与えると意識が消失し、電気刺激を止めると意識が回復したという報告がある」
虹架は、正面から見た断面の、脳の輪郭をなぞるようにカーソルを動かす。内側の部位に比べて少し暗くなっていた。
「そして三つ目に、大脳新皮質の活動がある。大脳皮質は脳の最も外側にあり、大脳の表面に広がっている神経細胞の薄い層だ。6層ある垂直方向の細胞構築と、水平方向の機能局在の特徴を持つ。脳の進化的に最も新しい部分で、新皮質と呼ばれる深層、4から6層目は哺乳類に特有の構造だ」
「へえ」
と風香が漏らす。
「この5・6層目で意識が形成されていると考えられている。麻酔などによりこの層が乱れると、意識が消失する。また視覚情報などを受け取った際は、2・3層で基本的な特徴が検出され、4層が橋渡しをして、5・6層で情報の統合や選択的な処理がされる。記憶を想起する際はこの信号が逆方向に流れる。彼女は画像が表示される前、5・6層目が先に反応を示していた」
「つまりどういうことなんですか?」
すっかり私より風香の方が興味津々といった様子だった。
「彼女は実験で起きることを思い出しながら、実験を受けていたといえるかもしれない。これらのことから、特定の神経伝達物質の分泌と、脳の部位の活動が、予知的感覚に関係している可能性が高い」
「でもそれでどうして予知ができるんですか?」
「これは私の仮説──というほどでもない、ただの思索なのだが。もしも意識というものが量子的な性質を持っていて、過去と現在、未来で量子もつれ状態にあるとしたら、未来を予知したり、過去に干渉できるのではないかと考えている」
「えっと、意識が過去や未来に行けるってことですか?」
しかし風香は何も知らずに虹架の助手をしていたのだろうか。ただ私ではうまく質問できなかっただろうし、風香が同席してくれてよかったと思った。
「まず君たちは、量子力学についてどの程度知っている?」
「いまいち分かんないです」
それに私も同調する。
「名前ぐらいしか聞いたことない……」
虹架は特に呆れる様子もなく、淡々と続ける。
「量子力学とは原子や分子、原子を構成する電子や素粒子など、ミクロなスケールの物質やエネルギーを対象とする現代物理学の一分野だ。この量子力学のミクロなスケールの世界では、古典的な物理法則の支配するマクロなスケールの世界では見られない、奇妙な振る舞いと現象が起こる。またミクロなスケールでは粒子が粒子性と波動性の二重性質を示す特徴がある」
「あれですよね? 光は波だけど、粒子でもあるってやつですよね?」
「光は検出器によって観測された時や、物質と相互作用した際に粒子性を示す。またエネルギー準位が低下した際に物質に吸収され、物質内で電子の励起を引き起こすことがあり、これが粒子性を示唆している」
虹架は寡黙なようで、科学者の宿命か、彼女の得意分野になると饒舌になる。しかし一切表情を変えず、一定の声音で淡々と続ける。それは美女の形をしたアンドロイドが原稿を読み上げているような無機質な印象を抱いた。なぜかそれが健気に感じ、逆に可愛く思えた。
「二重スリット実験というものがある。粒子と波動の二重性が実に奇妙な様子で現れる。スリットとは切れ目や隙間を意味する。この実験では壁を二枚置いて、手前には光や粒子が通過できるように二つのスリット、切れ目を設ける。次に光源から光子を一つずつ発射する。この光子はスリットを通過して、奥の壁にあるスクリーンに衝突して感光し、明るい帯と暗い帯の交互のパターン、干渉縞を形成する。波動性が示唆される典型的な干渉パターンだ。このことから光子が波動性を持つ、電磁波であることが分かる」
虹架がパソコンで、『二重スリット実験 干渉縞』と検索する。スクロールし、適当なものが見つかったのか、一枚の画像をクリックする。それは畝状になった、ノイズのような明暗が交互に繰り返されていた。
「しかし干渉縞は光子同士の干渉、波動の位相によって強弱が生まれ、パターンを形成する。この実験では光子を一つずつ発射しており、光子同士の干渉が起こりえないはずだった。それなのに干渉縞を形成した。このことから光子はスリットを通過した後、波動となって、いくつかの位置では同じ位相で重なり強化され、別の位置では波が逆位相で重なり相殺されたと考えられた。あるいはスリットを通過する前に波動となり、同時に二つのスリットを通過して、定常波のような位相の山と谷を形成した可能性も考えられた。そこでどちらの、あるいは同時にスリットを通過したか観測するための機器を設置して再度実験をした。今度の実験では干渉縞が消失し、スリットの形に対応した二本の分布パターンが形成された。これは観測が波動関数の崩壊を引き起こし、光子が特定の位置に存在する確率を確定され、粒子性を示したとされる」
虹架は話しながらもスクロールして別の画像も探していたようだったそして先ほどとは別の画像を開く。それは黒い背景に、二本の白い線があった。
「つまり見ていない時は波で、見ていると粒になるってことですか?」
「そうだ」
「観測者効果ってやつでしたっけ?」
「そうだ。観測という行為によって特定の状態が実現する、量子デコヒーレンスという現象だ。──そして本当に奇妙な現象が起こるのは次の実験だ。まず複数の光子ペアを作成する。この光子ペアは量子もつれ状態にある。そのペアの一方の光子をスクリーンに向けて発射。観測をしていないので干渉縞のパターンを形成するはずだ。次にペアのもう一方の光子を発射する際、無作為に経路を観測する。そして先のスクリーンを確認すると、観測された光子のペアは粒子性を示し、観測されなかったペアは波動性を示していた。この実験によって、量子系の観測が過去の事象に影響を及ぼすという、奇妙な結果が示された」
「え、待って、どういうことです? 観測したのは後なんですよね? 先にやった方は一回も観測していないんですよね?」
風香は驚いたように身を乗り出した。
「未来における観測結果が、過去の事象を決定するということだ」
なぜ虹架がこんな話をしているのか、私はようやく分かってきた。
「でもどうしてそんなことが起こったんですか?」
「量子もつれという現象がある。これは二つ以上の粒子が相互に関連付けられ、一方の粒子の状態が観測されると、他方の粒子の状態が瞬時に確定するという相関だ。たとえば量子もつれ状態にある光子のペアがあったとする。この量子もつれ状態にある光子ペアは偏光状態──光の波動の振動が特定の方向に揃った状態──で、一方の光子は縦揺れ、もう一方の光子は横揺れの関連でもつれているとする。この量子もつれ状態にある光子ペアの、一方の光子が観測され、縦揺れであると確定すると、もう一方の光子が横揺れであることが瞬時に確定する。この性質を応用したものに、量子テレポーテーションという理論がある。量子もつれ状態の粒子ペアを利用して、一方の粒子の状態を確定させ、別の場所にあるもう一方の状態を確定させることで情報を転送するという理論だ。仮に縦揺れ状態を0、横揺れ状態を1のビットに見立て、一方を確定することで、別の場所にあるもう一方へ瞬時に情報を伝えることができる」
「つまり、その量子もつれ状態にある光子ペアの一方を、未来において確定させたら、過去の結果に影響を与えた、ってことですか?」
「そういうことだ。この現象については、この世界の法則がそうである、と理解するしかない」
私は二人のやりとりに、教育番組か放送大学を見ている気分だった。
虹架は続ける。
「そして人の思考や感情、脳の機能や活動は、化学・電気信号によって情報が伝達、制御される。そのイオンチャネルや神経伝達物質の挙動が、一部で量子効果の影響を受けている可能性がある」
「人の脳の中でも、そういう現象が起きているってことですか?」
「生物のミクロなスケール、分子構造の中では量子効果が発生し、その活動に影響を与えている可能性がある。たとえば植物は光合成において、光エネルギーを化学エネルギーに変換する際、量子共鳴が効率的なエネルギー転送に寄与しているとされる。これはエネルギーが複数の葉緑素分子間で共有され、最適な経路を見つけることでエネルギー転送の効率が向上する現象だ。また生命の基本情報であり設計図であるDNAの分子構造。この領域で起こる現象に、一部で量子効果が関連しているとされる。たとえばDNAの水素結合において、水素原子のトンネル効果が発生することがある。この水素原子から放出された電子、あるいはイオンが塩基に衝突した際、塩基の分子式が変わって異性体となり、塩基の配列に影響を与えて突然変異を起こす。このことから量子効果が生命の進化に関係している可能性がある」
