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第3話 揺らぐ陽光
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王宮の庭園は、春の花々に彩られていた。
陽光に映える王子の姿は、絵画のように美しく、臣下たちはただ見惚れていた。
耳慣れた賞賛の言葉に王子は微笑みを返しながらも、心はどこか遠くにあった。
「殿下、本日も御見事でございました」
「やはり第一王子殿下のお言葉は、我らを導く光にございます」
政務を終えるたび、臣下たちはそう口々に言う。
稽古場では、剣を振るえば誰もが称賛の拍手を送る。
民の前に立てば、笑顔と感謝が降り注ぐ。
──完璧な王子。
誰もが夢見る理想の姿。それが、この身に課せられた仮面。
王子は微笑みを崩さず、淡々と務めを果たしていた。
声色ひとつ乱さず、汗に濡れた額を拭う仕草すら優雅に見せる。
しかし胸の奥では、別の熱が消えずにくすぶり続けていた。
──あの夜。
影の魔力に包まれた、あの瞬間。
冷たいはずの気配が、不思議なほど温かく、自分を抱き締めてくれたように思えた。
ほんの一瞬、何も語らず、ただ寄り添っただけ。
影にとっては気まぐれのような揺らぎにすぎないだろう。
それでも王子にとっては、あまりに大きな出来事だった。
胸の奥に刻まれた痕のように、決して消えない記憶。
思い出すだけで心臓が高鳴り、呼吸が乱れる。
「……殿下?」
隣に仕える臣下が怪訝そうに覗き込む。
王子はすぐに笑顔を作り直した。
「いや……少し考え事をしていただけだ」
誰も疑わないような微笑みを浮かべながら、その裏で脈打つ鼓動は速まっていた。
手のひらにはじんわりと汗が滲み、胸は苦しいほどに熱を帯びている。
──また、あの温もりを感じたい。
もう一度、影の魔力に包まれたい。
たったそれだけを望んでしまう。
理性で押し殺そうとしても、心は抗えず、欲望は静かに膨らんでいく。
愚かだと知りながら。
叶わぬ恋と理解していながら。
それでも、昼間の喧騒の中で唯一鮮明に残るのは、あの夜の記憶。
民の前で優雅に手を振りながら、王子は胸の奥でひとり呟く。
──お前に会いたい。
名も、顔も、声も知らぬというのに。
どうして私は、これほどにお前を求めてしまうのだろう……。
視線を遠くへ投げても、答えは返ってこない。
それでも心は、確かにひとつの気配を探していた。
(……なぜ、これほどまでに)
忘れようとすればするほど、記憶は鮮烈に蘇る。
胸の奥でじんじんと疼く熱は、理性で押さえ込もうとすればするほど、逆に広がっていく。
その渇きは、誰にも言えない欲望へと変わりつつあった。
表情は乱さず、ただ頷き、再び「完璧な王子」を演じる。
だがその裏で、心臓の鼓動は速まり、指先にはうっすら汗が滲んでいた。
(会いたい……触れたい……)
願ってはいけない。
影は誰のものでもない。
それでも、渇望は止められない。
◆
ふとした違和感が王子の背筋を撫でた。
──視線。
誰もいないはずの庭の一角から、冷たい気配。
影の存在とは異なる、敵意を孕んだ鋭さ。
(……気のせいか?)
