116 / 142
第8章 呪われた世界
5. 病
しおりを挟む
冷たい風が吹きすさび、俺は身を震わせた。
少しでも暖が取れればと、手を擦り合わせる。
季節はまだ秋を迎えたばかりのはずだが、この街――ミセリコルディアは帝国のある大陸より海を越えて北にあるために寒く、冬の訪れも早い。
俺は路地の角に座って物乞いをしていた。
椀に入っている小銭を数えてみると、昨日よりも少し多かった。
帰らないと……貧者の町へ――
みんながお腹を空かして、待っている。
俺は立ち上がり、パンが買える店へと向かった。
「これだけ?」
「あぁん?」
「さきほど渡した金額なら、もっと買えるはずでは……」
「病気持ちのくせに、アタシに意見しようってのかい」
「俺はただ……」
「アンタらに売れるようなモンはうちにはそれきりさ。わかったらさっさと出て行っとくれ。うつっちまったらどうしてくれるんだい!?」
「これだけじゃ家に帰れません。たくさんの餓えた人たちが俺の帰りを待っているんだ」
「ああ!?あんたの事情なんざ知ったこっちゃないよ!」
パン屋のおかみさんは厨房から下男を呼ぶと、俺を店からつまみ出した。
「二度とアタシの店に来るんじゃないよ!疫病神!」
唾を吐きかけられ、バタン――と強く扉を閉められてしまった。
「痛……」
店から追い出されたときに転んでしまい、したたかに肩を打ち付けてしまっていたが、なんとか立ち上がることができた。わずかなパンの入った背負袋を担ぎ、杖を頼りに街を出るために歩き始めた。
フードを目深に被っていてもわずかに覗く口元から、見た者に生理的嫌悪を抱かせる肌がさらされている。
服に縫い付けられた鈴の音に気づいた人々が、眉をしかめながら離れていった。
「化け物だ~!おばけが通るぞ~」
「みんな逃げろ~!」
「ママ~。あの人、どうして鈴をつけてるの?」
「こらっ!近づいちゃいけません!」
「ドブネズミが……この町に来るんじゃねえよ!」
人々に避けられ、ときには石を投げつけらながら、ようやく大きな町の出口へと辿り着くことができた。
日暮れ前には貧者の町へと戻らなければ。夜道はモンスターが出て危険なのだ。
瘡蓋から流れ落ちた膿がこめかみを伝って垂れている。
遠いな。からだはうまく動かないし……
このからだになって、もう何日経っただろうか……
この病は神経が侵され、痛みや感覚が鈍くなる症状があった。だが、こころの痛みは防ぎようがない。
ツラいなあ……ヤツの思惑どおりなのも、悔しい……
せせら笑いが含まれた、サナトリオルムの言葉を思い返す――
『ノア、知っているか?人は辛い経験を乗り越えていく度に成長していくのだ。おまえはこの世界では何度でも経験することができる。なんと恵まれていると思うだろう?おまえはどんな成長を遂げるのだろうか――とても楽しみだよ』
サナトリオルムが俺のために用意したの新しい器は、重度の皮膚病患者の男のものだ。
前の持ち主は既に天へと召された後だったのだろうか……俺の魂はそのからだに入れられ、目覚めたのは男の家の寝台の上だった。
家と言っても粗末な小屋だ。何台かの寝台があり、それらは病んだ人たちで埋まっていた。
貧者の町――
そこは西にある病や犯罪により、ミセリコルディアに住むことを禁止された人々が身を寄せ合って暮らしている場所だった。
人々はいつも餓えていたが、なんとか手を取り合って助け合い、命を繋いでいた。
少しでも暖が取れればと、手を擦り合わせる。
季節はまだ秋を迎えたばかりのはずだが、この街――ミセリコルディアは帝国のある大陸より海を越えて北にあるために寒く、冬の訪れも早い。
俺は路地の角に座って物乞いをしていた。
椀に入っている小銭を数えてみると、昨日よりも少し多かった。
帰らないと……貧者の町へ――
みんながお腹を空かして、待っている。
俺は立ち上がり、パンが買える店へと向かった。
「これだけ?」
「あぁん?」
「さきほど渡した金額なら、もっと買えるはずでは……」
「病気持ちのくせに、アタシに意見しようってのかい」
「俺はただ……」
「アンタらに売れるようなモンはうちにはそれきりさ。わかったらさっさと出て行っとくれ。うつっちまったらどうしてくれるんだい!?」
「これだけじゃ家に帰れません。たくさんの餓えた人たちが俺の帰りを待っているんだ」
「ああ!?あんたの事情なんざ知ったこっちゃないよ!」
パン屋のおかみさんは厨房から下男を呼ぶと、俺を店からつまみ出した。
「二度とアタシの店に来るんじゃないよ!疫病神!」
唾を吐きかけられ、バタン――と強く扉を閉められてしまった。
「痛……」
店から追い出されたときに転んでしまい、したたかに肩を打ち付けてしまっていたが、なんとか立ち上がることができた。わずかなパンの入った背負袋を担ぎ、杖を頼りに街を出るために歩き始めた。
フードを目深に被っていてもわずかに覗く口元から、見た者に生理的嫌悪を抱かせる肌がさらされている。
服に縫い付けられた鈴の音に気づいた人々が、眉をしかめながら離れていった。
