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夏休み突入~『千玲』に泊まるまで
第54話 旅館『千玲』を知る
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今日は、8月1日から2泊する旅館の下見をする。俺達は午前中に沙織さんの家の前に集まってから、彼女の車に乗り込む。
「大体30分ぐらいで着くと思うけど、迷ったりして遅くなったらごめんね」
「全然気にしないよ~、遅くなっても、眠くなったらウチは寝るし。…ふわぁ~」
乗って早々あくびするのかよ。これは道中寝ると考えて良いな。
「別に急いでないんだから、のんびり行こうよ母さん」
「…そうね。そろそろ行きましょうか」
沙織さんがカーナビの設定をしてから、車は発進する。
「そういえばさ~、これから行く旅館ってどういうところ?」
移動中、眠そうな紬さんが沙織さんに声をかける。眠気覚ましのために訊いたんだろうが、俺も気になる内容だ。
「『千玲』ってところよ。夫婦とお嫁さんのお母さんの3人で経営してるみたい」
3人なら小規模の旅館だろう。特にこだわりはないからどこでも良いけど。
「ふ~ん。…あれ? お父さんは?」
首をかしげる紬さん。
「離婚したみたい」
「へぇ~。他には?」
「旦那さんは古賀 玲さんで、お嫁さんは千夏さん・お母さんは千春さんって言うらしいわ。わたしが電話予約した時に応対してくれたのは千春さんなの」
そんな事も調べたのか。沙織さんも気合が入ってるようだ。
「そうなんだ~。もっと教えてよ、おばさん!」
「――教えすぎるとお楽しみが減るから、着くのを待っててね♪」
「は~い」
さすが沙織さん、匙加減が絶妙だ。
「実は、ちょっとみんなに言いにくい事があるのよ…」
沙織さんにしては歯切れが悪いな。どうしたんだ?
「“予約できてない”とかいうオチじゃないよね? 母さん?」
紬さんならともかく、沙織さんがそんなミスするか? 大体、さっき千春さんと話したって言ってたし…。
「そうじゃないわ。これから行く旅館だけど、正確には『銭湯』なのよ」
「えっ? どういう事?」
「千春さんが言うには、空いてるちょっと広い和室をキレイにして泊まれるようにしたらしいの。その銭湯に泊まれる部屋は、そこしかないみたいでね…」
「つまり、泊まる客はあたし達だけって事?」
「そう。料理も懐石料理とかじゃなくて、わたしが作るような家庭料理だけになるらしいわ」
「むしろそっちのほうが良いんだけど。あたし、ああいう料理嫌いだし」
「ウチも~」
「真君と満里奈ちゃんも大丈夫かしら?」
「もちろん大丈夫ですよ」
詩織さんの言うように、俺も家庭料理のほうが良い。
「私もです」
「良かったわ。予約するまでずっと旅館だと思ってたの。違うのがわかっても、なかなか言い出せなくて…」
ミスを訂正するのは簡単そうで難しいし、沙織さんを責める気は全くない。
「でもさ~、その銭湯は何でそんな事し始めたんだろうね?」
詩織さんに同感だ。銭湯クラスになると、風呂掃除が大変だろ。家の風呂ですら面倒なのに…。
「やっぱり、銭湯だけでやっていくのが大変だからじゃない? サービスの幅を広げたほうが、生き残りやすいからね」
頑張って知恵を出した結果って事か。
「ねぇねぇ。どうせなら、そこの銭湯に入ろうよ。下見してすぐ帰るなんてもったないじゃん」
「それは良い考えね、紬ちゃん。でも真君とは一緒に入れないわよ?」
「何で!? ウチら一緒に入れるお風呂があるんじゃないの!?」
「確かにあるけど、そこに入れるのは泊まる人だけなの。今のわたし達は入れないわ」
実際に泊まる8月1日までお預けだ。
「な~んだ、ガッカリ」
俺はその方がありがたいな。まだ心の準備ができてないし…。
「母さん、それも銭湯の作戦ってやつ?」
「そうだと思うわ。なかなか考えてあるわね」
「まーちゃんと一緒は無理でも、温泉には入りたいな~。ウチ疲れちゃった」
「私達は座ってるだけじゃない。疲れてるのは、運転している沙織さんよ」
「気遣ってくれてありがとう満里奈ちゃん。疲れてるのはみんな一緒だから、温泉に入りましょうか♪」
「わ~い♪」
出発してから約30分経過した。渋滞はなかったし、そろそろ着くはずだ。
「この辺りのはずだから、みんなも探してちょうだい。近くに来るとカーナビの案内が終わるのよ」
沙織さんの指示を受け、俺達は車の窓から『千玲』を探す。
「――母さん。『千玲、この先を右に』って看板があるよ!」
「この先を右ね? わかったわ」
車が右折すると、銭湯のイメージに合った建物が見える。あれがそうだな。
「……近くに駐車場はないわね。出入り口前の駐車スペースしかなさそう」
「でも他の車はないから停めやすいじゃん。あたし達ツイてるかも?」
「かもね」
