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第27話 不敵に笑う男
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「ふふっ……、裁判ねえ」
「……、……」
突然、川田が呟いた。
川田はまだパソコン画面を見続けている。
右手のマウスも忙しなく動く。
「何度も申しますが、私共は、裁判では負けたことがございません」
「いや、聞こえちゃったか。これは失礼」
「……、……」
「部外者の独り言なんで、気に触ったら謝るよ」
「……、……」
「たださあ……。今のコスモスイクスピアリが、本当に裁判をやる気があるのかなって思ってさ」
川田はそう言うと、パソコン画面から目を離し、田所の方に振り向いた。
そして、不敵にニヤリと笑う。
えっ?
た、田所の顔が……。
川田の言葉を聞いて、田所の顔が朱に染まる。
あんなに余裕のありそうな笑みを浮かべていたのに、それも一瞬で凍り付いた。
「あ、いや、すいません。気にしないで下さい。単なる独り言ですから」
「……、……」
「木原さん、もう、話は終わったんだろう? 今日は日曜なんだからさ……。その人は休日出勤して来てるんだよ。言いたいことは言ったんだから、早く解放してあげなよ」
「……、……」
「県議なんてやくざな仕事と違って、一般庶民は残業代だって満足にもらえないんだからさ」
「あ……。そうだね、申し訳ない。田所さん、ご足労いただいてありがとうございました。もう結構ですので……」
木原はそう言うと、我に返ったような顔で慌てて頭を下げる。
田所は、川田をにらみつけ、憮然とした表情を浮かべていたが、
「では、失礼いたします。また何かございましたら連絡をいただければと思います」
と言うと、すっと席を立つ。
えっ?
どういうこと?
木原さん、もう良いってどうしてなの?
だって、これでは建築審査会だってどうにもならないじゃない。
メッシュの覆いは他の自治体で認可されているんでしょう?
よほどの不備がなかったら建築審査会では主張が通らないって言ったのは、木原さんじゃない。
私だけが、呆然として動けなかった。
木原は田所を見送りに玄関に行き、川田は何事もなかったかのようにまたパソコン画面を眺めるのだった。
「晴美さん、まだ時間大丈夫?」
「あ、はい……」
戻ってきた木原は、私の向かいに座るとそう尋ねた。
「それなら、これから少し川田君の話を聞こうか」
「……、……」
「なあ、川田君? 何か気がついたんだろう? だからわざわざ田所さんを帰したんだよなあ?」
「えっ?」
そうなの?
木原は、川田がわざと田所を帰したと思っているの。
私は川田の無礼な態度も、突然話に割って入ったのも気に入らなかった。
もし何か言いたいことがあるのなら、ちゃんと話に入ってくればいいではないか。
木原があんなに一生懸命話をしているのだから……。
「話し? 別にしなくても良いでしょ。俺が何かを話したところで結果は変わらないし……」
「そう言うなよ。晴美さんだって聞きたいと思っているはずさ。それに、僕だって聞きたい。川田君が何に気がついたのかを……」
「何って……。気がついたと言うか、全部分かったよ。業者が何でこんないじめみたいなことをしたがるのかも、これからどう言う結果になるのかも」
「やはりそうか……。だったら尚更話してよ。今、時間があるんだろう? 話してくれるためにパソコンで調べてくれていたんじゃないのかい?」
全部分かった?
この人は何を言っているのだろう。
木原のような専門家や、役所の人達だって訝しがっていた話なのに……。
「うーん、まあ、仕方ないか。木原さんには色々としてもらったこともあるし、付き合いも長いから……」
「私からもお願いします。私、どうしても分からないんです。それと、これからどうなるか知りたいのです」
「滝川さんだったっけか?」
「あ、はい……。いえ、晴美で良いです」
「晴美ちゃんか。じゃあ、さらっと話すかな。心配しているみたいだからさ」
「……、……」
川田はそう言うと椅子をこちらに向け、おもむろに話し始めた。
「まず、俺が話をする前に、聞いておくことがある」
「……、……」
「木原さん、コスモスイクスピアリって会社を調べたんだろうね? オーナーの……」
「いや……」
「あちゃーっ。それ、一番大事なことじゃない。どうして争う相手の素性くらい調べないかなあ?」
「……、……」
「それ、議員の悪いクセだよ。真っ正面から正論をぶつければ何でもどうにかなると思ってるのって」
「……、……」
「まあ、良いか……。とりあえず知ろうが知るまいが、結論は変わらないから」
「……、……」
この人、なんて偉そうなの?
私はどうも川田のことが好きになれない。
「じゃあ、結論から言うよ。裁判にもならなけりゃ建築審査会も開かれない。おまけに、立駐機は三階建てから二階建てになる。それも、向こうからそうすると言ってくるから、何の心配もいらないよ」
「か、川田君っ! それは本当かい?」
「ああ、間違いないです。今からそのわけを説明するからさ」
「そ、そう……。頼むよ、僕らではさっき業者に話したことまでしか分からなかったんだから……」
そ、そんなことがあり得るの?