「人や生物の体の中では、量子効果が起きているってことですね?」
「そうだ。そして人の意識や記憶に量子的なプロセスが関与し、それが予知的感覚および現象を起こし、過去あるいは現在に影響を及ぼすのではないか。と私は推測している。ただあくまで私の空想だ。まだ何も立証されていない」
「なるほど……」
「ここまでがトロイメライ計画の第一段階における研究成果だ。第二段階では、この脳の状態を第三者に人為的に再現し、予知的感覚が発現するか検証する」
杏奈はその第二段階で被験者になったのか。
「杏奈もやったの?」
「いや。彼女は十年前に、君と一緒に私の実験に協力してから、それ以降は私の実験に関与していない」
「その第二段階ではどんなことをするの?」
「第一段階で得られた情報をもとに、被験者に化学物質を投与。次に反復経頭蓋磁気刺激法、rTMSで被験者の脳の特定部位を刺激して、神経細胞の発火を誘発する。これらにより予知的感覚の状態を再現する」
「その第二段階の実験、私にしてもらうことはできないかな?」
虹架は少し考えるように動きを止めた。
「この実験は私自身で試して、安全性を確認してから被験者を募る予定だった。だが実験の目的や内容を理解し、リアルタイムで機材の操作をできる者が私以外にいない」
「私がいるじゃないですか? 私が操作しますよ!」
と風香。
「君は……」
と珍しく虹架が言い淀んだ。
私はここで踏み込む。
「それなら被験者に、私がちょうどよくない? 私には過去に戻った経験があるから、うまくいくかも」
「ただこの実験にはリスクがある」
あの虹架に微かな緊張が走ったように見えた。体勢を崩し、ため息のような短い吐息を漏らした。彼女でも困ることがあるのだと、当たり前のことだがなぜか感心した。
「まずジメチルトリプタミンを合成した化学物質の投与。これには幻覚作用を引き起こすだけでなく、高体温や筋肉の痙攣、もしかしたら命に関わる副作用が起こるかもしれない」
私はその程度のリスクはどうでもよかった。ただ不吉な予感がした。杏奈が言った、私が死ぬことと、虹架が危険だという話はこのことなのかもしれない。
「そしてrTMSによる脳の特定部位への磁気刺激。これは刺激部位に痛みや不快感を感じることがあり、数日間頭痛や吐き気が続く可能性もある。また経頭蓋磁気刺激はそのメカニズムと安全性が十分に検証されていない。一部の脳領域への刺激は未知の潜在的なリスクがある。取り返しのつかない後遺症が残る可能性はゼロではない」
「そのぐらいだったら別にいい」
虹架の危惧することも分かる。仮に私が死んだとしたら、彼女はいろいろと困ったことになるだろう。
「それでも私は、過去を変えたい」
「いいだろう。もし何かあった場合は、私が責任を負う」
虹架は表情ひとつ変えない。しかし彼女の氷のような美貌に、微かな亀裂が走ったように私は感じた。
* * *
その部屋は同じ研究棟の中にあり、窓のない密閉された空間だった。そこには人の背丈よりも大きなドーナッツ状の機械──fMRIの装置があった。その中空の手前に寝台のような検査台がある。私は近未来のカプセルホテル、そんなことを思って一人おかしな気持ちになった。
私は例によって検査着に着替え、台の上に仰向けに横たわる。また直前に錠剤を飲まされていた。著しく気分が悪くなったり、体調の変化は感じなかった。ただ緊張のせいか、息苦しさのような、熱っぽさを感じた。
検査台の頭の部分には、被験者の頭部を乗せる枕状のクッションと、二つの円盤状のヘッドコイルがあった。虹架はそのコイルを私の頭の左前と右横に添えた。
「左のコイルがTMS、磁気を発生させ脳の特定部位を刺激する。右のコイルがMRIでモニタリングするためのものだ」
虹架が位置を調整しながら説明する。
左のTMS用のコイルは、位置を調整するような器具が検査台の奥の方にあり、そこから伸びていた。
また左のコイルと私の右の額には、アンテナのようなものが取り付けられた。三本の突起があり、先端に灰色の小球が着いていた。
「これはトラッカーという。頭部やコイルの位置を、足元の方にある赤外線カメラがリアルタイムで追跡し、正確に把握する」
さらに実験用の画像を表示するため、私の目線より少し下あたりにディスプレイが取り付けられた。寝ながら本を読んだり、スマホをいじる時よりも、少し下ぐらいの位置だった。
「見づらくないですか? このぐらいの角度で大丈夫ですか?」
そう助手の風香が言った。
「ありがとう。大丈夫です」
それに風香はにっこりと笑った。
「私たちは別室のモニタールームにいる。もし気分が悪くなったり、違和感を覚えたらこのブザーを押してくれ」
そう言って虹架は私の右手にコードのついたスイッチを握らせる。ナースコールのスイッチのようなものだった。
装置が起動すると検査台は上昇し、中空の中にスライドして入っていく。上半身まで入ったところで停止した。
「では別室に移動する」
「うん。また後で」
虹架たちは退室した。
私は一人、箱の中に密閉され、息の詰まりそうな気分になった。
そのうち飛行機が離陸する時のような、金属が高く鳴るような音が聞こえてきた。頭がむずむずするような、頭の中で小さな虫が這い回るような、不快感が込み上げてきた。
そして眼下のディスプレイに画像が表示される。
薄暗い廃墟の写真、大きな腹部の黄色と黒色の縞模様の蜘蛛、体を引きつらせ苦悶の表情を浮かべたミイラ、美味しそうなハンバーガー、キスする二人の女性──ゆっくりと切り替わっていく。
ただ私の中に、画像表示されるより前に、未来を見ているような感覚はまったくわいてこなかった。
それよりも異常に眠くなってきた。留置場の布団より、寝るにはひどい環境なのに。脳みそはかき回され、ガンガンと金属を殴るような音が聞こえてくる。光量も増してきたような気がした。視界が、目のピントが合わなくなってくる。
眠っている場合ではないのに。目の前で切り替わっていく画像。それも曖昧になっていった。瞼が重くなってくる。
瞬きが遅くなっていく。目を閉じている時間が長くなっていった。
瞼を閉じると、朝日を受けて赤熱する、瞼の裏のような光景が見えた。
その光をよく見ると、砂粒のような粒子が無数に集合して、わらわらと動いていることが分かった。瞼の裏、あるいは眼球の中の毛細血管を流れる血球の影か。
気づくとそれは各所で集結し、ぐるぐると回り始めたかと思えば、渦のような様相から、互いに合わさって芋虫のような姿に変わり蠕動を始めた。
なんだかそれを見ているのが楽しくなってきて、私は瞼を開くことをやめた。
その芋虫は紡錘状に膨れ、蛹のようになる。あるいは蕾か。そしてそれは蝶が羽を広げたような、大輪の花が咲いたような姿になる。その羽は、花弁は、炎が燃え上がるように、視野の外へと流れ出していく。
その炎に私の網膜は白熱していく。真っ白な光に私の意識は包まれた。
◆ ◆ ◆
脳を揺さぶるような耳鳴りが消えていた。あの白い光も。
目を開くと、私は自室にいた。
過去に戻れた──いや、もしかしたら勘違いかもしれない。実験中に気絶して、家に送り返されただけかも。
スマートフォンを確認する。一ヶ月前の日付だった。
私が戻った日。杏奈と十年ぶりに再会した日だ。いや過去を変えた結果、今では一年ぶりになっているのか。
私は前日、英美香に杏奈が実家にいることを聞いて、杏奈の実家に行く予定だった。
私はこの日に戻れたら、何をするかあらかじめ決めていた。
まず荷造りをする。下着や衣類を三日分ほど鞄に詰める。スーツケースで行けばおおげさにすぎるだろう。
次にスマートフォンでテキストを入力し編集できるアプリをダウンロードする。そして退職届のフォーマットを調べ、それに倣ってテキストを準備し、データを書き出す。コンビニでそれを印刷して、退職届を封筒に入れ、駅に向かう途中の郵便ポストに投函した。
第一段階完了──
過去の私はこのことをどう解釈するだろうか。そのまま素直に仕事をやめてくれたらいいが。どちらにせよ私なら、きっと杏奈のことを優先するはずだ。
地元に着いた私は改めてコンビニに寄る。
彼女の置かれている状況は分かっているので、ゼリーやスポーツドリンクを買っていく。それとポリ袋の束を買った。
そして私は再び赤星家の前にいた。予定の第二段階だ。
私はインターフォンを押す。
『はい』
「西塚小夜子です」
玄関が開く。慌てた様子で赤星杏奈の母が出てきた。記憶の中だけでなく、再びこの光景を見るのは奇妙な気分だった。
「サヨちゃん、久しぶりね。杏奈ちゃんに会いにきてくれたの?」
この世界線では中高時代に何度か杏奈の家に遊びに行ったので、彼女は私のことを知っていた。
