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今はこれで許して
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ヨアンは一生分の愛を囁いたような気になったが、不思議なことに、言い終えると心の奥からまだまだ伝えたいことが湧いてくるのを感じた。これから先死ぬまで、いくらだってシュメルヒに愛を捧げる言葉が溢れて来そうだった。
シュメルヒは迷子の子供のような顔をしていた。
「ヨアン様は、私が、好き……?」
「うん」
「私と、夫婦に……ナーシャではなく?」
「うん。妃の妹君には悪いけど、誰が相手でも君でないなら意味がない」
「エレオノーラ様でもなく……?」
「は? なんでここで彼女の名前が出てくるんだよ。従姉弟だぞ? 彼女だって僕をそんな目では見てないよ」
「私……私は、駄目です、役目が」
「役目じゃなくて、妃の気持ちが知りたい。君は僕をどう思ってる? 我儘な餓鬼? 神経衰弱の王家のお荷物? 始めた会った君を貶めた憎い相手?」
「やめてください! 私がヨアン様をそんな風に思ってないことくらい知っているくせに!」
「でも君の口から直接聞いてない。不公平じゃないか。精霊に無理やり言わされた言葉しか聞いてないのに、僕は洗いざらい君に話したんだぞ」
うっ、と言葉に詰まったシュメルヒに、ヨアンが久々に例の意地悪な目つきをした。
「年上として恥ずかしくないのか? 僕がこんなに心を込めて妃を口説いてるのに、君は黙って受け取るだけか?」
「それは、ヨアン様が勝手にっ、わ、私を」
「そうだよ。君が好きだから僕は死ぬほど我慢して君の項を噛まなかったんだ。ほんっとに、物凄く噛みたかったけど、妃がいいって言ってくれるまで待とうと思って。なのに妃は、僕をかわいそうだって思わないのか?」
ヨアンは悲しそうに眉を下げた。
シュメルヒは途方に暮れて目をおろおろさせた。
(ヨアン様に本心を言ったら、私はイレニアやナーシャを裏切ることになってしまう……だけど黙っていたら、ヨアン様の真心を傷つけてしまう……それだけは絶対にあってはならない)
ヨアンはふっと顔を伏せ、「まあ、妃にはまだ気持ちの整理が要るだろうから、僕は気長に待つつもり……」
苦笑いで言いかけたヨアンの顔をシュメルヒの両手が持ち上げた。黒絹のすべすべした感触に目を瞬いていると、唇に柔らかいものが押し当てられる。
呆気に取られている間に、ゆっくりと、触れ合わせただけのそれは離れてしまった。
眼前には頬を染めたシュメルヒの困り顔があった。
(誰だ、妃が氷像みたいだなんて言った奴は。この顔を見てもそんなことが言えるなら言ってみろ。いや、誰にも見せてたまるか)
「今は、これで許してください」
シュメルヒの声が耳に届いて我に返った。あまりの驚きに呆然自失してしまっていた。
ヨアンはこくこくと頷いた。
(許す。妃がどんな悪事に手を染めようが、たとえ極悪人だろうが全部許す)
(……「好き」って口にするのは駄目で、口付けならいいって……そんなのもう、本心を晒してるようなものじゃないか!)
それを指摘したら、きっとまたシュメルヒは責任感と肉親への愛情に圧し潰されてしまうかもしれないから言わないが。重みを分け合えるくらいヨアンが成長してからでないと、きっとシュメルヒは全部自分で抱え込んでしまう。だからヨアンは、内心の身悶えをおくびにも出さず、最愛の人から今できる精一杯の気持ちを受けとるのだった。
シュメルヒは迷子の子供のような顔をしていた。
「ヨアン様は、私が、好き……?」
「うん」
「私と、夫婦に……ナーシャではなく?」
「うん。妃の妹君には悪いけど、誰が相手でも君でないなら意味がない」
「エレオノーラ様でもなく……?」
「は? なんでここで彼女の名前が出てくるんだよ。従姉弟だぞ? 彼女だって僕をそんな目では見てないよ」
「私……私は、駄目です、役目が」
「役目じゃなくて、妃の気持ちが知りたい。君は僕をどう思ってる? 我儘な餓鬼? 神経衰弱の王家のお荷物? 始めた会った君を貶めた憎い相手?」
「やめてください! 私がヨアン様をそんな風に思ってないことくらい知っているくせに!」
「でも君の口から直接聞いてない。不公平じゃないか。精霊に無理やり言わされた言葉しか聞いてないのに、僕は洗いざらい君に話したんだぞ」
うっ、と言葉に詰まったシュメルヒに、ヨアンが久々に例の意地悪な目つきをした。
「年上として恥ずかしくないのか? 僕がこんなに心を込めて妃を口説いてるのに、君は黙って受け取るだけか?」
「それは、ヨアン様が勝手にっ、わ、私を」
「そうだよ。君が好きだから僕は死ぬほど我慢して君の項を噛まなかったんだ。ほんっとに、物凄く噛みたかったけど、妃がいいって言ってくれるまで待とうと思って。なのに妃は、僕をかわいそうだって思わないのか?」
ヨアンは悲しそうに眉を下げた。
シュメルヒは途方に暮れて目をおろおろさせた。
(ヨアン様に本心を言ったら、私はイレニアやナーシャを裏切ることになってしまう……だけど黙っていたら、ヨアン様の真心を傷つけてしまう……それだけは絶対にあってはならない)
ヨアンはふっと顔を伏せ、「まあ、妃にはまだ気持ちの整理が要るだろうから、僕は気長に待つつもり……」
苦笑いで言いかけたヨアンの顔をシュメルヒの両手が持ち上げた。黒絹のすべすべした感触に目を瞬いていると、唇に柔らかいものが押し当てられる。
呆気に取られている間に、ゆっくりと、触れ合わせただけのそれは離れてしまった。
眼前には頬を染めたシュメルヒの困り顔があった。
(誰だ、妃が氷像みたいだなんて言った奴は。この顔を見てもそんなことが言えるなら言ってみろ。いや、誰にも見せてたまるか)
「今は、これで許してください」
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それを指摘したら、きっとまたシュメルヒは責任感と肉親への愛情に圧し潰されてしまうかもしれないから言わないが。重みを分け合えるくらいヨアンが成長してからでないと、きっとシュメルヒは全部自分で抱え込んでしまう。だからヨアンは、内心の身悶えをおくびにも出さず、最愛の人から今できる精一杯の気持ちを受けとるのだった。
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