沙織さんは微笑んでから、駐車スペースに駐車する。『千玲』の店内はどんな感じなんだろう? 楽しみだ。
――みんなもワクワクしてるように見えるな。そんな風に思いながら、俺達は車を降りる。
「大体30分ぐらいで着くと思うけど、迷ったりして遅くなったらごめんね」
「全然気にしないよ~、遅くなっても、眠くなったらウチは寝るし。…ふわぁ~」
乗って早々あくびするのかよ。これは道中寝ると考えて良いな。
「別に急いでないんだから、のんびり行こうよ母さん」
「…そうね。そろそろ行きましょうか」
沙織さんがカーナビの設定をしてから、車は発進する。
「そういえばさ~、これから行く旅館ってどういうところ?」
移動中、眠そうな紬さんが沙織さんに声をかける。眠気覚ましのために訊いたんだろうが、俺も気になる内容だ。
「『千玲』ってところよ。夫婦とお嫁さんのお母さんの3人で経営してるみたい」
3人なら小規模の旅館だろう。特にこだわりはないからどこでも良いけど。
「ふ~ん。…あれ? お父さんは?」
首をかしげる紬さん。
「離婚したみたい」
「へぇ~。他には?」
「旦那さんは古賀 玲さんで、お嫁さんは千夏さん・お母さんは千春さんって言うらしいわ。わたしが電話予約した時に応対してくれたのは千春さんなの」
そんな事も調べたのか。沙織さんも気合が入ってるようだ。
「そうなんだ~。もっと教えてよ、おばさん!」
「――教えすぎるとお楽しみが減るから、着くのを待っててね♪」
「は~い」
さすが沙織さん、匙加減が絶妙だ。
「実は、ちょっとみんなに言いにくい事があるのよ…」
沙織さんにしては歯切れが悪いな。どうしたんだ?
「“予約できてない”とかいうオチじゃないよね? 母さん?」
紬さんならともかく、沙織さんがそんなミスするか? 大体、さっき千春さんと話したって言ってたし…。
「そうじゃないわ。これから行く旅館だけど、正確には『銭湯』なのよ」
「えっ? どういう事?」
「千春さんが言うには、空いてるちょっと広い和室をキレイにして泊まれるようにしたらしいの。その銭湯に泊まれる部屋は、そこしかないみたいでね…」
「つまり、泊まる客はあたし達だけって事?」
「そう。料理も懐石料理とかじゃなくて、わたしが作るような家庭料理だけになるらしいわ」
「むしろそっちのほうが良いんだけど。あたし、ああいう料理嫌いだし」
「ウチも~」
「真君と満里奈ちゃんも大丈夫かしら?」
「もちろん大丈夫ですよ」
詩織さんの言うように、俺も家庭料理のほうが良い。
「私もです」
「良かったわ。予約するまでずっと旅館だと思ってたの。違うのがわかっても、なかなか言い出せなくて…」
ミスを訂正するのは簡単そうで難しいし、沙織さんを責める気は全くない。
「でもさ~、その銭湯は何でそんな事し始めたんだろうね?」
詩織さんに同感だ。銭湯クラスになると、風呂掃除が大変だろ。家の風呂ですら面倒なのに…。
「やっぱり、銭湯だけでやっていくのが大変だからじゃない? サービスの幅を広げたほうが、生き残りやすいからね」
頑張って知恵を出した結果って事か。
「ねぇねぇ。どうせなら、そこの銭湯に入ろうよ。下見してすぐ帰るなんてもったないじゃん」
「それは良い考えね、紬ちゃん。でも真君とは一緒に入れないわよ?」
「何で!? ウチら一緒に入れるお風呂があるんじゃないの!?」
「確かにあるけど、そこに入れるのは泊まる人だけなの。今のわたし達は入れないわ」
実際に泊まる8月1日までお預けだ。
「な~んだ、ガッカリ」
俺はその方がありがたいな。まだ心の準備ができてないし…。
「母さん、それも銭湯の作戦ってやつ?」
「そうだと思うわ。なかなか考えてあるわね」
「まーちゃんと一緒は無理でも、温泉には入りたいな~。ウチ疲れちゃった」
「私達は座ってるだけじゃない。疲れてるのは、運転している沙織さんよ」
「気遣ってくれてありがとう満里奈ちゃん。疲れてるのはみんな一緒だから、温泉に入りましょうか♪」
「わ~い♪」
出発してから約30分経過した。渋滞はなかったし、そろそろ着くはずだ。
「この辺りのはずだから、みんなも探してちょうだい。近くに来るとカーナビの案内が終わるのよ」
沙織さんの指示を受け、俺達は車の窓から『千玲』を探す。
「――母さん。『千玲、この先を右に』って看板があるよ!」
「この先を右ね? わかったわ」
車が右折すると、銭湯のイメージに合った建物が見える。あれがそうだな。
「……近くに駐車場はないわね。出入り口前の駐車スペースしかなさそう」
「でも他の車はないから停めやすいじゃん。あたし達ツイてるかも?」
「かもね」
沙織さんは微笑んでから、駐車スペースに駐車する。『千玲』の店内はどんな感じなんだろう? 楽しみだ。
――みんなもワクワクしてるように見えるな。そんな風に思いながら、俺達は車を降りる。
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