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部活勧誘編
若元梨音①
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私、若元梨音には物心ついた頃から一緒にいた男の子がいた。
行動的で運動神経が良く、周囲の状況をよく観察していて洞察力が高い。
そんな彼がサッカーの才能を発揮したのは、ある意味必然とも言える。
小学1年生の頃にクラブチームに入り、すぐにその魅力に引き寄せられた彼は練習がない時でも自主的に練習をするようになっていた。
私と一緒に公園に行っては、動画で覚えてきた技を必死に練習していた。
「知ってるか梨音。今から両方の足で練習しておけば、どっちの足でもカッコいいシュートが蹴れるようになるんだぜー!」
「ふーん」
正直、私はサッカーに興味無かったけど、修斗が楽しそうにボールを蹴っているのを見ているだけで、私も楽しかった。
修斗の試合があるたびに私はお父さんやお母さん、修斗のお父さんやお母さんの空いてる人達と見に行っていて、試合に出るたびにゴールを決める修斗を、いつしか世間は放っておかなくなっていた。
小学校高学年に上がる頃には、修斗は東京VというJリーグでも上位に位置している有名なチームにスカウトされることになった。
それまで以前のクラブチームで中心となっていた修斗が、さらにレベルの高いチームでやれていけるのか心配していたけど、修斗にとっては心配するだけ無駄だった。
すぐにチームメイトの信頼をプレーで勝ち取り、ハイレベルなボールタッチと技術、両足を使った自由自在なシュートコントロールは、素人である私から見ても他を圧倒していた。
そして中学。
修斗は1年生ながらも大会にスタメンで出場し、上級生のいる中で躍動し、アシスト王にもなりチームは優勝。
この時から世間の修斗に対する認知度は飛躍的に上がっていった気がする。
冬に行われた大会でもチームは優勝し、修斗は得点王、アシストに輝き、大会MVPにも選ばれていた。
とにかく修斗が活躍していた。
これはきっと贔屓目で見ていた私じゃなくても、誰しもが思っていたことだと思う。
そんな修斗だったけど、試合に勝ったあとは決まって私の家で一緒にご飯を食べていた。
修斗のお父さん達も一緒になって祝勝会を行っていた。
きっとチームメイトの人達とも祝勝会はあるはずなのに、修斗は当たり前のように「今日のご飯が楽しみだ」と言って、私達と一緒に帰っていた。
活躍すればするほど、私の近くから離れていってしまうのではないかという不安。
でも、有名になっても何も変わらない修斗に、私は心のどこかでホッとしていたんだと思う。
2年になった頃には、修斗以外のチームメイトにも才能のある人達が増えてきたことで、修斗が圧倒的に活躍するという場面は少なくなってきた。
少し物足りないと思っていた私だったけど、多くの人の話だと去年よりも周りの使い方が上手くなっており、より一層チームの中心として替えの効かない選手になっているそうだ。
それでもやっぱり時折見せるスーパープレイは、私の心を躍らせた。
そして2年生の時の大会でも修斗のチームは連続優勝し、修斗は日本代表に呼ばれることが多くなり、海外遠征に行くことも増えた。
ますます離れていく修斗との距離。
それでも私は何一つとして心配していなかった。
修斗は何も変わらなかった。
海外から帰ってきたらお土産を持って私の家に来て、やっぱり日本が一番だと言ってくつろいでいく。
そんな当たり前の日常があった。
でも修斗が一度、私に真剣な相談をしに来たことがあった。
それは、クラスメイトの女子から告白されたというものだった。
「こういうこと初めてだからさ、どうしたらいいか分かんねーんだよ」
そう言って照れながら話す修斗を見て、私はチクリと胸の内側を何かに刺されたような痛みを覚え、何とも形容し難いモヤモヤとした気持ちで一杯になった。
