溺愛王子様の3つの恋物語~第1王子編~

結衣可

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第6話 婚約者候補

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その日の王城は、いつもとは違う華やぎに包まれていた。
客人を迎えるため、赤い絨毯が長い回廊に敷かれ、廷臣たちのざわめきが大広間に響く。
遠方の名門、公爵家から、第一王子レオナード・フォン・グランツの婚約者候補が訪れたのだ。

「殿下」
金糸のドレスを纏った令嬢が、優雅に一礼する。
髪には宝石が散りばめられ、緊張に強張った笑みを浮かべながらも、その姿は見事なまでに“王子の婚約者”らしかった。

「本日は光栄にございます。父より、殿下のお側に立つ覚悟を示すようにと――」

一歩下がった位置で控えていたセオドア・ラインハルトは、その光景を淡々と見つめていた。
(……まあ、そうだろうな。王国の第一王子に婚約者候補がいるのは当然のことだ)

冷静にそう思おうとするのに、胸の奥に妙なざわつきが広がっていくのをどうしても無視できなかった。

(何だ、この感覚は……)

レオナードが令嬢へ歩み寄る――そう思った矢先。
彼の金の瞳は冷ややかに細められ、吐き捨てるように言葉を放った。

「必要ない」

「……っ、で、殿下?」
令嬢の顔から血の気が引き、廷臣たちがざわめき立つ。

レオナードは一切動じず、その視線を横に向けた。
――そこにいたのは、控えていたセオドア。

「俺の隣に立つ者は、すでに決まっている」

突き刺すような宣言に、セオドアは思わず息を呑む。
(……こんな場で俺を見るなって!!)

王子の瞳は一切逸らさず、ただ真っ直ぐに彼を見ていた。
周囲がさらにざわつき、令嬢は半ば泣きそうな顔で侍女に伴われ退室していく。

重い沈黙の中、セオドアはようやく口を開いた。

「……殿下。今のはまずいですよ。公爵家との関係が――」

「どうでもいい」

レオナードの返答は即断で、揺るぎなかった。

「俺が隣に望むのは……セオドア、お前だけだ」

その真剣さに、セオドアの胸が跳ねる。
平静を装うように深く息を吐き、目を逸らした。

「……殿下」

(だからって……、公爵家だぞ、殿下の立場には影響ないのか?
 ていうか、俺もなんでこんなモヤモヤするんだ!?)

その胸の奥に広がるざわめきは、もはや見過ごせないほど大きくなっていた。


夜の執務室
外はすっかり夜の帳に沈み、城下町の灯火が窓越しに点々と瞬いている。
ランプの光が金色に揺れ、執務室の中に二人きりの影を映し出す。

レオナードは机に広げられた報告書を捲っていたが、ふと手を止めた。
横に控えるセオドアの顔色に、いつもの鋭さがないことに気づいたのだ。

「……セオドア」

低い声に呼ばれ、セオドアは顔を上げる。
「はい、殿下?」

金の瞳が真剣に覗き込んでくる。
「今日は、いつもの覇気がないな。何かあったのか?」

セオドアはきょとんとしたが、すぐに苦笑を浮かべた。
「……よく見ていますね」

「当然だ。お前の変化を見逃すわけにはいかない」

その言葉に、胸の奥が微かに疼く。
逃げ場のない視線に、セオドアは深く息を吐いた。

「……正直に言います」

レオナードは黙って、セオドアの言葉を待った。
セオドアは自分の胸の辺りに手をやった。

「先ほどの婚約者候補の件ですが……俺は、ここがモヤモヤしました」

「は?」

「……本来なら自然なことです。殿下に婚約者候補がいらっしゃるのは当然のこと、国にとっても利益となりましょう。……わかっているはずなのに、なぜか貴方に苛立ちを感じました」

セオドアは自嘲めいた笑みを浮かべる。

「殿下の隣に立つのが、別の誰かになるのかと思ったら……心の奥がざわついて、落ち着かなくなったんです」

一瞬の沈黙。
レオナードの金の瞳が大きく見開かれる。

「……セオドア」

レオナードの低い声が普段より小さく感じた。

「それは、俺を想っての苛立ちか」

セオドアは視線を落とし、肩を竦める。

「……かもしれませんね。こんなふうに正直になるのは俺らしくない。けど……隠しても仕方ないでしょう」

次の瞬間、レオナードは立ち上がり、迷いなく彼の前へ歩み寄った。
真っ直ぐに見据える金の瞳が、切実な熱を帯びている。

「……」

「え……?」

レオナードの指先が、まるで繊細なものを触るようにそっとセオドアの頬に触れてきた。

「お前が俺を意識して、苛立って、心を乱す。それが、こんなに嬉しいとは」

至近距離で告げられ、セオドアの心臓が強く跳ねる。
苦笑を浮かべながらも、顔が熱くなっていることは、レオナードの指先から伝わっているのだろう。
レオナードの指を拒否しない自分は、すでに彼の手中にあるのかもしれない。
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