46 / 1,035
第一章 第三節 幻影
第45話 ごめん、わたし幻影に掴まった
しおりを挟む
レイの思いきりのいい判断をヤマトは高く評価した。
あの『万布』は望むべくもないほど軽くて丈夫な盾だったが、攻撃に転じた時には、やはり幾ばくかでも機動力を損なわせる代物だ。
レイのセラ・サターンが亜獣へむけて突進していく。メリーゴーラウンドを踏みつぶし、ジェットコースターのコークスクリュー部分を吹き飛ばしたかと思うと、コーヒーカップを蹴りあげた。うしろから追走していたマンゲツの足元にむかって、コーヒーカップが宙を転がってきた。亜獣の醜い顔が間近に迫る。
サターンのからだにぎゅぎゅっと負荷がかかって勢いがとまった。レイはその場に屈みこむと、背中を大きく丸めながら叫んだ。
「タケル、飛んで!」
ヤマトは背中に携えていたサムライソードを引き抜くなり、サターンの背中にグッと足をかけ大きくジャンプした。空中高く舞いあがったマンゲツの手元の刀が光を帯びていく。眼下に亜獣アトンの姿があった。
剣を逆手に持ちかえ、そのまま上空から急所めがけて剣をふり降ろそうとした瞬間、繊毛針が亜獣のからだから四方に放たれた。針はヤマトのほうへも無数に飛んできたが、彼の視点は、亜獣の首のうしろ一点に集中していた。
『こいつで終わりだ』
ヤマトがフルサイズまで伸びたサムライソードの切っ先を亜獣の首筋に突き立てた。そのまま、マンゲツが亜獣の肩にまたがる。
確かな手応えがあった。ヤマトはそう思った。
だが、亜獣は倒れなかった。首筋に刃を突き立てられながらも、からだを揺さぶり肩の上に乗ったマンゲツを振り落とそうと暴れた。
「なぜだ?」
ヤマトの疑問をカメラが読み取り、刃が刺さった箇所をクローズアップした。
ほんのわずか……、ほんの数十センチだけ、急所とされた場所からずれていた。
『なぜ、ずれた?』
その思考をAIが読み取り、マンゲツの姿を映しだしているカメラを選択し、メインモニタのほうへ転送した。アトンの肩の上に馬乗りになっているマンゲツは、からだの片側だけにおどろくほどの針が刺さっていた。
『軌道を狂わされたのか?』
その時、レイがヤマトにむかって叫び声をあげた。
「もうひと太刀!」
ヤマトはその声に脊髄反射的に反応して、剣を引き抜くともう一撃を加えようと、腕を上にふりかざした。が、その剣の切っ先が亜獣のからだに届く前に、マンゲツは宙に放りだされていた。なすすべもなく、マンゲツは近くにあった、ミラーハウスとお化け屋敷を押し潰した。背中の下でかすかに鏡が砕け散る音がした。仰向けになったまま痛みに苦悶するヤマトの目に、羽根を振るわせ飛んでいくアトンの姿が映った。
「くっ、レイ、逃がすな!」
その時だった。
ボワンという空間が膨張したような音が聞こえた。
------------------------------------------------------------
空間が膨張したような音は、レイにも感じ取れていた。これが幻影攻撃の合図かどうかはわからなかったが、慎重を要するべき事態だと心得ていた。
レイはすぐに自分の状態を確認した。
今、自分はセラ・サターンのコックピットのシートに座っている。そして、今、目の前で翔んで逃げられた亜獣を追いかけねばならない。
ちゃんと自分の居場所となすべきことをしっかり把握している。問題ない。
だが、座っているシートの周りの光景は、その冷静な分析と理解を許さなかった。レイの目には、周りを取り囲む計器類が、古ぼけたタンスや傷ついた柱へと変貌してみえた。そして、自分はいつのまにか、みすぼらしいブランケットにくるまれている。
これは錯覚だ。
間違いない。
だが、自分の手元にあるブランケットは、あの時のものだ。これも間違いない。
いつも手放さずにいたあのブランケット……。母が機嫌がわるい時は、このブランケットを頭から被って震えていた。本当は鮮やかな緑色だったのに苔むした色に変色して、毛がぼろぼろと抜け落ちた。
「レイ……」
コックピット内から、自分を呼ぶ声が聞こえた。モニタを通してでも、外部デバイスを通してでもない。テレパスラインのような内耳を直接ふるわせるような音声でもない、なにか心の奥底から湧いて出てくるような声だ。
「レイ……」
もう一度声が聞こえた。あきらかに自分の背後から聞こえている。その思考を読み取ったAIが、メインモニタを自分の背後を映すカメラに切り替えた。
自分の左の肩口に、血まみれの女が取り憑いていた。
