『「害虫駆除」スキルでスローライフ? 私、害虫(ドラゴン)も駆除できますが』

とびぃ

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第四章:交流

4-4:夜の訪問者

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カイという、あまりにも強力すぎる「労働力」の合流は、停滞していた私の計画を、一気に加速させた。
その日の午後、私はカイに「指導員」として、前世(みのり)の知識をフル稼働させ、指示を飛ばしまくった。
「カイ! まず、道具よ、道具! あの石の鍬(もどき)じゃ、効率が悪すぎるわ! あなたの、その立派な剣で、森から硬い木を切り出してきて!」
「……剣は、木を切るためのものじゃないんだが……」
「いいから! 『労働力』なんでしょう!? ついでに、ツタか、丈夫な皮紐(かわひも)もお願い!」
「……承知した」
カイは、私の剣の「無駄遣い」に、わずかに眉をひそめたが、それでも、文句一つ言わずに、森へと消えていった。
その間に、私はエドガーを捕まえた。
「エドガー村長! カイが戻るまでに、村中の『枯れ葉』と『枯れ枝』を、あのゴミ捨て場(・・・・・)……いえ、『堆肥(たいひ)場』に集めてください! 総出で!」
「……ファティマ様。しかし、皆、疲弊して……」
「疲弊しているから、やるのよ! このままじゃ、来年も、再来年も、あなたたちは飢えるだけ! でも、今、これをやれば、次の冬は、違うかもしれない!」
「……」
「『魔女』でも、『守り神』でも、どっちでもいいわ! 私の言う通りに、一度でいいから、動いてみて!」
私の剣幕に、エドガーは、その氷の瞳で、じっと私を見つめた後、
「……わかった。……ただし、半日だけだ。……それで、何も起きなければ、この『お遊び』は、終わりにしていただく」
そう言って、彼は、重い腰を上げた。
エドガーが、枯れ木のような声で、村人たちに指示を出す。
村人たちは、相変わらず「何が始まるんだ」という、困惑と不信の目をしていたが、「村長の命令」と、「魔女(わたし)への恐怖」と、「騎士(カイ)への畏怖」が、奇妙なバランスで混ざり合い、しぶしぶ、といった体(てい)で、痩せ細った腕で、枯れ葉を集め始めた。
そこへ、カイが戻ってきた。
彼は、私が頼んだ「硬い木」の、十倍はあろうかという、巨大な丸太を数本、軽々と肩に担いでいた。
「……ファティマ『指導員』。これで、いいか?」
「……じゅ、十分すぎるわよ、カイ『助手』……!」
(……これが、騎士(元)の、腕力……! 恐るべき、労働効率……!)
私は、カイに、その丸太を使って、昨日、地面に描いた「堆肥(コンポスト)枠」を、大急ぎで作らせた。
彼は、巨大な剣(クレイモア)を、まるで鉈(なた)か斧のように器用(・・)に使いこなし(本人は『剣が泣いてる』とボヤいていたが)、あっという間に、頑丈な木の枠を組み上げてしまった。
そして、その枠の中に、村人たちが集めてきた枯れ葉と枯れ枝、そして、あの「黄金の山(フンのやま)」(これもカイが、私の指示通りの「配合比率」で、凄まじい力で掘り崩し、混ぜ合わせた)を、層(レイヤー)にして、積み上げていった。
(……できた)
夕暮れ時。
鉛色の空が、赤黒い、不吉な色に染まり始める頃。
村のはずれの「堆肥場」には、巨大な「堆肥(ほうじょう)の素」の山が、二つ、完成していた。
「……ファティマ様」
エドガーが、その山を、信じられないものを見る目で、見つめている。
「……これは、本当に、土の『ごはん』に、なるのか?」
「ええ、なるわ」
私は、泥だらけの手で、汗を拭った。
「……これから、この山は、熱を出すの。中の『小さな生き物(びせいぶつ)』たちが、フンと枯れ葉を食べて、『ごはん』に変え始めるから。……私たちは、時々、これを混ぜ返して、『空気』を送ってあげるだけ」
(……本当は、米ぬか(・・)とか、水分の調整(・・・)も、厳密にやりたいけど)
(……今は、これが、限界)
だが、村人たちの顔は、晴れない。
「……こんなもので、本当に……」
「……腹が、減った……」
彼らにとって、この「作業」は、ただでさえ少ない体力を、無駄に消費しただけ、にしか思えなかっただろう。
(……ダメだ。信頼を得るには、まだ、足りない)
(……目に見える『成果』が、必要)
