新説・鶴姫伝! 日いづる国の守り神 PART1 ~この恋、日本を守ります!~

あさくらやたろう-BELL☆PLANET

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第一章その3 ~とうとう逢えたわ!~ 鶴ちゃんの快進撃編

話は盛るな、成り上がれ

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「……な、成程、あなたは神様なんですね。それはようこそお越し下さいました」

 鶉谷司令は何度も頷きながら、自分を納得させるように言った。

 場所は応接室だったが、室内はまるで平安貴族の館のように変えられている。

 女神・岩凪姫は漆塗りの倚子いしに腰掛け、傍らの虎ほどに巨大化した狛犬に手を乗せていた。コマとは違うこの狛犬は、片目に黒い眼帯アイパッチを付けている。

 狛犬の右隣には、藺草いぐさを編んだ円座えんざ……つまり昔の座布団が敷かれ、そこにキツネや猿や牛など、どれも子犬サイズの神使がちょこんと座っている。神使達はそれぞれ雅楽器ががっきを持ち、みやびな音色を奏でていた。

 一方で女神の左隣には、四角いしとね絨毯じゅうたんのように敷かれ、あの鎧姿の少女・鶴が座っていた。今は戦いで疲れたのか、うつらうつらと居眠りをしている。コマと呼ばれた狛犬も、少女の膝で眠り込んでいた。

 なお、誠達は下座に座布団が敷かれ、そこに横並びで正座していた。座布団には荒武者の顔が描かれており、誠達が座ると罵詈雑言を吐いてきたが、女神が「こら」と一言いうなり、青い顔で黙ってしまったのだ。


「それにしても、良かったなあ鳴っち。神さんが来てくれたらそりゃ安心やで」

「そうだぜそうだぜ、良かったな隊長」

「本当に良かった。俺は仏門だから分からないが、とにかく良かった」

 いい笑顔で語りかける隊員達に、誠は若干引き気味に答える。

「い、いやお前ら、完全に思考を止めてるだろ……」

 若者達の言葉を面白そうに聞き流すと、自称女神は誠を見据えた。

「どうした黒鷹、挨拶が無いな。故郷の島の古い神だぞ」

「……ふ、ふざけるな、何が神とその使いだよ」

 誠は勇気を振り絞って答えた。神使達が演奏を止め、手をぶんぶん振って慌てているが、誠の知った事ではない。

「今時霊だの神だの言われて、すぐに信じるヤツが……うわっ!?」

 そこで横からカノンが刃物を押し付けてくる。口パクを確認すると、『バカ鳴瀬、やめなさい』と言いたいのだろう。

 誠は一度冷静になろうと努め、それから再び口を開いた。

「……分かった、それならそれでいい。が、あなたがもし神だとしたら、なぜ俺達を助けに来たんだ。他に日本中、ピンチの場所はあるはずだ。それに日本がこんなになるまで、どうして何もしなかったんだ」

「それには過去から話す必要があるな。お前はかつて鶴の側近だった安成やすなり……つまり黒鷹の魂を持つ人間だからだ。遠い戦国時代、黒鷹は鶴をかばって敵の軍勢に切り込み、先立った。そういう縁がある」


 女神が言う鶴というのは、いわゆる鶴姫伝説の事だという。

 日本が戦国時代と呼ばれた頃、大山祗神社を守る三島大祝家に生まれた彼女は、快活で利発な少女として語られている。

 後に水軍の大将となり、見事な指揮で何度も敵の大軍を追い返した事から、地元のちょっとした伝説のヒロインなのだ。

 実際に大山祗神社には、彼女の物とされる、日本で唯一の女性用の鎧が飾られている。男の鎧と比べてウエストがくびれ、胸の部分が膨らんだそれを見た時、幼い誠は少し照れてしまったものだ。

 勿論ローカルな人物であり、多少聞きかじった程度なので、誠にはそれ以上の知識はない。


「ではまず1つ目だ。最初にこの地を選んだのは、鶴の生まれ故郷であり、鶴が現世の気に馴染みやすかった事と……お前が居た事が大きい。勿論他の地域でも、鶴が行くまで助け合って持ち堪えられるよう、ある程度の縁結びはして来たがな」