「はい」
「杏奈ちゃん、今、具合が悪くて……」
「話だけでもさせてもらえませんか?」
「そうね……」
杏奈の母は、杏奈のことをあまり知られたくない様子だった。そもそも彼女は杏奈のことをどうするつもりだったのだろうか。もし私が来なければ、あの暗闇の中で杏奈は孤独に死んでいたかもしれない。そう思うと私は彼女へ怒りが湧き、強引に杏奈を引き取った。ただ私自身のその態度もよくなかった。それで互いに軋轢が生じてしまった。もう少し温和に杏奈を引き取り、あの事態を回避することができたかもしれない。
私は家に上がり、杏奈の部屋に向かう。
ノックをする。二日ほど引き離されただけなのに、ずっと会えてなかったような気持ちになった。
「杏奈。小夜子だよ」
ドアの向こうで物音がした。
私は緊張した。以前は、ただただ恐ろしかったが、今は彼女に会えることが嬉しくて仕方なかった。
ドアノブが何度も乱雑に鳴らされた。つい一ヶ月と少し前のことなのに、懐かしくて口元が綻んだ。
そして勢いよくドアが開く。
ぼさぼさの黒髪に、ぼろぼろにやつれた彼女がいた。
「サヨちゃん……」
淀んだ黒い瞳でじっと私を見つめてくる。動揺している様子だった。
私は彼女を抱きしめた。
「杏奈。会いたかった……」
「サヨちゃんが、来てくれた……」
「ごめんね、遅くなって。もう大丈夫だから」
私の腕の中で杏奈が泣いていた。
「一緒にお風呂入ろうか。そのあとご飯にしよう」
「うん……」
抱きしめ、頭を、背中を撫でる。酸っぱい臭いがしたが気にならなかった。
私は杏奈を支えて階段を降りる。
「気をつけてね」
彼女はたどたどしく、一段ずつ、階段を降りていく。
階下には彼女の母が驚いた様子で私たちを見守っていた。
私は軽く会釈する。
「すみません、お風呂借ります」
家の間取りは大体分かっていた。脱衣所で彼女の服を脱がし、洗濯機に入れる。下半身は汚物に汚れていた。私たちは裸になり、浴室に入る。
杏奈は不安そうに私を見ていた。
「大丈夫だからね。また一緒に暮らそう」
ふと疑問が首をもたげた。この杏奈は私と一緒に暮らした時の記憶があるのだろうか。しかしこの時点では未来のことになるから、なくて当然だろう。
私はシャワーが温かくなったのを確認して、後ろから抱きしめるように彼女の体を支え洗った。一通り濡らすと、彼女の膝が崩れそうになっていたので、バスチェアに座らせた。
私は膝をついて、後ろから彼女の髪を、手近なスポンジを手に取って背中を洗う。体を寄せて、前に手を回して、胸や腹を優しく洗った。
それにくすぐったそうに杏奈は声を漏らした。
時間をかけて彼女の体を洗った後、脱衣所にあった彼女のものと思しき下着とパジャマを着せる。髪は束ねて、背中を濡らさないようにする。落ち着いたら丁寧に乾かそう。
とにかく憔悴しきった彼女をリビングで休ませる。
「食べられる?」
私はスプーンでゼリーを掬い、彼女の口に運ぶ。
それに彼女は弱々しく口を開いて、ついばむように口にした。
「もう大丈夫だからね」
「サヨちゃん、私……」
安心したのか杏奈がぼろぼろと泣き始めた。私は彼女の前に膝をつき、両手を握ってなだめる。
「頑張ったね。杏奈。遅くなってごめんね」
「ううん……」
「少し休んでて。ちょっと部屋の掃除してくるね」
「いかないで……」
私が立ち上がると、杏奈が服の裾を掴む。
私は杏奈を抱きしめ、頭を撫でる。
「大丈夫だから。もうどこにも行かないよ。部屋の掃除が終わったら、一緒に寝よう」
「うん……」
私はリビングを出る際、杏奈の母が立ち尽くしているのに気づいた。とにかく私は彼女の母のケアもしなければならない。
第二段階、杏奈の実家に泊まり込む作戦──
「すみません、少しの間、泊まってもいいですか? 杏奈のそばにいたいんです」
「あの子も、その方が嬉しいみたいだから」
そのための居住スペースを確保しなければならない。
そのための第三段階、お片付け作戦だ。
私は杏奈の部屋の窓を開けて換気する。散乱した本やCD、脱ぎっぱなしになった衣類、杏奈にとって大切なものもあるかもしれないので、分別してポリ袋に入れておく。
食べカスや汚物のようなものはゴミ用の袋に集めた。
ベッドは無事のようだったが、布団やシーツも新しくした方がいいかもしれない。
私はある程度で掃除を切り上げ、ベッドに杏奈を寝かしつける。
杏奈はベッドに仰向けに寝ながら、不安げに私の手を握り、じっと見つめてくる。
私は彼女を落ち着かせるため──いや、私自身がそうしたくてキスをした。かさかさの唇を、そっと湿らせた。
「サヨちゃん、行かないで……」
この後は杏奈の母に念押しをする予定だったが、杏奈が私の手を離してくれなかった。彼女の手を振り解いてでも、作戦を継続するなど私にできるわけがない。
ここからは過去の私を信じるしかない。
私は杏奈の横に入る。彼女の痩せた体に腕を重ねた。少しでも彼女を温めてあげたかった。
「一緒にいるから安心して」
「うん……」
このまま地元に残り、彼女の家で生活することができれば、逮捕されることもないだろう。過去が変われば、彼女と引き離されることなく一緒にいられるはずだ。
杏奈と私の鼻先が触れ合った。すがるように彼女の手が、私の服を掴んで、微かにふるえていた。
次に目覚めた時、私はどこにいるだろうか。
検査台の上で実験の真っ最中だろうか。もしかしたらまた留置場の中にいるかもしれない。
杏奈の隣にいることを祈って、彼女の温もりを抱きしめながら、私は眠りにつく。
◇ ◇ ◇
私の目の前に見慣れない、見覚えのない天井があった。
それと同時に過去を変えたことを確信した。
今日までのことを思い出す必要はない。
私は、私の傍に温もりがあるのを感じた。
杏奈がいた。彼女は穏やかに目を瞑り、寝息を立てていた。
私は彼女の頬を撫でる。
柔らかく、しっとりとした手触り。夢じゃない。現実だ。
杏奈がゆっくりと瞼を開く。蕾が花開くように、彼女は微笑んだ。
「サヨちゃん、おはよう」
「おはよう、杏奈」
二度と彼女を手放さない。
私は杏奈にキスをした。そのまま彼女の上に覆い被さる。
杏奈は両腕を私の体に絡めてくる。
その時、ドアがノックされた。
私は驚いてドアの方を見る。
「朝ご飯できたわよ」
杏奈の母の声だった。
「はい! 今行きます!」
私は赤星家に泊まり込み、杏奈の世話をしていることを思い出した。
さすがに彼女の実家で、母親もいるのに事を始めるのに抵抗があった。
私は杏奈と顔を見合わせて笑う。
私はソファに座り、顔を覆う。深く息を吸い、肺をいっぱいにしてから、長く息を吐き切った。
もう一度、彼女との生活を取り戻す。改めて覚悟を決める。
私はメールの入力画面を立ち上げる。宛先は浅羽虹架。
『件名:西塚小夜子です
本文:お久しぶりです。赤星杏奈の友人の西塚です。高校時代に一度お会いしたかと思います』
書き出しはこんなものでいいだろうか。
私は続けて書く。
『その際には超能力実験、いわゆる予知能力に関する実験に参加しました。その後、研究のほどはいかがでしょうか。今回連絡したのは、もしかしたらそれに関係があるかもしれない、お尋ねしたいことがあるからです』
そこで手が止まった。
肝心の眠ると過去に戻る現象について、どう説明して、どう聞けばいいのだろうか。
あなたは過去に戻る方法を知っていますか、と単刀直入に聞いてしまおうか。ただ不審がられたり、警戒されて無視される可能性がある。当たり障りのない内容でも、目を通してもらえないかもしれない。
脳科学を研究をしている彼女が興味を持つよう仕向けられないだろうか。
『先日、赤星杏奈さんと話して、お互いに不可思議な体験をしたことが分かりました』
虹架は今の杏奈の状態を知っているだろうか。もし知っていたらどのように思っているだろうか。考えていても先に進めない。もし返信がなければ、彼女が所属している研究室も分かっているので、直接会いに行けばいい。
私は意を決して先を進める。
『それは眠った際に、過去の記憶している日に戻れる、という体験です。夢を見ているだけ、過去を思い出しているだけと言われたらそれまでなのですが、この体験ではそこでの行動が過去を変え、それが現在にも影響を及ぼします。私だけであれば私自身の正気を疑いますが、それが赤星さんの身にも起きていました。これが何らかの脳の異常なのか、以前の実験に関係するものなのか、あなたの見解をお聞かせいただけないでしょうか。つきましては一度お会いしてお話しさせていただきたく存じます。何卒よろしくお願いいたします』
そこで私は推敲もせず、送信する。