だが、その「成果」が出るのは、この堆肥が「完熟」する、何か月も先の話だ。
その夜。
集会所の、私の物置部屋(・・)で。
カイは、集会所の、私とは反対側の壁際(・・)に、陣取っていた。
「……カイ。あなた、本当に、ここで寝るつもり?」
「ああ。護衛だからな」
「……護衛って。この、石の壁の、村の、ど真ん中で?」
「……あんたは、自分の『特異性』を、理解していない」
カイは、壁に背を預け、目を閉じたまま、静かに言った。
「……騎士団(あっち)は、今、大騒ぎになっているはずだ。俺が、この剣(・・)ごと、消えたんだからな。……追手が、来ないとも限らん」
「……」
(……私、とんでもない『爆弾』を、抱え込んじゃったんじゃ……)
「それに」
カイが、薄目を開けて、私を見た。
「……この村、妙に、静かすぎないか?」
「……え?」
「……獣の気配が、まるでない。……昨日、あんたが『あれ』をやったからか?」
「……たぶん。私のスキルは【害虫駆除】だけど、どうやら、動物にも、効くみたい」
「……そうか」
カイは、それ以上は何も聞かず、再び目を閉じた。
(……静かすぎる、か)
言われてみれば、確かに。
あの、ヒュウ、ヒュウという風の音以外、何も聞こえない。
王都の森なら、夜は、フクロウの鳴き声や、何かもわからない獣の気配で、もっと「騒がしい」はずだ。
(……私のスキルが、生態系(・・)を、壊してないといいけど……)
そんな不安が、胸をよぎった、その時だった。
キィィィィィィッ!
遠く、山の方から、甲高い、不気味な「叫び声」が、聞こえた。
「……!?」
カイが、閉じていた目をカッと見開き、瞬時に剣の柄(つか)に手をかけた。
「……今の、聞いたか」
「……ええ」
心臓が、ドクン、と跳ねた。
あの声は、イナゴでも、ネズミでもない。
もっと、大きく、もっと「悪意」に満ちた、何か。
「……村長!」
カイが、集会所の奥に向かって、鋭く声を飛ばす。
ガタッ、と音がして、エドガーが、慌てた様子で、部屋から飛び出してきた。
「……今のは、まさか……!」
エドガーの、土気色の顔が、さらに青ざめていく。
「……ゴブリン、だ」
「……ゴブリン?」
(……前世(みのり)の、ファンタジー知識でしか、知らない単語……)
「……馬鹿な!奴らが、こんな、人里近くまで、下りてくるなんて……!」
キィィ! ギャアアア!
叫び声が、一つから、二つ、三つと、増えていく。
そして、それは、明らかに、この村(・・)に向かって、近づいてきていた。
「……まずい」
カイが、立ち上がる。
「……ファティマ、あんたは、この集会所から、一歩も出るな」
「……エドガー村長! 村の『戦える者』は、何人いる!」
「……せ、戦える者、など……!」
エドガーは、絶望に、わなわなと震えていた。
「……我々は、ただ、奪われるだけだ……! 畑の作物がダメになった年は、いつもそうだ……! 奴らは、我々の、なけなしの食料と……時には、子供(・・)すら、奪っていく……!」
(……!)
「……カイ!」
私は、カイの、鋭い視線とぶつかった。
「……カイ、ゴブリンって、『害』を、為すのね?」
「……害、どころじゃない。……あれは、ただの『獣』じゃない。『知性』を持った、『害獣』だ」
(……害獣)
その言葉(キーワード)に、私(みのり)の、いや、私(ファティマ)の、血が、カッと、沸騰した。
「……エドガー村長」
「……は、はい……」
「……村の、全員に、伝えて。……何があっても、家から、一歩も、出ないように、と」
「……そ、そんなことをしても、奴らは、貧弱な扉など、すぐに……」
「……いいから」
私は、集会所の、重い扉に、手をかけた。
「……ファティマ!? 貴様、何を!」
「……カイ」
私は、振り返り、私の「助手」に、初めての「業務命令」を出した。
「……あなたは、エドガー村長と、ここに残って。……万が一、私が『失敗』したら、村長を連れて、ここから、逃げて」
「……何を、言って……!」
「……これは」
私は、扉を、ギィ、と開けた。
冷たい夜の空気が、私の、燃え盛る心とは裏腹に、肌を撫でる。
「……私の『スキル』の、実験よ」
私は、一人、ゴブリンの、不快な叫び声が響き渡る、村の広場へと、足を踏み出した。
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