「化け物だ~!おばけが通るぞ~」
「みんな逃げろ~!」
「ママ~。あの人、どうして鈴をつけてるの?」
「こらっ!近づいちゃいけません!」
「ドブネズミが……この町に来るんじゃねえよ!」
人々に避けられ、ときには石を投げつけらながら、ようやく大きな町の出口へと辿り着くことができた。
日暮れ前には貧者の町へと戻らなければ。夜道はモンスターが出て危険なのだ。
瘡蓋から流れ落ちた膿がこめかみを伝って垂れている。
遠いな。からだはうまく動かないし……
このからだになって、もう何日経っただろうか……
この病は神経が侵され、痛みや感覚が鈍くなる症状があった。だが、こころの痛みは防ぎようがない。
ツラいなあ……ヤツの思惑どおりなのも、悔しい……
せせら笑いが含まれた、サナトリオルムの言葉を思い返す――
『ノア、知っているか?人は辛い経験を乗り越えていく度に成長していくのだ。おまえはこの世界では何度でも経験することができる。なんと恵まれていると思うだろう?おまえはどんな成長を遂げるのだろうか――とても楽しみだよ』
サナトリオルムが俺のために用意したの新しい器は、重度の皮膚病患者の男のものだ。
前の持ち主は既に天へと召された後だったのだろうか……俺の魂はそのからだに入れられ、目覚めたのは男の家の寝台の上だった。
家と言っても粗末な小屋だ。何台かの寝台があり、それらは病んだ人たちで埋まっていた。
貧者の町――
そこは西にある病や犯罪により、ミセリコルディアに住むことを禁止された人々が身を寄せ合って暮らしている場所だった。
人々はいつも餓えていたが、なんとか手を取り合って助け合い、命を繋いでいた。
1
あなたにおすすめの小説
a life of mine ~この道を歩む~
野々乃ぞみ
BL
≪腹黒い他国の第二王子×負けず嫌いの転生者≫
第二王子:ブライトル・モルダー・ヴァルマ
主人公の転生者:エドマンド・フィッツパトリック
【第一部】この道を歩む~転生先で真剣に生きていたら、第二王子に真剣に愛された~
エドマンドは13歳の誕生日に日本人だったことを静かに思い出した。
転生先は【エドマンド・フィッツパトリック】で、二年後に死亡フラグが立っていた。
エドマンドに不満を持った隣国の第二王子である【ブライトル・ モルダー・ヴァルマ】と険悪な関係になるものの、いつの間にか友人や悪友のような関係に落ち着く二人。
死亡フラグを折ることで国が負けるのが怖いエドマンドと、必死に生かそうとするブライトル。
「僕は、生きなきゃ、いけないのか……?」
「当たり前だ。俺を残して逝く気だったのか? 恨むぞ」
【第二部】この道を歩む~異文化と感情と、逃げられない運命のようなものと~
必死に手繰り寄せた運命の糸によって、愛や友愛を知り、友人たちなどとの共闘により、見事死亡フラグを折ったエドマンドは、原作とは違いブライトルの母国であるトーカシア国へ行く。
異文化に触れ、余り歓迎されない中、ブライトルの婚約者として過ごす毎日。そして、また新たな敵の陰が現れる。
二部は戦争描写なし。戦闘描写少な目(当社比)です。
全体的にかなりシリアスです。二部以降は、死亡表現やキャラの退場が予想されます。グロではないですが、お気を付け下さい。
闘ったり、負傷したり、国同士の戦争描写があったりします。
本編ド健全です。すみません。
※ 恋愛までが長いです。バトル小説にBLを添えて。
※ 閑話休題以外は主人公視点です。
※ ムーンライトノベルズにも投稿しております。
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…
こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』
ある日、教室中に響いた声だ。
……この言い方には語弊があった。
正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。
テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。
問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。
*当作品はカクヨム様でも掲載しております。
最弱白魔導士(♂)ですが最強魔王の奥様になりました。
はやしかわともえ
BL
のんびり書いていきます。
2023.04.03
閲覧、お気に入り、栞、ありがとうございます。m(_ _)m
お待たせしています。
お待ちくださると幸いです。
2023.04.15
閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。
m(_ _)m
更新頻度が遅く、申し訳ないです。
今月中には完結できたらと思っています。
2023.04.17
完結しました。
閲覧、栞、お気に入りありがとうございます!
