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第24話 木原の決断
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「ごめんね、せっかく半休をとってもらったのに……」
「いえ……」
私達は中高層調整課を出ると、すぐ側の喫茶店に入った。
まだ、10時過ぎなので、私が仕事に行くまでには時間がある。
木原も県庁で用事があるのは午後からだと言う。
そこで、二人で少し話し合うことにしたのだ。
木原は先ほどから、中高層調整課に行っても成果に乏しかったことを何度か謝っている。
「ただね、やはり立駐機が焦点なことには変わりがないと思うんだ。まだ相手の出方も分からないし、一概にダメと決まったわけではないから」
「そうですね。でも、私は業者と接してきて思いました。彼等は簡単に引き下がるようなことはしないと。もし本当に覆いが壁になってしまうのなら、防音や防塵のための覆いの方をそんなに簡単に約束するとは思えないので……」
木原は慰めてくれているつもりのようだが、私は不安ではあるがそれほど落ち込んではいなかった。
「木原さん……。私、思ったんです。最初はたかが日照のことだと思っていたんですけど、これは本当に大変なことなんだと。彼等も生活が懸かっていると言うことが嫌と言うほど分かりましたし、木原さんの仰る、政治は皆平等に受けられると言うことがどれほど大切なことかも分かりました」
「……、……」
「だから、たとえこちらの主張が通らなくても、やれることはやったと思えると思います。それくらい今回の件は、私にとって良い勉強になりました」
「……、……」
私は率直に、今感じていることを話した。
もちろん、主張が通って立体駐車場が二階建てになるに越したことはない。
しかし、主張が通ることも大事だが、木原に接して小百合から教わるのと同じような人生の教訓を得たことは、私にとって同じくらい貴重なことだと思うのだ。
「まあ、晴美さんがそう言ってくれると少し気が楽になるけど、その気持ちはまだ胸の奥に仕舞っておいてね」
「……、……」
「もう、どうしようもないと諦めてからでも遅くはないからさ」
「……、……」
木原はそう言って優しく微笑みかけてくれる。
そう、彼はまったく諦めてはいないのだ。
木原の優しげな物腰の奥には、断固たる決意が秘められているのが私にも感じられる。
「僕は、最初から疑問に思っていることがあるんだ」
「疑問ですか?」
「うん……。業者は何故そんなに立駐機の台数に拘るのだろうと」
「それは、マンション本体が薄利だからではないですか? 立体駐車場の賃料が入れば少しでも利益になるでしょうし……」
「まあ、それはそうなんだけど……」
「……、……」
どうしてそんなことが気になるのだろう?
私でも業者が立体駐車場に拘る理由が分かるのに……。
「晴美さんは、こんな話を聞いたことがないかな? 若者の車離れがかなり進んでいる……、って」
「あ、そう言えば聞いたことがあります。免許を取る人自体も減っているんですよね? ネットニュースで読みました」
「そうなんだ。特に、都市部でそれが顕著でね」
「……、……」
「地方は車がないと生活出来ない環境の人も多いけど、都市部では交通インフラが発達しているから、どうしても車がなくては生活できない人は少ない」
「……、……」
「これからマンションを購入する人は、基本的に若い人だからね。だとすると、駐車場がなくてもそれほど困らなくなっているんだ」
「……、……」
「これは統計上も間違いのないことだし、実際にウチのマンションだって十五台分しか駐車場がないけど、数台分は空いているだろう?」
「そのようですね。理事会の議事録にそんなことが書いてあった気がします」
「隣のマンションに、何台分の駐車場が出来るか知ってる? 僕は数えてみたんだけど、全部で二十四台分もあるんだよ。その内、立駐機の分が十八台。つまり、一階あたり六台分ずつと言うことになる」
「……、……」
「だったら、三階建てなんかにしなくたって良いと思わない? 二階建てにして十八台分確保すればそれでもウチのマンションより多いんだよ」
「……、……」
そうか……。
業者は不自然なことをしているのか。
木原の言うことは筋が通っている。
万が一にでも、確認申請が下りないなんて事態が起れば、立体駐車場に拘るなんてバカバカしいし……。
しかも、いくら立体駐車場を造っても、全部が埋まるとは限らないのだ。
「晴美さん……。僕も業者に会ってみようと思う。それで、立駐機の覆いのことや台数が不自然に多いことを率直に聞いてみようと思うんだ」
「……、……」
「彼等も別に理不尽なことがやりたいわけではないはずなんだ。それなりの理由があるはずだよ」
「……、……」
「だけど、こちらにも都合があるし、晴美さんの言うように器物の影で生活しろと言うのは理不尽だ」
「……、……」
「だから、もし、どうしても向こうが譲らなかったら、そのときは建築審査会を開くことを要請しよう」
「建築審査会?」
「そう……。建築確認申請を行うときに、疑義があれば複数の専門家にその是非を問うことが出来る。それが建築審査会と言う制度なんだ。僕は市議に知り合いがいるからね。話せば必ず力になってくれる」
「……、……」
裕太ママ晴美の一言メモ
