新説・鶴姫伝! 日いづる国の守り神 PART1 ~この恋、日本を守ります!~

あさくらやたろう-BELL☆PLANET

文字の大きさ
25 / 117
第一章その2 ~黒鷹、私よ!~ あなたに届けのモウ・アピール編

学び舎は第二の家

しおりを挟む


 高縄半島避難区は、その名の通り、四国北部の高輪半島に位置している。

 急流渦巻く来島海峡に面し、芸予諸島を巡る海の架け橋『しまなみ海道』の玄関口だったが、餓霊の侵攻に伴って、島々を結ぶ橋は爆破された。

 橋が破断された事で、島嶼部は最も安全な避難区となり、富裕層の居住区が所狭しと設置された。

 そうした島に住めない一般の市民は、半島の北端に幾重もの防衛ラインを敷いて生活していたし、誠達の部隊は、前線に程近い高校の跡地に駐屯していた。そもそも学校は、極めて使い勝手のいい建物だからだ。

 平坦で地盤の硬い校庭グラウンドには、格納庫や武器庫を簡単に建てられるし、体育館は物資の保管庫として使いやすい。

 武器弾薬がある以上、人の出入りの監視は必須だったが、元々学校は周囲を囲む壁がある。

 更に職員室は事務方の部屋、校長室は指揮官の執務室というように、都合のいい設備がわんさか備えられている。

 広大な敷地を持ち、最初からこれだけの設備がある学校は、えてして防衛拠点に使われる事が多かったのだ。



 一同の車が格納庫に辿り着くと、坊主頭の少年が出迎えてくれた。

「また異常にボロボロですよね? スタントマンにでもなったんですか」

 砂と粉まみれになった誠を見て、青いツナギ服を着た彼は苦笑いした。名は尚一しょういちといい、見た目で連想されるとおり、彼は香川の弟だった。

「兄ちゃんも悪運強いね。ていうかその頭、どうにかしたら?」

「分かってるって。伸びるの早くなってるのかねえ、いつもより頭が重いんだよ。ちょっと剃ってくるわ」

 香川はウニ状態の頭を剃るべく洗面所に向かったが、後頭部に毛布が突き刺さっているのには気付いていない。

 ……が、そこで髪もヒゲも真っ白になった小柄な老人が、ねじ回しを放り投げながら血相を変えて駆け寄ってくる。

「貴様ああっ、ワシの可愛い人型重機を、またこんなに壊しおって!」

「いや、ちょっと美濃木みのきさん、今はやめて! 車から落ちて、全身が痛くて!」

「痛いのはわしの心じゃわーい!」

 美濃木老人は誠を捕まえると、鮮やかな手つきのプロレス技……コブラツイストで締めあげた。

 人も機体も直す、という理念で整体士の資格も持つ美濃木は、誠の体だけは断固として壊す、という血も涙も無い爺さんだった。

 尚一は気にせず、先に運び込まれていた人型重機を振り返りつつ話を続ける。

「ざっと見てみたんですが、装甲も人口筋肉もかなりとっかえですね。2~3日は出撃も無理だと思います」

「そ、そうか……ぐああっ!?」

 誠は次々繰り出される関節技に悶絶しつつ尋ねる。

「な、何かこっちでっ! する事はないかっ!?」

 貴様がするべきは地獄での懺悔じゃわーい、と叫ぶ爺さんをよそに、尚一は首を振った。

「とりあえず、今のところは無いですね。接続操作の調整段階が来たら、またつきっきりでお願いします」

「うちあれ苦手やわ。頭の調整は時間かかるししんどいねんな~」

 難波が肩をすくめるが、尚一はすまなさそうにフォローする。

「そりゃしょうがないですよ。接続操作が無ければ、頭なんて単に高所アンテナとカメラなんですけど……頭部同期ヘッドリンクしたら別です。ここに違和感があれば、生き死にに関わるでしょ。かぶったヘルメットがずれてて戦えるかって話で。まあその時が来たら呼びますから、腹ごしらえでもしてて下さい」