「こんなん相談できるのなんて梨音ぐらいのもんだろ? どうすりゃいいと思う?」
「どうって…………」
勝手にすれば、と言いそうになって口をつぐんだ。
修斗は私を頼ってわざわざ話にきたのに、冷たく突き放すなんていくらなんでも性格が悪すぎる。
だけどどうしても、肯定するような言葉が出てこようとはしなかった。
思いつく言葉は否定的な事ばかりで、修斗のことを思っての発言ではなかった。
そんな自分に嫌気が差し、私は振り絞るような声で、
「修斗はどうしたいの?」
と聞いた。
修斗の思った通りにすればいい、と解釈すれば聞こえはいいけど、実際は自分の意見を伝えることができず、修斗に放り投げただけのことだ。
一言〝私は嫌だ〟と言えれば済む話なのに、なぜ嫌なのかは理由にすることができない。
私自身も分からない。
「そうだなぁ。今はサッカーの方が大事だから、どうやったら上手く断れるか教えてくれよ」
それを聞いただけで、簡単にも私の心は跳ね上がった。
どうしたらいいか分からない、というのはどうやって断ったらいいのか分からないという意味だったんだ。
だけどもし、修斗が付き合うと言った時、私は自分がどんな気持ちになるのかすぐに想像できた。
それが一体どういう感情なのか、その時初めて私は理解した。
〝私にとって修斗はただの幼馴染なんかじゃない〟
と。
だけどこの気持ちは修斗には言えない。
そもそもそんな勇気がないのはもちろんのことだけど、修斗にその気持ちがない。
私にわざわざこんなことを相談してくるぐらいだ、修斗は私のことを本当にただの幼馴染だとしか思っていない。
だから私のこの気持ちを伝えて、修斗に拒否された時のことを考えただけで胸が苦しくなるし、こうして修斗が私の家に来てくれることは無くなってしまうかもしれない。
だから私は幼馴染のままでいた。
本当の気持ちは隠したまま、修斗と対等の位置にいると誤魔化して、日々を過ごしてきた。
そして中学3年の夏。
事件が起こってしまった。
行動的で運動神経が良く、周囲の状況をよく観察していて洞察力が高い。
そんな彼がサッカーの才能を発揮したのは、ある意味必然とも言える。
小学1年生の頃にクラブチームに入り、すぐにその魅力に引き寄せられた彼は練習がない時でも自主的に練習をするようになっていた。
私と一緒に公園に行っては、動画で覚えてきた技を必死に練習していた。
「知ってるか梨音。今から両方の足で練習しておけば、どっちの足でもカッコいいシュートが蹴れるようになるんだぜー!」
「ふーん」
正直、私はサッカーに興味無かったけど、修斗が楽しそうにボールを蹴っているのを見ているだけで、私も楽しかった。
修斗の試合があるたびに私はお父さんやお母さん、修斗のお父さんやお母さんの空いてる人達と見に行っていて、試合に出るたびにゴールを決める修斗を、いつしか世間は放っておかなくなっていた。
小学校高学年に上がる頃には、修斗は東京VというJリーグでも上位に位置している有名なチームにスカウトされることになった。
それまで以前のクラブチームで中心となっていた修斗が、さらにレベルの高いチームでやれていけるのか心配していたけど、修斗にとっては心配するだけ無駄だった。
すぐにチームメイトの信頼をプレーで勝ち取り、ハイレベルなボールタッチと技術、両足を使った自由自在なシュートコントロールは、素人である私から見ても他を圧倒していた。
そして中学。
修斗は1年生ながらも大会にスタメンで出場し、上級生のいる中で躍動し、アシスト王にもなりチームは優勝。
この時から世間の修斗に対する認知度は飛躍的に上がっていった気がする。
冬に行われた大会でもチームは優勝し、修斗は得点王、アシストに輝き、大会MVPにも選ばれていた。
とにかく修斗が活躍していた。
これはきっと贔屓目で見ていた私じゃなくても、誰しもが思っていたことだと思う。
