怪我でサッカーを辞めた天才は、高校で熱狂的なファンから勧誘責めに遭う

もぐのすけ

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アルバイト勧誘編

プロローグ

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 俺は中学に入った頃からぐんぐんと背が伸び、中学2年生の秋頃には周りと比べて体が大きい方で、飛んできたボールを頭に合わせるだけで相手DFに競り勝ってゴールを決めることができるようになっていた。
 そのため足元の技術はお粗末なものとなっていたが、クラブチームの名門FC横浜レグノスのジュニアユースでFWとしてスタメンを勝ち取ることができていた。

 そんな自分の恵まれた体格に自惚れていた中学2年の冬、俺は本物の化け物達と出会った。

「はぁ……はぁ……はぁ……」

紗凪さなぎ! お前がボールを収められないでどうすんだよ!」

 キャプテンである三船みふね翔哉しょうやさんから怒号が飛んでくる。
 今まではベンチから試合を見ているだけだった。
 どうして先輩方はあんな奴らに競り負けるのか、どうして簡単にボールを失うのか、毎回その光景ばかり見て苛ついていた。
 しかし、実際にピッチの上に立った結果、外から見ていた景色と中から見る景色の激しい差異に飲み込まれ、俺は何もできずにいた。

 東京ヴァリアブル

 歴代最強世代とも呼ばれ、ここ二年間であらゆるタイトルを総なめにしているチームだ。
 相手チームの試合に出ているほとんどが俺と同学年で、Uー15の代表にも選ばれている奴も多い。

「紗凪負けんな!」

「うおおおおおおおお!!」

「ふんっ!」

「ぐおっ!!」

 またしても俺は競り負けた。
 日本代表のDF、台徳丸賢治。
 浮き玉しか勝てない俺が、今日は一度もこいつに勝てていない。
 身長では俺が勝っているのに、ジャンプ力と絶対にブレない体幹のせいで俺は競り負ける。

「ナイッスゥー!」

 こぼれ球を拾ったのは友ノ瀬とものせ龍二りゅうじ
 こいつも厄介だ。
 こぼれ球に対する嗅覚もさることながら、俺達のチームのキーマンでもあるボランチの翔哉さんにピッタリとマークにつき、パスを出させないように封じ込めている。
 日本代表のキャプテンも務めている翔哉さんは生粋のパサーであり、縦を切り裂くスルーパスが持ち味だが、今日は一本も出すことができていない。
 俺がボールを収めることができていないのも原因だが。

「ボールを通さすな!」

 その声虚しくボールはドリブラーの神上涼介へ。
 他のクラブチームを無失点に抑えてきた優秀なDF陣が簡単に抜かれる。
 1対1では絶対に止めることの出来ない化け物だ。
 良くてスピードを遅らせる程度。
 そして人数を掛けたところで空いたスペースにパスを出される。
 中央の狭間はざま流星りゅうせいへとボールが渡り、ワンタッチで逆サイドへと展開される。
 そして足のはええ荒井光がクロスをあげた。

 中央にいる、奴。
 城ヶ崎優夜。

 俺と同じような体格をしているのに、俺どころか翔哉さんを除いたレグノスの誰よりも足元の技術が上手い。
 競り勝ちボールを収めたかと思えば、そのままシュートを撃ちゴールを決められた。
 俺にはアレが出来ない。

「これで3点差か……」

「誰がアイツらを止められるんだよ……」

 後半が始まり10分で追加点。
 大会で当たるたび、ここ何年もヴァリアブルには勝てていないらしい。
 今回は俺がねじ伏せてやると、そんな風に思っていた。
 しかし、結果はこの様だ。
 俺は今まで本当に全力を尽くしてきたのか?
 自分の体格の良さにかまけて為すべきことを疎かにしていたのではないか?

 俺が目指すべきは…………城ヶ崎のようなFWなのではないのか。

「おい……向こうは選手を交代させるつもりだぞ……!」

「マジかよ今日は出てこないと思ったのに……!」

「この点差で出してくるのかよ…………」

 タッチラインで一人の選手が準備していた。
 今の化け物揃いのヴァリアブルを象徴する男。
 将来の日本を背負っていくとまで言われている男。

「高坂………………修斗……!」

 狭間はざまと交代して中に入ってきた奴を、俺はまるで魔王のように見ていた。
両足利きスイッチキッカー』とも呼ばれる高坂はパス、シュート、ドリブルのどれを取っても異次元のレベルで、どちらの足からでもそれを繰り出してくる。

 もしもヴァリアブルのチームで突出しているのが高坂一人ならば、少なからず対策の仕様があっただろう。
 しかし、高坂に徹底したマークを付けたところで、神上、城ヶ崎、荒井を止めることが出来ない。
 高坂に次ぐレベルの化け物が他にも三枚……いや、台徳丸を入れれば四枚いる。
 そして結果的にポジションは崩され、高坂がフリーになり仕留められる。
 そういう形が出来てしまっている。

「今のヴァリアブルを止められるチームなんかあんのかよ……」

 結局、高坂が入った後に2点を追加され、5ー0で俺達は敗北した。
 決して横浜レグノスは弱くない。
 それどころかユースの方ではプレミアリーグでレグノスがヴァリアブルの順位を上回っている。
 ジュニアユースのこいつらが異常なんだ。

「よぉ、お前大城国だいじょうこくだろ?」

 試合終了後、ピッチで座り込んでいる俺に意外にも高坂修斗が声を掛けてきた。
 敗者に対して唾でも吐き掛けにきたのかとも思ったが、

「優夜よりもガタイ良いのにもったいないな。もっと体の使い方を上手くすれば唯一無二になれると思うぜ」

 とアドバイスをしてきた。
 まさか敵に塩を送ってくるとは。

「……城ヶ崎のように足元が上手くねーからな。もっと練習してくらぁ」

「足元? んなもんどうでもいいだろ。優夜だってシュートは良く外すし…………それよりもクロスボールを確実にヘッドで沈めてくれるような奴の方が味方は楽だと思うぜ」

「そりゃ本当か?」

「俺はな。そっちのコーチとかが何ていうのか知らんけど」

「そうか…………そりゃ上々だ」

「おっと呼ばれたな…………またやろうぜ!」

 爽やかに魔王は去っていった。

 その後、俺は高坂に言われたことを真剣に考え、さらに体を鍛えて誰にも負けない体造りをコーチに確認しながら行った。
 筋肉を付けると身長が止まるなんてことも言われていたが、幸いにも俺はその後も順調に身長を伸ばし、高校に入った時には188cmに到達しており、日本代表にも招集されるようになった。
 あの時に高坂に言われた言葉で今の俺がある。

 そして現在、7月上旬。

「高坂、中にれぇ!」

「頼んだぜ紗凪さなぎ!」

 何故か俺は高坂と個サルでチームを組んでいた。
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