すずり様にてこの物語の短編を0円配信しています。よろしければご覧下さい。
好きな人がカッコ良すぎて俺はそろそろ天に召されるかもしれない
豆ちよこ
BL
男子校に通う棚橋学斗にはとってもとっても気になる人がいた。同じクラスの葛西宏樹。
とにかく目を惹く葛西は超絶カッコいいんだ!
神様のご褒美か、はたまた気紛れかは知らないけど、隣同士の席になっちゃったからもう大変。ついつい気になってチラチラと見てしまう。
そんな学斗に、葛西もどうやら気付いているようで……。
□チャラ王子攻め
□天然おとぼけ受け
□ほのぼのスクールBL
タイトル前に◆◇のマークが付いてるものは、飛ばし読みしても問題ありません。
◆…葛西視点
◇…てっちゃん視点
pixivで連載中の私のお気に入りCPを、アルファさんのフォントで読みたくてお引越しさせました。
所々修正と大幅な加筆を加えながら、少しづつ公開していこうと思います。転載…、というより筋書きが同じの、新しいお話になってしまったかも。支部はプロット、こちらが本編と捉えて頂けたら良いかと思います。
【完結】我が兄は生徒会長である!
tomoe97
BL
冷徹•無表情•無愛想だけど眉目秀麗、成績優秀、運動神経まで抜群(噂)の学園一の美男子こと生徒会長・葉山凌。
名門私立、全寮制男子校の生徒会長というだけあって色んな意味で生徒から一目も二目も置かれる存在。
そんな彼には「推し」がいる。
それは風紀委員長の神城修哉。彼は誰にでも人当たりがよく、仕事も早い。喧嘩の現場を抑えることもあるので腕っぷしもつよい。
実は生徒会長・葉山凌はコミュ症でビジュアルと家柄、風格だけでここまで上り詰めた、エセカリスマ。実際はメソメソ泣いてばかりなので、本物のカリスマに憧れている。
終始彼の弟である生徒会補佐の観察記録調で語る、推し活と片思いの間で揺れる青春恋模様。
本編完結。番外編(after story)でその後の話や過去話などを描いてます。
(番外編、after storyで生徒会補佐✖️転校生有。可愛い美少年✖️高身長爽やか男子の話です)
カランコエの咲く所で
mahiro
BL
先生から大事な一人息子を託されたイブは、何故出来損ないの俺に大切な子供を託したのかと考える。
しかし、考えたところで答えが出るわけがなく、兎に角子供を連れて逃げることにした。
次の瞬間、背中に衝撃を受けそのまま亡くなってしまう。
それから、五年が経過しまたこの地に生まれ変わることができた。
だが、生まれ変わってすぐに森の中に捨てられてしまった。
そんなとき、たまたま通りかかった人物があの時最後まで守ることの出来なかった子供だったのだ。
転生したら嫌われ者No.01のザコキャラだった 〜引き篭もりニートは落ちぶれ王族に転生しました〜
隍沸喰(隍沸かゆ)
BL
引き篭もりニートの俺は大人にも子供にも人気の話題のゲーム『WoRLD oF SHiSUTo』の次回作を遂に手に入れたが、その直後に死亡してしまった。
目覚めたらその世界で最も嫌われ、前世でも嫌われ続けていたあの落ちぶれた元王族《ヴァントリア・オルテイル》になっていた。
同じ檻に入っていた子供を看病したのに殺されかけ、王である兄には冷たくされ…………それでもめげずに頑張ります!
俺を襲ったことで連れて行かれた子供を助けるために、まずは脱獄からだ!
重複投稿:小説家になろう(ムーンライトノベルズ)
注意:
残酷な描写あり
表紙は力不足な自作イラスト
誤字脱字が多いです!
お気に入り・感想ありがとうございます。
皆さんありがとうございました!
BLランキング1位(2021/8/1 20:02)
HOTランキング15位(2021/8/1 20:02)
他サイト日間BLランキング2位(2019/2/21 20:00)
ツンデレ、執着キャラ、おバカ主人公、魔法、主人公嫌われ→愛されです。
いらないと思いますが感想・ファンアート?などのSNSタグは #嫌01 です。私も宣伝や時々描くイラストに使っています。利用していただいて構いません!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる