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ダイブ6 切り裂きジャックの巻 〜 コナン・ドイル編 〜
第144話 マリアも異変を感じとっていた
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マリアも異変を感じとっていた——。
これはロンドン名物のよごれた空気とはちがう。
得体の知れないなにか妖しげな空気。それが肌にまとわりついてきて、毛穴から浸潤してくるように感じられる。
空を見あげると、けぶってきた靄のむこうで、エヴァのピストル・バイクのヘッドライトらしき光が、かろうじて確認できた。マリアはさきほどからずっと監視していた、道路の反対側にある背割り長屋の一室に視線を戻すと、おなじようにじっと部屋を見つめているアーサー・コナン・ドイルに声をかけた。
「どうだ、アーサー。動きはあったか?」
「動きもなにも、マリアさん。さっきからなんにも変わっちゃあいませんよぉ」
コナン・ドイルがそうぼやくと、ジェームス・マシュー・バリーも不満を口にした。
「マリア、あのアーロン・コスミンスキーという男、ボクらは顔もまともに拝んではないんだ。部屋のなかにいるのは、気配でなんとなくわかるが、こんなに離れた場所からでは、なかが伺いしれない。もうすこし近づくのはだめかい?」
「ジェームス。この暗さのなかで、容疑者に悟られずに近づく自信があンのか?。それにこの靄だ。やけに濃くなってきてやがる」
「そうですよねぇーー、マリアさん。よけいなことはしちゃあいけません。たぶんこの時間帯は霧が濃くなる時間帯なんですよ。ま、そんな悪態つくほど濃い霧には思えませんがね。それでもジェームスが言うように、こっちから近づくなんてぇマネはしちゃいけないなーって思いますよ。あたしゃね」
コナン・ドイルが、マシュー・バリーの提案をここぞとばかりに否定した。マシュー・バリーはがっかりともうんざりともつかない顔で、肩を落として言った。
「まったく、アーサー、キミはあいかわらずだな。本当に『探偵小説』を書いたのかね。注意力に欠ける。そんな調子では、我らがエディンバラ大学のジョセフ・ベル教授によく注意されていたんではないか?」
「まぁ、たしかに……、ちょくちょくお小言はもらいましたよ。『観察力』が足りないって……」
「ボクもあのひとの教えを受けたかったよ。聞いた話じゃあ、初診の患者を一目見ただけで、病状の他、職業や出生地、癖などをズバリ言い当てたというじゃないか」
「ええ、あのひとの口癖は『小さなことに注意せよ。患者に手を触れる前に、まず洞察し、推理するのだ』でしたからね」
「なら、いまの状況を『洞察し、推理して』みてはどうなんだい?」
「ジェームス。あたしにはそんな芸当は無理なんですって。いやね、たしかに、ベル教授をモデルにして、探偵小説を書きましたよ。ですがね、あたしにはそんな才は全然なくって……」
「やれやれ……。アーサー、ほんとうにキミが探偵小説で名を残すのか、いくぶん信じられなくなってきたよ。まぁ、いいさ。今はなぜ靄がかかってきたかが問題だ」
「いやだから、そんな日とか時間なんじゃあ……」
どうでもいいふたりの問答にいらだって、マリアはつい声をあらげた。
「アーサー、ロンドンの霧は工場の煙突や汽車から出る煙だ。霧とかそういう自然現象じゃあねぇ」
「そういうことだよ。アーサー」
マシュー・バリーがマリアのことばを受け取って、コナン・ドイルに問いかけた。
これはロンドン名物のよごれた空気とはちがう。
得体の知れないなにか妖しげな空気。それが肌にまとわりついてきて、毛穴から浸潤してくるように感じられる。
空を見あげると、けぶってきた靄のむこうで、エヴァのピストル・バイクのヘッドライトらしき光が、かろうじて確認できた。マリアはさきほどからずっと監視していた、道路の反対側にある背割り長屋の一室に視線を戻すと、おなじようにじっと部屋を見つめているアーサー・コナン・ドイルに声をかけた。
「どうだ、アーサー。動きはあったか?」
「動きもなにも、マリアさん。さっきからなんにも変わっちゃあいませんよぉ」
コナン・ドイルがそうぼやくと、ジェームス・マシュー・バリーも不満を口にした。
「マリア、あのアーロン・コスミンスキーという男、ボクらは顔もまともに拝んではないんだ。部屋のなかにいるのは、気配でなんとなくわかるが、こんなに離れた場所からでは、なかが伺いしれない。もうすこし近づくのはだめかい?」
「ジェームス。この暗さのなかで、容疑者に悟られずに近づく自信があンのか?。それにこの靄だ。やけに濃くなってきてやがる」
「そうですよねぇーー、マリアさん。よけいなことはしちゃあいけません。たぶんこの時間帯は霧が濃くなる時間帯なんですよ。ま、そんな悪態つくほど濃い霧には思えませんがね。それでもジェームスが言うように、こっちから近づくなんてぇマネはしちゃいけないなーって思いますよ。あたしゃね」
コナン・ドイルが、マシュー・バリーの提案をここぞとばかりに否定した。マシュー・バリーはがっかりともうんざりともつかない顔で、肩を落として言った。
「まったく、アーサー、キミはあいかわらずだな。本当に『探偵小説』を書いたのかね。注意力に欠ける。そんな調子では、我らがエディンバラ大学のジョセフ・ベル教授によく注意されていたんではないか?」
「まぁ、たしかに……、ちょくちょくお小言はもらいましたよ。『観察力』が足りないって……」
「ボクもあのひとの教えを受けたかったよ。聞いた話じゃあ、初診の患者を一目見ただけで、病状の他、職業や出生地、癖などをズバリ言い当てたというじゃないか」
「ええ、あのひとの口癖は『小さなことに注意せよ。患者に手を触れる前に、まず洞察し、推理するのだ』でしたからね」
「なら、いまの状況を『洞察し、推理して』みてはどうなんだい?」
「ジェームス。あたしにはそんな芸当は無理なんですって。いやね、たしかに、ベル教授をモデルにして、探偵小説を書きましたよ。ですがね、あたしにはそんな才は全然なくって……」
「やれやれ……。アーサー、ほんとうにキミが探偵小説で名を残すのか、いくぶん信じられなくなってきたよ。まぁ、いいさ。今はなぜ靄がかかってきたかが問題だ」
「いやだから、そんな日とか時間なんじゃあ……」
どうでもいいふたりの問答にいらだって、マリアはつい声をあらげた。
「アーサー、ロンドンの霧は工場の煙突や汽車から出る煙だ。霧とかそういう自然現象じゃあねぇ」
「そういうことだよ。アーサー」
マシュー・バリーがマリアのことばを受け取って、コナン・ドイルに問いかけた。
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