 女神は前に手を突き出し、指を1つずつ伸ばして説明する。

「次に2つ目、なぜ今まで現世に来なかったか。魂の存在たる我々は、現世で思うように活動出来ない。特に邪気が溢れていては尚更だ。だから肉体を持つ神の代理人を遣わすし、私達もその存在を足がかりにして活動しやすくなる。今回も神の代行者が必要だった……が、赤子から育てていては間に合わぬ。この鶴はたまたま体を保存していたし、10年程でパワーアップが可能だった。勿論人同士の争いは、どんな者でも所縁ゆかりある神がいるから、我々が手を出しづらい。子供の喧嘩に親が出る、になるからだ。だが餓霊は魔界の悪霊どもが受肉した姿。奴らが相手なら話は別だ」

「悪霊?」

「そうだ。今はこの星の気脈が動く時期だからな。日本だけでなく、世界中で魑魅魍魎ちみもうりょうが溢れ出し、肉の体を得て暴れている。今はそれ以上は言わぬし、言えぬ。他に聞きたい事はあるか?」

「あ、あります」

 誠は女神の迫力にたじろぎながらも、腹に力を込めて答えた。

「俺も小さかったから全部は知りませんけど、鶴姫伝説は相当シリアスなお姫様だったはずだ。だからそこに居る子が本当の鶴姫とは、俺には思えない」

「まあ、私を疑うのね。いくら500年ぶりだからって失礼しちゃうわ」

 鶴はこういう時だけ目が覚めて怒っているが、コマも目をさまし、まあまあとなだめている。

「ふむ、どういう事だ? 鶴の話は、神使達が三島家の子孫に夢枕で読み聞かせて……正確にインスピレーションを授けて出来上がったはずだが?」

 女神は怪訝そうに眉をひそめ、それからパチリと指を鳴らした。

「へい、何でしょうか、岩凪姫様」

 虎ぐらいに巨大化していた狛犬は、一気に子犬ほどの大きさに戻り、女神の前にかしこまった。

 他の神使達も慌てて狛犬の隣に並び、女神は彼らに質問する。

「そなた達が三島家に、鶴の話を伝えたのだったな?」

「へい、そうですけど」

「私は正確に伝えろと言ったな?」

「……うっ、そ、それは」

 神使達は絶句して焦り始める。

「見せなさい」

 狛犬は大量の汗を流しながら、虚空から本を取り出して女神に渡した。

 女神はぱらぱらと本をめくったが、たちまち眉間に皺が寄り、小刻みに眉が震え始める。

「ほーう、生後百日で喋ったとか、色々楽しく書いてあるではないか」

「い、いやあ、どうせなら派手な方がいいかと思いやして……」

 神使達は焦って後ずさりしている。

 鶴は女神が落とした本を開き、満足げに頷いた。

「そう、全くこの通りだわ。私は幼い頃から立派で賢く、姫の中の姫と呼ばれました」

「遊んでばっかりだったじゃないか」

「違うわコマ、そう見せかける作戦なのよ」

 そこで女神の怒りが炸裂した。

「ええいっ、このお調子ものどもめっ! なぜ話を盛るのだっ!」

 怒る女神の迫力に、鶴と神使達は逃げ去った。

 女神は気を取り直して話を続ける。

「多少ぐだぐだにはなったが、そもそも現代と違い、記録は不確かなもの。伝聞の末に脚色されるのが普通なのだ。あ奴らに任せたから、ずいぶん盛りすぎた感はあるがな」

「……そんなに盛ってないわ」

「いいから黙っていろっ!」

 いつの間にか扉から覗いていた鶴は、女神に一喝されて再逃走した。

「とにかく、多少話は盛っているが、家系図からも実在は事実。坂田金時さかたのきんときが、マサカリを担いだり熊と相撲を取った話と同じだと思え」

 それはかなりの盛り過ぎでは、と誠は思ったが、女神は強引に押し切るつもりらしい。

「それにどのみち私達と組まねば、お前達に道はない。何度苦境を切り抜けても、更に補給を減らされ、難易度が増すだけなのだ」

「そ、それは……そうですが」

 誠は俯いて、辛うじて反論の言葉を搾り出した。

「……あ、あれだけの力を貸してくれて、神とやらがここまで肩入れしたら……タダで済むと思えませんが」

