ジルド・エヴァンズの嫁探し

やきめし

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 「エヴァンズさん、あのこれ……」
 
 色々あって騒々しかったのがやっと落ち着いてきた。キースも宿暮らしをやめてから近所付き合いをしてアーネシアの雰囲気に慣れてきたようだ。

 「んー、おう。そりゃおめぇには無理だな」

 開通後に殺到した花酒の注文に積み上がった空瓶。あまりに忙しかったもんで、いまは孫がふたり出稼ぎから帰ってきてばーさんを手伝っている。じゃんじゃん造られる酒に比例して、荷も普段の倍以上の量になった。
 
 「こりゃ多いな。おいキース、お前が引っ張れ」
 
 台車に積んだケースを俺が後ろから支えつつ押して、方向転換だけキースにやらせた。
 
 「ばーさん来たぞ!テル兄、アル兄久しぶりだな」
 「おいおい!ジル坊見ねぇうちに男振りが上がりやがったなあ!」
 「俺らより貫禄あるぜ!」

 テル兄は俺と張るくらいの大男で、アル兄はひぃじいさんに似たとかで細身だ。二人ともばーさんの孫といっても四十過ぎで、俺を弟のように可愛がってくれていた。

 「うるせぇ、老けてるって言いてぇんだろ!キース、とっととコイツおろすぞ!二人がいるときゃあ運ぶのは任せていいぜ!」
 
 仕事してけよ~と絡まれながら、ばーさんと孫ふたりにキースを紹介し、新たに中身の入った重てぇ瓶を積んだ。
 
 「おいジル坊!これ持ってけ!外じゃあ滅多に呑めねぇがここじゃ二束三文の安酒よう!」
 
 ガハハと笑うテル兄に持たされた酒で台車が沈む。
 
 「こりゃ炭酸の抜け落ちたやつだろい!仕方ねぇからそこらに撒いといてやらぁ!」
 「ばれちまったか!そんなでも虫除けにはなるから持ってけい!」
 
 石工のテル兄は騒音に負けないくらい声がでけぇし、大工に囲まれて現場でやいやい言い合いするらしい設計士のアル兄も耳がバカになっていて、つられた俺も含めて全員声がでけぇ。ばーさんと孫で耳の遠い同士ちょうど良さそうだ。

 「そのチビの兄ちゃんも持ってけよ!」
 「あっ、ありがとうございます、キースです!」
 「すまんな新顔!うちの兄貴は名前を覚えるのに三年はかかるぜ!」
 「えっええ……!」

 ばーさんの家が賑やかになって安心だ。
 
 「そんじゃあばーさん、またな!生きとけよ!」
 「はぁいはい」
 
 ばーさんも前より肌に艶があらぁ。
 
 



─────····




 
 「エヴァンズさん、たまには丸一日休んでください」
 
 土地勘さえつきゃあ簡単で単調な仕事。もうとっくにキースは新しく覚えることもなくなり、俺が面倒みてやることもねぇ。

 トンネルが開通して半年経つと仕事も落ち着いてきた。周りを大男にうろちょろされると気になる!と言われりゃ帰るしかない。

 「さぁて……」

 趣味もなく友人もいない俺は寝るしかやることがねぇが、横になるとあの男のことを思い出すもんでじっとしてられない。
 
 いっそ、日帰り旅行でも行ってみるかと思い立ったのはそんな時だ。
 
 外に出たこともねぇくせに、勢いで王都行きの乗り合い馬車に乗った。髭もあてて少し伸びて額にかかった髪を撫で上げる。ろくな服がなかったもんで、あの男に着せられてそのまま自分のもんにしてたシャツと無難なパンツをベルトで締め上げてどうにか形になった。油断してベルトに乗っちまった腹の肉は見なかったことにしよう。
 
 半端な時間のせいもあり、席には商人と若い夫婦、かさ張る俺がゆったりと座っても余裕がある。変に干渉せず各々の時間を過ごした旅路はなかなか気に入った。

 「あれがアーネシアか」

 のんびり窓から風景を眺め、自分の住んでいる町を外から見ると小さすぎて笑えてきやがった。

 これからもあの中だけで生きていくんだなぁと目を閉じる。


 
 「おじさま、着きましたよ」
 
 若夫婦に起こされ、礼を言って王都に降りる。あとから「おじさまかぁ」と引っ掛かりながら寄り合い所で貰った観光地図で胸元を扇いだ。

 酒瓶を普段の倍以上は抱えて運ぶ毎日に、ただでさえかさ張る身体が痩せずに膨らみ首まわりがきつくてかなわん。柄にもなく行儀よくしても意味もねぇとシャツのボタンを三つ外して落ち着いた。
 
 もうすっかり春も終わり、これから蒸し暑くなっていく。空を見ると雲が近い。夏の空だ。
 
 「はじめてきたんだが、なんか名物ってあるか?」
 
 しばらく土産屋を冷やかして妹たちに持ってくもんの下見をすませ、一息つきたいと広場のベンチに腰を下ろした。
 
 「はじめてかい。ならいいとこがあるよ」

 行き交う馬車を眺めてのんびり座ってる身なりのいいじーさんに話しかけると、観光客が少なくて飯のうまい茶屋に連れてってくれた。

 「ご一緒してもいいかね?」
 「おう、せっかくの機会だ」

 商売はせがれに引き継ぎ隠居していて暇だからとついでに一緒に駄弁りながら茶をのむ。

 自分が外に出たこともなかったことや、気付いたら嫁さんも娶れず趣味もねぇもんでこの有り様だと笑い話にして、じーさんと暫く過ごした。
 
 「お前さんは日帰りすんのかい?」
 「おうよ、明日も休みだがいつまたトンネルがふさがるかわからんだろ」
 
 王都の宿屋の相場は知らんが、そこまで金かけてここに居たいとも思わねえ。夕方の便で帰るつもりだ。
 
 「これからどこへ行くんだい」
 「そうさな……妹の旦那が浮気でもしてねぇか、いっちょ確認しにいったらぁ」
 「ほう、なにを見ても真実は伝えてやらんほうがいいぞ」
 
 ケラケラと笑うじーさんに連絡先の書かれたメモを渡され、生きてたらまたいつかと手を振った。


 「おっ……」
 
 妹から聞いていた義弟の職場の宿舎へ向かう途中、記憶に残ったレンに似た男の後ろ姿が見えて咄嗟に追いかける。王都で働いていると言っていたし、もしかしたら……と。

 それに礼だって言いたい。俺には追いかける理由があった。

 「すまねぇっ、通るぜ!」
 
 かさ張る身体で地べたの露店を飛び越え、人をかいくぐり、すいすい歩いていくレンに似た男を見逃さないように追う。

 人混みを抜けた男はある民家の前で立ち止まった。真新しい一軒家だ。玄関先でなにやら揉めている様子。それからすぐ腕を引っ張られ男は家の中に入った。

 不審者のようだが気になって裏口へ回り様子をうかがう。
 
 なにか言い争う男ふたりの声、そのあとにガシャガシャと食器が割れたり家具の倒れる音。
 
 「──やめっ、やだっ!」
 
 レンの声だとわかった瞬間、俺はカッとなって裏口のドアに体当たりして中へ侵入していた。
 
 「おいレンっ!俺だ!だいじょう…ぶ、」
 
 「え、エド…?なんで……」
 
 揉み合う男の一人はやっぱり間違いなくレンで、そのレンを押し倒してパンツをおろしイチモツをさらけ出している間抜けな男も、よく知ったやつだった。



 「おまえ……っ」
 「義兄さん……」





 エリック。俺の義弟だ。 
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