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第一章 前半
第16話:腹いてぇ
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逃げる隙を作るために【雷鳴】を放ってアシッドワイバーンの顔面に一撃を喰らわす。
「黒闇穿天流槍術、【雷鳴】!」
だが、ほとんど効いていない。
ただでさえ硬い鱗に覆われて防御力の高いアシッドワイバーンだ。
麻痺毒で鈍りつつあるオレの攻撃ではやはりダメージを与えることは難しそうだ。
ただ、それでも驚かす程度の効果があったのが救いだった。
「黒闇穿天流槍術、【月歩】!」
後ろ向きに【月歩】を連続で使用して一気に距離を稼ぐ。
しかし、五回目の使用に失敗して盛大に吹っ飛んでしまった。
「ぐっ!? がっ!?」
意識が飛びそうになるのをなんとか踏みとどまり、すぐさま立ち上がって大きな岩の後ろに飛び込むように身を潜めた。
発動に失敗するのなんていつぶりだろう……。
しかし、それが運が良い方に転がったようだ。
アシッドワイバーンはオレを見失い、所かまわず周りに当たり散らしはじめた。
「くっ、いい加減諦めろよ……」
見つかってはいないものの、尻尾で薙ぎ払った大木がすぐ横を吹っ飛んでいったのには生きた心地がしなかった。
「そうだ。今のうちに『クルトの実』を……」
餞別でもらったクルトの実を懐から一粒取り出すと一気に噛み砕く。
すると、全身の痛みがまるで嘘のようにひいていった。
「ほんと村の皆に感謝しないとだな。でも、さすがに痺れまではとれないか……」
全身を襲っていた焼けるような痛みはなくなったが、やはりクルトの実では麻痺まで治すことはできないようだ。
麻痺さえ治れば逃げるだけなら何とかなると思うのだが、贅沢は言っていられない。
オレはすこしでもアシッドワイバーンから距離を取るため、既に痺れ始めた足に無理やり力を入れると槍を杖代わりに歩き出した。
「ほんと諦めの悪い奴だな。さっさとどっかいけよ」
悪態をつきながらも身を低くかがめながら歩を進める。
それから一〇分、麻痺に耐えながらもなんとか見つからずに距離を稼ぐことが出来た。
だけど……目の前には遺構が崩れた穴が、先を塞ぐように口を開けていた。
「くそっ! ついてない……」
穴は横に長く伸びているため、かなりの距離を歩かなければ迂回できそうにない。
でも文句を言っていてもなにも好転しないので、麻痺に耐えつつ再び歩き始める。
「よし。ここまでくれば……」
穴を迂回し、ようやく希望の光が見えたその時……光は絶望の闇へと塗り替えられた。
目の前に舞い下りる巨躯。
獰猛な笑みを浮かべ、大きく開いた口には見覚えのある鋭い歯が並んでいた。
もう奥義を繰り出す力は残っていない。
頼みの槍も先ほど受けたアシッドブレスで腐食し、恐らくあと一撃でも攻撃を受ければ砕けるだろう。
それでも……あの地獄の特訓の日々がオレに生きろと訴えかけてくる。
「お前になんて食われてやるもんか! 逃げ切ってぜったいリベンジしてやる!」
勝ち誇り見下すその眼を睨み返す。
この状況じゃ絶対に勝てないだろう。一〇〇回戦っても一〇〇回負ける。
だけど……逃げ切るぐらいはしてみせるさ!
オレは懐にしまってあった残りのクルトの実を口に突っ込むと、槍を棒高跳びの棒のようにつかって深い遺構の穴へと飛び降りた。
「あ”ぁ”ぁ”ぁ”……………………痛て!? ぐあっ! がはっ! げっ!? ぐほっ! ぐがっ!?」
浮遊感の後、周りの壁に何度も何度もぶつかりながら、底の見えない穴に落ちていく。
思っていた以上に深い!!
飛び降りたことを一瞬後悔するがもう遅い。
何度も壁にぶつかる痛みに意識が飛びそうになるが、我慢できなくなるたびに口の中のクルトの実を一粒噛み砕く。
頭を腕でかばい、身をまるめてすこしでもダメージを抑える。
「くっ……いっそ死にたぃ……ぐがっ!? ぶほっ!?」
何度痛みに意識が飛びそうになったか。
だが、それでも耐えに耐えて、どうしても耐えられなくなったら一粒ずつクルトの実を噛み砕いていった。
そうして口に含んだクルトの実がとうとう最後の一粒になった直後。
「がはっ……!?」
穴の底に叩きつけられた。
やばい……意識が遠のく……。
オレは朦朧とする意識の中、口の中に残った最後のクルトの実を噛み砕いたところで力尽きたのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
目が覚めると、遠くに小さく空が見えた。
瞬く星が見えることから随分と長い間気を失っていたようだ。
「ははは……」
思わず笑いがこぼれた。
痛みは治まっているようだが、もう体はボロボロだ。
おまけに麻痺もまだ残っているようで体も動かない。
でも……それでも…………生きている。
「ははは……ははははは……生きてる……生きてるぞ」
そこからはもう理由もなくなんだか可笑しくて、笑いが止まらなかった。
「はは、ははは、笑いすぎて腹いてぇ……」
どうだ……アシッドワイバーンから逃げ切ってやったぞ……!
「黒闇穿天流槍術、【雷鳴】!」
だが、ほとんど効いていない。
ただでさえ硬い鱗に覆われて防御力の高いアシッドワイバーンだ。
麻痺毒で鈍りつつあるオレの攻撃ではやはりダメージを与えることは難しそうだ。
ただ、それでも驚かす程度の効果があったのが救いだった。
「黒闇穿天流槍術、【月歩】!」
後ろ向きに【月歩】を連続で使用して一気に距離を稼ぐ。
しかし、五回目の使用に失敗して盛大に吹っ飛んでしまった。
「ぐっ!? がっ!?」
意識が飛びそうになるのをなんとか踏みとどまり、すぐさま立ち上がって大きな岩の後ろに飛び込むように身を潜めた。
発動に失敗するのなんていつぶりだろう……。
しかし、それが運が良い方に転がったようだ。
アシッドワイバーンはオレを見失い、所かまわず周りに当たり散らしはじめた。
「くっ、いい加減諦めろよ……」
見つかってはいないものの、尻尾で薙ぎ払った大木がすぐ横を吹っ飛んでいったのには生きた心地がしなかった。
「そうだ。今のうちに『クルトの実』を……」
餞別でもらったクルトの実を懐から一粒取り出すと一気に噛み砕く。
すると、全身の痛みがまるで嘘のようにひいていった。
「ほんと村の皆に感謝しないとだな。でも、さすがに痺れまではとれないか……」
全身を襲っていた焼けるような痛みはなくなったが、やはりクルトの実では麻痺まで治すことはできないようだ。
麻痺さえ治れば逃げるだけなら何とかなると思うのだが、贅沢は言っていられない。
オレはすこしでもアシッドワイバーンから距離を取るため、既に痺れ始めた足に無理やり力を入れると槍を杖代わりに歩き出した。
「ほんと諦めの悪い奴だな。さっさとどっかいけよ」
悪態をつきながらも身を低くかがめながら歩を進める。
それから一〇分、麻痺に耐えながらもなんとか見つからずに距離を稼ぐことが出来た。
だけど……目の前には遺構が崩れた穴が、先を塞ぐように口を開けていた。
「くそっ! ついてない……」
穴は横に長く伸びているため、かなりの距離を歩かなければ迂回できそうにない。
でも文句を言っていてもなにも好転しないので、麻痺に耐えつつ再び歩き始める。
「よし。ここまでくれば……」
穴を迂回し、ようやく希望の光が見えたその時……光は絶望の闇へと塗り替えられた。
目の前に舞い下りる巨躯。
獰猛な笑みを浮かべ、大きく開いた口には見覚えのある鋭い歯が並んでいた。
もう奥義を繰り出す力は残っていない。
頼みの槍も先ほど受けたアシッドブレスで腐食し、恐らくあと一撃でも攻撃を受ければ砕けるだろう。
それでも……あの地獄の特訓の日々がオレに生きろと訴えかけてくる。
「お前になんて食われてやるもんか! 逃げ切ってぜったいリベンジしてやる!」
勝ち誇り見下すその眼を睨み返す。
この状況じゃ絶対に勝てないだろう。一〇〇回戦っても一〇〇回負ける。
だけど……逃げ切るぐらいはしてみせるさ!
オレは懐にしまってあった残りのクルトの実を口に突っ込むと、槍を棒高跳びの棒のようにつかって深い遺構の穴へと飛び降りた。
「あ”ぁ”ぁ”ぁ”……………………痛て!? ぐあっ! がはっ! げっ!? ぐほっ! ぐがっ!?」
浮遊感の後、周りの壁に何度も何度もぶつかりながら、底の見えない穴に落ちていく。
思っていた以上に深い!!
飛び降りたことを一瞬後悔するがもう遅い。
何度も壁にぶつかる痛みに意識が飛びそうになるが、我慢できなくなるたびに口の中のクルトの実を一粒噛み砕く。
頭を腕でかばい、身をまるめてすこしでもダメージを抑える。
「くっ……いっそ死にたぃ……ぐがっ!? ぶほっ!?」
何度痛みに意識が飛びそうになったか。
だが、それでも耐えに耐えて、どうしても耐えられなくなったら一粒ずつクルトの実を噛み砕いていった。
そうして口に含んだクルトの実がとうとう最後の一粒になった直後。
「がはっ……!?」
穴の底に叩きつけられた。
やばい……意識が遠のく……。
オレは朦朧とする意識の中、口の中に残った最後のクルトの実を噛み砕いたところで力尽きたのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
目が覚めると、遠くに小さく空が見えた。
瞬く星が見えることから随分と長い間気を失っていたようだ。
「ははは……」
思わず笑いがこぼれた。
痛みは治まっているようだが、もう体はボロボロだ。
おまけに麻痺もまだ残っているようで体も動かない。
でも……それでも…………生きている。
「ははは……ははははは……生きてる……生きてるぞ」
そこからはもう理由もなくなんだか可笑しくて、笑いが止まらなかった。
「はは、ははは、笑いすぎて腹いてぇ……」
どうだ……アシッドワイバーンから逃げ切ってやったぞ……!
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