君に可愛いがられたい

結衣可

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最終話 一緒にいたくて

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放課後の廊下、恋人になったばかりの二人は、ぎこちなくも自然に並んで歩いていた。

「……遼先輩、手」

唐突に孝一がぼそっと言う。
「え?」と振り向く間もなく、温かな指先が絡んだ。
制服の袖口から覗くその温もりは、ただの繋いだ手以上に胸を熱くさせる。

「こういうの……慣れてなさそうですね」

「……そ、そんなこと……」

「ふ。そういうところも、好きですよ」

また「好き」と言われてしまって、耳まで真っ赤になる。
孝一はゆっくりと歩き、昇降口に着いたところで、ふっと笑い、真っ赤な顔した遼の前髪を指先で軽く整える。

「じゃあ、帰りましょうか」

その丁寧な仕草に視線を奪われ、指先の間から見える孝一に視線をうつし、遼はじっと見つめた。

「……」

「?どうしました?」

何も言わずに、遼は孝一の袖をきゅっと掴んだ。

「……遼先輩?……言わないと、ここでキスしちゃいますよ?」

「!?」

(そ、それは困る……けど。もっと一緒にいたい、なんて言っていいのかな)

心臓の鼓動がうるさすぎて、顔が上げられない。

「こ、孝一くん、あの……」

「はい」

待ってくれる優しさが嬉しくて、言葉を絞り出す。

「……まだ、一緒がいい」

その消えそうな声に、孝一は目を開き、やわらかく笑った。

「このまま、うちに来ます?」

「……いく」

***

遼は家に連絡し、そのまま泊まることになった。
二人で孝一の家に帰る途中、「今日は帰す気ないから」と言われ、有無を言わせない強引さに困りながらも、嬉しく思う自分がいた。

「おじゃまします……」
「ただいま」

二人の声に、弟妹たちが顔を出して「遼くんだ!」と駆け寄ってくる。
賑やかな笑顔に囲まれて、遼は少し照れながらも自然と笑顔になった。
ご飯を一緒に食べ、宿題を見てやり、弟妹たちと笑い合う。

(……こういう空気、すごく好きだな)

孝一の隣にいる自分が、当たり前みたいに馴染んでいることに気づいて、胸が温かくなった。

***

夕食のあと、孝一の部屋で二人きり。
外からは虫の声だけ。
ベッドに腰を下ろした孝一が、腕を伸ばして遼を引き寄せる。

「……二人の時は“遼”って呼んでもいいですか?」

「……うん」

「遼、おいで」

丁寧語が抜けた真っ直ぐな声に胸が震える。
額に軽くキスが落とされ、遼の心臓がまた跳ねた。

「……遼、おやすみ」

「……ん、おやすみなさい」

隣に並んで布団に潜り込む。
胸の奥に満ちてくる温かさは、安心と照れと、そして幸福感だった。

真夜中、ふと目を開けると、孝一の寝顔がすぐそこにあった。
月明かりに照らされた横顔は、昼よりも柔らかい。
じっと見つめていると、孝一が薄く目を開け、低い声が落ちる。

