16 / 30
第16話 失意の私に……
しおりを挟む
法律なんてものは、しょせんは専門家同士の都合のいいやり取りに過ぎない。
市民相談を終えたあとの私の気持ちは、法律と法律に携わる者達への怒りでいっぱいであった。
ただ、半ば分かっていたことでもあった。
小百合には期待しすぎないように釘を刺されていたし、田所達の態度を見ても法的に何の問題もないように感じられたから。
だけど、法律がどうであっても、私は納得がいかなかった。
立体駐車場の影にされて暮らすことには……。
そう言えば、田所は立体駐車場の管理はオーナーがやることになると言っていた。
つまり、私はずっとコスモスイクスピアリと言う会社に見下ろされて暮らすことになる。
立体駐車場が一台いくらの契約になるのか知らないし、コスモスイクスピアリがどう言う会社かも知らないが、随分とせこい商売の仕方をするではないか。
マンションを何十戸も販売するのだから、きっと儲けはとんでもない金額になるのだろう。
それこそ、億単位で利益が出るはずだ。
それなのに、駐車場が減るのが嫌だなんて、私のような一般人には良く分からない感覚だ。
隣人をいじめて何が楽しいのか、理解に苦しむ。
市民相談を終えて、私はすぐに仕事へ行った。
予め、半休にしてあったからだ。
この選択は、間違ってはいなかった。
あのとんでもない市民相談の弁護士を、仕事に紛れて忘れることが出来たから。
もし全休にしてウチに帰ったら、私は怒りで発狂していただろう。
普段は面倒で仕方がない伝票整理も、今日の私にとっては有り難い作業であった。
定時で仕事を終えると、私は小百合に連絡を入れた。
仕事場の側の、安い喫茶店に入って……。
散々な結果であることを報告すると、
「ぷっ……」
と、電話口で笑われてしまった。
「あのね、晴美さん……。その程度のことでめげててはダメよ。相談なんだから、自分の思ったような答えが出てこなくても当たり前じゃない」
「そうは言いますけど、あまりにも酷いので……」
「専門家なんて言っても、四角い物が丸くなるわけではないのよ。だから、本当にその立体駐車場が致し方ないものなら、どうにもならないわ」
「……、……」
「だけど、これで分かったでしょう? 法律を真っ正面から看ても解決には繋がらないって」
「……、……」
「だから言ったのよ、期待し過ぎちゃダメって」
「……、……」
確かにそう言われたけど……。
それに、小百合の言うことはごもっともだ。
だが、ではこれから私はどうしたら良いのだろう?
法律でダメだと言われたらどうにもならないではないか。
「木原さんとは連絡が取れた?」
「いえ……、まだです。何度か伺ってはみているのですが……」
「そう……」
「ですが、県会議員でもどうにもならないのではないのですか? 法律がダメと言っているのでは……」
「あのね……。法律って誰が作ったり変えたりしていると思う? 政治家よ。だったら、現行を変えられるのは政治家だけじゃない」
「そ、それくらいは私も分かっていますけど……。でも、そんなにすぐに法律って変えられないでしょう?」
「それはそうよ。だけど、業者にマンションを建てる許可を与えているのは役所よ。その役所にチェックを入れられるのも政治家だけなのよ」
「……、……」
「まあ、政治家が万能とは言わないわよ。でも、一応話してみる必要はある。今日、晴美さんは一人の専門家の知識では解決しないと言う事実を知ったのだから、同じことを幾つもの観点で看ることの重要性に気がつくべきだわ」
「政治家は弁護士とは違う、別の観点の専門家だと言うことですか?」
「そう言うことね。だから、しょげていてはダメよ。もっと打たれ強くならなきゃ」
「……、……」
小百合は確かに打たれ強そうだ。
それだけでなく、予めダメージを予想してあるので、精神的な負担も少ないのだろう。
残念ながら、私はそんなにタフには出来てはいない。
このまま家に帰ったら、悔し紛れにお酒でも飲みそうな勢いだし……。
「ほら、晴美さん……。のんびり電話していて良いの? 早く裕太を迎えに行かないと、また保育所から文句を言われるわよ」
「あ、そうだった……」
「仕事も、子供も、トラブルも、恋愛も……。どれも複眼的に看られなかったらシングルマザーなんてやってられないわよ」
「……、……」
「しっかりなさい。じゃあ、切るわよ」
「あ、小百合さんっ!」
電話はぷつりと切れた。
今日は、小百合からお小言を沢山頂戴した。
だが、私は何故か、少し気持ちがすっきりしていた。
酷い法律相談のことも、今はあまり気にはならなくなっていることに、ふと気がつく。
小百合の言葉には、私を思い遣る気持ちが込められているからなのだろう。
だから、私の心に響くのだ。
もちろん経験豊かなことも、的確な判断を有していることもあるのだろうが。
今日話した専門家の言葉には、それがない。
彼等は単に法律に照らし合わせて話をしているだけだ。
小百合は、木原に相談しろと何度も言っている。
だけど、木原だって専門家だ。
それとも、木原には私を思い遣る気持ちがあるとでも言うのだろうか?