本職の研究者に、こんな内容のメールを送って相手にしてもらえると思えない。それでも浅羽虹架がこの現象に関わっていて、今の彼女に心当たりがあれば、何かしらのリアクションがあるのではと、祈るように期待した。
メールを送った後、私は気が抜けた。というよりも何も考えたくなくて、スマートフォンを手放し、ソファに身を預けた。
電話の着信にスマートフォンが振動していた。それに私は目を覚ました。そのままソファで眠っていたようだ。スマートフォンを手に取る。玄野先輩からの電話だった。やはり過去には戻れていなかった。昨日から続く悪夢のような現実の中に私はいた。
私は先輩からの着信を無視した。それよりも私は時刻を見る。正午を回っていた。彼女は昼休憩の時間に電話してきたのだろう。
警察から職場に連絡が入っているだろうか。逮捕されたことも釈放されたことも。その辺りのことはよく分からなかったし、興味がなかった。
過去を変えることができれば、勝手に私は通勤していたことになるだろう。
もし過去を変えることができなければ、その時は、私はどうしようか。
私はスマートフォンの電源ボタンを軽く押し、ディスプレイを消す。着信中に一回押せば、振動と着信画面を消すことができた。しばらくして着信通知のポップアップが出てくる。そのポップアップの下に、メールの通知があった。
私は急いでそのメールを開く。
浅羽虹架からだった。
『お久しぶりです。浅羽虹架です。当時は私の拙い実験にご協力いただきありがとうございました。さてあなたの体験された現象についてですが、私の研究領域に関するもので、大変興味深く存じます。一度ご都合のよろしい時にお会いできないでしょうか? 平日および土曜日であれば終日、大学院の研究室にいますので、ご足労おかけしますが、訪問いただければ幸いです。ただ学会の予定などもありますので、事前にご連絡をいただけますでしょうか。何卒よろしくお願いいたします』
心臓が痛いほど高鳴り、指先が震えた。なんとか希望を繋ぐことができた。
私は急いで返信をする。
『ご返信いただきありがとうございます。近日中ですと、いつがご都合よろしいでしょうか? 今日か明日ですといかがでしょうか?』
今すぐにでも会って話したかった。こんな荒唐無稽な内容に返信してくれて、なおかつ会おうと思ってくれるということは、何か心当たりがあるのだろう。期待に指が震えていた。全身を血液が駆け巡るのをむず痒く感じた。
いつ返信がくるか、何度もメールフォルダを再読み込みした。おそらく彼女は大学院のパソコンから返信している。いつ私の着信に気づき、返信してくれるか分からない。
何も他にすることもないので、私は何度も何度もリロードする。一時間でもそうしているつもりだったが、返信は数分後にきた。
『明日の正午、十二時ではいかがでしょう? 研究室に入るにはIDが必要なので、キャンパス内の指定する場所で待ち合わせできればと存じます。また念の為、私の電話番号を記載しておきます』
私は思わず「よしっ!」と声を漏らした。
虹架と会う約束を取り付けることがきた。
夜、私は一人、ベッドで横になる。
隣に杏奈がいない。
部屋の中には、シーツには、彼女の匂いが残っていた。もう一度彼女に触れたい。あの瞳で見つめてほしい。
明日一日で何かが変わるとは思えない。
もし虹架と会っても過去に戻れなければ、杏奈の母に連絡をとって説得をするか。ただ逮捕までされた私が連絡をすれば、恐怖を与えてしまう可能性がある。
英美香に今どうなっているか確認してもらおうか。私の母は、私が逮捕されたことを知っているだろうか。
取り留めもないことばかり考えてしまう。
とにかく過去に戻る条件がこの場所で眠ることであってほしい。そう願った。
* * *
金曜日、朝──
私は虹架の在籍する大学院のキャンパスにいた。
約束の時間は正午だが、迷子になる懸念もあり、二時間前に着くよう向かった。
広大な敷地には、校舎がいくつもあった。廊下部分がガラス張りの真新しいものもあれば、レンガのような赤茶けた外壁のレトロなものもあった。
また歩道に沿って、広葉樹や低木が植えられていた。キャンパス内には広場だけでなく、庭園や池もあった。夏にくれば蓮が咲いているようだ。
私は虹架の指定した、彼女の研究室のある校舎近くのカフェに入る。特に彼女と昼食の約束をしているわけではないので、早めの食事を済ませることにした。
ガラス張りのカフェ内には、四人がけの丸テーブルと、窓に面したテーブル席がいくつかあった。学生の姿がまばらにあった。講義の間の時間潰しをしているのだろう。大学と大学院が共通のキャンパスを使用しているので、どちらの学生かは分からない。
私は少しでも気分を高めようと、値の張るローストビーフのサンドイッチとオレンジジュースを注文する。それを受け取ってから、カフェの入り口が見える席に座った。いつ彼女が来てもいいように。
私は片手にサンドイッチ、片手にスマートフォンを持ち、彼女からの連絡、あるいは彼女自身が来るのを待つ。
結局、昨夜は過去に戻ることができなかった。何か条件があることは確かだ。
眠れば過去に戻ることができるわけではない。それは留置場で分かった。自室で眠ることも条件ではないようだ。それも昨夜に分かった。
ただ杏奈と一緒に眠ることが条件だとしても、それが最近になって起きるようになった理由が分からない。
杏奈は浅羽虹架の研究か何かで、過去に戻れたようなことを言っていた。
彼女の研究が、過去に戻ることと関係しているのなら、協力を得ることができれば、もう一度過去に戻れるかもしれない。
私は時計と入り口を何度も交互に見る。
急用ができて彼女がこなかったらどうしようか。今になって不審に思い会うのを拒まれたら、などと不安な気持ちがよぎる。
スマートフォンを握る手に汗がにじむ。
正午、五分前──
幸いにもそれは杞憂になった。自動ドアをくぐって、見間違うわけのない、彼女の姿が現れた。
もともと研究室のウェブサイトに掲載されている彼女の近影を見た時から、恐ろしいほどに美しくなっていることは分かっていた。
しかし実際に目にすると、小顔で細身、少し背の高い彼女は、大人びて、より人間離れした美しさを帯びていた。透き通るような白い肌に長い黒髪。白衣の下には黒のトップスとタイトなパンツスタイル。黒縁のスクエア型の眼鏡は地味な印象を受けるが、艶やかな紅色の唇が際立ち、それがエロティックだった。
私は席を立ち彼女の方へ向かう。
彼女はカフェ内を軽く見回すと、すぐに私に気づいたようで、こちらへ歩み寄ってくる。
「十年ぶりか」
「そのぐらいになるかな」
低く澄んだ声だった。人形のように美しい彼女の顔には、何の感慨も親愛もない様子だった。それは当たり前のことなのだが。
私自身も彼女とは一度しか会ったことがない。それに彼女と会った過去、事実はあるが、私自身が彼女と会うのは今日が初めてだった。それなのに相手に知られているというのは奇妙な気持ちだった。
「昼食は済ませたか?」
「先に食べちゃった」
「そうか。飲み物を買うが、何か飲むか?」
「私は大丈夫」
私たちは旧交を温めることもなく、カウンターに向かう。もともと私たちの間に友情も何もない。こうして時間を作ってくれたのが意外だった。
虹架は揚げパンと大麦コーヒーを注文する。
「それってコーヒーと違うの?」
「酸味がなくて飲みやすい。カフェインが含まれていないから、寝る前に飲んでも影響がない」
「そうなんだ」
気になったので私も注文することにした。
「私もそれ買おう」
「それなら私が出す」
「いや、悪いよ」
「わざわざ来てもらったのだから、ここは出させてくれ」
「それじゃお言葉に甘えて……」
虹架が気を悪くしては困るので、素直に従うことにした。
店員が提供してくるのを待つ間、不意に虹架が聞いてくる。
「赤星杏奈は今どうしている?」
「杏奈は、ちょっと病気で……」
「そうか」
それ以上は何も聞かれなかった。虹架は杏奈の病気を知っているのだろうか。私が逮捕された件は、特に報道もされていないようで、虹架に警戒心を抱かれている様子もなかった。
私たちは商品を受け取りカフェを出た。
* * *
私たちは虹架の在籍する研究室のある校舎、研究棟に入った。研究室のドアは、虹架が学生証でオートロックを解錠する。
ドアを開けると、研究室には先に一人の女性がいた。薬品棚を整理している様子だった。私たちに気づいて振り返る。二十代前半だろうか。もっと若くも見える。大学生のようだった。
彼女は私たちに気づくと、驚いた顔をする。
「え、先輩、本当に友達いたんですね」
それに虹架は答えず、
「助手の須藤風香くんだ」