そんな修斗だったけど、試合に勝ったあとは決まって私の家で一緒にご飯を食べていた。
修斗のお父さん達も一緒になって祝勝会を行っていた。
きっとチームメイトの人達とも祝勝会はあるはずなのに、修斗は当たり前のように「今日のご飯が楽しみだ」と言って、私達と一緒に帰っていた。
活躍すればするほど、私の近くから離れていってしまうのではないかという不安。
でも、有名になっても何も変わらない修斗に、私は心のどこかでホッとしていたんだと思う。
2年になった頃には、修斗以外のチームメイトにも才能のある人達が増えてきたことで、修斗が圧倒的に活躍するという場面は少なくなってきた。
少し物足りないと思っていた私だったけど、多くの人の話だと去年よりも周りの使い方が上手くなっており、より一層チームの中心として替えの効かない選手になっているそうだ。
それでもやっぱり時折見せるスーパープレイは、私の心を躍らせた。
そして2年生の時の大会でも修斗のチームは連続優勝し、修斗は日本代表に呼ばれることが多くなり、海外遠征に行くことも増えた。
ますます離れていく修斗との距離。
それでも私は何一つとして心配していなかった。
修斗は何も変わらなかった。
海外から帰ってきたらお土産を持って私の家に来て、やっぱり日本が一番だと言ってくつろいでいく。
そんな当たり前の日常があった。
でも修斗が一度、私に真剣な相談をしに来たことがあった。
それは、クラスメイトの女子から告白されたというものだった。
「こういうこと初めてだからさ、どうしたらいいか分かんねーんだよ」
そう言って照れながら話す修斗を見て、私はチクリと胸の内側を何かに刺されたような痛みを覚え、何とも形容し難いモヤモヤとした気持ちで一杯になった。
「こんなん相談できるのなんて梨音ぐらいのもんだろ? どうすりゃいいと思う?」
「どうって…………」
勝手にすれば、と言いそうになって口をつぐんだ。
修斗は私を頼ってわざわざ話にきたのに、冷たく突き放すなんていくらなんでも性格が悪すぎる。
だけどどうしても、肯定するような言葉が出てこようとはしなかった。
思いつく言葉は否定的な事ばかりで、修斗のことを思っての発言ではなかった。
そんな自分に嫌気が差し、私は振り絞るような声で、
「修斗はどうしたいの?」
と聞いた。
修斗の思った通りにすればいい、と解釈すれば聞こえはいいけど、実際は自分の意見を伝えることができず、修斗に放り投げただけのことだ。
一言〝私は嫌だ〟と言えれば済む話なのに、なぜ嫌なのかは理由にすることができない。
私自身も分からない。
「そうだなぁ。今はサッカーの方が大事だから、どうやったら上手く断れるか教えてくれよ」
それを聞いただけで、簡単にも私の心は跳ね上がった。
どうしたらいいか分からない、というのはどうやって断ったらいいのか分からないという意味だったんだ。
だけどもし、修斗が付き合うと言った時、私は自分がどんな気持ちになるのかすぐに想像できた。
それが一体どういう感情なのか、その時初めて私は理解した。
〝私にとって修斗はただの幼馴染なんかじゃない〟
と。
だけどこの気持ちは修斗には言えない。
そもそもそんな勇気がないのはもちろんのことだけど、修斗にその気持ちがない。
私にわざわざこんなことを相談してくるぐらいだ、修斗は私のことを本当にただの幼馴染だとしか思っていない。
だから私のこの気持ちを伝えて、修斗に拒否された時のことを考えただけで胸が苦しくなるし、こうして修斗が私の家に来てくれることは無くなってしまうかもしれない。
だから私は幼馴染のままでいた。
本当の気持ちは隠したまま、修斗と対等の位置にいると誤魔化して、日々を過ごしてきた。
そして中学3年の夏。
事件が起こってしまった。
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