「勿論そうだ。誰もただとは言っておるまい?」

 女神は笑みを浮かべると、右手を前に突き出した。

 その手に眩い光が満ちると、光はやがて見慣れた形に変化した。

「刀……?」

 太刀の形となったそれは、漆黒の刀身に不可思議な輝きを帯びていた。

「我が力を集めて研ぎ出した神器、岩凪いわなぎの太刀だ。私と同じでやたら頑丈だし、物質や魔物は切れるが、逆に善なる者は切れない。その太刀を手に取る者は、我が弟子として認める……が、平和を取り戻した暁には、多大な代償を払うだろう」

 女神の言葉に、皆静まり返ってしまった。

「………………」

 誠は隣に座る雪菜の顔を思い浮かべる。例えどんな代償があろうと、彼女を守るためなら惜しくはない。

 誠が宙に浮かぶ太刀を握ると、太刀は強く光り輝く。

 再び光の球に戻った太刀は、弧を描いて誠の周囲を飛ぶと、誠の逆鱗に宿ったのだ。

 女神は少し嬉しそうに、満足げに口元を緩めた。

「これで契約成立だな。その太刀はお前の魂に組み込まれ、必要な時に表に出る。使う度、前世の記憶が蘇るかもしれぬが……大事はない。おおとりよ」

 不意にどこからともなく、長身で黒いスーツ姿の女性が現れた。長い黒髪をうなじでまとめた、燐とした表情の美人である。

代行だいこう様、こちらに」

 うやうやしく膝をつく彼女は、ダンボールの箱を床に降ろした。

「あっ、これって!?」

 誠は心底驚いた。

 箱に入っていたのは、誠の思い出の品々である。小さい頃に遊んだ玩具や、美術館と共に燃えたはずの課題ポスター。将来の夢を描いた作文まである。

「その神器をお前の魂と馴染ませるために、これらも一緒に入れておこう。この戦いが終わった時、お前が自分を見失っていたら、必要になるかもしれんしな」

 誠はその意味が分からなかったが、箱が光り輝くと、誠の逆鱗に吸い込まれていった。

「それ、もう掃除機と変わらんやん」

 難波の感想をよそに、女神は力強く立ち上がった。虚空から金棒を取り出し、床に突き立てる。

 !!!!!!!!!!!!!!!!

 校舎全体が震えるような衝撃が走り、女神は高らかに言い放つ。

「お前の覚悟、確かに見届けた。これより国家総鎮守の父に代わって、この岩凪姫が日の本奪還の戦いを導こう。そのためにお前達には成り上がってもらう」

「成り上がる?」

「そうだ。考えてみろ、この国はどうしてここまで乱れたのだ? 悪党に支配されたからだ。人の世に巣食う悪党は、能無しの癖に権力を欲し、能力のある人間は地位を嫌う。これではどう足掻いても地獄にしかならぬではないか」

 女神が拳を握り締めると、激しい火花が周囲に飛び散り、いつの間にか戻っていた神使達が紙吹雪を撒き散らした。

「理屈もへったくれもない、やるべきことは単純明快、物言うために成り上がれ!」

「そうよ! さあ、悪党相手に日の本の天下取りだわ!」

 鶴がおいしい所を持っていくが、女神は特に怒らなかった。

「お前達の留守中、要人達は出来るだけ私の配下や神使が守る。頼むぞ鳳」

「おおせのままに」

 スーツ姿の女性は、そう言って深々と頭を下げた。

 そこで香川が恐る恐る手を上げる。

「……あ、あの~、俺の家は仏門だったんで、神道とは教えが違うんですが」

 だが鶴は動じない。

「神も仏も、皆尊いわ。弘法大師もそう言ってたじゃない」

「よし、それではよいな?」

 女神は力強く一同を見渡し、拳に更に力を込める。

「私は10年もの間、酒が飲めなくてイライラしている。早く悪党どもをギタギタにして、人々が酒を作れるようにするのだ」

「か、完全に私利私欲で来てますよね……」

 誠は正直ぞっとした。これはしんどい事になるぞと、直感で理解したのだ。

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