と彼女を紹介する。
須藤風香はあどけなさの残る目元を細めて笑う。
「初めまして、須藤です。心理学部三年です。浅羽先輩の助手をしてます」
前髪は左に流し、セミロングの後ろ髪は肩先で軽く跳ねていた。やや丸顔で、卵型の滑らかな輪郭をしていた。背は私より少し低いだろうか。白衣の上からも胸の輪郭が浮かんでいた。おそらくDぐらい。大学三年生ということは二十歳か二十一歳か。私たちより五歳下になるだろうか。
「彼女が同席しても大丈夫か? 彼女も多少、事情は知っている」
それに私はためらった。初対面の人を前に、自分の身に起きた、自分でも正気を疑うようなことを話すのは抵抗があった。
とにかく虹架の好感を引き出し、彼女の協力を得なければならない。
「うん。大丈夫」
「ありがとう。とりあえずその辺の椅子にかけてくれ」
研究室の中には、デスクや作業台、冷蔵庫のようなものがあった。デスク上にはパソコンや顕微鏡があり、その後ろにある棚には薬品類と思われるものが並んでいた。さまざまな機材があるからでなく、虹架の実家の部屋に比べて狭かった。
キャスター付きの椅子もいくつかあり、風香が椅子を引いてくる。
「どうぞ」
「ありがとう」
私は椅子を受け取り、それに座る。緊張で口が乾いてきた気がした。私は大麦コーヒーというやつを初めて口にした。コーヒーにしては酸味がなく、麦茶を苦くしたような感じで、意外と飲みやすかった。
虹架が向かい合うように座る。少し離れて風香が座った。
「まず君の身に起きたことを教えてくれ」
私はなるべく風香のことを気にしないようにして、虹架にこれまで体験したことをざっくりと話した。
「眠ると、次に目覚めると過去にいて、その過去で眠ると現在に戻る。夢を見ているだけといえばそれまでだけど。それだけで本当に過去に戻ったなんて思わない。その夢の中でした、過去を変えるような行動が現在に影響を与える。たとえば過去の夢の中で、好きだった人に告白をして、実際に付き合っていたことになっているとか。自分の経験した過去、人生ではそんなことなんてなくて、それなのに変えた過去が事実となって、現実にあったことになっている。そして過去が変わってからの、今に至るまでの記憶が私の中にある。同時に変わる前の記憶がそのまま、私の中に二重で残されている」
虹架と実際に会うこと自体、私にとっては初めてだった。過去の私が彼女と一度会ったことがあるが、私にとっては記憶の中にあるだけで、現実味や実感が薄い。まるで漫画やアニメの架空の人物に会ったような奇妙な感覚がした。それでも彼女は私のことを知っているのだから、私が過去を変えたというのは事実だと改めて確信した。そのことを虹架に話しても、うまく説明できる自信がなかったので割愛する。
虹架は少し考える仕草を見せた後、
「君の身に起きた現象についてだが。君は過去に意識が戻り、自分の意思で行動することができたのか?」
「うん。ただ過去のある時点に戻ると、その先の記憶も私の中にあるみたいで、注意しないと、その記憶をなぞるように行動するの。意図的に行動を変えることもできて、それによって過去が本当に変わる」
「話を聞く限りでは、心理的に抑圧されていた記憶が回復した、あるいはいずれかが誤った記憶で、それを事実として錯覚している可能性がうかがえる。そのことについて君はどう思う?」
「私も最初はそれを疑ったんだけど、当時では知ることができないことを記録に残して、過去から現在に残すことができた」
私はメールの下書きを見せる。
「手の込んだいたずらと疑われたら、これ以上の証明はできないんだけど。五年前にはまだ連載されていない漫画や、放送されていないアニメのタイトルを略称で、メールの下書きで残すことができた」
作成日、あるいは最終編集日の欄に五年前の日付が表示されている。
ただそれを見ても、氷のように美しい彼女の顔に、波紋一つ広がらなかった。そこへ風香が横からのぞきこむ。
「本当だ。私もこの漫画好きだけど、アニメ化が決まったのはこのメールが書かれたもっと後だから」
風香は同調してくれたようだった。
それによって虹架も多少は信じてくれたのか、
「いつからその現象が?」
と聞いてくる。疑っているのか、信じているのか、あるいは半信半疑なのか。彼女の声音や表情から読み取ることはできなかった。
私はとにかく彼女に信じてもらい、過去に戻る方法を教えてもらうか、探してもらうしか手立てがない。
「それまでは何の予兆もなくて、突然そんな夢を見るようになった。一週間前ぐらいから。ただ一昨日から起きなくなった」
「過去に戻れた理由に心当たりは? 何か事故に遭ったことや、病気にかかったことはないか?」
「それは──」
この現象に杏奈と一緒に寝ることが関係していると推測している。しかし寝る前にセックスしていたことなどは、言うことが憚られた。
「杏奈。彼女も過去に戻ることができたらしくて。今はできなくなった、って言ってた。それで私、一ヶ月前から一昨日まで、杏奈と一緒に住んでいて、一緒のベッドで寝てたの。杏奈と一緒に寝るようになってしばらくしてから、できるようになった」
虹架の表情は少しも動かない。私が杏奈と一緒に暮らしていたなど、それこそ妄想扱いされても仕方ないと思えたが。
しかし虹架は私たちのプライベートには興味がないようだった。
「赤星杏奈が過去に戻れた、というのは、君は事実だと信じるのか?」
「杏奈には私にない記憶があって、私が過去を変えたことで、彼女の記憶に近い過去に変わっていったから、私は本当のことだと思っている。私が過去を変えるよりも前に杏奈が過去を変えて、それから私が過去を変えることで、もとの出来事に近づいていってるんじゃないかって。どうして杏奈がそんなことをしたのかは──」
私が死んだから、というのは、ややこしくなりそうなので割愛する。
「詳しくは分からないんだけど。それと私が過去を変えると、杏奈だけは過去が変わったことを認識できるみたいだった」
虹架がその細く長い指を顎の先に当て、考えるように沈黙する。
「信じられないかもしれないけど。でも杏奈の話だと、浅羽さんのやっていた実験や研究が関係しているみたい。あとなんだっけ。トロンメロン、トロンボーン? みたいな名前の何か、研究していない?」
「なぜ君がそのことを知っている?」
感情の起伏に乏しい虹架の美しい顔に、微かに波紋が広がった。ほんの少し、細い眉と奥二重の切れ長の目が上がった。
「杏奈に聞いたから」
「赤星杏奈が知っているはずがない。私は彼女に、私の研究の、本当の目的を話していない」
「本当の目的?」
微かに語気が荒くなっている。彼女の感情が揺れるのを初めて見た。そのトロンメロンというのは、それだけ彼女を驚かせる言葉だったようだ。
「私が未来予知について研究していたのは、未来から現在に向けて、時間を逆行する何らかの粒子やエネルギー、未知の物理現象や作用が働いているのではないか、そしてそれを人の脳が感知できるのではないかと考えていたからだ。もし実在するのなら、この原理を解明できないまでも利用することで、過去に向けて情報を送り、過去に干渉することが私の本当の目的だ」
「え──」
私は突然の告白に身を乗り出した。
虹架の研究がこの現象に関わっている、それがようやく確信になった。
風香が驚いた様子で言う。
「私も初めて聞きました」
「君には第一段階の研究内容しか話していない」
「ひどいじゃないですか!」
虹架は風香に構わない。
「第一段階では人の持つ予知的感覚およびそれに伴う脳の活動を計測し、分析および仮説を導出することを目的としていた」
虹架は足を組み、深く座り直す。
「私はこの計画をトロイメライ計画と名付けた。トロイメライ、夢や夢想を意味する。シューマンのピアノ曲集『子供の情景』第七曲から。過去に干渉することを目的にした、この計画に適当だと考えた」
それは杏奈が口にした言葉に音が似ていた。
「なぜ赤星杏奈がそれを知っていたのか、そして彼女が過去に戻ることができたというのは本当か、そして西塚小夜子くん、君の身に起きたことが本当だとして、なぜそれが起きたのか。それら疑問に対して辻褄を合わせるのなら──」
虹架の磨かれたような、黒い水面のような瞳が私を見る。
「赤星杏奈は過去を変え、その結果として私との接点がなくなり、私が彼女に計画を話した過去が消滅した。同時に、私が彼女に協力し、彼女が過去に干渉した事実も。そして赤星杏奈は何らかの方法で、君を、第三者を過去に干渉させることに成功した。それに何か心当たりはないか?」
「特には。一ヶ月ほど一緒に暮らしてたけど、杏奈に何かされたことはなかった、と思う」
今の杏奈に、私に対して何か特殊なことをできたとも思えない。一人でまともに出歩くこともできなければ、リモコンを操作することもできない。
「そうか。検証の余地があるな」
虹架が考え込むような仕草を見せる。
私はあまり杏奈のことを掘り下げられたくなかった。
それよりも余裕がない。話を先に進め、虹架の協力を引き出さなければならない。
「そのトロイメライ計画では、どうやって過去に干渉するの?」
「君は一度被験者として、私の実験に参加したことがあるな」
「うん」
「私はあれから千人以上の被験者に予知実験を行ったが、ほとんどのサンプルから有意な結果は得られなかった」
「私も何度かお手伝いしたやつですよね?」
と風香。
「そうだ──」
虹架は続ける。
「そんな中、一人の特異な数値を示すある被験者と出会った。彼女は占い師で、未来を見ることができると称していた。それまでにも占い師や、超能力があると称したり、霊能力者を名乗る被験者はいたが、有意な結果は得られなかった。しかし彼女はすべての実験において、予知的感覚があると考えられる結果を示した。たとえば君も協力してくれた予知実験では、彼女はほとんどの画像表示よりも先に反応が計測された。このことから彼女に未来を予知する能力、感覚があると私は判断した」
あの椅子に座らされて画像を見せられる実験だろう。当時の杏奈の下着姿の画像はその後どうなったのか気になったが、今はそれを確認している場合ではなかった。
「次に彼女の生体電位だけでなく、磁気共鳴機能画像法、fMRIを用いて、予知実験中の彼女の脳の状態をモニタリングした。──MRIというのは強力で均一な磁場を発生させ、人の生体内の水素原子核に干渉し、そこから発する電波信号を受信して、人体の断層を撮影する装置だ。fMRIは仕組みは同じだが、脳の機能や活動を観察するのに用いられる。これにより予知実験中の彼女の脳内における活動や、神経伝達物質の種類や濃度を分析した」
虹架はディスプレイに、モノクロの脳の断面写真を表示する。写真は三枚あった。横、正面、上、から見たものと思われる写真が、左から順番に並べられていた。一部が色付けされていたが、それを見ても私には何も分からなかった。
「その結果、三つの特徴が分かった。一つは彼女の脳内では、ジメチルトリプタミンという神経伝達物質が大量に分泌されていることだった。これはセロトニンと同じ生合成経路を持ち、セロトニンからジメチルトリプタミンに変換される。セロトニンは神経を安定、沈静させる作用があり、脳幹正中部に位置する神経核、縫線核で生産される」
そう言って脳を横から見た断面図の下部でカーソルを回す。その部位は脳の真ん中から下へと伸びていて、外側の松ぼっくりのような影の隣だった。
「ジメチルトリプタミンは低酸素ショック時などに生合成され、中枢神経系のシグマ1受容体に作用し、脳へのダメージを軽減するとされる。そしてこのジメチルトリプタミンは、その際に幻覚作用を引き起こすことがある。それは向精神薬による幻覚や、臨死体験で見るイメージに関係しているとされる」
虹架は次に、上から見た断面にカーソルを動かす。脳の中央に羽を広げた蝶のような影があり、その左右に赤く色付けされた細く短い紡錘状の線があった。
「二つ目に、前障と呼ばれる脳の領域の、神経細胞の発火頻度が高まっていることが確認された。前障は大脳皮質の深部に位置する薄い構造で、両側の大脳半球に存在し、視床や海馬、扁桃体と隣接している。前障は意識のオン・オフに関係しているとされ、電気刺激を与えると意識が消失し、電気刺激を止めると意識が回復したという報告がある」
虹架は、正面から見た断面の、脳の輪郭をなぞるようにカーソルを動かす。内側の部位に比べて少し暗くなっていた。
「そして三つ目に、大脳新皮質の活動がある。大脳皮質は脳の最も外側にあり、大脳の表面に広がっている神経細胞の薄い層だ。6層ある垂直方向の細胞構築と、水平方向の機能局在の特徴を持つ。脳の進化的に最も新しい部分で、新皮質と呼ばれる深層、4から6層目は哺乳類に特有の構造だ」
「へえ」
と風香が漏らす。
「この5・6層目で意識が形成されていると考えられている。麻酔などによりこの層が乱れると、意識が消失する。また視覚情報などを受け取った際は、2・3層で基本的な特徴が検出され、4層が橋渡しをして、5・6層で情報の統合や選択的な処理がされる。記憶を想起する際はこの信号が逆方向に流れる。彼女は画像が表示される前、5・6層目が先に反応を示していた」
「つまりどういうことなんですか?」
すっかり私より風香の方が興味津々といった様子だった。
「彼女は実験で起きることを思い出しながら、実験を受けていたといえるかもしれない。これらのことから、特定の神経伝達物質の分泌と、脳の部位の活動が、予知的感覚に関係している可能性が高い」
「でもそれでどうして予知ができるんですか?」
「これは私の仮説──というほどでもない、ただの思索なのだが。もしも意識というものが量子的な性質を持っていて、過去と現在、未来で量子もつれ状態にあるとしたら、未来を予知したり、過去に干渉できるのではないかと考えている」
「えっと、意識が過去や未来に行けるってことですか?」
しかし風香は何も知らずに虹架の助手をしていたのだろうか。ただ私ではうまく質問できなかっただろうし、風香が同席してくれてよかったと思った。
「まず君たちは、量子力学についてどの程度知っている?」
「いまいち分かんないです」
それに私も同調する。
「名前ぐらいしか聞いたことない……」
虹架は特に呆れる様子もなく、淡々と続ける。
「量子力学とは原子や分子、原子を構成する電子や素粒子など、ミクロなスケールの物質やエネルギーを対象とする現代物理学の一分野だ。この量子力学のミクロなスケールの世界では、古典的な物理法則の支配するマクロなスケールの世界では見られない、奇妙な振る舞いと現象が起こる。またミクロなスケールでは粒子が粒子性と波動性の二重性質を示す特徴がある」
「あれですよね? 光は波だけど、粒子でもあるってやつですよね?」
「光は検出器によって観測された時や、物質と相互作用した際に粒子性を示す。またエネルギー準位が低下した際に物質に吸収され、物質内で電子の励起を引き起こすことがあり、これが粒子性を示唆している」
虹架は寡黙なようで、科学者の宿命か、彼女の得意分野になると饒舌になる。しかし一切表情を変えず、一定の声音で淡々と続ける。それは美女の形をしたアンドロイドが原稿を読み上げているような無機質な印象を抱いた。なぜかそれが健気に感じ、逆に可愛く思えた。
「二重スリット実験というものがある。粒子と波動の二重性が実に奇妙な様子で現れる。スリットとは切れ目や隙間を意味する。この実験では壁を二枚置いて、手前には光や粒子が通過できるように二つのスリット、切れ目を設ける。次に光源から光子を一つずつ発射する。この光子はスリットを通過して、奥の壁にあるスクリーンに衝突して感光し、明るい帯と暗い帯の交互のパターン、干渉縞を形成する。波動性が示唆される典型的な干渉パターンだ。このことから光子が波動性を持つ、電磁波であることが分かる」
虹架がパソコンで、『二重スリット実験 干渉縞』と検索する。スクロールし、適当なものが見つかったのか、一枚の画像をクリックする。それは畝状になった、ノイズのような明暗が交互に繰り返されていた。
「しかし干渉縞は光子同士の干渉、波動の位相によって強弱が生まれ、パターンを形成する。この実験では光子を一つずつ発射しており、光子同士の干渉が起こりえないはずだった。それなのに干渉縞を形成した。このことから光子はスリットを通過した後、波動となって、いくつかの位置では同じ位相で重なり強化され、別の位置では波が逆位相で重なり相殺されたと考えられた。あるいはスリットを通過する前に波動となり、同時に二つのスリットを通過して、定常波のような位相の山と谷を形成した可能性も考えられた。そこでどちらの、あるいは同時にスリットを通過したか観測するための機器を設置して再度実験をした。今度の実験では干渉縞が消失し、スリットの形に対応した二本の分布パターンが形成された。これは観測が波動関数の崩壊を引き起こし、光子が特定の位置に存在する確率を確定され、粒子性を示したとされる」
虹架は話しながらもスクロールして別の画像も探していたようだったそして先ほどとは別の画像を開く。それは黒い背景に、二本の白い線があった。
「つまり見ていない時は波で、見ていると粒になるってことですか?」
「そうだ」
「観測者効果ってやつでしたっけ?」
