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第3話 閉ざされた執務室
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分厚い扉が重々しく閉じられる音が響き渡った。
直後、錠前がかちりと下りる硬い響きに、セオドア・ラインハルトは眉をひそめる。
「……これ、どういう状況ですか」
低く問いかけながら振り返ると、豪奢な机の向こうに第一王子 レオナード・フォン・グランツ の姿があった。
漆黒の髪は夜を思わせ、金の瞳は冷たい光を湛えている。
背筋を伸ばして椅子に腰かけるその姿は、ただそこにあるだけで人を圧倒する――王族にしか持ち得ない存在感。
「簡単なことだ」
レオナードは淡々と告げた。
「お前は今から、俺の執務室に常駐する。……見たままだ、逃げ場はない」
「は?」
思わず苦笑が漏れた。
「昨日お会いしたばかりですよね。気まぐれで人を囲う趣味は理解できませんが……残念ながら俺にはクリストフ殿下の側近という仕事があるんです」
セオドアは努めて冷静に、皮肉を混ぜて返す。
内心では心臓が小さく跳ねたのを自覚していた。
――自分がこの王子に「見込まれた」ことは、すでに揺るぎない事実。
「分かっている」
レオナードは椅子から立ち上がり、ゆっくりと歩みを進める。
「だが俺はお前が欲しいと思った。……それが理由に足りないか?」
「……」
射抜くような金の瞳が、逃げ場なくセオドアを捕らえる。
王族特有の傲慢な響き――そのはずなのに、そこにはただの気まぐれではない重みがあった。
(……やばい。この人、本気っぽい)
セオドアは内心で舌打ちした。
これまで数多の貴族たちと渡り合い、社交の駆け引きに慣れてきたはずの自分が、わずか数秒で押し込まれている。
「……俺をからかっても面白くありませんよ、殿下」
なんとか余裕を装い、言葉に毒を滲ませる。
レオナードは微動だにせず、むしろ唇に淡い笑みを浮かべた。
「お前をからかうつもりはない」
ぞくりと背筋を走る感覚。
王子の声は低く、熱を帯びていて――言葉以上に心を揺さぶってくる。
「セオドア、俺のそばにいろ。その能力を存分に発揮するがいい。
クリスの側近など比べ物にならない地位と権限を与える」
一歩近づくごとに、セオドアは壁際へ追い詰められるようだった。
「あぁ、条件がひとつだけある」
「……条件?」
「俺の側から一時も離れないことだ」
あまりに単純で、あまりに乱暴な条件。
しかし、レオナードの瞳を見れば、本心であることは疑いようがなかった。
セオドアは深く息を吐き、皮肉めいた笑みを浮かべる。
「……なるほど。囚人としてなら、俺は最高位の待遇を受けられるってわけですか」
レオナードの口元に、確かに笑みが広がる。
「囚人……か、それはお前の受け取り方次第だが、言い方など何でもいい」
(……本気で、俺を囲うつもりなのか)
彼は心の中で苦々しく呟く。
確かに、自分は副会長として冷静に振る舞ってきた。
クリストフを支え、教師を守り、この立場に似合った役割を果たしてきた。
なのに、王子の眼差しに見透かされた気がした。
この王子に自分がどんな計算を重ねても勝てない――ということを。
(……この人、本能で俺を捕まえる気だ)
反発する気持ちと、心の奥に走るざらつく熱。
それが否応なく混ざり合い、自分でも処理できない感情となって押し寄せてくる。
一方のレオナードもまた、自分に驚いていた。
これまで幾人も臣下や貴族の子弟に慕われてきたが、誰ひとりとして心を動かした者はいなかった。
昨夜――毅然と立ち、真っ直ぐな瞳で言葉を紡いだ青年の姿が、脳裏から離れない。
「……セオドア・ラインハルト」
その名を口にするだけで、胸の奥に熱が灯る。
(俺はもう、彼を手放すことができない)
豪奢な執務室。
閉ざされた扉。
その中で――セオドアの新しい日々が、静かに始まろうとしていた。
(……さて、彼はどう切り抜けるか……それとも、俺に流されてしまうのか)