「じゃあそうさせてもらうぜ。腹減った、昨日からちゃんと食ってねえんだもん」

 宮島は急に会話に入ってきて、格納庫に椅子を並べ始めた。床に箱型携帯糧食ボックス・レーションを置くと、温め機能をオンにする。

「くおらぁ貴様らっ、誰が俺の頭に毛布突き刺したあっ!?」

 香川が頭を剃って戻ったが、一同は彼をなだめて食事の準備にとりかかった。


 ボックス・レーションは、みかん箱ぐらいの容器に温め機能がついていて、中に人数分の弁当が入っている。戦場でも温かい食事が取れるようになっているのだ。

 食材は家畜や魚より成長が早く、育成エネルギーの効率がいいもの……つまり各種の動植物海棲小型生物プランクトンである。

 海辺に円筒形のタンクを作り、海水を攪拌かくはんしながら毒性の無いプランクトンを大量養殖。出荷前になると塩分濃度を落とし、ペースト状に固めるのである。

 小型のオキアミをすりつぶして圧縮し、肉のような食感を出したメニューは通称『海肉』、それに細かなチップ状のジャガイモで衣を付けたカツは『海カツ』。調理する人も工夫してくれていたが、元がプランクトンなので、いかんせんバラエティに乏しいのだった。

 なお、稲作には大量の水が必要なので、炭水化物はジャガイモなどのイモ類がメインである。

 宮島は小気味良く海肉を頬張りつつ感想を述べた。

「悪くねえし、食えるだけマシだけど、出来ればもっとメニューが欲しいよなあ」

「メニューというより、まずは主食だな。小麦があれば、うどんも作れるだろうし」

「うちも香川の意見に賛成やわ。うち、ジャガイモは好きやけど、もう10年たこ焼きもお好み焼きも食べてへんもん」

 難波も同意するが、カノンはそんな一同に苦笑している。

「食欲があるのは衛生兵として嬉しいんだけど、あんた達、ほんとに食べる事ばっかりよね」

「いやあ、食い意地はカノっちには負けるで」

「いつあたしが食い意地を張ったのよっ。それはそうと整備主任、そろそろやめて下さい。あんまり悪戯おいたしたら、めっ!」

 カノンは美濃木を追い払うと、開放された誠にレーションを渡してくれた。

「ちゃんと食べなさいよ。今度倒れたら、本当に手術するから」

 カノンはメディカルバッグからメス代わりの刃物を取り出すが、それはどうみても包丁ぐらいある。彼女は簡易の手術も行う資格を得ているが、なぜかメスではなく和刃物を使うのである。

「……あ、あのカノンさん、そんなでかい刃物で執刀されたら、逆にケガが増えるんじゃないでしょうか」

「あたしはこれが一番合うのよ。重さがあるからすーっと切れるし」

 カノンはうっとりした表情で刃物を眺める。

「使わないと腕が鈍るし、そろそろ誰かケガしないかしら」

「衛生兵にあるまじき発言じゃんか。折角みんな元気なのに……」

 誠はひきつった顔で答える。みんな元気、と言ったものの、実際はそう気楽でもいられなかった。

 防衛予算の削減で、戦力はどんどん削られているのだ。当然一人あたりの負担が増えているので、もし誰かが倒れれば、連鎖的に崩壊が来るのは明白だった。

 そんな誠の内心を知ってか、尚一は誠に告げた。

「補給のおじさん達から聞いたんですけど、この高縄半島の避難区も縮小するかもって言ってました」

「縮小? 縮小って、溢れた人は? どこかに移動出来るのか?」

 誠の問いに、尚一は首を振った。

「……分かりません。けど、最近の上層部うえは頭がおかしいんじゃないかって思います。あいつらが牛耳り始めてから、何もかもおかしいんで。金持ちの避難区と、特務隊の連中にだけ予算を使って、一体何を考えてるのか……」

「俺らがどうしたよ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...