君に可愛いがられたい

結衣可

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第2話 君の存在

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放課後の生徒会室。
窓の外では、部活動に励む掛け声や楽器の音が遠くから聞こえてくる。
長机の上にはプリントや資料が積まれ、掲示板には新入生歓迎会の予定表や係分担の紙が貼られていた。

あれから、孝一はよく手伝いに来てくれるようになった。
無言で机を拭き、乱雑に置かれたファイルを棚に戻し、書類を分類してくれる。
その姿は静かで、まるで空気を乱さない。

遼は──その様子を見て、なぜかずっとそわそわしていた。

(う~、なんだろう……)

ただ静かに手伝ってくれているだけなのに──

(なんとなく“見られてる”ような?)

それはふんわり優しく包まれるような感覚で、決して嫌ではなかった。

「椎名先輩、ここのファイルは年度別に並べますか?」

「え、あ、うん! お願い!」

近くに来られるたび、心臓が跳ねる。
その声も動作も落ち着いていて、孝一自身はどこまでも丁寧だ。

(自分だけなのかな……このふわふわする感じ)

遼は生徒会長として、誰にでも優しく接してきた。
親しみやすく、柔らかい人でいたいと思い、そう行動してきた。

なのに──

(う~ダメだ……)

孝一の視線や声色が、妙に落ち着かない。
しかも、最近はそれが心地よく感じて、余計に混乱する。

(やばい……落ち着け、僕。本当に、真面目に手伝ってくれているだけなんだから)

遼が一人でぐるぐる考えていると、コツンと何かが落ちた音がした。

「椎名先輩、シャーペン落ちました」

「えっ──わっ!」

慌てて拾おうとした瞬間、孝一の大きな手と重なって、距離がぐっと近づいた。

(……顔が近い!?)

孝一の目は変わらず冷静で、でもすぐに手を引いて言った。

「すみません。驚かせてしまって」

「う、ううん、大丈夫……ありがとう……」

自分の鼓動の速さはごまかせない。
ちょっと触れただけで、耳まで熱くなる。

(僕、どうしちゃったんだろ)

いつも通りのはずの生徒会室で、遼は自分の中の“何か”が少しずつ変わり始めているのを感じていた。

***

4月中旬になると、新入生歓迎会の準備が本格化し、今日も生徒会室はばたばたしていた。
体育館で使う備品のリスト、音響のチェック表、司会進行の原稿……机の上は紙の山だ。

「高峰くん、体育館側の備品チェック、お願いできる?」

「わかりました」

相変わらず表情は固いけれど、孝一は頼まれごとを淡々とこなす。
重い段ボールも一人で軽々と運んでしまうし、備品のリストも一度で頭に入れていた。

(なんなの、あの処理能力……!)

遼は書類に目を通しながら、ちょっとだけ気を抜く。
でもすぐ、視線に気づいてハッとした。

「えっと……高峰くん?」

「はい」

「……なんか、僕の顔に何かついてる?」

「いいえ、ついてません」

きっぱり言われて、なぜか赤面する遼。

「そ、そう? ならいいけど」

(なんで見られてるって思うんだろ……僕が意識してるだけ?)

そう考えていると、孝一がさらりと言った。

「椎名先輩、髪、跳ねてますよ」

「えっ、うそ!?」

「……少し失礼します」

そう言って、孝一がスッと手を伸ばしてきた。

「わっ……!」

大きな手で、ふわっと前髪を整えてくれる。

(ああ、なんだろ……気持ちいい)

頭を撫でられたわけじゃないのに、心がふわふわする。
変なスイッチを押されたような感覚。
なぜ、こんなにも“構われてる”ことが、心地よく感じてしまうんだろう。

「整いましたよ」

「……あ、ありがとう……」

「いえ」

ふたりの間に一瞬沈黙が落ちたあと、孝一がぽつりと言った。

「椎名先輩、髪、柔らかいですね」

「……ふえ?」

「いえ。なんでもないです」

(なんでもなくないし!!)

遼の中で、孝一の存在がどんどん大きくなっていくのを、もう止められそうになかった。
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