ジルド・エヴァンズの嫁探し

やきめし

文字の大きさ
13 / 34

しおりを挟む

 「……なぁキースよ」
 「わっ!居たんですか?!休みのくせに事務所に入り浸るのはどうかと思いますけど……こわかった…」
 「俺ぁそんなにトキと一緒にいるか……?」

 あんまり周りから言われるもんで、とうとうキースなんかに相談しちまう。

 「なにを今さら……。前の休みも一緒に家具屋に行ってたし、その前の休みも二人で町をうろついてたじゃないですか」
 「そりゃあ来たばっかりで何も知らねぇから案内してやっただけでよ」
 「………僕のことを突き放して放っといた人がよく」
 
 ジトリと恨めしそうな目を向けてくるキース。あの頃は時期が悪かったんだよ。死にかけた卑屈なオヤジに苦労を知らない若い男を気にかけてやる余裕なんざ無かった。
 
 「おめぇのことも世話やいたじゃねぇか……」
 
 一応な。

 あのとき俺にまだ借金があって山に居たら、こいつを助けてやれてなかった。ゾッとする。

 「そりゃ、かなりお世話にはなりましたけど!でも休みに二人で出掛けないでしょ」
 「そらぁ……職場でも顔見るっつーのに休日までいたかねぇよ…」
 「なんだか失礼ですね、近いうちに親戚になるっていうのに…」
 「なんだとこの野郎、おい!」

 聞き捨てならんぞ!

 「あ、やっといつものエヴァンズさんだ!辛気臭いのは気持ち悪いのでやめてくださいね!サンドラさんも心配しますよ!」
 「おい誤魔化すなおめぇ」
 「今日も行くんでしょ?トキさんのとこに」

 女のようにくちの回るキースにつつかれ、一瞬言葉につまる。実際、荷の届かない定休以外の俺の休みはほとんどトキに費やされているのだ。

 「……まぁ、それは」

 あいつは俺でも心配するくらい薬草以外の基本的な生活力が乏しいから、仕方ないだろ?…って言い訳は使えんか。
 
 「それにエヴァンズさんが商店街のみんなに紹介して回ってたじゃないですか!この町の人みーんな分かってるんで今さらってやつですよ!僕はこれから忙しいんですから!さぁさぁはやく出てってくださいね!」
 「えっ、おい、あれは本当にそんなんじゃ……!」
 
 三十半ば過ぎて独り身で女の影もない俺が、ひとりの薬師を顔見せに連れ回ってりゃ『やっぱりそうだったか』なんて噂になっちまうのも仕方ねぇ。心配で世話してやってるつもりだったが、サンドラだけでなく町中これじゃあ俺のせいでトキも嫁さんが貰えんかもしれん。

 自分だけならまだしも、その可能性に気付いてしまう。こうしちゃおれんと慌てて草だらけのあの家へ向かった。



 
 「……ってことになってるのはサンドラの早とちりでも勘違いでもなかったんだ、すまねぇトキ!」
 
 どことなくあった気まずさも忘れて駆け込んだ薬屋で、目を真ん丸にするトキに謝る。なんたって町中まちじゅうだ。これから言って回ったって、生暖かい目で『わかってるわかってる』と頷かれるに決まってる。
 
 「トキは、いいんです」
 
 肩にそっと手を置かれ、下げていた頭をあげる。
 
 「ジルドさんは……気にしないで…」
 
 噂なんか気にせず恋人をつくれってか?そんなの、周りからトキが捨てられたように見えちまうだろう。そんな扱いをされる人間だと思わせたくない。それに俺に恋人なんざ出来やしないんだ。
 
 「いいや、俺よかトキだ。おめぇがやな思いすんのが許せねぇんだ。その原因が自分ってえのが救えん……」
 「いやなことないです。トキはここに来てずっと、幸せで…」
 
 ばくばくと身体が高鳴る。

 こういう展開を考えなかったといえば嘘になる。だが、それは俺の勝手な妄想ってやつで、トキの思わせ振りにみえる仕草はこっちの都合でそうみえてるんだと何度も己を律した。思い上がればキースに熱をあげて道をはずしたマーカスと一緒だ。

 そんな風にふんばってる俺に、トキは透き通った声で追い討ちをかける。
 
 「ジルドさんがいないときも、思い出すと楽しくて」
 
 緊張で息を吸ったまま吐けない。

 このキレイな存在が俺のようなむさ苦しい大男に、こんなに丁寧に言葉を紡いでなにか伝えようとしてくれるなんて。
 
 「いいです。トキは、勘違いで。ジルドさんの好い人、思われる。嬉しい……」

 
 普段はもっとうまく話せるようになっていたトキが、ぷつぷつと言葉を区切りながら唇を尖らせた。

 白い肌が所々赤く火照って、ちらりと俺を見上げてくる。
   
 「っ、くぅ……勘違いなもんか!」

 もうだめだった。堪らん。
 
 「俺だってなぁ……!おめぇと恋仲だって言われちゃあ勝手にイイ気になって、勝手にトキは俺のもんなんじゃねぇかって思いこんじまいそうなんだよ……っ!」
 
 わかるか、お前の世話やいてる大男はとんだ勘違い野郎で、下心を必死に隠してせっせせっせと周りに見せびらかしてんだ。
 
 妹や町のやつらにそうやって勘違いされたときに頭を抱えたが、同時に腹の底から欲がわいて、こうなっちまわねぇかとトキに構い続けた。
 
 「ジルドさんの、もの……?」
 
 はぁっ、と息の上がるトキ。胸のまえで握り締めた両手が震えている。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

陥落 ー おじさま達に病愛されて ー

ななな
BL
 眉目秀麗、才ある青年が二人のおじさま達から変態的かつ病的に愛されるお話。全九話。  国一番の璃伴士(将棋士)であるリンユゥは、義父に温かい愛情を注がれ、平凡ながらも幸せな日々を過ごしていた。  そんなある日、一人の紳士とリンユゥは対局することになり…。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

王様お許しください

nano ひにゃ
BL
魔王様に気に入られる弱小魔物。 気ままに暮らしていた所に突然魔王が城と共に現れ抱かれるようになる。 性描写は予告なく入ります、冒頭からですのでご注意ください。

臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式の話

八億児
BL
架空の国と儀式の、真面目騎士×どスケベビッチ王。 古代アイルランドには臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式があったそうで、それはよいものだと思いましたので古代アイルランドとは特に関係なく王の乳首を吸ってもらいました。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...