怪我でサッカーを辞めた天才は、高校で熱狂的なファンから勧誘責めに遭う

もぐのすけ

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文化祭勧誘編

原点回帰②

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「…………なんかこうやって部屋で話すの久しぶりだね」

 梨音に言われて確かにと思った。
 最近は割と文化祭の準備や生徒会があるから学校でも話すし、家でも飯のタイミングが合えば一緒に食べている。
 だけどお互いの部屋には用が無ければ入らないし、それこそ前に入った時は生徒会新聞を作った時じゃないだろうか。

「そういえば漫画の方は順調?」

「うっ…………それ聞く?」

 ドライヤーを止め、手渡されたクシで髪をかす。

「気になったから」

「…………別に何かを目指して描いてるわけじゃないから進捗状況なんて無いよ」

「出版社とかに出したりしないのか?」

「ないない! そんなことする勇気ないよ!」

 そういうものなのか。
 俺はてっきり漫画家を目指してるものだと思っていたけど。言われてみれば梨音が将来何を目指しているのかは聞いたことがないな。

「私がやってることと言えば、趣味で描いたものをSNSにあげたりしてるだけだよ」

「ふーん……。SNSにはそういうのをあげたりする所があるのか」

「修斗、SNSとかやらないもんね」

「よく分からないんだよな」

「プロのサッカー選手でもやってる人がほとんどだし、修斗もやってみたら?」

 新之助の話だと日常を呟いたりするのを匿名の人達と共有するってものだろ? あんまり性分じゃないんだよな。

「やれたらやるわ」

「絶対やんないやつ」

 梨音の髪を乾かし終え、手触りの良いサラサラの状態になった。
 機嫌も心なしか良くなった気がする。
 というか良くなっててくれないと困る。

「出来たよ」

「ん、ありがと」

 梨音が満足そうに頷く。

「じゃあ贖罪しょくざいも済んだことだし、俺は部屋に戻るよ」

「あっ」

 部屋を出ようとした俺の服の裾を梨音が掴んだ。

「何?」

「えっと……その……」

 梨音にしては珍しくドギマギしている。

 なんだろう。
 まだ怒ってるのかな。
 流石に全裸を見られた分をドライヤーだけじゃ帳消しにするのは厳しいやつか。
 いっそのこと俺も裸を見せれば相殺されることにはならないだろうか。
 ……ダメだ、もっと怒らせるのが目に見える。

「ぶ……文化祭の日……」

「文化祭?」

「文化祭の日、一緒にまわらない?」

 まさかのお誘いだった。
 文化祭は全部で二日に分かれている。
 もちろんクラスの仕事の時間はあるだろうが、それを除いても自由時間はあるはずだ。
 生徒会としての仕事もあまり無いだろう。
 断る理由が一つもない。

「いいよ」

俺は二つ返事で答えた。

「ほ、ほんと!?」

「そんなタメるから何事かと思ったわ」

「な、なによ。私なりに勇気出したんだからね」

「俺ごとき誘うのなんか飯誘う感じで十分だろ。緊張する要素無いって」

「う、うるさいなぁ! もう部屋早く戻って!」

「なんだよ待てって言ったり早く帰れって言ったり」

「いいの!」

 半ば追い出される形で梨音の部屋を出た。
 とりあえず許されたみたいで良かった。
 たぶん次は無いだろうから気を付けよう。


 ──────────────────


【若元梨音目線】

「…………っはあ」

 修斗を部屋から追い出した後、私は体に溜まっていた空気を吐き出すようにして布団に飛び込んだ。

 …………誘えた。

 …………誘えた誘えた!

「~~~~!」

 ジタバタと足をバタつかせて悶えた。

 一言誘うだけなのにどうしてこんなにも緊張したんだろう。
 誰かを修斗に取られたくないと思ったあの日、自分から積極的に動こうと思ったのに、変に意識し始めると逆に普段の自分の誘い方が分からなくなってしまった。
 今日の放課後に頑張って誘ってみたけど断られてしまったし、どうやって誘おうか考えてたけど…………不本意にも修斗と話すチャンスが出来たわけだし、文化祭に一緒に回ることを約束することができた。

 まぁ…………裸を見られたのは…………うん、私なりの代償を支払ってことで…………うん? 何言ってるんだろう。何で私が代償払ってるのかな。
 なんかテンパってよく分かんなくなってきちゃった。
 いくら積極的にとは言っても裸を見せたいわけじゃないよ。
 色仕掛けじゃないんだから。

 ともかく!
 今回の文化祭で、修斗が私をちゃんと意識してくれるように頑張らなきゃ!
 ファイト、私!
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