「確かに私の友達にも車の免許を取ってる人って半分くらいしかいないかも。車で出掛けるとお酒も飲めないし、そんなに需要がないのも分かるような気がするかな」
「いえ……」
私達は中高層調整課を出ると、すぐ側の喫茶店に入った。
まだ、10時過ぎなので、私が仕事に行くまでには時間がある。
木原も県庁で用事があるのは午後からだと言う。
そこで、二人で少し話し合うことにしたのだ。
木原は先ほどから、中高層調整課に行っても成果に乏しかったことを何度か謝っている。
「ただね、やはり立駐機が焦点なことには変わりがないと思うんだ。まだ相手の出方も分からないし、一概にダメと決まったわけではないから」
「そうですね。でも、私は業者と接してきて思いました。彼等は簡単に引き下がるようなことはしないと。もし本当に覆いが壁になってしまうのなら、防音や防塵のための覆いの方をそんなに簡単に約束するとは思えないので……」
木原は慰めてくれているつもりのようだが、私は不安ではあるがそれほど落ち込んではいなかった。
「木原さん……。私、思ったんです。最初はたかが日照のことだと思っていたんですけど、これは本当に大変なことなんだと。彼等も生活が懸かっていると言うことが嫌と言うほど分かりましたし、木原さんの仰る、政治は皆平等に受けられると言うことがどれほど大切なことかも分かりました」
「……、……」
「だから、たとえこちらの主張が通らなくても、やれることはやったと思えると思います。それくらい今回の件は、私にとって良い勉強になりました」
「……、……」
私は率直に、今感じていることを話した。
もちろん、主張が通って立体駐車場が二階建てになるに越したことはない。
しかし、主張が通ることも大事だが、木原に接して小百合から教わるのと同じような人生の教訓を得たことは、私にとって同じくらい貴重なことだと思うのだ。
「まあ、晴美さんがそう言ってくれると少し気が楽になるけど、その気持ちはまだ胸の奥に仕舞っておいてね」
「……、……」
「もう、どうしようもないと諦めてからでも遅くはないからさ」
「……、……」
木原はそう言って優しく微笑みかけてくれる。
そう、彼はまったく諦めてはいないのだ。
木原の優しげな物腰の奥には、断固たる決意が秘められているのが私にも感じられる。
「僕は、最初から疑問に思っていることがあるんだ」
「疑問ですか?」
「うん……。業者は何故そんなに立駐機の台数に拘るのだろうと」
「それは、マンション本体が薄利だからではないですか? 立体駐車場の賃料が入れば少しでも利益になるでしょうし……」
「まあ、それはそうなんだけど……」
「……、……」
どうしてそんなことが気になるのだろう?
私でも業者が立体駐車場に拘る理由が分かるのに……。
「晴美さんは、こんな話を聞いたことがないかな? 若者の車離れがかなり進んでいる……、って」
「あ、そう言えば聞いたことがあります。免許を取る人自体も減っているんですよね? ネットニュースで読みました」
「そうなんだ。特に、都市部でそれが顕著でね」
「……、……」
「地方は車がないと生活出来ない環境の人も多いけど、都市部では交通インフラが発達しているから、どうしても車がなくては生活できない人は少ない」
「……、……」
「これからマンションを購入する人は、基本的に若い人だからね。だとすると、駐車場がなくてもそれほど困らなくなっているんだ」
「……、……」
「これは統計上も間違いのないことだし、実際にウチのマンションだって十五台分しか駐車場がないけど、数台分は空いているだろう?」
「そのようですね。理事会の議事録にそんなことが書いてあった気がします」
「隣のマンションに、何台分の駐車場が出来るか知ってる? 僕は数えてみたんだけど、全部で二十四台分もあるんだよ。その内、立駐機の分が十八台。つまり、一階あたり六台分ずつと言うことになる」
「……、……」
「だったら、三階建てなんかにしなくたって良いと思わない? 二階建てにして十八台分確保すればそれでもウチのマンションより多いんだよ」
「……、……」
そうか……。
業者は不自然なことをしているのか。
木原の言うことは筋が通っている。
万が一にでも、確認申請が下りないなんて事態が起れば、立体駐車場に拘るなんてバカバカしいし……。
しかも、いくら立体駐車場を造っても、全部が埋まるとは限らないのだ。
「晴美さん……。僕も業者に会ってみようと思う。それで、立駐機の覆いのことや台数が不自然に多いことを率直に聞いてみようと思うんだ」
「……、……」
「彼等も別に理不尽なことがやりたいわけではないはずなんだ。それなりの理由があるはずだよ」
「……、……」
「だけど、こちらにも都合があるし、晴美さんの言うように器物の影で生活しろと言うのは理不尽だ」
「……、……」
「だから、もし、どうしても向こうが譲らなかったら、そのときは建築審査会を開くことを要請しよう」
「建築審査会?」
「そう……。建築確認申請を行うときに、疑義があれば複数の専門家にその是非を問うことが出来る。それが建築審査会と言う制度なんだ。僕は市議に知り合いがいるからね。話せば必ず力になってくれる」
「……、……」
裕太ママ晴美の一言メモ
「確かに私の友達にも車の免許を取ってる人って半分くらいしかいないかも。車で出掛けるとお酒も飲めないし、そんなに需要がないのも分かるような気がするかな」
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