裕太ママ晴美の一言メモ
「打たれ強くなり、複眼的に看る。そう言われてはみたものの、私にそれを求められても……」
市民相談を終えたあとの私の気持ちは、法律と法律に携わる者達への怒りでいっぱいであった。
ただ、半ば分かっていたことでもあった。
小百合には期待しすぎないように釘を刺されていたし、田所達の態度を見ても法的に何の問題もないように感じられたから。
だけど、法律がどうであっても、私は納得がいかなかった。
立体駐車場の影にされて暮らすことには……。
そう言えば、田所は立体駐車場の管理はオーナーがやることになると言っていた。
つまり、私はずっとコスモスイクスピアリと言う会社に見下ろされて暮らすことになる。
立体駐車場が一台いくらの契約になるのか知らないし、コスモスイクスピアリがどう言う会社かも知らないが、随分とせこい商売の仕方をするではないか。
マンションを何十戸も販売するのだから、きっと儲けはとんでもない金額になるのだろう。
それこそ、億単位で利益が出るはずだ。
それなのに、駐車場が減るのが嫌だなんて、私のような一般人には良く分からない感覚だ。
隣人をいじめて何が楽しいのか、理解に苦しむ。
市民相談を終えて、私はすぐに仕事へ行った。
予め、半休にしてあったからだ。
この選択は、間違ってはいなかった。
あのとんでもない市民相談の弁護士を、仕事に紛れて忘れることが出来たから。
もし全休にしてウチに帰ったら、私は怒りで発狂していただろう。
普段は面倒で仕方がない伝票整理も、今日の私にとっては有り難い作業であった。
定時で仕事を終えると、私は小百合に連絡を入れた。
仕事場の側の、安い喫茶店に入って……。
散々な結果であることを報告すると、
「ぷっ……」
と、電話口で笑われてしまった。
「あのね、晴美さん……。その程度のことでめげててはダメよ。相談なんだから、自分の思ったような答えが出てこなくても当たり前じゃない」
「そうは言いますけど、あまりにも酷いので……」
「専門家なんて言っても、四角い物が丸くなるわけではないのよ。だから、本当にその立体駐車場が致し方ないものなら、どうにもならないわ」
「……、……」
「だけど、これで分かったでしょう? 法律を真っ正面から看ても解決には繋がらないって」
「……、……」
「だから言ったのよ、期待し過ぎちゃダメって」
「……、……」
確かにそう言われたけど……。
それに、小百合の言うことはごもっともだ。
だが、ではこれから私はどうしたら良いのだろう?
法律でダメだと言われたらどうにもならないではないか。
「木原さんとは連絡が取れた?」
「いえ……、まだです。何度か伺ってはみているのですが……」
「そう……」
「ですが、県会議員でもどうにもならないのではないのですか? 法律がダメと言っているのでは……」
「あのね……。法律って誰が作ったり変えたりしていると思う? 政治家よ。だったら、現行を変えられるのは政治家だけじゃない」
「そ、それくらいは私も分かっていますけど……。でも、そんなにすぐに法律って変えられないでしょう?」
「それはそうよ。だけど、業者にマンションを建てる許可を与えているのは役所よ。その役所にチェックを入れられるのも政治家だけなのよ」
「……、……」
「まあ、政治家が万能とは言わないわよ。でも、一応話してみる必要はある。今日、晴美さんは一人の専門家の知識では解決しないと言う事実を知ったのだから、同じことを幾つもの観点で看ることの重要性に気がつくべきだわ」
「政治家は弁護士とは違う、別の観点の専門家だと言うことですか?」
「そう言うことね。だから、しょげていてはダメよ。もっと打たれ強くならなきゃ」
「……、……」
小百合は確かに打たれ強そうだ。
それだけでなく、予めダメージを予想してあるので、精神的な負担も少ないのだろう。
残念ながら、私はそんなにタフには出来てはいない。
このまま家に帰ったら、悔し紛れにお酒でも飲みそうな勢いだし……。
「ほら、晴美さん……。のんびり電話していて良いの? 早く裕太を迎えに行かないと、また保育所から文句を言われるわよ」
「あ、そうだった……」
「仕事も、子供も、トラブルも、恋愛も……。どれも複眼的に看られなかったらシングルマザーなんてやってられないわよ」
「……、……」
「しっかりなさい。じゃあ、切るわよ」
「あ、小百合さんっ!」
電話はぷつりと切れた。
今日は、小百合からお小言を沢山頂戴した。
だが、私は何故か、少し気持ちがすっきりしていた。
酷い法律相談のことも、今はあまり気にはならなくなっていることに、ふと気がつく。
小百合の言葉には、私を思い遣る気持ちが込められているからなのだろう。
だから、私の心に響くのだ。
もちろん経験豊かなことも、的確な判断を有していることもあるのだろうが。
今日話した専門家の言葉には、それがない。
彼等は単に法律に照らし合わせて話をしているだけだ。
小百合は、木原に相談しろと何度も言っている。
だけど、木原だって専門家だ。
それとも、木原には私を思い遣る気持ちがあるとでも言うのだろうか?
裕太ママ晴美の一言メモ
「打たれ強くなり、複眼的に看る。そう言われてはみたものの、私にそれを求められても……」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。
織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。
父であるアーヴェント大公に疎まれている――
噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる