『隣の県議様』 三十一歳、バツイチ子持ち女の日照争奪戦!

てめえ

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第12話 説明会

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「おはようございます……」
あちこちで挨拶を交わす声がする。
 マンションのロビーは、いつになく大勢の人が集まっている。

 ひょっとすると、年に一度開かれる総会よりも人がいるかもしれない。
 やはり、住民の皆さんはマンション計画に関心があるのだ。

「あ、晴美さん……」
103号室の三田さんが私に声をかけてくる。

 三田さんは五十代で独り暮らし。
 五年前に連れ合いを亡くされている。

「あの……。ちょっと聞いても宜しいですか?」
「はい?」
「私のところには業者さんが日照の件で来たんですけど、三田さんはどうですか?」
「業者さん? ウチには来てないと思うわ。……と言うか、私は病院勤めだからほとんど家にいないのよね。だから、来たとしても分からないわ」
そうだった。
 三田さんはかなり大きい病院の婦長さんなのを忘れていた。
 相当お忙しいようで、ほとんどお宅にはおられない。
 きっと、今日は特別なのだろう。

 特別と言えば、今日は裕太も特別に保育所に預かってもらった。
 説明会は午前中だけなので連れてこようかとも思ったのだが、万一にでも、迷惑をかけるといけないので……。

「日照で何か問題があるの?」
「あ、いえ……。何でも隣にマンションが出来ると、最悪のときには一日に二時間しか日照がなくなるらしくて」
「そうなの? ああ、晴美さんはまだ裕太ちゃんが小さいから、なるべく日照はあった方がいいわよね」
「そうなんです。でも、あまり我が儘ばかりは言えないので、ご近所の皆さんがどう思っているかを知りたくて……」
そうは言ったものの、私はまだご近所の誰ともこの件を相談していない。
 いや、していないのではなく、出来なかったのだ。

 101号室の木原さんは、ずっと不在のようであった。
 もしかすると帰ってきてはいるのかもしれないが、私が尋ねるときには常に不在……
 103号室の三田さんも同じような感じなので、私は相談しようにも出来なかったのだ。

 相談と言えば、市民相談室にもまだ行けてはいない。
 これは、予約した日が明後日の月曜日だったからだ。

 本当はこの説明会の前に専門的な話を聞きたかったのだが、私の仕事の都合と市民相談室の予約の空きがどうしても合わず、仕方なくこうなってしまっている。




「資料をお配りいたします」
パイプ椅子を並べたロビーで、忙しそうに立ち働いている田所が見える。
 他にも作業着を着た業者と思しき人が数人と、スーツ姿の男性が数人いる。
 スーツ姿の人はデベロッパーの人なのだろうか?
 だとすると、作業着の人は、工事を請け負う業者さんなのかもしれない。

 まだ、説明会が始まるまでには十分ほどある。
 長谷川さんは来ているが、他の住民の方々と話し込んでいるので、私が話しかけるような隙はなさそうだ。

「ウチは、日照には拘らないわ」
「……、……」
他の方と挨拶を交わしていた三田さんが、一通りそれが終わったのか私にささやいてくる。

「私一人の世帯だから……。それに、息子からは何れ同居しようと言われているの。だから、申し訳ないけどここの日照については、あまり拘りがないのよね」
「そうですか……」
まあ、そう言うだろうとは思っていた。
 三田さんは忙しい人だし、息子さんと同居するような話は前から聞いていたから。

「でも、もし晴美さんがお困りなら、何でも言ってね。仕事が忙しいからあまり時間はとれないけど、業者と交渉するときに必要だったら、103号室も同じように思っていると言ってもらって構わないわ」
「すいません……。お気遣いいただいて」
「ごめんなさいね。私ではこのくらいしかお役に立てなくて」
「いえ……」
三田さんに役に立ってもらおうとは思っていなかったので、気遣ってもらっただけで十分であった。
 とりあえず独りじゃないだけでも心強い。

 ただ、そうは思うものの、私の力で何が出来るかも分からない状態に変わりはない。

「随分大きな建物が建つのね。郵政省の寮と階数は同じだけど、幅が随分ありそうだわ」
「そうなんですか? 私は郵政省の寮を知らないもので……」
「そうだったわね。晴美さんが越して来たときには、もうなかったから。そうそう……、小百合さんはお元気? たまにはお遇いしたいわ」
「はい、元気にしております。月初めの日曜日には、必ず裕太に会いに来ます」
「そう……。じゃあ、一度その日を狙ってお宅に伺おうかしら? 迷惑ではない?」
「ええ……、義母も喜びます」
義母……、と言った瞬間に、小百合の渋い表情が思い浮かんだが、またもそれで押し通した。
 まあ、三田さんは私と直人が離婚したことを知っているので、敢えてそこをほじくるようなことはしないだろうし。

 三田さんは初めて図面を看たのか、話ながら熱心に資料のページを捲っている。




「あら、この点線の四角は何かしら?」
「……?」
えっ?
 私の見ている図面には、そんな四角い点線はない。

「何処ですか? 私のには書いてないみたいですが」
「あら、変ね……。あ、晴美さんの見ているのは7階の図面だわ。これ、各階ごとに図面が違うのよ」
「本当だ……。三田さんのは1階の図面ですね。あれ? この点線、1階から3階までにしかないわ」
「何だか分からないけど、三階建ての建物ってことかしら?」
「……、……」
「それに、これ、位置的に102号室と101号室の目の前じゃない?」
マンション本体以外に、三階建ての建物?
 そんなの私は聞いてないけど……。




 裕太ママ晴美の一言メモ
「三階建ての建物が目の前に出来るなんて……。図面、分からないなりに、もっとちゃんと看ておかなければいけなかったわ」
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