王子は胸の奥にざらつく不安を覚えながらも、微笑みを崩さない。
だがその瞬間、いつもの“影の気配”がふっと濃くなった。
見えない腕が背に添えられたように、心臓が跳ねる。
まるで「心配はいらぬ」と囁かれたかのように。
「……」
王子は振り返らない。
それでも、背を支える確かな力を感じる。
──影が警戒している。
その事実だけで、胸の奥に小さな安堵が芽生える。
同時に、己の中に甘やかな欲望が広がっていく。
(また……あの夜のように。
私を包んでくれ……抱き締めてくれ……)
叶わぬ恋だと知っているのに、理性を越えて渇望が溢れ出す。
影はただ守っているだけなのに、自分にとってはそれが愛の証のように思えてしまう。
やがて王子は政務の場に戻り、書類を読み上げる声が広間に響いた。
表向きは凛とした第一王子。
だが陰で、臣下の一人が不穏な視線を交わすのを影は見逃さなかった。
王位継承を巡る暗い思惑か。
闇はじわじわと確実に王子を取り囲みつつあるようだ。
影はただ沈黙のまま、主の背を守り続けた。
陽光に映える王子の姿は、絵画のように美しく、臣下たちはただ見惚れていた。
耳慣れた賞賛の言葉に王子は微笑みを返しながらも、心はどこか遠くにあった。
「殿下、本日も御見事でございました」
「やはり第一王子殿下のお言葉は、我らを導く光にございます」
政務を終えるたび、臣下たちはそう口々に言う。
稽古場では、剣を振るえば誰もが称賛の拍手を送る。
民の前に立てば、笑顔と感謝が降り注ぐ。
──完璧な王子。
誰もが夢見る理想の姿。それが、この身に課せられた仮面。
王子は微笑みを崩さず、淡々と務めを果たしていた。
声色ひとつ乱さず、汗に濡れた額を拭う仕草すら優雅に見せる。
しかし胸の奥では、別の熱が消えずにくすぶり続けていた。
──あの夜。
影の魔力に包まれた、あの瞬間。
冷たいはずの気配が、不思議なほど温かく、自分を抱き締めてくれたように思えた。
ほんの一瞬、何も語らず、ただ寄り添っただけ。
影にとっては気まぐれのような揺らぎにすぎないだろう。
それでも王子にとっては、あまりに大きな出来事だった。
胸の奥に刻まれた痕のように、決して消えない記憶。
思い出すだけで心臓が高鳴り、呼吸が乱れる。
「……殿下?」
隣に仕える臣下が怪訝そうに覗き込む。
王子はすぐに笑顔を作り直した。
「いや……少し考え事をしていただけだ」
誰も疑わないような微笑みを浮かべながら、その裏で脈打つ鼓動は速まっていた。
手のひらにはじんわりと汗が滲み、胸は苦しいほどに熱を帯びている。
──また、あの温もりを感じたい。
もう一度、影の魔力に包まれたい。
たったそれだけを望んでしまう。
理性で押し殺そうとしても、心は抗えず、欲望は静かに膨らんでいく。
愚かだと知りながら。
叶わぬ恋と理解していながら。
それでも、昼間の喧騒の中で唯一鮮明に残るのは、あの夜の記憶。
民の前で優雅に手を振りながら、王子は胸の奥でひとり呟く。
──お前に会いたい。
名も、顔も、声も知らぬというのに。
どうして私は、これほどにお前を求めてしまうのだろう……。
視線を遠くへ投げても、答えは返ってこない。
それでも心は、確かにひとつの気配を探していた。
(……なぜ、これほどまでに)
忘れようとすればするほど、記憶は鮮烈に蘇る。
胸の奥でじんじんと疼く熱は、理性で押さえ込もうとすればするほど、逆に広がっていく。
その渇きは、誰にも言えない欲望へと変わりつつあった。
表情は乱さず、ただ頷き、再び「完璧な王子」を演じる。
だがその裏で、心臓の鼓動は速まり、指先にはうっすら汗が滲んでいた。
(会いたい……触れたい……)
願ってはいけない。
影は誰のものでもない。
それでも、渇望は止められない。
◆
ふとした違和感が王子の背筋を撫でた。
──視線。
誰もいないはずの庭の一角から、冷たい気配。
影の存在とは異なる、敵意を孕んだ鋭さ。
(……気のせいか?)
王子は胸の奥にざらつく不安を覚えながらも、微笑みを崩さない。
だがその瞬間、いつもの“影の気配”がふっと濃くなった。
見えない腕が背に添えられたように、心臓が跳ねる。
まるで「心配はいらぬ」と囁かれたかのように。
「……」
王子は振り返らない。
それでも、背を支える確かな力を感じる。
──影が警戒している。
その事実だけで、胸の奥に小さな安堵が芽生える。
同時に、己の中に甘やかな欲望が広がっていく。
(また……あの夜のように。
私を包んでくれ……抱き締めてくれ……)
叶わぬ恋だと知っているのに、理性を越えて渇望が溢れ出す。
影はただ守っているだけなのに、自分にとってはそれが愛の証のように思えてしまう。
やがて王子は政務の場に戻り、書類を読み上げる声が広間に響いた。
表向きは凛とした第一王子。
だが陰で、臣下の一人が不穏な視線を交わすのを影は見逃さなかった。
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影はただ沈黙のまま、主の背を守り続けた。
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