日露戦争の真実

蔵屋

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第三十一章 脚気と戦った日本兵達

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 私はこの小説『日露戦争の真実』を執筆するに当たり、どの章でこの『脚気問題を取り上げたらいいのだろうか?』と悩んでいました。
 今回がその時であると思い、執筆したのです。

ー(日露戦争に於ける日本最大の敵はロシア帝国ではなく、この『脚気』だったのです。
この史実は殆ど歴史書には出てきません。
恐らく私だけだと自負しています。

 さて、日露戦争に於いて最も日本軍の兵士を『殺したもの』は、この脚気でした。
戦地に於けるロシア軍の将兵や大砲等の兵器ではありません。
 それは『脚気』という病気でした。
そしてその事態を招いたのは一人の陸軍軍人でした。
 その人物は皆さんもよくご存知の森鴎外もりおいがいです。
 この森鴎外はペンネームです。
 私は歴史を読み解く鍵は『その当時の人々の気持ちになることである』と思っています。
 しかし、言うは易く行うは難しです。
口で言うのは容易ですがそれを行うのは難しいのです。
 もし日本のすべての歴史学者が先程申し上げた『その当時の人々の気持ちになって考えていた』なら本来ならここで、この『脚気問題』を取り上げることもありませんでした。
 歴史小説の好きな方なら、例えば豊臣秀吉の侵略戦争であった朝鮮出兵に徳川家康を始め多くの武将が反対していたというのは、これまでの歴史学の定説ですが、私から言わせるとこれは明らかな誤りであると、敢えて申し上げたい。
 「当時の人々の気持ち」になって考えればむしろ「戦争やるべし!」だったであろう。
 第二次世界大戦に於けるドイツ帝国のアドルフ•ヒトラーが世界征服に乗り出した時と同じであった。
 当時はドイツ国民の根強い支持があったと言えるのだ。
 ドイツ人の大多数が本当にヒトラーを批判するようになったのは、「戦争に負けてから」である。
 また、江戸幕府の時代、「徳川綱吉は犬狂いの大馬鹿将軍」という歴史家たちの定説もそうである。
 徳川綱吉は馬鹿将軍どころか、歴史上屈指の名君であったのだから。
 今の言葉で言えば大政治家だったと言ってもいいだろう。
 それが全く違うように語られるのは、「当時の人々の気持ち」で考えないから。いや、考えることさえ、出来ない愚かな人間になっているからである。
 それは、私から言わせると「神さまを知らないらである」と断言しよう。

 さて、ここから本題である。
脚気という病気がこの世に存在していることを、今の若者はどれくらい知っているのだろうか。
 恐らく殆どの若者は知らないであろう。
この病気にはある有名な診断方法がある。
 医師が患者を椅子に座らせて、膝を組ませ医師がそこを木槌のような物で軽く叩く。それで『ピクリ』と足先が動くと「脚気ではありません」と医師は患者に告げる。
もし、脚気になると全身に『むくみ』が出来る。これを医学用語で|浮腫(ふしゅ》という。
 一度脚気に罹ると激しい苦痛と倦怠感で徐々に体が動かなくなるのだ。
 日露戦争当時、この脚気は日本国民に恐れられていた。
 何故なら予防法も治療法も確立されていなかったからだ。
 江戸幕府第十三代将軍徳川家定も死因は脚気であった。
 また、第十四代将軍徳川家茂も脚気であった。
 家茂の正室和宮は御殿医の診断を聞いて「目の前が真っ暗」になったと言われている。
 今でこそ、栄養状態がいいので脚気になる人は殆どいないと思うが、「当時の人々の気持ち」で考えたなら「不治の病」であり「死を宣告された病」であった。
そして、更に脚気を恐れさせる要因があった。それは当時の蘭方医学つまり西洋医学では治らなかったのだ。
 幕末、蘭方医学の導入により脚気以外に恐れられていた天然痘は種痘により予防法が確立されていた。
 また、必ず死ぬからと「コロリ」と呼ばれたコレラも治療により回復することが分かっていた。
 しかし、脚気だけは外国人の医者もさじを投げたのだ。
何故なら欧米には脚気という病気が存在しなかったからである。
これ以外に治療法が無く死に至る病として結核があった。しかしこの病気の進行は緩やかで養生次第によっては長生き出来たのである。
 脚気はそうはいかない。
脚気は進行が早く重症化すると手の打ちようがなかったのだ。
 先程の家茂の話しであるが、当時最高の医療を受けることが出来たはずなのに、将軍二代に渡り脚気が原因で死ぬというのはこの病気の怖さを物語っている。
将軍家茂は享年21歳であった。
 「当時の人々の気持ち」、いや、恐怖という言葉が少しは理解して頂けたのだろうか?

 
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