「そうだ。観測という行為によって特定の状態が実現する、量子デコヒーレンスという現象だ。──そして本当に奇妙な現象が起こるのは次の実験だ。まず複数の光子ペアを作成する。この光子ペアは量子もつれ状態にある。そのペアの一方の光子をスクリーンに向けて発射。観測をしていないので干渉縞のパターンを形成するはずだ。次にペアのもう一方の光子を発射する際、無作為に経路を観測する。そして先のスクリーンを確認すると、観測された光子のペアは粒子性を示し、観測されなかったペアは波動性を示していた。この実験によって、量子系の観測が過去の事象に影響を及ぼすという、奇妙な結果が示された」
「え、待って、どういうことです? 観測したのは後なんですよね? 先にやった方は一回も観測していないんですよね?」
風香は驚いたように身を乗り出した。
「未来における観測結果が、過去の事象を決定するということだ」
なぜ虹架がこんな話をしているのか、私はようやく分かってきた。
「でもどうしてそんなことが起こったんですか?」
「量子もつれという現象がある。これは二つ以上の粒子が相互に関連付けられ、一方の粒子の状態が観測されると、他方の粒子の状態が瞬時に確定するという相関だ。たとえば量子もつれ状態にある光子のペアがあったとする。この量子もつれ状態にある光子ペアは偏光状態──光の波動の振動が特定の方向に揃った状態──で、一方の光子は縦揺れ、もう一方の光子は横揺れの関連でもつれているとする。この量子もつれ状態にある光子ペアの、一方の光子が観測され、縦揺れであると確定すると、もう一方の光子が横揺れであることが瞬時に確定する。この性質を応用したものに、量子テレポーテーションという理論がある。量子もつれ状態の粒子ペアを利用して、一方の粒子の状態を確定させ、別の場所にあるもう一方の状態を確定させることで情報を転送するという理論だ。仮に縦揺れ状態を0、横揺れ状態を1のビットに見立て、一方を確定することで、別の場所にあるもう一方へ瞬時に情報を伝えることができる」
「つまり、その量子もつれ状態にある光子ペアの一方を、未来において確定させたら、過去の結果に影響を与えた、ってことですか?」
「そういうことだ。この現象については、この世界の法則がそうである、と理解するしかない」
私は二人のやりとりに、教育番組か放送大学を見ている気分だった。
虹架は続ける。
「そして人の思考や感情、脳の機能や活動は、化学・電気信号によって情報が伝達、制御される。そのイオンチャネルや神経伝達物質の挙動が、一部で量子効果の影響を受けている可能性がある」
「人の脳の中でも、そういう現象が起きているってことですか?」
「生物のミクロなスケール、分子構造の中では量子効果が発生し、その活動に影響を与えている可能性がある。たとえば植物は光合成において、光エネルギーを化学エネルギーに変換する際、量子共鳴が効率的なエネルギー転送に寄与しているとされる。これはエネルギーが複数の葉緑素分子間で共有され、最適な経路を見つけることでエネルギー転送の効率が向上する現象だ。また生命の基本情報であり設計図であるDNAの分子構造。この領域で起こる現象に、一部で量子効果が関連しているとされる。たとえばDNAの水素結合において、水素原子のトンネル効果が発生することがある。この水素原子から放出された電子、あるいはイオンが塩基に衝突した際、塩基の分子式が変わって異性体となり、塩基の配列に影響を与えて突然変異を起こす。このことから量子効果が生命の進化に関係している可能性がある」
「人や生物の体の中では、量子効果が起きているってことですね?」
「そうだ。そして人の意識や記憶に量子的なプロセスが関与し、それが予知的感覚および現象を起こし、過去あるいは現在に影響を及ぼすのではないか。と私は推測している。ただあくまで私の空想だ。まだ何も立証されていない」
「なるほど……」
「ここまでがトロイメライ計画の第一段階における研究成果だ。第二段階では、この脳の状態を第三者に人為的に再現し、予知的感覚が発現するか検証する」
杏奈はその第二段階で被験者になったのか。
「杏奈もやったの?」
「いや。彼女は十年前に、君と一緒に私の実験に協力してから、それ以降は私の実験に関与していない」
「その第二段階ではどんなことをするの?」
「第一段階で得られた情報をもとに、被験者に化学物質を投与。次に反復経頭蓋磁気刺激法、rTMSで被験者の脳の特定部位を刺激して、神経細胞の発火を誘発する。これらにより予知的感覚の状態を再現する」
「その第二段階の実験、私にしてもらうことはできないかな?」
虹架は少し考えるように動きを止めた。
「この実験は私自身で試して、安全性を確認してから被験者を募る予定だった。だが実験の目的や内容を理解し、リアルタイムで機材の操作をできる者が私以外にいない」
「私がいるじゃないですか? 私が操作しますよ!」
と風香。
「君は……」
と珍しく虹架が言い淀んだ。
私はここで踏み込む。
「それなら被験者に、私がちょうどよくない? 私には過去に戻った経験があるから、うまくいくかも」
「ただこの実験にはリスクがある」
あの虹架に微かな緊張が走ったように見えた。体勢を崩し、ため息のような短い吐息を漏らした。彼女でも困ることがあるのだと、当たり前のことだがなぜか感心した。
「まずジメチルトリプタミンを合成した化学物質の投与。これには幻覚作用を引き起こすだけでなく、高体温や筋肉の痙攣、もしかしたら命に関わる副作用が起こるかもしれない」
私はその程度のリスクはどうでもよかった。ただ不吉な予感がした。杏奈が言った、私が死ぬことと、虹架が危険だという話はこのことなのかもしれない。
「そしてrTMSによる脳の特定部位への磁気刺激。これは刺激部位に痛みや不快感を感じることがあり、数日間頭痛や吐き気が続く可能性もある。また経頭蓋磁気刺激はそのメカニズムと安全性が十分に検証されていない。一部の脳領域への刺激は未知の潜在的なリスクがある。取り返しのつかない後遺症が残る可能性はゼロではない」
「そのぐらいだったら別にいい」
虹架の危惧することも分かる。仮に私が死んだとしたら、彼女はいろいろと困ったことになるだろう。
「それでも私は、過去を変えたい」
「いいだろう。もし何かあった場合は、私が責任を負う」
虹架は表情ひとつ変えない。しかし彼女の氷のような美貌に、微かな亀裂が走ったように私は感じた。
* * *
その部屋は同じ研究棟の中にあり、窓のない密閉された空間だった。そこには人の背丈よりも大きなドーナッツ状の機械──fMRIの装置があった。その中空の手前に寝台のような検査台がある。私は近未来のカプセルホテル、そんなことを思って一人おかしな気持ちになった。
私は例によって検査着に着替え、台の上に仰向けに横たわる。また直前に錠剤を飲まされていた。著しく気分が悪くなったり、体調の変化は感じなかった。ただ緊張のせいか、息苦しさのような、熱っぽさを感じた。
検査台の頭の部分には、被験者の頭部を乗せる枕状のクッションと、二つの円盤状のヘッドコイルがあった。虹架はそのコイルを私の頭の左前と右横に添えた。
「左のコイルがTMS、磁気を発生させ脳の特定部位を刺激する。右のコイルがMRIでモニタリングするためのものだ」
虹架が位置を調整しながら説明する。
左のTMS用のコイルは、位置を調整するような器具が検査台の奥の方にあり、そこから伸びていた。
また左のコイルと私の右の額には、アンテナのようなものが取り付けられた。三本の突起があり、先端に灰色の小球が着いていた。
「これはトラッカーという。頭部やコイルの位置を、足元の方にある赤外線カメラがリアルタイムで追跡し、正確に把握する」
さらに実験用の画像を表示するため、私の目線より少し下あたりにディスプレイが取り付けられた。寝ながら本を読んだり、スマホをいじる時よりも、少し下ぐらいの位置だった。
「見づらくないですか? このぐらいの角度で大丈夫ですか?」
そう助手の風香が言った。
「ありがとう。大丈夫です」
それに風香はにっこりと笑った。
「私たちは別室のモニタールームにいる。もし気分が悪くなったり、違和感を覚えたらこのブザーを押してくれ」
そう言って虹架は私の右手にコードのついたスイッチを握らせる。ナースコールのスイッチのようなものだった。
装置が起動すると検査台は上昇し、中空の中にスライドして入っていく。上半身まで入ったところで停止した。
「では別室に移動する」
「うん。また後で」
虹架たちは退室した。
私は一人、箱の中に密閉され、息の詰まりそうな気分になった。