だって、田所はあんなに自信満々だったじゃない。
裕太ママ晴美の一言メモ
「専門家でも生活がかかった人でもないのに……。それなのに自信満々に、何の心配もいらないって……」
「……、……」
突然、川田が呟いた。
川田はまだパソコン画面を見続けている。
右手のマウスも忙しなく動く。
「何度も申しますが、私共は、裁判では負けたことがございません」
「いや、聞こえちゃったか。これは失礼」
「……、……」
「部外者の独り言なんで、気に触ったら謝るよ」
「……、……」
「たださあ……。今のコスモスイクスピアリが、本当に裁判をやる気があるのかなって思ってさ」
川田はそう言うと、パソコン画面から目を離し、田所の方に振り向いた。
そして、不敵にニヤリと笑う。
えっ?
た、田所の顔が……。
川田の言葉を聞いて、田所の顔が朱に染まる。
あんなに余裕のありそうな笑みを浮かべていたのに、それも一瞬で凍り付いた。
「あ、いや、すいません。気にしないで下さい。単なる独り言ですから」
「……、……」
「木原さん、もう、話は終わったんだろう? 今日は日曜なんだからさ……。その人は休日出勤して来てるんだよ。言いたいことは言ったんだから、早く解放してあげなよ」
「……、……」
「県議なんてやくざな仕事と違って、一般庶民は残業代だって満足にもらえないんだからさ」
「あ……。そうだね、申し訳ない。田所さん、ご足労いただいてありがとうございました。もう結構ですので……」
木原はそう言うと、我に返ったような顔で慌てて頭を下げる。
田所は、川田をにらみつけ、憮然とした表情を浮かべていたが、
「では、失礼いたします。また何かございましたら連絡をいただければと思います」
と言うと、すっと席を立つ。
えっ?
どういうこと?
木原さん、もう良いってどうしてなの?
だって、これでは建築審査会だってどうにもならないじゃない。
メッシュの覆いは他の自治体で認可されているんでしょう?
よほどの不備がなかったら建築審査会では主張が通らないって言ったのは、木原さんじゃない。
私だけが、呆然として動けなかった。
木原は田所を見送りに玄関に行き、川田は何事もなかったかのようにまたパソコン画面を眺めるのだった。
「晴美さん、まだ時間大丈夫?」
「あ、はい……」
戻ってきた木原は、私の向かいに座るとそう尋ねた。
「それなら、これから少し川田君の話を聞こうか」
「……、……」
「なあ、川田君? 何か気がついたんだろう? だからわざわざ田所さんを帰したんだよなあ?」
「えっ?」
そうなの?
木原は、川田がわざと田所を帰したと思っているの。
私は川田の無礼な態度も、突然話に割って入ったのも気に入らなかった。
もし何か言いたいことがあるのなら、ちゃんと話に入ってくればいいではないか。
木原があんなに一生懸命話をしているのだから……。
「話し? 別にしなくても良いでしょ。俺が何かを話したところで結果は変わらないし……」
「そう言うなよ。晴美さんだって聞きたいと思っているはずさ。それに、僕だって聞きたい。川田君が何に気がついたのかを……」
「何って……。気がついたと言うか、全部分かったよ。業者が何でこんないじめみたいなことをしたがるのかも、これからどう言う結果になるのかも」
「やはりそうか……。だったら尚更話してよ。今、時間があるんだろう? 話してくれるためにパソコンで調べてくれていたんじゃないのかい?」
全部分かった?
この人は何を言っているのだろう。
木原のような専門家や、役所の人達だって訝しがっていた話なのに……。
「うーん、まあ、仕方ないか。木原さんには色々としてもらったこともあるし、付き合いも長いから……」
「私からもお願いします。私、どうしても分からないんです。それと、これからどうなるか知りたいのです」
「滝川さんだったっけか?」
「あ、はい……。いえ、晴美で良いです」
「晴美ちゃんか。じゃあ、さらっと話すかな。心配しているみたいだからさ」
「……、……」
川田はそう言うと椅子をこちらに向け、おもむろに話し始めた。
「まず、俺が話をする前に、聞いておくことがある」
「……、……」
「木原さん、コスモスイクスピアリって会社を調べたんだろうね? オーナーの……」
「いや……」
「あちゃーっ。それ、一番大事なことじゃない。どうして争う相手の素性くらい調べないかなあ?」
「……、……」
「それ、議員の悪いクセだよ。真っ正面から正論をぶつければ何でもどうにかなると思ってるのって」
「……、……」
「まあ、良いか……。とりあえず知ろうが知るまいが、結論は変わらないから」
「……、……」
この人、なんて偉そうなの?
私はどうも川田のことが好きになれない。
「じゃあ、結論から言うよ。裁判にもならなけりゃ建築審査会も開かれない。おまけに、立駐機は三階建てから二階建てになる。それも、向こうからそうすると言ってくるから、何の心配もいらないよ」
「か、川田君っ! それは本当かい?」
「ああ、間違いないです。今からそのわけを説明するからさ」
「そ、そう……。頼むよ、僕らではさっき業者に話したことまでしか分からなかったんだから……」
そ、そんなことがあり得るの?
だって、田所はあんなに自信満々だったじゃない。
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