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ジルド・エヴァンズ
しおりを挟む仕事は町の小さな営業所の配達員。親をいっぺんに馬車の転落事故で亡くし、小さな妹を食わせるために真面目にやってきた。
がむしゃらに働いていたらいつの間にかそんな妹は嫁に行き、甥っ子が生まれた。
祝いに呑んで騒いでやっと落ち着いた頃、ふと力が抜けたら自分はもう三十半ばの独身で、女も居ないただの冴えない男になっていた。
「ジル兄さん、もうそろそろ落ち着いたら?」
「あぁ?なら相手連れてこい」
俺たちはガルネシア国の西に位置するアーネシアという、山に囲まれ緑豊かな小さな町に生まれ育った。
アーネシアは三十年前に王都へ向かうトンネルが通ってから格段に豊かになり、工芸品や山で取れる岩砂糖、酒などを中心に海の向こうとの貿易で栄えた町だ。
ただ俺は生まれてこのかた外に出たことがないし、体ばかり動かしていたので自分の町以外のことには明るくない。年だけ重ねていても、そういう無知なところが俺を卑小な人間にする。
「今からでも勉強しようか」なんて気も起きず、我ながら救えない。
だが狭い田舎町だ。変なことをして妹に迷惑はかけられない。せめて明るい人間のように振る舞って、親族との集まりでは騒いで酒を飲む。
「もう!せめてお金くらい貯めとかないとお嫁さんこないんだからね!」
「へーへー、じゃあなラル坊!」
うるさい妹から逃げるように甥っ子の頭を撫でて義弟の家を出た。義弟は外から来た人間だが好青年で、すぐに町の人間に受け入れられた。しかも貿易関係の仕事をしている高給取り。俺の七つ下だが妹を苦労させず立派な一軒家を建てている。
対して俺は役職もなけりゃ給金も十代の頃と変わらず、ただの荷物の配達員。どうしたって卑屈にもなる。
様子見がてら妹へ小包を届け、小言を流して仕事を終えると隣町の馴染みの女を買って憂さ晴らし。すっきりして露店の串を適当に買い込み狭くて何もない俺の箱庭へ帰る。もう長いこと、ジジイになった今でも変わらずそんな日常を繰り返していた。
俺は荷物が届く営業所の上を格安で借りている。野郎ひとりなら粗末な寝床でも事足りるが、こんな所に住み着く男に嫁は来ない。
同世代はみんなとっくに元気に走り回る子供が何人もいるし、狭い田舎での独り身は白い目でみられる。俺も甲斐性なしか男好きだと言われているだろう。だから妹もしきりにせっつくのだが、相手がいなけりゃ意味もない。
子供だと思っていた妹が家庭を持ち立派にやっているのを見て、俺の役目は済んだと肩の荷が降りた。それと同時にごっそり気力が無くなって、このままじゃ潰れると適度に休んでみる。
そしたら自分が無趣味なことにも気付いて、休みは休みで苦痛というどうしようもなさだ。
中等部まで通った学園の同級生は関係が希薄で、友人と呼べるやつも居ない。
簡易暖炉に薪をくべて暖をとる。
「あーちくしょう……」
湿気ていて火の着きが悪い。
「……寝るか」
他の地区に比べて土地の狭いアーネシアの営業所には俺ともう一人の担当者が交代で入るが、そいつが婿入りするとかで半年後に辞める。引き継ぎを兼ねて代わりに人間が明日アーネシアの外から顔見せに来る予定だったことを思いだした。
「婿入りねえ……」
俺は休日だが、一応王都からわざわざ普段関わることもないくらい上の上の上司も挨拶に来るんだとかで対応しやいといけない。きちんとした格好で居なければ。
あぁ、面倒だ。
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