皮肉めいた笑みを浮かべながらも、胸の奥に走る熱は、決して無視できなかった。
直後、錠前がかちりと下りる硬い響きに、セオドア・ラインハルトは眉をひそめる。
「……これ、どういう状況ですか」
低く問いかけながら振り返ると、豪奢な机の向こうに第一王子 レオナード・フォン・グランツ の姿があった。
漆黒の髪は夜を思わせ、金の瞳は冷たい光を湛えている。
背筋を伸ばして椅子に腰かけるその姿は、ただそこにあるだけで人を圧倒する――王族にしか持ち得ない存在感。
「簡単なことだ」
レオナードは淡々と告げた。
「お前は今から、俺の執務室に常駐する。……見たままだ、逃げ場はない」
「は?」
思わず苦笑が漏れた。
「昨日お会いしたばかりですよね。気まぐれで人を囲う趣味は理解できませんが……残念ながら俺にはクリストフ殿下の側近という仕事があるんです」
セオドアは努めて冷静に、皮肉を混ぜて返す。
内心では心臓が小さく跳ねたのを自覚していた。
――自分がこの王子に「見込まれた」ことは、すでに揺るぎない事実。
「分かっている」
レオナードは椅子から立ち上がり、ゆっくりと歩みを進める。
「だが俺はお前が欲しいと思った。……それが理由に足りないか?」
「……」
射抜くような金の瞳が、逃げ場なくセオドアを捕らえる。
王族特有の傲慢な響き――そのはずなのに、そこにはただの気まぐれではない重みがあった。
(……やばい。この人、本気っぽい)
セオドアは内心で舌打ちした。
これまで数多の貴族たちと渡り合い、社交の駆け引きに慣れてきたはずの自分が、わずか数秒で押し込まれている。
「……俺をからかっても面白くありませんよ、殿下」
なんとか余裕を装い、言葉に毒を滲ませる。
レオナードは微動だにせず、むしろ唇に淡い笑みを浮かべた。
「お前をからかうつもりはない」
ぞくりと背筋を走る感覚。
王子の声は低く、熱を帯びていて――言葉以上に心を揺さぶってくる。
「セオドア、俺のそばにいろ。その能力を存分に発揮するがいい。
クリスの側近など比べ物にならない地位と権限を与える」
一歩近づくごとに、セオドアは壁際へ追い詰められるようだった。
「あぁ、条件がひとつだけある」
「……条件?」
「俺の側から一時も離れないことだ」
あまりに単純で、あまりに乱暴な条件。
しかし、レオナードの瞳を見れば、本心であることは疑いようがなかった。
セオドアは深く息を吐き、皮肉めいた笑みを浮かべる。
「……なるほど。囚人としてなら、俺は最高位の待遇を受けられるってわけですか」
レオナードの口元に、確かに笑みが広がる。
「囚人……か、それはお前の受け取り方次第だが、言い方など何でもいい」
(……本気で、俺を囲うつもりなのか)
彼は心の中で苦々しく呟く。
確かに、自分は副会長として冷静に振る舞ってきた。
クリストフを支え、教師を守り、この立場に似合った役割を果たしてきた。
なのに、王子の眼差しに見透かされた気がした。
この王子に自分がどんな計算を重ねても勝てない――ということを。
(……この人、本能で俺を捕まえる気だ)
反発する気持ちと、心の奥に走るざらつく熱。
それが否応なく混ざり合い、自分でも処理できない感情となって押し寄せてくる。
一方のレオナードもまた、自分に驚いていた。
これまで幾人も臣下や貴族の子弟に慕われてきたが、誰ひとりとして心を動かした者はいなかった。
昨夜――毅然と立ち、真っ直ぐな瞳で言葉を紡いだ青年の姿が、脳裏から離れない。
「……セオドア・ラインハルト」
その名を口にするだけで、胸の奥に熱が灯る。
(俺はもう、彼を手放すことができない)
豪奢な執務室。
閉ざされた扉。
その中で――セオドアの新しい日々が、静かに始まろうとしていた。
(……さて、彼はどう切り抜けるか……それとも、俺に流されてしまうのか)
皮肉めいた笑みを浮かべながらも、胸の奥に走る熱は、決して無視できなかった。
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