そのうち飛行機が離陸する時のような、金属が高く鳴るような音が聞こえてきた。頭がむずむずするような、頭の中で小さな虫が這い回るような、不快感が込み上げてきた。
そして眼下のディスプレイに画像が表示される。
薄暗い廃墟の写真、大きな腹部の黄色と黒色の縞模様の蜘蛛、体を引きつらせ苦悶の表情を浮かべたミイラ、美味しそうなハンバーガー、キスする二人の女性──ゆっくりと切り替わっていく。
ただ私の中に、画像表示されるより前に、未来を見ているような感覚はまったくわいてこなかった。
それよりも異常に眠くなってきた。留置場の布団より、寝るにはひどい環境なのに。脳みそはかき回され、ガンガンと金属を殴るような音が聞こえてくる。光量も増してきたような気がした。視界が、目のピントが合わなくなってくる。
眠っている場合ではないのに。目の前で切り替わっていく画像。それも曖昧になっていった。瞼が重くなってくる。
瞬きが遅くなっていく。目を閉じている時間が長くなっていった。
瞼を閉じると、朝日を受けて赤熱する、瞼の裏のような光景が見えた。
その光をよく見ると、砂粒のような粒子が無数に集合して、わらわらと動いていることが分かった。瞼の裏、あるいは眼球の中の毛細血管を流れる血球の影か。
気づくとそれは各所で集結し、ぐるぐると回り始めたかと思えば、渦のような様相から、互いに合わさって芋虫のような姿に変わり蠕動を始めた。
なんだかそれを見ているのが楽しくなってきて、私は瞼を開くことをやめた。
その芋虫は紡錘状に膨れ、蛹のようになる。あるいは蕾か。そしてそれは蝶が羽を広げたような、大輪の花が咲いたような姿になる。その羽は、花弁は、炎が燃え上がるように、視野の外へと流れ出していく。
その炎に私の網膜は白熱していく。真っ白な光に私の意識は包まれた。
◆ ◆ ◆
脳を揺さぶるような耳鳴りが消えていた。あの白い光も。
目を開くと、私は自室にいた。
過去に戻れた──いや、もしかしたら勘違いかもしれない。実験中に気絶して、家に送り返されただけかも。
スマートフォンを確認する。一ヶ月前の日付だった。
私が戻った日。杏奈と十年ぶりに再会した日だ。いや過去を変えた結果、今では一年ぶりになっているのか。
私は前日、英美香に杏奈が実家にいることを聞いて、杏奈の実家に行く予定だった。
私はこの日に戻れたら、何をするかあらかじめ決めていた。
まず荷造りをする。下着や衣類を三日分ほど鞄に詰める。スーツケースで行けばおおげさにすぎるだろう。
次にスマートフォンでテキストを入力し編集できるアプリをダウンロードする。そして退職届のフォーマットを調べ、それに倣ってテキストを準備し、データを書き出す。コンビニでそれを印刷して、退職届を封筒に入れ、駅に向かう途中の郵便ポストに投函した。
第一段階完了──
過去の私はこのことをどう解釈するだろうか。そのまま素直に仕事をやめてくれたらいいが。どちらにせよ私なら、きっと杏奈のことを優先するはずだ。
地元に着いた私は改めてコンビニに寄る。
彼女の置かれている状況は分かっているので、ゼリーやスポーツドリンクを買っていく。それとポリ袋の束を買った。
そして私は再び赤星家の前にいた。予定の第二段階だ。
私はインターフォンを押す。
『はい』
「西塚小夜子です」
玄関が開く。慌てた様子で赤星杏奈の母が出てきた。記憶の中だけでなく、再びこの光景を見るのは奇妙な気分だった。
「サヨちゃん、久しぶりね。杏奈ちゃんに会いにきてくれたの?」
この世界線では中高時代に何度か杏奈の家に遊びに行ったので、彼女は私のことを知っていた。
「はい」
「杏奈ちゃん、今、具合が悪くて……」
「話だけでもさせてもらえませんか?」
「そうね……」
杏奈の母は、杏奈のことをあまり知られたくない様子だった。そもそも彼女は杏奈のことをどうするつもりだったのだろうか。もし私が来なければ、あの暗闇の中で杏奈は孤独に死んでいたかもしれない。そう思うと私は彼女へ怒りが湧き、強引に杏奈を引き取った。ただ私自身のその態度もよくなかった。それで互いに軋轢が生じてしまった。もう少し温和に杏奈を引き取り、あの事態を回避することができたかもしれない。
私は家に上がり、杏奈の部屋に向かう。
ノックをする。二日ほど引き離されただけなのに、ずっと会えてなかったような気持ちになった。
「杏奈。小夜子だよ」
ドアの向こうで物音がした。
私は緊張した。以前は、ただただ恐ろしかったが、今は彼女に会えることが嬉しくて仕方なかった。
ドアノブが何度も乱雑に鳴らされた。つい一ヶ月と少し前のことなのに、懐かしくて口元が綻んだ。
そして勢いよくドアが開く。
ぼさぼさの黒髪に、ぼろぼろにやつれた彼女がいた。
「サヨちゃん……」
淀んだ黒い瞳でじっと私を見つめてくる。動揺している様子だった。
私は彼女を抱きしめた。
「杏奈。会いたかった……」
「サヨちゃんが、来てくれた……」
「ごめんね、遅くなって。もう大丈夫だから」
私の腕の中で杏奈が泣いていた。
「一緒にお風呂入ろうか。そのあとご飯にしよう」
「うん……」
抱きしめ、頭を、背中を撫でる。酸っぱい臭いがしたが気にならなかった。
私は杏奈を支えて階段を降りる。
「気をつけてね」
彼女はたどたどしく、一段ずつ、階段を降りていく。
階下には彼女の母が驚いた様子で私たちを見守っていた。
私は軽く会釈する。
「すみません、お風呂借ります」
家の間取りは大体分かっていた。脱衣所で彼女の服を脱がし、洗濯機に入れる。下半身は汚物に汚れていた。私たちは裸になり、浴室に入る。
杏奈は不安そうに私を見ていた。
「大丈夫だからね。また一緒に暮らそう」
ふと疑問が首をもたげた。この杏奈は私と一緒に暮らした時の記憶があるのだろうか。しかしこの時点では未来のことになるから、なくて当然だろう。
私はシャワーが温かくなったのを確認して、後ろから抱きしめるように彼女の体を支え洗った。一通り濡らすと、彼女の膝が崩れそうになっていたので、バスチェアに座らせた。
私は膝をついて、後ろから彼女の髪を、手近なスポンジを手に取って背中を洗う。体を寄せて、前に手を回して、胸や腹を優しく洗った。
それにくすぐったそうに杏奈は声を漏らした。
時間をかけて彼女の体を洗った後、脱衣所にあった彼女のものと思しき下着とパジャマを着せる。髪は束ねて、背中を濡らさないようにする。落ち着いたら丁寧に乾かそう。
とにかく憔悴しきった彼女をリビングで休ませる。
「食べられる?」
私はスプーンでゼリーを掬い、彼女の口に運ぶ。
それに彼女は弱々しく口を開いて、ついばむように口にした。
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「サヨちゃん、私……」
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私は杏奈の横に入る。彼女の痩せた体に腕を重ねた。少しでも彼女を温めてあげたかった。
「一緒にいるから安心して」
「うん……」
このまま地元に残り、彼女の家で生活することができれば、逮捕されることもないだろう。過去が変われば、彼女と引き離されることなく一緒にいられるはずだ。
杏奈と私の鼻先が触れ合った。すがるように彼女の手が、私の服を掴んで、微かにふるえていた。
次に目覚めた時、私はどこにいるだろうか。
検査台の上で実験の真っ最中だろうか。もしかしたらまた留置場の中にいるかもしれない。
杏奈の隣にいることを祈って、彼女の温もりを抱きしめながら、私は眠りにつく。
◇ ◇ ◇
私の目の前に見慣れない、見覚えのない天井があった。
それと同時に過去を変えたことを確信した。
今日までのことを思い出す必要はない。
私は、私の傍に温もりがあるのを感じた。
杏奈がいた。彼女は穏やかに目を瞑り、寝息を立てていた。
私は彼女の頬を撫でる。
柔らかく、しっとりとした手触り。夢じゃない。現実だ。
杏奈がゆっくりと瞼を開く。蕾が花開くように、彼女は微笑んだ。
「サヨちゃん、おはよう」
「おはよう、杏奈」
二度と彼女を手放さない。
私は杏奈にキスをした。そのまま彼女の上に覆い被さる。
杏奈は両腕を私の体に絡めてくる。
その時、ドアがノックされた。
私は驚いてドアの方を見る。
「朝ご飯できたわよ」
杏奈の母の声だった。
「はい! 今行きます!」
私は赤星家に泊まり込み、杏奈の世話をしていることを思い出した。
さすがに彼女の実家で、母親もいるのに事を始めるのに抵抗があった。
私は杏奈と顔を見合わせて笑う。
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