【アラウコの叫び 】第4巻/16世紀の南米史

ヘロヘロデス

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「純白のドレス」

第160話「別れ」

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-1548年4月クスコ-
「兄さま・・」
フードを深く被り、布で口元を覆い
目立たぬ場所から絞首台を見つめる者がいた。

ハキハワナでの戦いはゴンサロ軍の完全敗北となり、
ゴンサロに加担した何人かは〈危険視すべき反逆者〉として、クスコで絞首刑の判決が下された。

ゴンサロ・デ・ロス・ニドスはその中の1人であった。
処刑場には、特別に高さのある絞首台が設置されていた。
ニドスはその長身ゆえに
処刑される者の中でも一際目立っていた。

「おいおい、あれじゃ足がついてしまうのではないか?」

「あいつもゴンサロ一味なんだろ。
異様な手足の長さだな・・まさに悪魔よ・・」

「あれこそアンデスの悪魔だろ。」

「あの冷たそうな目。
ゴンサロ同様、とんでもない悪党っぽいな。」

メンシアは唇を噛み締めた。

処刑官「それでは刑を執行する」

ニドス(妹達よ、幸せにな・・)

処刑官はニドスの頭を荒々しく掴むと、
舌を引っ張り出した。

「なんだあれは!正に悪魔の舌だ・・」

ニドスの舌は異様に長く、大衆はざわめき出した。

処刑官の隣にいた男が叫んだ。
「皆の者聞けぇい!
この男は
皇帝の身辺の方々を罵った罪もあり、舌を切る事になっておる。
帝国に刃向かった者の末路、とくと見よ!」

処刑官はニドスの舌に刃を当てた。

ブシャ!

血が飛び散ると、処刑官はニドスの頭を後ろに引っ張り
ニドスの顔が大衆へ向けられた。

「なんと奇妙な・・」

ニドスは微動だにする事なく、
ただただ彫像の様な口から血が流れ続けている。

ニドスの整った顔がより大衆にその様な印象を与えた。

メンシアはその様を見ながら、
同じく唇から血を滴らせていた。

「吊るせ。」
冷酷な声の元、
もがく者、微動だにしない者と様々であったが、
処刑者達の身体は等しく地上から遠ざかっていった。

ズルズル・・

他の者と同様に天に近づくにつれて、
ニドスの頭の角度も傾いてゆく。

次第に他の処刑者達の顔の表面から眼球と舌が
外に突き出ていった。

ニドスだけが眼球のみ大きくなってゆく。

涼やかで壮麗だった兄の顔が
別人の様に変わっていった。

まるで無機質で美しい人形が
おぞましく朽ち果ててゆくかの如く。

それでもメンシアは
乾きを潤す様に抱きしめる眼差しで、
兄が果てるのを見届けた・・


-数日後-
身なりの良い男が絞首台の広場への道を歩いていた。

男は道の途中で白いドレスを纏った長身の女性とすれ違った。
(ん、あの者は・・)

男は飛び抜けて高い絞首台の前まで来た。

「そうか・・
あんたは最後まであちらについていたのか・・」

物言わぬ亡骸に男は言葉を続けた。

「あんたも誘いたかったんだけどなぁ。
実はな、俺は俺の国を作ろうと思ってる。
俺ならもっと上手くやれるだろう。」

ニドスの服が風でバタバタ揺れている。

「結局俺たちは搾取される側よ。
じきにまた締め付けが厳しくなると踏んでいる。
頃合い見て事を起こそうって所さ。」

男は懐から金貨を取り出した。

「お互い槍を交えたよしみだ。」
そういうと男はニドスの衣服に金貨を忍ばせた。

「そうそう、さっきあんたの妹とすれ違ったかもなぁ。」

ブツッン!

その時だった劣化した縄が切れた。

「な!?」

ニドスの亡骸は
男を押し留めるように、覆い被さってきた。

「わ、わかったよ・・
あんたの妹には近づかない。」

男はニドスを丁寧に寝かせると、その場を去った。

「じゃあな。」

男は政府とゴンサロとの争いに巻き込まれながらも
タイミング良く身の振り方を変え、
生きながらえきたエルナンデス・ヒロンだった。

今ではクスコでエンコミエンダまで手にし、
優れた経営手腕で順調に財を成そうとしていた。
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