「……遼?起きて?」

「……ちょっと、目が覚めちゃって」

「寒い?」

「……少し」

次の瞬間、孝一の腕が肩を包み込み、布団ごと引き寄せられる。

「……こうすれば、あったかいでしょう」

「……ん」

耳元で響く心臓の音。
撫でられる髪の感触に、頬が熱くなる。

「……遼、かわいい」

「……ま、またそういうこと……」

「何回でも言うよ?」

抗えない甘さに、遼は赤くなったまま目を閉じた。
こんな夜なら、何度でも目が覚めてもいいかもしれない。

***

まぶたの裏をやわらかい光が照らしてくる。
少しずつ意識が浮かび上がった瞬間、耳元で低い声がした。

「……遼?」

目を開けると、すぐそこに孝一の真剣な眼差し。

「お、おはよ、孝一くん……ち、近くない?」

「そろそろ限界なので」

「……え?」

言い終える前に、頬に、唇。
一度、二度、三度……。
軽く重ねられるキスが、くすぐったくて熱い。

「ちょ、孝一……!」

「遼の可愛い寝顔を見ていたら……我慢できなくなった」

低く囁かれた瞬間、唇を深く塞がれる。
昨日までの淡い触れ方じゃない。
息が混ざり合うほど強く、長く。

「……んっ、……あ、朝から……」

「ごめん。本当は昨日からずっと触りたかった」

真っ赤になった遼の頬を見て、孝一は柔らかく笑った。

視線が合ったまま、また軽くキス。
触れて、離れて、また触れて。
息が乱れるほど繰り返されて、恥ずかしいのに、嫌じゃない。

「……顔、真っ赤」

「……孝一くんのせいだろ」

と少し睨むと、

「うわ……かわいすぎる」

言いながら、首筋に唇を寄せてくる。
その温かさに、変な声が出そうになって慌てて口を押さえた。

「……声我慢しないで」

「無理! だって、朝……」

「夜ならいいってこと?」

「……っ、そういう意味じゃ……!」

照れる暇もなく、また唇を塞がれる。
今度は本当に長く、深く。
息が苦しくなっても、離れようとしない。

(……ずるい。こんなの)

最後にそっと額を合わせられて、

「……遼、ほんとかわいい」

甘い声で囁かれたら、もう何も言い返せなかった。
結局15分近く布団でくっついてしまった。

***

重い腰を上げて制服に着替え、階下のダイニングに降りると──弟妹たちが元気に声を上げる。

「おはよー、兄ちゃん、遼くん!」
「昨日ゲームありがと!」

「おはよう……」

照れながら返事をする遼の顔を、弟妹が覗き込む。

「ねぇ、遼くん、顔赤いよ?」

「え、あ、いや……」

慌てて言葉を探していると、真ん中の弟がにやっと笑う。

「あ~……兄ちゃんとなんかあったんだ?」

「なっ……!」

「お前ら、朝からうるさい」孝一が低い声で制する。

どんどん赤くなる遼を見て、弟たちはますます面白がる。

「やっぱりなんかあったんだ!」

(やばい……! ぜんぶバレそう……)

心臓が落ち着かないまま、慌ててトーストをかじる。
そんな遼の横顔を、孝一がちらっと見て──

「……ほんと、隠せない人ですよね」

小声でそう囁かれて、余計に顔が熱くなった。

***


弟妹たちが「いってきまーす!」と元気に出かけ、家が静かになる。

「……やっと静かになった」 

「う、うん……」

 気まずいような、落ち着かないような沈黙。
 テーブルに置いたカップから湯気がゆらゆら昇る。 
孝一はそれを一口飲んだあと、じっと遼を見た。

「……遼」 

「な、なに?」
 
遼は手首をつかまれて引き寄せられる。 

「ちょ、孝一っ──」 

唇が触れた。 軽く押し当てるだけじゃない。 
少し長めで、息が混ざるくらいの距離。 

「……ずっと我慢してたんで、あれだけじゃ足りない」 

耳元で低く囁かれ、背筋がぞくっとする。 

「が、我慢って……」

「……もっとしたいこと、いっぱいあるんですよ」 

「……っ!」

頭の中が真っ白になる。 
自分の鼓動の音だけがやけに大きく響いて、言葉が出ない。 
孝一がそっと頬を撫でる。 

「嫌じゃないなら……もう少し、だけ」

低い声が耳に触れて、背筋が震える。
次のキスはゆっくりで、やわらかく、甘い。

(……離れたくない) 

遼もおそるおそる孝一に手を伸ばす。
 孝一はその手に掴み、頬を摺り寄せ、遼を見る。 
遼は朝とは思えない熱のこもった孝一の視線に誘われるように強請ってしまう。

「……っと……て」 

「ん?」 

「もっと……して」

勇気を振り絞った一言に、孝一は笑みをこぼし、強く抱き寄せる。

「……はい。何度でも」

朝の光が差し込む部屋で、二人の時間は熱を帯びていった。

もちろん――学校に遅刻しかけたのは、言うまでもない。
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