あの『万布』は望むべくもないほど軽くて丈夫な盾だったが、攻撃に転じた時には、やはり幾ばくかでも機動力を損なわせる代物だ。
レイのセラ・サターンが亜獣へむけて突進していく。メリーゴーラウンドを踏みつぶし、ジェットコースターのコークスクリュー部分を吹き飛ばしたかと思うと、コーヒーカップを蹴りあげた。うしろから追走していたマンゲツの足元にむかって、コーヒーカップが宙を転がってきた。亜獣の醜い顔が間近に迫る。
サターンのからだにぎゅぎゅっと負荷がかかって勢いがとまった。レイはその場に屈みこむと、背中を大きく丸めながら叫んだ。
「タケル、飛んで!」
ヤマトは背中に携えていたサムライソードを引き抜くなり、サターンの背中にグッと足をかけ大きくジャンプした。空中高く舞いあがったマンゲツの手元の刀が光を帯びていく。眼下に亜獣アトンの姿があった。
剣を逆手に持ちかえ、そのまま上空から急所めがけて剣をふり降ろそうとした瞬間、繊毛針が亜獣のからだから四方に放たれた。針はヤマトのほうへも無数に飛んできたが、彼の視点は、亜獣の首のうしろ一点に集中していた。
『こいつで終わりだ』
ヤマトがフルサイズまで伸びたサムライソードの切っ先を亜獣の首筋に突き立てた。そのまま、マンゲツが亜獣の肩にまたがる。
確かな手応えがあった。ヤマトはそう思った。
だが、亜獣は倒れなかった。首筋に刃を突き立てられながらも、からだを揺さぶり肩の上に乗ったマンゲツを振り落とそうと暴れた。
「なぜだ?」
ヤマトの疑問をカメラが読み取り、刃が刺さった箇所をクローズアップした。
ほんのわずか……、ほんの数十センチだけ、急所とされた場所からずれていた。
『なぜ、ずれた?』
その思考をAIが読み取り、マンゲツの姿を映しだしているカメラを選択し、メインモニタのほうへ転送した。アトンの肩の上に馬乗りになっているマンゲツは、からだの片側だけにおどろくほどの針が刺さっていた。
『軌道を狂わされたのか?』
その時、レイがヤマトにむかって叫び声をあげた。
「もうひと太刀!」
ヤマトはその声に脊髄反射的に反応して、剣を引き抜くともう一撃を加えようと、腕を上にふりかざした。が、その剣の切っ先が亜獣のからだに届く前に、マンゲツは宙に放りだされていた。なすすべもなく、マンゲツは近くにあった、ミラーハウスとお化け屋敷を押し潰した。背中の下でかすかに鏡が砕け散る音がした。仰向けになったまま痛みに苦悶するヤマトの目に、羽根を振るわせ飛んでいくアトンの姿が映った。
「くっ、レイ、逃がすな!」
その時だった。
ボワンという空間が膨張したような音が聞こえた。
------------------------------------------------------------
空間が膨張したような音は、レイにも感じ取れていた。これが幻影攻撃の合図かどうかはわからなかったが、慎重を要するべき事態だと心得ていた。
レイはすぐに自分の状態を確認した。
今、自分はセラ・サターンのコックピットのシートに座っている。そして、今、目の前で翔んで逃げられた亜獣を追いかけねばならない。
ちゃんと自分の居場所となすべきことをしっかり把握している。問題ない。
だが、座っているシートの周りの光景は、その冷静な分析と理解を許さなかった。レイの目には、周りを取り囲む計器類が、古ぼけたタンスや傷ついた柱へと変貌してみえた。そして、自分はいつのまにか、みすぼらしいブランケットにくるまれている。
これは錯覚だ。
間違いない。
だが、自分の手元にあるブランケットは、あの時のものだ。これも間違いない。
いつも手放さずにいたあのブランケット……。母が機嫌がわるい時は、このブランケットを頭から被って震えていた。本当は鮮やかな緑色だったのに苔むした色に変色して、毛がぼろぼろと抜け落ちた。
「レイ……」
コックピット内から、自分を呼ぶ声が聞こえた。モニタを通してでも、外部デバイスを通してでもない。テレパスラインのような内耳を直接ふるわせるような音声でもない、なにか心の奥底から湧いて出てくるような声だ。
「レイ……」
もう一度声が聞こえた。あきらかに自分の背後から聞こえている。その思考を読み取ったAIが、メインモニタを自分の背後を映すカメラに切り替えた。
自分の左の肩口に、血まみれの女が取り憑いていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
月弥総合病院
御月様(旧名 僕君☽☽︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる